閑話 報告
今回もタロウ君の話です。
ファビエで好きなだけ女を抱いていた俺が男に抱かれただと? ……ふっ。ふざけた夢だ。
俺は悪夢で目を覚まし、起き上がった。
全身汗だくだな。シャワーでも浴びるか……。
「ふふっ。勇者タロウお目覚めかしら?」
声をかけてくる奴がいる。覚えていないが、昨日抱いた女の声か?
「あ、あぁ……悪夢を見た」
「へぇ……どんな?」
「優男に無理やり襲われた……。俺は男を抱く趣味も抱かれる趣味もないのにだ……」
「へぇ……。夢……ねぇ」
夢だ……。
い、いや……あの記憶は夢だ……。
「必死に夢として現実逃避をするのは勝手だけど、夢じゃないわよ」
「え?」
俺は声の主を見る。
こ、こいつは……俺を襲った優男?
「ひ、ひぃ!?」
俺は頭を抱えてシーツを被る。
な、な、な……。
「ふふっ。忘れたい気持ちを持つのは勝手だけど、貴方には私と一緒に行動してもらうわよ」
「な!?」
こいつに無理やり襲われたうえにこいつと一緒に行動だと!? い、嫌だ。また、襲われちまう。
そ、それだけじゃない。この男と一緒にいれば俺に女が寄って来なくなる。
「貴方が何を考えているかは知らないけど、もう貴方に女性は寄って来ないわよ」
「え? どういう事だ?」
「貴方は忘れてしまったの?」
「何をだ?」
俺が忘れた?
何を忘れてるって言うんだ?
俺はこの世界に召喚された選ばれた勇者のはずだ。それなのに、俺が何を忘れているというんだ!?
「貴方は忌み嫌われた……、いや、違うわね。貴方自身の行いの結果、色々な人に恨まれているのよ。マイザーにも貴方達の被害に遭った冒険者はいるし、貴方に酷い目に遭わされた女性の身内もいると聞いているわ。そこまで恨まれている人が一人でいて生きて町から出られると思うの? しかも、貴方は弱体化までしているのよ。貴方を殺すのなら今しかないわね」
あ……。
お、俺の力はレティシアに破壊された。という事は、俺はいま無力なのか?
「うっ……、しかし、お前と一緒にいても……」
「私はSランクの冒険者よ」
「Sランク? そんなもの聞いた事が無いぞ?」
冒険者のランクでの最高ランクはAランクのはずだ。俺を一方的に追い出したレッグもAランクだった。
しかし、俺が元々いた世界ではAランクの上にSランクを置く事が多かった。この世界にも存在しているかは分からんが、もしかしてそれか?
「そうね。冒険者ギルドでも知っている者は少ないでしょうね。でも存在するのよ。Sランクの事はまた説明してあげるけど、その前に早くその粗末なものを仕舞いなさい」
「え?」
そ、粗末なモノ?
俺は素っ裸だった。しかも、尻の穴が痛い……。
一気に記憶がよみがえる。
う、うわぁああああああ!!
「落ち着いたかしら?」
「く、くそっ。あ、悪夢だ……」
俺は着替えて、男と宿屋を出る。
男の名はラロ。この町では有名らしくラロ姉さんと呼ばれている。
この男についていけば手を出されないというのは本当だ。
冒険者ギルドでラロが「この男は私が預かるけどいいわよね?」と宣言すると俺にたいする殺気が収まった。
クソっ。
どうにかしてこの男から逃げださねぇと。
「大丈夫よ。今日の夜もたっぷりと楽しませてもらうから」
「い、嫌だ……」
な、何とか……逃げたい。
ラロは一人で歩き出す。俺は仕方なくついていく。
「どこに行くつもりだ?」
「この国のお城よ。マイザー国王と話があるのよ」
「な!?」
「城だと!? 俺を売るつもりか!?」
「バーカ。あんたを守護するためよ。早く行くわよ」
俺を守護するだと?
