19話 パーティ会議 するとは言っていない。
なんとか鉱山までの旅路も、もう三日目です。
鉱山がある山は目視では近くなってきていますが、それでも、まだ遠く今のペースではまだまだかかりそうです。
まぁ、ゆっくりペースなのは……彼等が原因なんですけどね……。
「ドゥラークさん。地図を見る限り、このペースで行くと鉱山までは何日ほどかかりそうですか?」
「そうだな。このペースならあと四日くらいだろうな。俺達二人ならば走れば一日で到着するとは思うが……まぁ、たまにはのんびり動くのもいいだろう」
そう言って、ドゥラークさんは後方を見てため息を吐きます。
まぁ、スミスさんの事は正直どうでも良いので、急ぐ依頼ではないのですが、少し気になる事があります。
「別に構わないのですが、マイザー王国の方から鬱陶しい気配を感じますが」
「ん? それはアイツの事か?」
「アイツ? あぁ、ドゥラークさんも気付いていましたか。まぁ、ジゼルが死んだ今、あんな下衆の搾りカスには何もできないでしょう。だから興味がありません」
私の言った「鬱陶しい気配」というのを、生き残っていたタロウの事だと思ったみたいですけど、違いますよ。
「俺も何もできないとは思っているんだがな……。しかし、今はマイザーにいないんじゃないのか?」
「いませんね。マイザーの町にいた時もいた気配は感じましたけど、同じ町にいるという気配は感じませんでした」
どうやら私達が来る前にどこかに行ったみたいで、気配が残っていたというのが正しい表現です。
「そうだ。今後の予定もかねて、今日はセルカで会議を開く。お前もセルカに残ってもらうぞ」
「え? 嫌です。面倒くさいです」
「そう言うな。それに、別にエラールセに帰ってもいいけど、エレンもカチュアもセルカに来ているはずだから、エラールセで一人になるぞ」
「な!? エレンとカチュアさんを人質に取りましたね。許せません」
「おい……」
私は喧嘩を売られたので戦闘態勢に入ります。そんな私を見てドゥラークさんは呆れていますね……。まぁ、冗談はこれくらいにしておきましょう。
「嫌ですけど、分かりました。私は転移の準備をします」
私が転移魔法の為にナイフを地面に刺していると、ドゥラークさんが後ろの五人を見て「レティシア、ちょっといいか?」と聞いてきました。
「なんですか?」
「これは提案なんだがな……。明日からは後ろの五人を置いていかないか?」
私も五人を見ます。
疲れ切ってその場に座り込んでいますね。特にラリーさんは放っておいたら死んでしまいそうですね。
「そうですね……。その代わり、ドゥラークさんが彼等を説得してくださいね」
「まぁ、言い出したのは俺だからな。俺が説得するよ」
「じゃあ、彼等を説得できたら、明日中に鉱山に到着しましょう」
私とドゥラークさんがその気で走れば、明日中に鉱山に到着するのは可能です。
「そうだな……。さて、お前も一緒にセルカに帰るぞ」
「どちらにしても一度貴方達を送るのでセルカには戻ります。だけどエレンとカチュアさんがいなかったら即帰りますよ」
姫様とは会いたいですが、面倒な会議はどうでも良いです。勝手に話をすればいいです。
「今日はトキエちゃんもいるそうだぞ」
「え? それは本当ですか?」
私はトキエさんも大好きです。
彼女はテリトリオの町にいる時から私に優しくしてくれましたから、ついつい笑顔になってしまいます。
「お前は本当に顔に出るな。普段は無表情か邪悪な顔で笑っているのに、トキエちゃんの名前を出してからは満面の笑顔だぞ」
誰が邪悪な顔ですか。
セルカのお屋敷に帰ってくると、レッグさんと姫様が待っていて、私を逃がさないように一番大きな部屋に連れていかれました。
部屋には大きなテーブルと人数分の椅子が用意されています。
あ、エレンとカチュアさんがいます。私は二人の下へと駆けていき、二人の間に座ります。
二人と話をしながら暫く待つと、ギルガさんが神妙な顔で入ってきました。トキエさんはいません。
よく見たらトキエさんだけではなく、リディアさんやオリビアさんもいません。どういう事でしょうか?
私がキョロキョロしているとギルガさんが話し始めました。
「さて、今日集まってもらったのは他でもない。こうやってパーティの全員が揃ったんだから、パーティ申請の事を話したいと思う」
はて?
パーティ申請とは何でしょう?
