12話 冒険者ギルドの規定書
連投と呼ぶには時間が離れすぎていますけど、連投です。
マイザー王国の首都はテリトリオからちょっと離れた場所にありました。
二人で数時間走って辿り着くくらいの距離でしたか。
結構真面目に走ったのですが、ドゥラークさんもひき離されなく良くついてきましたねぇ。
「はぁ……はぁ……」
「一日で着きましたね。ドゥラークさん、お疲れ様です」
ちょっと息切れしていますね。
途中から第一段階を使っていたみたいですけど、あまり簡単に使わない方が強くなれると思いますよ。
「れ、レティシア……。お前はどうして疲れていないんだ? 俺は第一段階を使って追いかけてたんだぞ」
「え? この程度で疲れませんよ」
ちょっと〈身体強化〉を使っただけですから、疲れるまではいきません。
そもそもドゥラークさんが疲れている理由って……。
「はぁ……。ドゥラークさんもいい歳ですからねぇ……」
「馬鹿か。俺はまだ二十八歳だ」
「え? 四十代前半じゃないんですか!?」
ちょ、ちょっと待ってください。
そ、その顔で、その威厳たっぷりの悪人顔で二十代なんですか!?
「ふ、老け顔で悪かったな」
私が驚いた顔をしていると、ドゥラークさんは少しだけムスッとしていました。少しからかい過ぎましたね。
「あはは。顔で年齢を判断してはいけませんね。ごめんなさい」
「けっ。どうせ俺は老け顔だよ……」
あはは。
ドゥラークさんが拗ねてしまいました。
私はマイザー王国の首都を囲む壁を見上げます。
マイザー王国の首都は大きな外壁に囲まれている様です。テリトリオでもそうでしたけど、なぜ高い外壁が必要なのでしょう。
私が不思議そうに外壁を見ていると、ドゥラークさんが話しかけてきます。
「外壁が気になるのか?」
「そうですね。セルカも外壁がありましたし、なぜここまで厳重に囲う必要があるのでしょうか?」
「大きい町が外壁で囲まれているのは、魔物の侵入や盗賊の侵入を防ぐためだよ。実際にこういった外壁の無い村や町もあるが、そんなところはだいたい盗賊や魔物の被害を受けている」
「そうなのですか? 盗賊や魔物くらい簡単に排除できるでしょう?」
「いや、普通の人達からすれば、お前が思っているよりも魔物の脅威というのは大きいんだ。それに盗賊なんて元冒険者が多いからな」
なるほど。
魔物や盗賊などから住民を守る為に高い壁が必要なんですね。
あ、そういえば……。
「マイザー王国の首都に入るのには市民カードや冒険者カードがいるのですか?」
「まぁ、普通は必要だな」
「ふむ。という事は私は入国できないのですか?」
「うーん。問題ない……いや……」
「私、指名手配されていますけど」
「そうだったな。入国前に拘束されるだろうな」
普通の指名手配犯ならそうなるのでしょうね。まぁ、拘束なんてされませんけどね。
しかし、入国できないのであれば適当に入るんですが、堂々とはできないようですね。
私が入れないのであれば、同じパーティのドゥラークさんは……。
「ドゥラークさんはマイザー王国に入国できますか?」
「お前と同じパーティだから入れないと思っているのか?」
「はい」
「冒険者ギルドの規定があるから問題なく入れるはずだ。ただ、ひと悶着があるだろうな。お前はどうするんだ?」
「密入国します」
まぁ、それしかないでしょう。
私には転移魔法があるので入るのは困る事はありません。
「具体的な方法は?」
「ドゥラークさんは私が転移魔法を使えるのを忘れてしまったんですか?」
「いや、覚えているが、例えばここから外壁の中に転移する事ができるのか?」
「はい。可能です。まぁ、今回の場合はドゥラークさんの気配を使って転移する予定ですけど」
「そんな事が可能なのか?」
「はい」
その為には、ドゥラークさんにはぜひ入国してもらわなければいけませんね。
指名手配されているレティシアとは少し別れて俺はマイザー王国の首都に入国するために門番に冒険者カードを見せる。
「お前……」
「あ?」
レティシアの仲間としておれの顔も知られているのか?
「もしかして、大罪人レティシアとパーティを組んでいるドゥラークか?」
名前まで知られているみたいだな。
正直な話、リディアを連れてこなくて正解だったな。アイツはすぐに顔に出るからな。
「そうだが、何か問題があるのか?」
「悪いが、お前の入国を許可できない」
「なぜだ? 犯罪者でもない限り冒険者の入国は基本的に拒否はできないはずだ」
「し、しかし……」
どうやらこの門番は冒険者ギルドの規定を知っているようだな。
「もし入国拒否をするならこの国のやり方を冒険者ギルドの総本部に報告させてもらうが?」
「え!? ちょ、ちょっと待て……」
門番は上の指示を仰ぐために一度町の中に入る。
おいおい……。門番に一人もいなくなったら不法入国し放題じゃないか。
まぁ、別にいいけどよ。
「あのぉ……」
「って、おぉい!? お前が話しかけてどうする!?」
レティシアが俺のズボンを引っ張ってくる。
こいつ、自分が指名手配犯って事を忘れていないか!?
