20話 鉱山に到着しました。
ドゥラークさんからパーティ名を教えて貰った後、ドゥラークさんは準備をするといい自室に戻りました。……というよりも、さっきが寝起きだったんですか?
奥さんとの夜の生活が楽しいからと言って夜ふかしは駄目です。
三十分くらい待つとドゥラークさんが眠そうに部屋から出てきました。
「ドゥラークさん、遅いです。昨夜はリディアさんとお楽しみだったんですか? いくら楽しいからと言って次の日がお仕事なのに夜ふかしはいけませんよ」
「違ぇよ。昨日は夜中までダイン達を説得していたんだよ」
「説得?」
「あぁ。今日はアイツ等を置いて行くって決めただろう? だけど、アイツ等にだって冒険者としてのプライドがある。アイツ等もお前や俺との戦力差を知っているし、足手まといな事も知っている。でも、少しでも強くなりたいから一緒に行きたいと言っていたんだよ」
ふむ。
そう考えればダインさん達には悪い事をしましたね。
「そういう事ならば、このお仕事が終わったらダインさん達を鍛えてあげましょう」
「レティシア、分かっているとは思うが、俺達のように強くなると思うなよ」
「どういう事ですか?」
「……分かってなかったか。俺達の場合は、タロウ達の事があったから短期間で強くなるために無茶な鍛え方をした。だが、それに耐えられたのは俺達に冒険者としての地力ができていたからだ」
「はて? でも、エレンやカチュアさん、姫様は戦闘経験がありませんでしたよ?」
「その三人はお前が優しく鍛えていただろうが……。マリテも魔法系統だったから問題なかったが、リディアとロブストは結構ギリギリだったろ?」
「あぁ、そうですね」
「アイツ等だってCランクの上位にいた奴等だったんだ。それであれだからな。ダイン達の強さはDランクの下位に当たる。そんな奴等に強力な特殊能力……大罪や美徳を与えても使いこなせないどころか逆に特殊能力に殺されるかもしれない」
「はて? 殺されるとは?」
「二日前に、ビックスとジュリアを助けるためにオリビアに美徳を作っただろう? あの時はお前が魔力を分け与えていたから使えたが、本来のオリビアの魔力なら、一瞬で魔力が枯渇して死んじまう」
「え? 魔力が枯渇しても髪の毛の色が変わるだけですよ?」
実際に私の場合は黒髪が灰色になります。でも、苦しくもないし別に動きにくいという事もありません。ただ、魔法が使えないだけです。
「お前が異常なんだよ。普通の人間は魔力の枯渇で死んじまう。お前にはその辺りの常識が無いからなぁ……」
「失敬な」
「いや、本当の事だろうが。そういう事だから、アイツ等を鍛えるのなら段階を踏んで鍛えてやってくれ」
「ふむ。私はそういうのは苦手ですから、ドゥラークさんも一緒に彼等を鍛えましょう。あ、あまり一緒にいるとリディアさんに兵器を仕向けられるかもしれませんね」
「ははは。リディアの料理は辛くて美味いじゃないか。お前は見た目通りに舌も子供のままだな」
イラッ。
私は無言でドゥラークさんのお尻を蹴ります。
「痛ぇ!」
「まぁ、いいです。早く鉱山に行きましょう」
「なんだよ……。はぁ……行くか」
私達は昨日のポイントに転移してから、一気に鉱山に向けて走り出します。
鉱山までは思ったよりも近かったみたいで、お昼過ぎには鉱山に到着しました。
「随分早く到着したな」
「はい。後はラリーさんを連れてくれば、ダインさん達のお仕事は終わりです」
「そうだな。それは明日でいいだろう。まだ日も暮れてねぇし、時間があるからスミスの捜索でもしようか」
「そうですね。その前に……」
私は鉱山の入り口付近にナイフを置きます。しかし、鉱山は人の出入りが多いです。このまま置いておいて動かされてもムカつきます。地中に埋めておきましょう。その上から隠ぺい魔法をかけておきます。これで他人に見つかる事は無いでしょう。
「これで良しです。さて、スミスさんを捜しましょう」
「そうだな」
私達が鉱山に入ろうとすると、ドワーフのおじさんが私達を止めます。
「おい。ここは鍛冶ギルドの所有地だ。鍛冶ギルドカードを見せろ!」
「偉そうなドワーフですねぇ……叩き潰しますよ」
「ほぉ。お前達、人間か。人間の幼子にワシが潰せるというのか? ははは。潰せるものなら潰してみろ」
「そうですねぇ……」
鉱山の入り口には大きなハンマーが立てかけてありました。私はそれを掴みます。
そして、それを片手で振り上げて、笑顔でドワーフのおじさんに振り下ろそうとします。
「じゃあ、潰しますよ」
「ま、ま、ま、待てぇ!?」
おじさんは焦っていますが、貴方が潰せと言ったんですよ?