ギルガさんの言葉を聞いて私は意味が分かりませんが、他のみなさんは困惑しているみたいです。
「ギルガさん。あんたは何を言っているんだ? パーティ申請ってどういう事だ? そんなモノはとっくに登録されているんじゃないのか?」
レッグさんの問いにギルガさんは俯いて頭を掻き始めます。
「あ……いや、オレのミスでパーティ申請していなかった」
「おいおい……」
ギルガさんの答えにレッグさんをはじめ、この部屋にいた全員が呆れた顔をしていました。
良く分かりませんが、ギルガさんの失態ですね。しかし、ギルガさんは諦めません。不屈の精神ですね。
「それでだ。お前達にはパーティ名を考えて欲しい」
「はい?」
こんなくだらない事の為に私達を呼んだと?
少し不機嫌になってしまいます。
「レティシア……あからさまに不機嫌な顔をするなよ」
「私は忙しいです。パーティの名前なんてどうでも良いです」
私が帰ろうとするとエレンに止められました。まぁ、エレンの言う事ならば我慢して聞きましょう。
「何か意見はないか?」
「ギルガの旦那が決めればいいんじゃないのか? 俺達はそれに従うぜ」
ギルガさんが焦ってみんなに聞きますが、ドゥラークさんはニヤニヤしながらそう言います。私も面倒だったのでそれに頷きます。他の人達も同じみたいです。
「おまっ……。それは丸投げって言うんだよ」
みんなの視線がギルガさんに向けられて顔を青褪めさせていますが知りません。これはギルガさんが悪いです。
「という事で解散でいいですかね」
私は席を立ちます。
「ちょ、ちょっと待て。解散じゃねぇよ」
はて?
まだ何か話があるんでしょうか?
「そうだよ」
「トキエさん?」
いつの間にか、ギルガさんの隣にトキエさんが立っていました。
「せっかくご飯を作ったのに食べずに解散するの? 今日は私とリディアちゃんとオリビアちゃんの三人で作ったんだよ。今日は食事会だよ」
「いや、違ぇよ。パーティ会議だ……って誰も聞いちゃいねぇ……」
ギルガさんが何かを言っていますが、トキエさんは無視しています。
私は素直に席に座りなおします。
トキエさんのご飯もエレンやカチュアさんに匹敵するくらいに美味しいです。でも気になる一言がありました。
リディアさんも作った?
あの兵器しか作らないリディアさんが?
リディアさんが料理を運んでこっちに来ました。
「リディアさんはこっちに来ないでください」
「へ!? どうして!?」
リディアさんが兵器を私の前に運ぼうとしているのを私は止めます。この人は兵器を作るので困ります。
「貴女は兵器を作るからです」
「兵器って、辛い食べ物ってだけだよ!?」
「いえ、兵器です」
私はリディアさんを拒否します。
しかし、トキエさんに怒られてリディアさんの兵器が私の前に置かれます。
赤いです。兵器です。暴れていいですかね?
でもトキエさんは食べてみてと言います。酷いです。
私は恐る恐る兵器を口に入れます。
もぐもぐ……。
アレ?
辛くないです。赤いだけです。美味しいです。
トキエさんに話を聞くと、リディアさんの兵器をオリビアさんが少し手を加えたそうです。それでここまで美味しくなるなんてオリビアさんは凄いです。
私が赤い料理を食べていると、リディアさんが料理を取り分けてくれました。これも赤いですがオリビアさんが手を加えているので大丈夫でしょう。そして、私は料理を口に入れた瞬間その場に倒れます。
……か、辛いです。
あとで聞いたのですが、アレはリディアさんが作った兵器だったそうです。やはりリディアさんの兵器は侮れないです……。
その日の夜、ギルガさんは徹夜でパーティ名を考えていたそうです。
そして次の日の朝にドゥラークさんからパーティ名を聞かされました。
「うちのパーティ名は【リーン・レイ】だとよ。お前をイメージしたリーズンブレイクって言葉を少し弄ったそうだぜ」
へぇ……。『理性を壊す』が私をイメージしているんですか。なんとなくムカつきますから、どういう理由で名付けたかを後でギルガさんに聞いてみましょう。
パーティ名はリーン・レイです。元々はカラミティにしようと思っていましたがあからさま過ぎるから止めました。結構考えたんですけど、なんとなくカッコいい名前になったので良しとします。
というよりも自分で名付けておいてあれですけど、この世界の言語はどうなっているんですかねww




