閑話 逃亡
お待ちかねのタロウ君再登場です。
テリトリオの町の様子が復讐編の町の惨状になっていたので書き直しました。
「はぁ……はぁ……」
クソっ。
俺がどうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
俺はジゼルを殺し、金目の物だけ奪い俺はファビエ王国から逃げた。
ファビエ王国はジゼルに殺された。
だから逃げなくてもいいとは思ったが、聞くところによるとエラールセ皇国がこの国を引き継ぐらしい。
そうなれば俺は間違いなく捕まる。
もし、捕まらず逃げ切ったとしても、あのチビが俺を見逃すとは思えない。
やはり、早く国から逃げないと……。
そもそもおかしいじゃねぇか。
俺は異世界召喚されたんだろう?
異世界召喚や異世界転生した主人公はチート能力を与えられたうえで誰からも好かれるはずだろ?
だが、今はどうだ……。
俺の周りにいた女共は誰もいなくなった。力も失った。
武具はまだある。だが、今の俺に聖剣が抜けるのか?
……何もかも失った。
これが現実だというのか?
いや、確かに召喚されてから暫くはライトノベルの主人公の様に好き勝手できた。
だが、本当に手にいれたかった一番いい女であるネリーはレッグという山賊に惚れていて、聖女に選ばれたマリテという女もアレスっていう恋人がいた。
本当にうまくいかないモノだ……。
いや……ソレーヌだけは俺だけを見ていてくれたか。
それだけは救い……だったな。
しかし、ジゼルが暗躍しだしてからは何もかもが狂い始めた。
ソレーヌもアルジーも狂いだし、そして俺も狂った。
すべてはジゼルの思い通りだったんだ。
俺は利用されていたのか?
……いや、されていたんだな。
どっちにしても、もう俺はファビエに居られない。それならば……マイザー王国へ逃げよう。
マイザー王国はまだ勇者に対する偏見もなく、そして俺の事も知られていないはずだ。
「そういえば、マイザー王国のテリトリオの町が滅ぼされたとジゼルが言っていたな。これを利用するしかないな」
そういえば、あの町の神官長が女を用意すると言い出した事から始まった……。
正直な話、マイザーという国の田舎の町の領主の娘などに興味はなかった。だが、ジゼルがどうしても行けといったから俺はテリトリオに向かった。
領主の娘のエレンは目が覚めるほどの美人だった。
俺は教会で待った……。そして、三日ほど経っていよいよ楽しめると思った時、あの女は逃げやがった。そして俺達も教会から脱出した。
今思えばなぜ脱出だったんだ?
いや、あのチビがいたのならそれも仕方が無い話だ。
しかしだ……。まさか、エレンが本物の聖女で、傍にいたチビに俺の能力が全て破壊されるなんて思いもしなかった……。
すべてあのチビのせいだ。
俺は諦めない。
絶対にあのチビ……。レティシアを殺して勇者としての地位を取り戻す。
それから二週間後、俺はマイザー王国の首都に辿り着いた。
クソっ。体を洗えないから自分が臭い。おまけにここまでの道中、碌な町が無くて飯もまともに喰えてねぇ……。
腹が減って力がでねぇ……。
ま、まずは飯だ……。
そう思っていたのだが、俺は門番に止められた。
「おい。お前、見ない顔だな。それに薄汚い格好だな」
チッ……。
雑魚の分際で俺を足止めするな。俺だって好きでこんな格好をしているんじゃねぇよ。
いや、今の俺には神の加護はない……。こいつにも勝てないかもしれん。
クソっ。
「あ、あぁ。俺は冒険者だった……。滅ぼされたテリトリオからここまで歩いてきた」
「て、テリトリオだと!?」
マイザー王国テリトリオの町。
レティシアが暴れ滅ぼした町だ。
詳しい話ができるようにと、一度町に寄ってみた。
町は酷いありさまだった。
町の建物はほぼ破壊されており、道端には魔獣により喰い散らかされた人間の死体がそこらに転がっていた。
中でも一番残酷だったのは領主の家の前だ。
三人が磔になり串刺しにされていた。
あのガキが残忍な性格なのは知っている……だが、あんな人の殺し方は……虫唾が走る。
しかし、俺はレティシアがあの町を襲っている姿を見ていない。だが、素直に話す必要はない。
いや、アイツの残酷さを適当に話し、罪人に仕立て上げてやる。
「あの町では狂ったガキが町の人間を殺し回っていた……。そして、魔物を町に引き入れやがった……」
「あぁ。私もその報告を聞いている。それに手配書も出ている」
手配書だと?
ま、不味い。
俺はファビエの勇者だ。お、俺の手配書も出ているのか?
「お、おい……。指名手配は何人出ているんだ?」
「ん? 確か……二人だな」
「二人?」
一人はレティシアだ。
だが、もう一人は何者だ……。
ま、まさか……、俺の事か!?
「手配書を見せてやろうか?」
「あ、あぁ……」
門番は懐から二枚の紙を取り出す。
一枚はレティシア。
本物よりも少しだけ大人びている。この似顔絵を描いた奴は何を根拠にこれを描いたんだ?
