21話 鉱山での常時依頼
「そういえば、鉱山の入り口にいたおじさんはAランクであるドゥラークさんが常時依頼を受ける事を、なぜ驚いていたんですか? 常時依頼とはそんなに大変なのですか?」
「いや逆だ。常時依頼というのは、鉱夫が採掘した鉱石を所定の集積場へと運ぶ事だ。体力はいるが何も考えなくていいし魔物退治と違い危険がない。だが、単純で危険もない仕事だから報酬はそこまで高くはない。Aランクなら楽にもっと稼げるからな。だからAランクがこの依頼を受けた事を驚いていたんだ」
「そうなのですか? この鉱山には魔物はいないんですか?」
「あぁ。完全にいないとは言い切れないが、この鉱山は人の手によって作られた坑道だからな。魔物の発生はない。ただ、途中で自然洞窟を掘り当ててしまうとそこに魔物がいる場合がある。その場合は緊急依頼が冒険者ギルドに出される」
なるほど。
では危険はないという事ですね。しかも、体力がいるだけなら新人でも受けられそうな仕事なのですね。
「でも、Aランクとはいえ危険な事をしたくない冒険者もいるでしょう。そういう人達は受けないのですか?」
「基本は受けないな。正直な話、仕事内容と報酬の割が合わんからな。それに、Aランクなら別に魔物退治以外にも金を稼ぐ方法はいくらでもあるさ。例えば、下位ランクの指導なんかは楽に金になるからな。まぁ、俺達の場合はお前も含めて体を使った仕事の方が性に合っているってだけだろ?」
「まぁ、そうですね。体を動かしている方が楽しいですし」
鉱山の坑道は結構広く作られていて、色々なところでドワーフさん達がつるはしで岩壁を砕いています。
アレは何をしているのでしょう?
「ドゥラークさん。ここにいるドワーフさんは気が狂っているのですか?」
「はぁ? お前は何を言っているんだ? 鉱夫達は鉱石を採掘しているんだよ」
「はい? 気が狂って壁を叩いているんじゃないんですか?」
「違う、違う」
ドゥラークさんは集積場に置いてあった木箱の中の石を取り出します。
「ほれ。これが鉄鉱石だ」
「鉄鉱石? 鉄の事ですか? 鉄というのは四角い銀色のモノじゃないんですか?」
「そりゃ精錬後の鉄のインゴットだ。俺も詳しい事までは知らんが、お前が知っている鉄インゴットは鉄鉱石を一度高温で溶かして不純物を取り除き、再び冷やして固めたものだ」
「そうなのですか……」
私が鉄鉱石を手に取りまじまじと見ていると、ドワーフさんがこちらに歩いてきます。
「アイツにスミスの話を聞いてみようか」
「あ、はい」
「おい。ここは小さいお嬢さんが入ってくるところじゃない。危ないぞ」
「いや、俺達は冒険者だ。なぁ、聞きたい事があるんだが、少しいいか?」
「冒険者? そのお嬢さんもか? あぁ、常時依頼か。それより聞きたい事とはなんだ?」
ドゥラークさんは鉱夫であるドワーフさんに話を聞きます。
しかし、答えは「スミスという人物の事は知っているが、居場所は知らない」という事でした。
どうやら鉱夫さん達の中でもスミスさんは有名人で、もしこの鉱山に入っているのなら、その時点で気付くはずだそうです。スミスさんはそれほどまでに有名な御方だったんですね。
それからも、坑道で働いていた鉱夫さんに話を聞いてみましたが、誰もスミスさんの居場所は知らないと言っていました。
私とドゥラークさんは鉱石の入った箱を集積場まで運びます。私達の本当の目的はスミスさんを捜す事ですが、常時依頼を受けた以上、仕事をしなければいけません。
ドゥラークさんが大きな木箱を持っていても、誰も不思議に思わないみたいですが、私が同じ箱を持ち上げて歩いていると、鉱夫さん達が驚愕の顔をしています。なぜでしょう?