「お前は何をしているんだ?」
ドゥラークさんは呆れた顔で私からハンマーを取り上げます。
「あぁ、返してください。今からこのドワーフのおじさんを潰すんです」
「何を恐ろしい事を言っているんだ?」
「え? この人が潰せるものなら潰してみろと言ったんですよ」
「ひ、ひぃいい!」
「お前なぁ……。そんなのは冗談に決まっているだろう?」
冗談?
そんな酷い冗談を言うのですか?
「殺しますか?」
「なんでだよ」
「酷い嘘を言われたので」
「それで殺そうとするお前の方が酷ぇよ」
「そうですか?」
殺すより、嘘の方が酷くないですか……?
え? 酷くないですか。そうですか……。
でも、嘘はいけません。そういえばリディアさんも本名は違いましたね。なんでしたっけ? 覚えていないのでどうでもいいですか。
ドゥラークさんは尻もちをついているドワーフを立たせて、冒険者ギルドカードを見せます。
「俺達は冒険者ギルドの常時依頼を受けに来た冒険者だ」
「も、もしかして、その小さく凶暴なのも冒険者なのか?」
誰が凶暴ですか。失礼ですねぇ。
「そうだ。おっさん、冒険者に気安く喧嘩を売らない方が良いぜ。冒険者は見た目じゃないからなぁ……」
そう言ってドゥラークさんは私を呆れた目で見ています。
何ですかその目は。殴りますよ。
「う、うむ。反省している」
「それならいい。それで、入っていいのか?」
ドワーフのおじさんはドゥラークさんの冒険者ギルドカードを見て驚きます。
「冒険者ランクAランクだと!? Aランクの冒険者が常時
依頼を受けたのか!?」
「ダメか?」
「い、いや……。それでそっちのお嬢さんもカードを見せてくれんか?」
「はい」
私はおじさんにカードを渡します。
「は? え、Sランクだと?」
「なに? お前はギルマスのようなギルドの幹部しか知らないランクを知っているのか?」
「あ、あぁ。この国ではSランクは有名だ。ラロ姐さんがこのランクだからな」
「ラロ姐さん?」
「あぁ。この国の英雄だ」
この国の英雄ですか。
そういえば、この国の事を知っているなら私の手配書についても知られていると思うのですが……。
私はドゥラークさんをチラッと見てみます。ドゥラークさんも同じ事を思ったみたいです。
「レティシアのカードを見ても驚かないんだな」
「いや、Sランクに驚いているが……」
「そうじゃない。手配書の事をお前は知っているのか?」
「あぁ。そのお嬢ちゃんが指名手配になっているという事か。手配書を信じる奴はこの国にはいねぇよ」
「そうなのですか?」
「あぁ。この国の王族は自分が気に入らないと、どんな奴にでも手配書を作って殺そうとしてくるからな。そんな手配書を信じているのは城に関わっている奴だけだ。アイツ等は手配書の奴を捕まえると金が貰えるからな」
「ふむ。ドゥラークさん。この国を滅ぼしましょう」
こんな国は残しておいても仕方ないです。
「ははは、お嬢ちゃんも面白い事を言うなぁ。ラロ姐さんと同じ事を言ってるぞ」
「そうなのですか?」
ふむ。
私と同じ考え……国の英雄が国を滅ぼしたがるですか……。面白いですね。私もそのラロ姐さんという人に一度会ってみたいものです。
鉱山入り口のおっさんが「潰せるものなら潰してみろ」と言っていなかったので、追加しておきました。感想で教えて下さってありがとうございます。




