閑話1 大人達の時間 カンダタ視点
タイトルはこんなのですが、健全ですよ。おっさんしか出て来ませんし。
19年6月12日に少し修正しました。
「ふぅ……大変な一日だったな」
今日の仕事を終え、独り身の俺は酒場で飲んでいた。
普段は、家に帰って静かに飲むのだが、今日は人と会う約束をしている。
しかし、今日は驚く事ばかりが起こった日だ。
クラスが賢者だったエレン嬢。そのエレン嬢がBランク。
一番驚いたのは、俺が冒険者を辞めるきっかけとなった、レティシアに会った事だった。
あの日、あの子を一目見た日から、あの子がどうなったかは気になっていたが、元気で良かったというのが率直な感想だ。
しかし、冷静にあの子の顔を見ていると、死んだ友人を思い出す。
あの時は確信までは出来なかったから似ていると思った程度だったが、ハッキリ見てみると、友人譲りの黒い髪。そしてあの容姿……間違いなく友人の子だ。
友人の名はデルタ。
デルタは、とある町で反乱を起こし、町の人間との凄惨な戦いの末、殺された。
俺はそう聞いたが、とてもじゃないが信じられなかった。
アイツが反乱なんて起こすはずがねぇ……。
二十近く年が離れた嫁さんを貰って、子供が出来たと書かれた喜びの手紙が来ていた。そんなアイツが反乱なんて下らない真似をするわけがねぇんだ。
俺はデルタの反乱の真相を調べた。
詳しい事までは分からなかったが、そこで出てきた言葉が呪い子。
呪い子のせいでアイツは死んだのか? とも思ったが、どうやらそうではないらしい。
俺は呪い子を追っていた。
呪い子が生きているという保証はなかったが、俺は可能な限り呪い子の情報を探した。
そして、カススの町の依頼。
呪い子の処刑を止める
俺はその依頼を受け、カススの町へと入った。
そこで呪い子に出会った。ただし、惨殺された後だったが……。
顔を潰され、剣を突き刺された姿からよく確認できなかったが、もしも、呪い子というのがあの日デルタが連れていた子供だというのなら、この殺されているのがデルタの妻だったのだろう……。そして、デルタが町で反乱を起こした理由も理解が出来た。
俺は、デルタが呪い子をどこかの研究施設から連れてきた事を知っていた。
当時はその子が呪い子とは思いもしなかったが、デルタが「俺が育てるんだ」と言って連れてきた子をよく覚えている。
金髪の長い髪で、愛らしい子だった。
ここからは俺の推測だが、恐らくカススの町の住民が呪い子であるデルタの妻を殺そうとしたのだろう。デルタはそれらから守る為に戦い……死んだ。
そう言えば、呪い子がデルタの妻だというのなら、お腹にいた子はどうなった?
あの子はこの歳まで生きていた。という事は……まさか……。
俺は町の中を探した。
あの手紙の時期からして、六歳くらいの子だ。
まさか、呪い子を殺す為にその子まで殺したんじゃ……と思ったが、その子を見つけた瞬間、背筋に冷たい汗が流れた。
その子は殺されるどころか、暗く濁りきった目で町の人間を焼き殺していた。
その子の容姿は、炎で髪の毛の色までは良く分からなかったが、デルタの面影を覗かせつつ、多少その子の方が幼かったものの、デルタが連れていた呪い子と思しき女の子にソックリだった。
俺はその子を保護しようとしたが、その子は次の得物を探すように消えてしまった。
あれから十年……。
ギルマスになり、その子の行方を捜したが、見つからず、今に至る……。
そして……。
俺があの記憶を思い出していると、俺が待っていた奴がようやく来やがった。
「カンダタさん。話を聞きに来たぞ」
「あの二人は?」
「俺の家で休ませている。娘もあの子達を知ってるから、任せておいて問題ないだろう」
ギルガには全て話すと決めていた。
この話を聞いてギルガはどう思うのか……。
いや、こいつは正義感が強い。大丈夫だ。
さて、そろそろ話すとしようか。
「ギルガ、お前も酒を飲め。ここからの話は素面では聞けない話だ」
「あぁ、カンダタさんが引退を決めた時の話だったな」
俺はレティシアの事をギルガに話した。
ギルガは最初は話を信じようとしなかったが呪い子の話になると真剣に話を聞いていた。
「呪い子の噂か……。カンダタさんは【ルグーン】という町を知っているか?」
「いや、どこかで聞いた事のある町だが、詳しくは知らないな」
「今はもうない町なんだが、その町で昔騒動があったんだ。確か、デルタという冒険者が反乱を起こしたという」
俺はその言葉を聞いて立ち上がってしまった。
そうか!!