しかし……。
「目撃情報がまったく無いと思いませんでしたね」
「そうだな。この鉱山はハズレかもしれねぇな。となるとどこに行ったんだ?」
確かに、全ての鉱夫さんに話を聞いたわけではありませんが、ここまでいないと言われると本当にいないのでしょう。
「そうだ。レティシア、鉱山全体の気配を察知して見てくれないか?」
「なぜです? 鉱夫のドワーフさん達は見ていないと言っていましたよ?」
「いや、ラリーの話ではスミスは伝説の鍛冶屋で百年以上生きているんだろう? なら確実に強者のはずだ。もし、姿を変えて鉱夫として紛れ込んでいるなら、他の鉱夫達に気付かれないのも分かるし、もしかしたら気配を察知できるかもしれないだろう?」
「あ、はい。そうですね……」
ドゥラークさんの言う事は一理あります。
私は目を閉じ鉱山全体の気配を探知します。
……。
鉱夫は結構いますが、飛び抜けて強い人はいませんねぇ……。そもそも強さを隠せるのならばあまり意味はないように思えますが……。
「ふむ。ダメです。気配を見る限り、強い人はいませんね。さて、帰りましょうか」
「そうか……そうだな」
私達は鉱山を出ます。日も落ちかけています。
はて?
マイザーの方から嫌な気配を感じますねぇ……。しかも一人ではなく大多数です。
「どうした?」
「マイザーから嫌な気配を感じます」
「またか? もしかして、タロウがマイザーに帰って来たのか?」
「いえ、そうではありません。タロウなら放置しますが、感じる気配は一人ではなく大人数です」
「なに?」
私がマイザーの方を見ていると、ドゥラークさんの腰辺りが一瞬光ったので、ドゥラークさんに視線を映してみるとすると、腰にぶら下げた袋が光っています。
「ドゥラークさん。何か光っていますよ」
「ん? あぁ、連絡用の魔宝玉か。何かあったのか?」
ドゥラークさんは袋から魔宝玉を取り出します。確かに光ているようです。
「はいよ。こちらドゥラーク」
『ドゥラーク! レティシアと今すぐ転移して帰って来い!』
この声はギルガさんですね。何やら焦っている様ですが……。
「何かあったのか?」
『マイザー王国が鉱山に挙兵した。到着は一週間後の予定だ』
「一週間か……鉱夫達の避難はどうする?」
『今から緊急依頼を出しても、間に合わんというのが冒険者ギルドの総意だ』
「ふ、ふざけるな!?」
ドゥラークさんが烈火のごとく怒っています。この人は自分を犠牲にして人を守る人ですから、見捨てろと言われれば怒って当然です。
『落ち着け。お前が怒るのは当然だが、鉱山には転移魔法陣はない。どう考えたって間に合わないんだ』
「俺達がここにいる!」
『分かっているが、それは駄目だ。レティシアを利用したくないし、されたくない!」
なるほど。
私に気を使っているのですね。ドゥラークさんも同じ気持ちみたいで何も言えなくなります。
……でも、勘違いしてはいけません。
「ギルガさん。私に気を遣わずに私を利用すればいいのです」
『な!?』
「レティシア!?」
「ギルガさん、貴方は私達リーン・レイのリーダーです。ギルドとの交渉に私を使えるなら使えばいいです。別に他人などどうでも良いのですが、ドゥラークさんが納得しないのであれば家族として納得させてあげたいです」
『い、いいのか?』
「もし不安だというのなら、グローリアさんを頼ればいいです。あの人は私が何かをやらかさない様にエラールセに閉じ込めたのでしょう?」
閉じ込めて私を利用するのなら、こちらも利用してやればいいのです。
『そ、それはそうなのだが……』
「まったく。スミスさんは見つかりませんし、本当に鬱陶しい国ですねぇ……」
『わ、分かった。詳しい話をしたい。一度帰ってきてくれ』
「分かりました」
「ギルガの旦那。俺はここに残る。今から鍛冶ギルドの連中に話をして、鉱夫達をまとめておきたい」
『あぁ。ドゥラーク、まだ大丈夫だと思うが、気を付けろよ』
「あぁ」
私はドゥラークさんに見送られてセルカの町に戻る為に転移魔法を発動させます。
「レティシア、そっちで何かあったらすぐに魔宝玉で連絡してくれ」
「分かりました。ドゥラークさんもお気を付けて」
「あぁ」
誤字報告や感想、いつもありがとうございます。
ブックマークが550件超えました。ありがとうございます。
もしよかったら、ブックマークや評価もよろしくお願いします。
おかしいなぁ……。ほのぼのと冒険者編をやる予定やったのに、マイザー王国を滅ぼす方向にいっているぞ? どういう事だ?