まぁ、いい。
俺は震える手でもう一枚を見る。
俺じゃない……。エレンだ。
こちらは忠実に書かれている。
アイツは聖女だが、テリトリオの領主の娘だったな。肖像画が残っていてもおかしくはない。
しかし、なぜ、こいつが指名手配されているんだ?
「ひ、一つだけ聞いていいか?」
「なんだ?」
「こっちの黒髪のガキはテリトリオを滅ぼしたから分かる。なぜこっちの金髪の女まで指名手配されているんだ?」
「あぁ。彼女はテリトリオの領主の娘でな。マイザー王国の国王様はこの娘を大層気に入ったそうだ。だから手配書を見てみろ」
俺は手配書をじっくり見る。
『生かして捕まえろ』
……。
冗談だろ?
エレンの傍にはレティシアがいるんだぞ?
それなのに生かして捕らえろ?
馬鹿を言うな……。
「どうした?」
「い、いや……。こっちのガキの手配書を見ていると気分が悪くなってな……」
「そ、そうか。お前はテリトリオから来たんだったな……。辛い思いをしたんだな……」
「あ、あぁ……。家族が殺された……」
そうだ。
俺にとって家族はソレーヌだった。
ソレーヌを殺したのは別の奴だし、直接的な原因を作ったのはジゼルだが、結局はレティシア達に殺されたと思っていい。
そう思わないとやってられないからな……。
しかし、この似顔絵ではエレンは捕まえられるかもしれんがレティシアは捕まらん。
「一つだけ忠告しておく。この似顔絵ではこのガキは捕まらないぞ」
「なに?」
「こいつの見た目はもっと幼い。そうだな……十歳以下のガキと思ってくれればいい。嘘だと思うのなら嘘と思えばいい。どうせいつまでも捕まらないだろうからな……」
「わ、わかった。上に報告しておく」
これで正確にレティシアの事がマイザー王国軍に伝わるはずだ。
これでレティシアを……。いや、トドメは俺自身が刺してやる。
くっ……。
それより今は飯だ。
「し、しかし、そんな幼い少女が町を一つ滅ぼしたというのか……」
「あぁ。お、俺はアイツと関わるのは嫌だ。これ以上は何も聞かないでくれ……」
俺は少し怯えた素振りをする。
すると門番はすんなり俺を通してくれた。
助かったぜ……。
町を暫く歩き冒険者ギルドの前に辿り着く。
幸い金はある。今は飯と風呂と服だ。
俺は冒険者ギルドへと入る。
そして宿舎を借りて風呂に入り、服を購入して着替える。
次は飯だ。
ギルドの飯はさほど旨くはないが、今は腹に何か入れたい。
俺が飯をがっついていると、長身でやせ型の男が俺の前に座る。
「おい。他の席が開いているぞ? なぜ、ここに座る?」
「いいじゃない。私は貴方に興味があったのよ」
「チッ……。オカマかよ」
この世界では同性愛者は珍しくない。
別に他人の趣味趣向などに興味はないが、俺は元々そういったモノとは無縁の暮らしをしていた。
嫌悪感は無いが、自ら進んで関わるつもりもない。
「俺はお前に興味はない。そういう趣味もない」
「そう……それは残念ね。でも、私は貴方に興味があるのよ。当然そういう趣味もね」
「なんだと?」
くっ……。
背中に寒気が……。
男は口角を釣り上げ俺を見て嗤う。
「貴方は勇者タロウでしょ?」
俺は席を立ち剣に手をかける。
俺が剣を抜こうとすると冒険者ギルドが一気に殺気立つ。
「止めておいた方が良いわよ。ここは冒険者ギルド。貴方が勇者タロウと知られれば全員が貴方を襲うわよ」
「なぜだ?」
「なぜって、面白い事を聞くわね。貴方が何をしてきたのか忘れたの?」
チッ……。
思い当たる事が多すぎて、否定はできねぇ……。
俺が恨まれている数は一つや二つじゃないってか……。
「分かったのなら一晩私のモノになりなさい。そうしたら、この町にいる間は平穏に暮らさせてあげるわよ」
「くっ……い、嫌だ。俺は町を出る」
「それは無理よ」
「な、なに? なぜ無理なんだ?」
「ふふ。周りを見てみなさい。みんな貴方を睨んでいるわ。もうバレているのよ」
「なら、なぜ俺は襲われない?」
「私が傍にいるからよ」
「な、なんだと……?」
い、いや……。
た、たとえ平穏に暮らせたとしても男は嫌だ。
「ふふふ。貴方に拒否権などないのよ。力を失った哀れな勇者さん」
「な!?」
お、俺の力が破壊された事を知っているのか!?
ま、まさか。レティシアの関係者……。
「い、嫌だ……」
俺は逃げようと席を立つが、腕を掴まれて再び座らされる。
「離してくれ……」
「だ~め」
俺の必死の抵抗もむなしく、俺は部屋に連れていかれた……。
そして、こいつの部屋のベッドの上で……。
や、止めてくれ……。
ち、近付くな……。
あ。
あ……。
「あぁあああああ!!」
そして俺は気を失った……。
今のタロウは能力を持っていません。
ただし、身体強化くらいは使えます。だから、そこまで弱くはないです。
さぁ、新しい仲間と共にタロウ君の復讐劇が始ま……るといいなぁ……。