どこかで聞いた事があると思ったが、デルタの遺体が燃やされた町か。
「カンダタさん?」
「す、済まない。そうか……あの町はルグーンというのか……」
「知っているのか?」
「あぁ、デルタは俺の友人だった。お前は反乱の真相を知っているのか?」
「詳しい事までは知らないが、俺はその町の傍で暮らしていてな。確か、その町には定期的に魔物が襲ってきていたらしい。デルタという冒険者は魔物から町を守っていた英雄と呼ばれ、町も魔物を退治する冒険者により栄えていたんだ。魔物が襲ってきていても、それを町の発展に利用していたので比較的平和だったんだ。だが、ある日、無銭飲食の男が捕まってな。そいつが言うには、デルタの奥さんは呪い子で魔物を引き寄せる力を持っているといい、その話を聞いた町の住民が奥さんを殺そうとしたそうだ。それを止めるために反乱を起こしたと言っていたな……。だが、話しに聞く呪い子とレティシアが母娘だったとはな……、いや、レティシアの母親が呪い子と呼ばれていたのは確かに知ってはいたが……」
「レティシアに母親と同じ能力はあるのか?」
「調べたわけでもないから、無いとは言いきれないが無いだろうな。むしろ逆だな。俺達が元々いたテリトリオの町は遠くない未来に滅びるだろう」
「どう言う事だ?」
「レティシアが現れるまでは、テリトリオの町は魔物の狩場として有名な場所だったんだ。だから冒険者が常にいたし、町も潤っていた。だが、レティシアが来てから魔物の数が減少してな。冒険者は次々出て行ってしまった事は知っていると思う。で、その魔物が来なくなった原因がレティシアだったらしくてな。レティシアがいなくなった今、領主もいないあの町は魔物から自身を守るものは何もないという事だ。だから、滅びるだろうな……」
本来であれば、今の話を聞いてギルマスとして冒険者を引き連れ町を救いに行くのが正しいのだろうが、エレン嬢の身に起きた事を考えると、そこまでする気が起きないな。領主を殺していなければ、領主が国に依頼していたはずだ。それを出来なくしたのは町の住民だ。自業自得以外の何ものでもないな……。
とはいえ、このまま見捨てるのも後味の悪い話だしな。後で、あの国のギルドに話をしておくか……。
「で、ルグーンの町は何故滅びた?」
「あぁ、良くも悪くも呪い子の魔物寄せで潤っていた町は、魔物が来ないと何も潤わなくなり冒険者達は離れていき、最後はゆっくりと衰退していったそうだ」
「そうか……でだ、俺の予想だが、レティシアはエレン嬢と出会った事で暗く濁った目が元に戻っていた。だから……」
「言わなくても分かるよ。やれやれ……あの子は普通ではないと思っていたが、まさか、そんな秘密を持っていたとはな」
「今日、話しをした限りは、あの子は根が素直な子なのか聞かれた事を隠さず答えているように見えた。だからこそ……十年前の事を思い出させるな」
もし、十年前の事を思い出し、あの子の心が憎悪に染まったら……あの子は人間を敵と認識するだろう。そうなればあの子は殺されるまで殺し続けるだろう……。
良くも悪くも、今あの子を止めているのはエレン嬢だ。
エレン嬢が勇者に襲われて死んだ世界なんて想像もしたくない……。
「ギルガ、俺も最大限協力する。だから、エレン嬢を……、レティシアを守ってやってくれ‼」
「わかった」
二人であの子達の事を守ると誓い、この日は朝まで飲み明かした。