18話 今明かされる真実 ギルガ視点
レティシアの奴……自分が持ってきた問題を投げっぱなしで帰りやがった。オレの目の前では、ドゥラークがのんきに茶を飲んでやがる。
はぁ……。
しかし、新たなメンバーか。
本当にレティシアには困ったものだ。
オレは戸惑っている冒険者四人に目をやる。新人ではないがベテランというところまではいっていない冒険者……。
「ドゥラーク説明してもらおうか?」
「いや、俺じゃなくてレティシアに直接聞けよ」
それは尤もなんだがな……。今は連絡がつかない。
少し前まではエラールセにつながる扉から、すぐに連れてこれたんだが、今はレティシアが細工しやがってアイツがいないと使えなくなってしまった。しかも、今も魔宝玉で呼び出しているが無視してやがる。いや、アイツは収納魔法内に魔宝玉を入れているから単純に気付いていないのか?
「はぁ……。連絡も取れやしない。本当にアイツとはまともに会話できやしないな……。お前ならできるか?」
「いや、できないな……」
お前も話が通じないと認めてんじゃねぇよ。
それよりも、今はこいつ等だな。
「ところでお前達はどうなんだ?」
「え?」
「お前達がレティシアに目を付けられたとはいえ、逃げるなら今だぞ?」
アイツはこいつ等をおもちゃと言い切っているからな。正直な話、何をされるか分からん。
「レティシアはそこまで人に対して執着がない。だから逃げても追わんぞ」
「いや、待て。アイツは人に対して執着があるだろうが。エレンとカチュア、それにネリー様には執着を見せているじゃねぇか」
「あの三人に関してはアイツの中で特別なんだろ。あ、そこにトキエも入るな」
意外だが、レティシアはオレの娘のトキエの言う事は良く聞くし、怒られていても大人しく聞いている。それに比べてオレがレティシアを怒っても、アイツはオレを無視してどこかに行きやがるからな。
「確かにトキエちゃんの言う事は絶対に聞いているな……ギルガの旦那の立場がねぇな」
「うるせぇよ。このパーティでレティシアを怒れるのはエレンとトキエだけだからな」
カチュアやネリー様の言う事も聞くだろうが、あの二人はレティシアに甘い。怒る事もあまりないからな。
「はは」
「それで、お前達はどうするんだ?」
まぁ、レティシアに巻き込まれただけだからな。こいつ等が逃げたいというならば、逃がしてやるだけだ。
ダインという剣士が少し考えた後、「……ドゥラークさん。このパーティの人達はレティシアさんの事をどう思っているんですか?」と聞いてきた。なぜそんな事を聞く?
「どういう意味だ?」
「俺達はマイザーでこう聞いた。彼女はテリトリオを滅ぼした凶悪犯です。マイザーが何も考えずに手配書を出すとは思えない」
マイザーが手配書を出した理由か。
まぁ、考えられるのは一つだけだが……。
「お前達はマイザーを拠点に活動をしていたらそう思うんだろうな……。お前達が思っているほど、マイザーは良い国じゃないぞ」
「え?」
「ギルガの旦那。あの話をしていいか?」
ドゥラークが話そうとしている内容は、マイザー王国の冒険者からすれば衝撃的な話のはずだ。アレが真実ならばマイザーは国としても終焉を迎える事になるだろう……。オレがドゥラークにテリトリオを調べさせていたのもそれが理由だった。
「別に構わんぞ。そいつらはマイザー所属だろう? 知っておいて損は無いはずだ」
「あぁ。俺もそう思っている。だからこそ、話しておいた方が良いだろうと思ったんだ」
確かにな。
レティシアがここに連れてきたのだから、このまま見捨てるのは後味が悪い。
「ドゥラーク。やはり、ここはパーティリーダーの俺が話す」
「あぁ。頼む……」
オレは四人とラリーという鍛冶師を座らせる。そして、俺達が掴んでいる情報を話す事にした。
「これはオレ達が独自に得た情報だが、マイザー王国は近々冒険者ギルド制度を廃止すると見られている」
「そ、そんな馬鹿な!?」
冒険者であるダインが驚くのも無理はない。冒険者ギルドは冒険者にとって最も大事であり、もしもの時に守ってくれる組織だからだ。冒険者は冒険者ギルドがあるから他国でも活動ができるのであって、ギルドとの繋がりを切った時点で冒険者の活動も制限されてしまう。それに有事の際に冒険者の助けも受けられなくなる。
