15話 伝説の鍛冶師
私の名前を聞いて冒険者さんと鍛冶師さんの顔は青褪めています。
手配書の効果というのはここまで凄いモノなのですね。
「ど、ドゥラークさん。なぜ凶悪犯と一緒にいるんですか」
「凶悪犯とは失礼ですねぇ……。私が何をしたというのですか」
思い当たる事は大量にありますが、凶悪犯と呼ばれる覚えは……まぁ、ありますねぇ……。ドゥラークさんも呆れた顔をしています。
「いや、お前はテリトリオを滅ぼしただろうが……」
「失敬な。テリトリオは魔物によって滅ぼされたのです。私は何もしていませんよ」
ドゥラークさんまで勘違いしていますね。テリトリオの事は説明したはずなのですが……。
テリトリオはあくまで見捨てただけで、滅ぼしたのは幼い頃に滅ぼしたあの町だけです。
「まぁ、本当の事を知っていても、お前が凶悪犯というのは否定できんな。おい、マイザーではテリトリオの事はどう伝わっているんだ?」
「え? は、はい。そのレティシアという子供……「子供ではありません」あ、す、すいません。レティシアという人が町の人を殺し尽くしたと聞きました」
「殺し尽くしただと?」
「はい」
はて?
私は魔物が襲ってくる前にエレンと一緒に逃げましたから、殺し尽くしてはいませんよ?
私が逃げた時点で殺されていたのは、エレンの家の人達だけだったはずです。
「殺し尽くしたんなら、誰がテリトリオの事をマイザーに伝えたんだ?」
「え……そ、それは……」
「どうも、その情報の出所が怪しいな」
情報の出所ですか。
まぁ、思い当たるのはアイツ等だと思いますが。
「そうでもないですよ。町の人間は魔物から逃げられなかったと思いますが、それ以外に思い当たる連中はいます」
「なに?」
「テリトリオが魔物に襲われる前に教会の神官共は逃げ出していたそうですから。まぁ、神官長はカチュアさん達が倒したと言っていましたけど、他の神官共は生きていてもおかしくありません」
神官達はあの日の数日前には逃げていたと聞きましたし、彼等からそう報告されていてもおかしくありません。
「神官共か……。確かにそれもあるかもな。だが、お前に聞きたい事もあったんだ」
「なんですか?」
「お前の狂った性格なら「失礼ですね」……いや、お前の今までの行動を見ていたらそう言われてもおかしくないだろうが。まぁ、それはいい。そもそも、お前がエレンに危害を加えようとした連中を殺さなかったのはなぜだ?」
「ふむ。そう思われても仕方ないですね。まぁ、あの時はエレンがいたから大人しく逃げたんですよ」
「確かに、テリトリオの住民の所業は常軌を逸してたからな」
「え? テリトリオの住民の所業って何ですか?」
「あぁ。あの町の連中は勇者タロウにこいつの親友を貢ごうとした挙句、領主一家を惨殺しやがったんだよ」
「え!? もしかして、領主家の前の……」
「そうだ。アレは住民の所業だ」
ドゥラークさんはそこまで詳しく聞いていましたか。
まぁ、あの町はどのみち滅びる予定だったんですけどね。
「そもそも、私がいなくなればあの町は魔物……、しかも大型の魔物に襲われるのは分かっていましたからね」
「そういえばお前が魔物の侵入を押さえていたんだったな」
「そうですね。すべてはエレンの為でしたけどね」
「え? どういう事でしょうか……」
冒険者さんはドゥラークさんとは話をしますが、私の事は怖がっている様ですね。
「テリトリオが数年前まで魔物の狩場の拠点になっていたのを知っているか?」
「え? ……そういえばそうでしたね。俺達も一度だけ訪れた事があります」
「そうだ。六年前から魔物がでてこなくなった。その原因がレティシアだったんだ」
「えぇ!?」
「ちょ、ちょっと待て。たった一人の人間にそんな事ができるのか?」
鍛冶師のおじさんも疑うように私を見ます。
「こいつなら可能だろうな。こいつに俺達の常識は通用しない」
「そ、そんな!?」
「そういえば、お前等に聞きたい事があるんだ」
「え?」
「レティシアはこの通り見た目が幼女だ。お前達にはこんな幼女が町を滅ぼすとなぜ信用できた? なぜレティシアが凶悪犯だと思い込んでいるんだ?」
幼女幼女言われてもムカつくのですが……まぁ、見た目が幼いのは確かなのですが……。
「そ、それは……」
冒険者さん達が言うには、マイザー王国に現れた勇者が関係しているそうです。
現れた……ですか。
もしかして……もしかしますか?
「お、おい。レティシア……」
「その勇者が気になりますね。なんとなくムカつく気がします。まぁ、今はスミスさんを探すのを優先しますけどね」
不確定な事を調べるよりもグローリアさんからの仕事を終わらせる方が大事です。
まぁ、あのウジ虫が生きていようともう関係ありません。
「……そうだな。なぁ、鍛冶師のおっさん」
「ワシの名はラリーだ。それで、なんじゃ?」
「あんたは鍛冶師のスミスという人物を知っているか?」
「知っておるぞ。伝説の鍛冶師の名じゃ」
「はい?」
伝説の鍛冶師ですか。
グローリアさんはスミスさんの年齢は四十代と言っていましたが、そんな凄い人だったんですね。
「鍛冶師スミス。ワシと同じドワーフなのだが、ドワーフは実年齢よりも老けて見られる事が多いがスミスは数百年の時を生きているそうじゃ。この世界でヒヒイロカネという伝説の鉱石を加工できるのもスミスだけだそうじゃ。まぁ、そんな鉱石があるなどとは聞いた事もないがのぉ」
という事は、ファビエの至宝と呼ばれたヒヒイロカネの盾を作ったのはスミスという人ですか。
しかし数百年生きているですか……。
数百年も生きられるとか、そんな生き物がいるんですね。
はて、誰かがそんな事を言っていたような気が……、まぁ、いいです。
それにしても伝説の鉱石ですか……。
「ヒヒイロカネならありますよ」
「どういう事じゃ?」
「これです」
私はグローリアさんから預かったヒヒイロカネもどきを取り出します。
そういえば返すのを忘れていましたね。
ヒヒイロカネもどきを見てラリーさんの目の色が変わっています。
「こ、これがヒヒイロカネじゃと!?」
「お前、どうしてそんなモノ持っているんだ?」
あ、ドゥラークさんもヒヒイロカネを見るのは初めての様です。
まぁ、ドゥラークさんになら話してもいいでしょう。
「【創造】の力で作りました」
「は? ちょっと待て」
ドゥラークさんは私を連れて少し冒険者さん達から離れます。
「なんです?」
「作ったって何だ?」
「だから【創造】の力で作ったんです」
「お、お前、そのヒヒイロカネを誰かに見せたか?」
「はい。グローリアさんに見せましたよ」
「グローリア陛下は何か言っていたか?」
「はい。ホイホイ作るなと言われました」
私がそう言うと、ドゥラークさんは呆れた顔をしています。
「はぁ……。一応言っておくが、あまり人に見せるなよ。ただでさえその鉱石は伝説とか言われているんだからな」
「はぁ……」
ドゥラークさんはそう言いますが、ラリーさんは諦めてくれますかね?
「お、おい。それをワシにくれ!」
「それはできねぇな。悪いが、ここで見たモノを忘れて貰おうか……」
ドゥラークさんはラリーさんに怖い顔で詰め寄ります。
「ひ、ひぃいいいい」
「え? 脅すんですか?」
「あぁ。お前のせいでな」
私のせいとは酷い言い草ですねぇ……。




