11話 合流
誤字報告や感想、いつもありがとうございます。
転移して来たのは、昔住んでいた家があった場所です。
とはいえ、前にここで殺した冒険者に焼かれてしまったので建物はなくなってしまっていますが、地下には居住スペースが残っているはずです。
私は一度地下に潜ります。
変わっていませんねぇ……。と言いたいところですが、人間の死体が転がっています。どうやら魔物から逃げて、たまたまここを見つけたのでしょう。でも、出て逃げる事もできずに、食料も無く、ここで衰弱死してしまったのでしょう。
私は死体を燃やしておきます。
ここに帰ってくるつもりはありませんが、このままここに置いておくのも嫌ですからね。
私は地下から出てきます。
「さて、まずはどこを調べましょうか。そういえば、テリトリオの町には冒険者が沢山いると聞いていました。冒険者を捕まえて色々話を聞いてみますか」
私はテリトリオの町に入ります。
前に一度戻ってきた時よりも更に荒れていますねぇ……。見渡す限り瓦礫しかありません。
はて。
冒険者の姿が見えません。
「まぁ、どうでもいいですか。まずは領主様の家の前に行ってみますか……」
私はエレンの家の前に向かいます。
家の前にはエレンのご両親の遺体がいまだに残っていました。
「まだ、残っていたんですねぇ。このままにしておくのは流石に気分が悪いです」
しかし、ここだけ破壊されていないのはなぜでしょう?
ここだけ魔物に襲われてなかったというのでしょうか……。
もしかしたら、ここだけ私の殺気が残っているのかもしれません。
「どちらにしても、このままにしておくのは嫌ですね。せめて、安らかに眠れるように……」
私には浄化の魔法は使えません。
しかし、浄化のような魔法は使えます。そして光の炎をイメージして……。
「安らかにお眠りください。〈ホーリーフレイム〉」
磔にされていたエレンのご両親、それに執事のお爺さんの遺体は光に飲まれていきます。これで、浄化になるのかまでは分かりませんが、遺体を野晒しにしておくままよりはマシでしょう。
「今の光はなんだ!? ん? レティシアか!?」
この声は。
そういえば、テリトリオで調査していると聞いていましたね。
しかし、少々意外です。
「ドゥラークさん。お一人ですか?」
「そうだが?」
「可愛いお嫁さんはどうしました?」
「あ? 俺は一人身だぞ?」
「いえいえ、貴方にはリディアさんがいるでしょう?」
「い、いや。り、リディアとはそういう仲では……」
ドゥラークさんは照れて悪役顔を真っ赤にしています。
色恋沙汰は良く分かりませんが初々しいですねぇ……。
もう少しからかってあげたいですけど、今はそれどころじゃありませんね。
「ドゥラークさん。テリトリオは魔物の狩場として提案されていると聞きました。それにしては、あまり冒険者がいないようですが?」
ギルガさんから聞いた話ではそうだったはずです。
気配を探知してもこの町にいるのは私とドゥラークさんだけです。どういう事でしょう。
ドゥラークさんは少し呆れている様です。
「お前がいつ来たのかは知らんが、三時間ほど前に大型のフォレストウルフが現れた。セルカで戦った大型フォレストウルフよりも巨大だったな。それを見て冒険者共は逃げていった」
はぁ?
この町を狩場にするのであれば大型のフォレストウルフくらいは倒せないでどうしますか。
しかし、逃げ出したですか。
「この町は見ての通り高い外壁に囲まれています。冒険者達は良く逃げ切れましたねぇ……」
「マイザー王国の冒険者は下衆が多いみたいでな。結構な数が逃げ切れたみたいだぜ」
「下衆が多い?」
ドゥラークさんが言うには、冒険者達は仲間のうちで一番弱い者を囮にして逃げたそうです。
何人かは、ドゥラークさんが助けたそうですが、殆どが大型フォレストウルフに喰われたそうです。
「魔物は倒したのですか?」
「いや、逃げられた」
はて。
「ドゥラークさんの実力ならば殺せたでしょう」
「まぁ、倒すだけならな。いや、俺もお前に思考に似てきたのかもしれんな」
「はい?」
「俺が追い詰めた大型のフォレストウルフは冒険者達が逃げ出した方角へ逃げだした。だから見逃し……いや、囮にされた冒険者の救助を優先した。あぁ、これは偶然だぞ。たまたま大型フォレストウルフから逃げる為に囮にされていた奴等を助けたらそうなっちまっただけだ」
「ふふっ。それは仕方ありません。要救助者がいればそちらを優先するのは当たり前です。逃げた冒険者達がどうなったかは知りませんが、殺されたとしても事故で済むでしょう」
ドゥラークさんの話を聞いて逃げた冒険者の気配を探ってみましたが、何も感じないという事は……不幸な事故でしたね。
「それで、囮にされていた冒険者はどうしましたか?」
「お前が作ってくれた携帯用転移魔法陣でセルカの町に送った。ギルガの旦那に任せておいたからあいつ等は安心だろう」
「そうですか」
しかし、こんなに下らない冒険者しかいないのであれば、マイザーは残しておく必要はないと思うのですが……。
グローリアさんはなぜ滅ぼしてはいけないと言ったのでしょうか?