「冒険者ギルドの総本部に連絡すると言ったら、あの門番はなぜ慌ててどこかに行ったんですか?」
「お前は冒険者ギルドの規定書を見た事があるか?」
「は? そんなモノがあるんですか?」
「そうだったな。お前は依頼書すらちゃんと読まない奴だったな。ギルガの旦那なら規定書を持っているはずだ。暇があったら一度目を通しておけ」
「はぁ……。その規定書は何が書いてあるんですか?」
「あぁ。冒険者ギルドは……いや、全てのギルドは国とは切り離されている事は知っているな。今回の指名手配はマイザーが勝手にやっている事だ。ギルドは関係ない。それに、パーティ内のメンバーが罪人であっても同じパーティだからと言って入国拒否してはいけないんだ。マイザー王国にも冒険者ギルドが存在する以上、これを守る義務がある。そのかわり、俺達が何か問題を起せば罪は重くなる。そういった事から、そこを突けば入国はできるんだよ」
「そういうモノなんですか?」
「あぁ。規定書にはそういったルールがいくつも書いてある。覚えておいた方が得だぞ。むっ、門番が帰ってきたようだ。レティシア……」
「はい」
レティシアは首を傾げながら見えない位置まで移動する。
「それで、上はどう言っていた?」
「お前の入国を許可する。ただし問題は起こさないでくれよ」
「はは。問題なんて起こさねぇよ」
俺はマイザーの大門を抜けて町に入る。
とりあえずは入国はできたな。
あとはレティシアが転移できる場所に行くだけだ。
「はい。これで潜入出来ましたね」
「って、お前。こんな入り口で話しかけたらバレるだろうが!?」
「そうなのですか?」
こいつは本当にこういうところが抜けているんだよな。
ともかく、俺達は建物の影に隠れる。
「なぜ隠れるのですか?」
「お前の目的はスミスってやつを探す事だろ?」
「そうです」
「それなのに堂々としてどうする。見つかったら追われるんだぞ。追われたら人を探すどころじゃなくなるぞ」
「そうですか?」
はぁ……。
こいつは頭がキレるのか、抜けているのかたまに分からんな。
しかし、マイザーに入って行方不明と言っていたな。
「レティシア。正直な話、お前はスミスがどうなっていると思っているんだ?」
「殺されているでしょうね」
「どうしてそう思う?」
「行方不明でしょう? 魔物に殺されたか盗賊に殺されたかのどちらかだと思いますよ」
普通に考えればそう思うのは当然だな。
しかし、この国で行方不明というなら別の意味もあるかもしれん。
「俺はそうは思えない」
「え?」
「お前はマイザーに有名なミーレル鉱山という場所があるのを知っているか?」
「ミーレル鉱山? さぁ、聞いた事も無いので知りません」
ミーレル鉱山は、貴重なミスリルやオリハルコンが採掘できる鉱山として有名だ。
しかし、マイザー王国はそこまで裕福ではない。
それはミーレル鉱山の所有権をマイザーが持っていないからだ。
「この国はあまりにも馬鹿でな。鉱山のありがたみをあまりにも軽視し過ぎて、鉱山の所有権を鍛冶ギルドに売り飛ばしちまったんだ」
「それはアホですね」
「あぁ。スミスという男は鍛冶師だろう? 鍛冶師は鍛冶ギルドに所属している。もしかしたら、鉱山に入っているかもしれないな」
「もしかして、遭難ですか?」
「在り得るだろうな。だから、行くなら鉱山の方が確実かもしれん」
「それなら、どうしてこの町に入ったんですか?」
「俺達は鍛冶ギルドに所属していない。だから、鉱山には勝手には入れないんだよ」
「では、どうするんですか?」
「俺達は冒険者だ。冒険者は依頼があればいい」
「そういう事ですか。鉱山での依頼を探すんですね」
「あぁ。俺はギルドに行くから、お前は外で待っていてくれ」
「分かりました」
レティシアは素直に町の外に転移する。
俺の記憶が確かなら、この国の冒険者ギルドには鉱山の常時依頼があるはずだ。
俺はギルドに行き依頼を受けて町を出る。
「もう帰るのか?」
「あぁ。この町には鉱山の仕事を受けに来ただけだからな」
「そうか。できればあまりこの国に近付くなよ」
「ん? あぁ。よほどの理由がない限り近付かねぇよ」
よほどの理由がない限りな……。
俺はマイザー首都から出て、レティシアと合流して鉱山へ向かった。
今回の話で一番困った事はドゥラークの年齢です。確か何処にも書いた覚えはないのですが、もし、どこかに書いてたら教えてください。間違ってたら書き直します。
しかし、ドゥラークは常識人ですねぇ……。最初の頃とは大違いです。
も、もう少しでブックマーク五百件です。あと少しです。もし、よろしければブックマークの登録をよろしくお願いします。
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後、『親友が酷い目に遭ったので全てに復讐します』を少しずつ改稿しています。もしよかったら、そっちもよろしくお願いします。