ラロはマイザー王城でも有名らしく顔パスで城に入っていく。俺はラロについていっているから、門番にも止められない。
ラロは豪華な造りの扉をノックする。中から「入っていいぞ」と返事が来て扉を開けた。
部屋の中には威厳のあまりない偉そうなおっさんが座っていた。周りには護衛の兵士が立っている。
「国王久しぶりね」
「おぉ。我が国の英雄【魅惑のラロ】ではないか。その隣にいるのは、新しい恋人か?」
「そうよ。と言いたいけど、まだ違うわ。彼の名はタロウ。ファビエ王国の勇者タロウよ」
「な!?」
ラロが俺の名を出した瞬間、部屋の中が殺気であふれる。
「ひぃっ」
「待ちなさい。彼は私の保護下にいるわ。彼に手を出せば私に……オレを相手にすると思えよ」
ラロが制すると、部屋にいた護衛騎士達の殺気が収まった。こいつは本当に強いのか?
い、いや……、こいつが強くてもレティシアには勝てないだろう。
「ラロ。ワシとお前の仲だ。お前の目的はなんだ?」
「そうね。そういえば聞いたけど、テリトリオの町の領主の娘を指名手配したそうね。それとその親友の少女も」
「あぁ。あの娘の事は前から目を付けていたのだ。それに親友の少女も美味しそうな女じゃ」
確かにエレンはネリーに匹敵するほどの美人だ。あの女を抱けると聞けば、俺でなくてもテリトリオに向かっただろう。
しかし……、俺がこんな目に遭っているのもエレンに手を出そうとした結果だ。
「そうね。国王もタロウに負けないくらいの色好きよね。まぁ、良いわ。その二人についてタロウから話があるわ」
「え?」
ちょっと待て。
俺は何も聞いてないぞ!?
「話しなさい。タロウ。貴方の知っている聖女エレン、テリトリオを滅ぼした主原因であるレティシアの事を」
「なに? 聖女?」
ちょっと待て。
ラロがどうしてエレンの事を知っている?
マイザー王が容姿を見て欲しがったのは理解はできる。手配書のレティシアも本物はともかく絵は美人の類だ。
しかし……聖女である事を知っているのは、アイツ等と俺達だけのはずだ。
「えぇ。テリトリオの領主の娘は聖女よ。国王なら私の加護の事を知っているわね。だから私の情報は確かよ」
加護だと?
ま、まさか、こいつは何かの能力を持っているのか? た、大罪の事か?
「そうだな。タロウ話すがいい」
「あ、あぁ……」
俺はマイザー国王にエレンやレティシアの事を説明した。当然、レティシアの本当の姿もだ。
マイザー国王も俺の話を素直に聞いて手配書を書き換えてくれるそうだ。
「そうか。我が国民が聖女か……。それは是非とも手に入れたい。ラロ。お前も協力してくれるか?」
「いいわよ。その前にやる事があるの……」
マイザー国王との話を終えた俺達は、町を出た。
国王の命令で遠くの国に行く予定だ。
なぜ、遠くの国かは俺には教えてくれなかった。
しかし、気になる事がある。
「お、おい。お前は何を考えている?」
「何が?」
「お前の加護が何かは知らん。しかしエレンを聖女と見破っているならレティシアの事も気付いているはずだ!」
「そうね。化け物の様に強いのを知っているわよ」
「知っているなら尚更だ!? レティシアに手を出してみろ。この国が滅びるぞ!」
俺はアイツを殺そうと考えている。でも正攻法では絶対に無理だ。
国をぶつけても倒せるかどうか分からないんだぞ!?
「そうね。滅びればいいのよ。こんな腐った国はね」
な、なんだと……?
「ふふっ。私達が遠くに行くのは避難のためよ。馬鹿な国王には適当な事を言ったけどね。この国は近いうちに滅びるわ」
「な、なんだと?」
「ふふっ。見ていなさい。さぁ、行くわよ」
俺は、ラロを不気味に感じながらもついていく事しかできなかった。