しかし、冒険者ギルドを切った場合の一番の問題は冒険者ギルドが無くなる事ではない。マイザーはそれを分かっていないのだろう。
「そ、そんな事をすれば冒険者ギルドだけじゃなくて、他のギルドもマイザー王国から離れてしまいます!」
そう。
戦士であるビックスの言う通り、マイザー王国が冒険者ギルドを切れば、治療ギルドなどの他のギルドもマイザーから離れる事になるだろう。
ギルドは大きく分けて六つある。冒険者ギルド、治療ギルド、商業ギルド、鍛冶ギルド、建築ギルド、魔術ギルド。ギルド同士は一見繋がりがないように思われているが、実は横の繋がりが強い。
「そうだろうな。だがマイザー国王が強気に出るのも分からんでもない」
「え?」
冒険者であるダイン達と鍛冶師のラリーには意味が分からないようだが、ドゥラークには意味が通じたようだ。
「聖女の存在が大きいのだろうな」
そう。
エレンは聖女だ。
レティシアの正確な容姿の手配書やエレンを生かして捕らえるように書かれている事。この二つを見る限り、エレンが聖女である事も知られているだろう。
「エレンは現聖女で元マイザー国民だ。聖女を手中に収めれば国の勢力図が変わる……とでも思っているんだろうな」
「だからこそ、エラールセにも強気でいるんだろうな」
「え? レティシアさんのいるパーティはセルカを拠点にしているんだろう? どうしてエラールセなんですか?」
「セルカはエラールセ領になっている」
「そ、そうか。今はセルカはファビエじゃないんだ。マイザーはエラールセに喧嘩を売ったのか……。エラールセ皇国と言えば、狂皇様が有名だな。そんな人を相手にしてマイザー王国に未来はあるのか?」
「そ、そうだね……」
ダインと魔導士であるジュリアはそう話し合っている。
まぁ、今の話を聞いてマイザーに残ろうと思う奴はいないだろうな……。
「ここまで話したうえでもう一度聞くが、お前達は今後どうする?」
「お、俺達は……」
「ワシからもいいかのぉ……」
ん?
このドワーフのおっさんは鍛冶師であり、ダイン達の依頼主だ。なぜ話に口を挟んでくる?
「あんたは鍛冶師だったな」
「あぁ。ワシは鍛冶ギルド所属の鍛冶師ラリーじゃ。一応聞いておきたいのじゃが、このパーティの名はなんじゃ? お主はAランクの剣聖ギルガじゃろ? お主が作ったパーティじゃ。さぞ名のあるパーティなんじゃろ?」
「あ? 名前?」
このおっさん、オレの事を知っていたのか……。
それよりも、パーティ名?
オレはドゥラークに視線を移す。
「ギルガの旦那……。そういえば、俺もパーティ名を聞いた事が無いんだが?」
「パーティ名が無いのか?」
な、なんだよ。
そういえば、パーティ名なんて考えた事も無かった。
そ、そうだ。ギルドの受付で働いている娘ならば知っているかもしれない。もしくは適当に名付けてくれているかもしれない。
「と、トキエに聞いてみる」
オレは慌ててトキエの部屋へとパーティ名を聞きに行く。
「何? お父さん」
「オレ達のパーティ名って何なんだ?」
「え? 私はあくまで冒険者ギルドの受付よ。お父さん達のパーティ名なんて知らないわよ」
「え?」
ちょっと待て。今までのオレ達の依頼は個別に行って……あ……。
「も、もしかして、お父さんパーティ登録していないの?」
「あ……」
そういえば、パーティ登録した覚えがねぇ……。ドゥラークも呆れた顔をしてやがる。
「お、おい。明日の夜にレティシア達をこっちに呼ぶぞ……」
「ど、どうするんだ?」
「全員でパーティ名を考えるんだ。お前達も協力してもらうぞ」
「え?」
オレ達に関わった以上、もう逃がさねぇぞ。
さっきは逃がしてやると思っていたが、考えを変えた。
オレはエレンに連絡をして、明日の夕方に集まるように連絡を入れおいた。エレンが言えばレティシアとカチュアも大人しく一緒に来るだろう……。
そういえば、パーティ名を考えていませんでした。
レティシアが言う事を聞くのは、エレン、カチュア、ネリー、トキエの四人です。




