17話 野営? そんな事しませんよ。帰ります。
ラリーさん達と一緒に鉱山に向けて出発して数時間で森を抜ける事ができました。
しかし、何も起こらず、ただまっすぐ歩いているだけでした。
魔物でも出てきてくれれば、面白かったのですが……。
私が少しがっかりしていると、ドゥラークさんに頭を小突かれました。
「何をつまらなそうにしている?」
「実際につまらなかったから仕方が無いじゃないですか」
別に大型の魔獣が現れたわけでもなく、平和な散歩道でしたよ。まぁ、ダインさん達と出会うきっかけになった盗賊以外の別の盗賊が襲いかかってきたくらいです。まぁ、ゴミのような存在でしたけど。
私がそう言うと、ダインさんは顔を青褪めさせます。どうしたのでしょうか。
「い、いや、レティシアさん。流れるように盗賊団を二つも潰したじゃないか!?」
「はい? 盗賊団? あんなモノ、生ゴミと変わりませんよ。生ゴミを焼いて処理をするのは当たり前の事です」
私は誇らしげに無い胸を張ります。すると、ドゥラークさんに後ろから小突かれます。
「痛いです」
「お前の常識を他人に押し付けるんじゃねぇよ」
「別に押し付けていませんー。ゴミは焼却処分をするのが常識ですぅー」
「盗賊はゴミじゃねぇよ」
「ゴミですぅー」
ドゥラークさんがいちいち私の頭を叩きます。私の賢い頭が少しだけおバカになったらどうするんですか。
ドゥラークさんが私の頭を小突き続けていると、ラリーさんがオドオドと私に話しかけてきます。
「嬢ちゃんは本当に人を殺すのに躊躇いがないんだな」
「そうですね」
またですか?
ゴミは焼却しなければいけないので、焼却しただけじゃないですか。
そもそも、よく言われますが躊躇いを持てばこちらが殺されてしまいます。貴方がたは躊躇って死ぬのを望むのですか?
「さて、日が落ちる前に森を抜けられてよかった。日も傾いてきたな……ここらで戻るか?」
「え? 戻るって? まさか森で野営をするのか? ここは陽が落ちる前に平原で野営の準備をした方が良いんじゃ……」
「ん? あぁ。そうだったな。レティシア」
「なんですか?」
「お前はこいつ等をギルガの旦那のパーティに入れるつもりなんだろ?」
「はい。オリビアさん達は私のおもちゃですから」
「お、おもちゃって……」
リディアさんというおもちゃはドゥラークさんに取られてしまいましたから、オリビアさんが新しいおもちゃですよ。
オリビアさんは胸を隠します。さっき、揉み過ぎましたかね?
「そもそもギルガの旦那はこいつ等の事を知っているのか?」
「へ? 知っているはずはありませんよ。だいたい、今日のお昼に出会ったばかりなんですから。そもそも知る必要がありますか?」
「そりゃ必要だろうが。どうせ、お前もエレンとカチュアの所に帰るんだろう?」
「何を当たり前の事を言っているんですか? 帰るに決まっているじゃないですか」
「そうか……。ならここで一休みしようか」
「え? で、でも」
「安心しろ。こんな森で野営をする必要はない」
確かにセルカに帰るので野営の準備は必要ありません。
そうです。
しかし、勝手に人を増やすとトキエさんに怒られてしまいます。それは困りますから、連絡を入れさせましょう。
「ドゥラークさん。ギルガさんに新しいメンバーが入る事を伝えるように奥さんに言ってくれませんか?」
「……だから嫁さんじゃねぇよ」
もうそろそろ認めたらいいと思うんですが、何をかたくなに拒否しているんですかね。
ドゥラークさんは懐の魔宝玉を取り出します。それを見てラリーさんが驚いています。
「それは連絡用の魔宝玉か? お前達のパーティはそんな高価なモノを持っているのか?」
「うちのリーダーがメンバー全員に持たせているんだ。そもそもうちのパーティにはレティシアがいるからな」
「私がいるからなんですか?」
どういう意味でしょうか。
ドゥラークさんは目を逸らします。あぁ……そういう事ですか。そうですね。一度ギルガさんと話をする必要がありますね。
「レティシア、俺はリディアに連絡をするから、お前は周りを見張っておいてくれ」
「はぁ……?」
魔物もいないし盗賊も殺し尽くしました。何を見張るのでしょうか……。