「レティシア、お前はなぜテリトリオに来たんだ? もしかして、グローリア陛下がマイザー王国を滅ぼせと言ったのか?」
「いえ、私がテリトリオに来たのはマイザーでスミスさんを捜しに来たんです」
「スミス?」
「はい。ヒヒイロカネと言う鉱物を加工して貰う為に必要な鍛冶師さんなんです」
「ヒヒイロカネ? 聞いた事のない鉱物だな。それを加工できる鍛冶師がマイザーに来ているのか?」
「はい。マイザーに来てから行方不明になりました」
私がスミスさんの情報をドゥラークさんに教えるとドゥラークさんは少し考えて「そうか。俺もついていっていいか?」と言い出します。
しかし……。
「止めておいた方が良いですよ?」
「どうしてだ? 俺は前に比べれば戦えるようにはなったぞ。お前の邪魔をするつもりもない」
確かにドゥラークさんは強くなりました。
おそらく私達のパーティで私を除いて一番強いでしょう。だから戦闘面では心配などしていません。
私はグローリアさんから受け取った手配書を見せます。
「お前の手配書か。確かにテリトリオが滅びる原因になったのは間違いないが、濡れ衣もいい所だろう。しかも、手配書の似顔絵が今のお前の姿なんだな」
「それが何か?」
「いや、例え濡れ衣だとしてもだ。お前のような幼い姿をしている者の手配書を作るという事は、お前によほど詳しい奴からの情報があったとしか思えん」
「そうですね。グローリアさんもマイザー王国に今現在の私をよく知る者がいる可能性があると言っていました」
「この手配書と関係あるかは知らんが、変な噂は聞いたぞ」
「はい?」
「マイザーに新たな勇者が現れたらしい」
「勇者ですか?」
また勇者ですか。
しかし、この世界は勇者に拘り過ぎでは?
「そういえば、ファビエが勇者を召喚したのは魔王を倒す為でしたよね。魔王が動き出したんですかね」
「いや、そういった情報は流れていない。もし、魔王……魔族に動きがあれば、同じ魔族であるケンに情報が入るはずだ」
「そうですね。紫頭が何かを知っていればギルガさんから報告があるはずです」
「それと、マイザーの勇者が本物ならば、エラールセ皇国も勇者を選任するかもしれんな」
「マイザーの勇者に対抗して……ですか?」
「おそらくな。マイザーが用意した勇者如きに魔王を倒せると思えないが、仮に先を越されたらマイザー王国が世界的に台頭してきてしまう」
「それは困る事なのですか?」
「あぁ。マイザー王国というのは思っているよりも下衆でな。そんな国が魔王を倒して世界で発言権を得たらどうなると思う?」
「なるほど……」
確かにそれは困るかもしれません。
しかし、グローリアさんがこの状況を無視しているとは思えません。
「もしかしたら、秘密裏にアレスさんに打診しているかもしれませんね」
「なに?」
「エラールセ皇国で勇者に相応しいのはグローリアさんかアレスさんだけです」
「お前じゃないのか?」
「私……ですか?」
ふむ。
私が勇者ですか……。
うぅ。
考えただけで気持ちが悪いです。
「うぷっ……。な、ないですね。私は人の命を軽く見ていますからね。勇者に相応しくないでしょう」
「どうして顔を青くしているのかは知らんが、否定はできないな。しかし、アレスに打診しているか……」
「あくまで私の予想ですよ」
「あぁ。一応ギルガの旦那に報告だけ入れておこうと思うのだが……」
「構いませんよ」
ドゥラークさんは連絡用の魔宝玉を取り出します。
そんな高価なものがうちのパーティに合ったのですか!?
「そ、それをどうしたのですか?」
「うん? 連絡用の魔宝玉か? ギルガの旦那が全員に支給したはずだぞ。お前は貰っていないのか?」
「貰っていませんよ」
「そうか。まぁ、お前の場合は転移魔法でホイホイ移動できるだからだろうな」
「た、確かにそうですが……」
全員に支給ですか。
エレンやカチュアさんも持っているのでしょうか。
まぁ、いいです。
私以外の皆が持っているのはずるっこいですから、後でギルガさんから貰いましょう。
ドゥラークさんが連絡用の魔宝玉を起動させると、緑色に光る玉っころからギルガさんの声が聞こえてきました。
『こちらギルガ』
「こちらドゥラーク」
『どうした? ドゥラーク』
「テリトリオでレティシアと合流した」
『レティシアと? なぜ、レティシアがそこにいる?』
「人探しでマイザー王国に来たそうだ。ギルガの旦那はレティシアの手配書の事を知っているか?」
『あぁ、知っている。というよりも、エレンの手配書の方が問題だろうと思っていたからな。エレンはそこにいるのか?』
「いや、いない。レティシア一人だ。テリトリオの調査はある程度終わった。俺もレティシアの人探しを手伝う為に、これからマイザーの首都に入る。レティシアも一緒にだ」
『エレンはカチュアと一緒か?』
「そうです。グローリアさんが匿ってくれています」
『ならいい。二人とも気を付けろよ』
「という訳だ。一緒に行かせてもらうぜ」
ドゥラークさんは連絡用の魔宝玉を懐に入れます。私はそれをジッと見ていました。
「そうですか。分かりました」
「そうだ。これを被っておけ」
ドゥラークさんは大きな布を私に渡します。
「ローブですか?」
「ああ。一応指名手配犯だからな」
正体がバレたとしてもどうでも良いですが、まぁ、面倒事は起こさないに越した事は無いですね。
私はローブを被ります。
「ところで、ドゥラークさんはマイザーの場所を知っていますか?」
「非常に残念だが、方角しか分からんな」
「そうですか。よし、ドゥラークさん走りましょう」
「馬車じゃないのか?」
「それだとどれだけかかるか分かりません。走った方が早いです」
「あ、あぁ……わかった」
私とドゥラークさんは走ってマイザー王国に向かいました。
今回から暫くはレティシアとドゥラークの二人で行動です。
マイザーの勇者とは一体誰なのか……ww