まぁ、良いです。
「ドゥラークさん。これ以上は進まないんですよね」
「あぁ」
「なら、この辺りでいいですかね」
「そうだな」
私はポインターナイフを地面に突き刺します。これでこの場所に戻ってこれます。
私の行動を見てダインさんが驚いています。
「なんですか?」
「いや、なぜナイフを地面に刺すんだ? と思ってね」
「これが目印になるんです」
「こんな平原で何の目印になるんだい?」
「帰ってくる目印です」
「え?」
私は少し離れたビックスさんを呼びます。
「それは……。あ、ビックスさんこっちに来てください」
「え? でも、見張りは必要でしょう?」
どうやら、ビックスさんは見張りをしようとしていたようです。
しかし……。
「見張りなどいりませんよ」
「え? どうしてですか?」
「帰るからですよ」
「帰るって? もしかして依頼を諦めるのですか!?」
「諦める? なぜ諦める必要があるんですか?」
誰も怪我をしていませんし、別に緊急事態があるわけでもありません。諦める必要性は全くありません。
私が何かを言い返そうとすると、ドゥラークさんが私を止めます。そして、ダインさん達を手で制します。
「あぁ。お前等は黙ってみていろ。レティシア、馬車ごと移動するから中庭に転移してくれ」
「え? はい」
転移先はお屋敷の中庭です。
セルカのお屋敷には大きな中庭があり、今回のような時の為に大型の馬車などを置いておくスペースを作っています。
それに、馬車を置いて行こうと思いましたけど、お馬さんが可哀想です。
「えい」
私が魔力を込めると、全員がセルカの私達パーティのお屋敷に転移します。
ふむ。
暗くなる前に帰ってこれました。
「ば、ばかな……。転移魔法だと?」
「そ、そんな……」
ダインさん達は驚いています。
そういえば、転移魔法は失われた魔法でしたっけ?
私達が中庭で話し込んでいると、真っ赤な顔をしたギルガさんが私に詰め寄ってきます。怒っているのですか?
「おい。レティシア、リディアから聞いたが仲間が増えるってどういう事だ!?」
私はオリビアさん達を指差します。
「この人達が今日からお仲間になります。私のおもちゃになってもらう予定です」
「おい。もう隠す事すらしなくなったか」
「はて?」
私の反応を見てギルガさんは呆れています。
「お前なぁ……。俺達は結成して数ヵ月なんだぞ?」
「そうですね」
数ヵ月だからなんでしょう?
別に一年だろうと数ヵ月だろうとなんでもいいじゃないですか。
私がギルガさんに理不尽に怒られていると、中庭に姫様がやってきました。
「あ、レティ。お帰り」
「ただいまです。姫様」
姫様が抱きついてきました。
はい。良い匂いです。
オリビアさんは姫様を見て驚いています。
「え? ま、まさか、ネリー姫!?」
「はて?」
グローリアさんは姫様の顔は一般大衆には知られていないと言っていませんでしたか?
オリビアさんの声にダインさんが反応しました。
「ね、ネリー姫って」
しかし、最後まで言う前にいきなり現れたレッグさんがダインさんの首筋に剣を突き付けています。
「ひっ」
「すまんな。ネリーの存在を知られたからには……」
レッグさんの目つきが鋭くなります。
それにギルガさんが気付き必死に止めます。
「お、おい。レッグ、落ち着け」
「ひぃいい」
「ここは頭のおかしい奴が集まっているのか?」
ラリーさん。
それは失礼ですよ。
「否定できないのが悲しいな」
ドゥラークさん。なぜ否定できないのですか?
まぁ、いいです。そろそろ帰らなくてはエレンやカチュアさんが心配します。
「では、私は帰ります」
「おい、投げっぱなしかよ」
ギルガさんが私を止めようとしますが、私は帰ると言ったら帰るんですよ。
「はい。姫様、おやすみなさい」
「えぇ。レティ、おやすみ。二人にもよろしくね」
「あ、ちょっと待て!」
「嫌です。姫様、では」
「えぇ」
ギルガさんが煩いですが無視をして、姫様に挨拶だけして、私はエラールセへと帰りました。
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