40話 エラールセ皇国
誤字報告いつもありがとうございます。
ジゼルを倒し、セルカの町に戻って来た私は皆さんとファビエ王都の今後について話し合います。
私の望みとしては、姫様やレッグさん、ついでに紫頭の三人がギルガさんのパーティに入ってもらい、セルカの町で冒険者としてひっそりと暮らせばいいと思っています。
姫様は「王族としての責任があるそうなので、それはできない」と強い意志でそう言います。
私がどうしたものかと悩んでいると、レッグさんが姫様の前に立ちます。
「レティシアちゃん、俺とネリーをエラールセ皇国に転移して送ってくれねぇか?」
「レッグさん!?」
やはりレッグさんも一緒に行きますか……。
レッグさんは姫様が一番大事だと言っていましたから、こう言いだす事は予想はしていました。姫様が驚いているところを見ると、レッグさんがそんな事を考えていたとは知らなかったのでしょう。
私はお二人を止めようとしましたけど、言葉がでませんでした。そんな私を汲んでか、ギルガさんがお二人を止めようとしてくれます。
「ネリー様。行けばもう二度と帰ってこれないかもしれないんですよ? このまま身を隠すのも一つの方法じゃないんですか?」
やはりギルガさんも私と同じ気持ちの様です。
しかし、お二人共覚悟を決めているみたいで首を縦には振ってくれません。
私としては、お二人を死なせたくもないですし、今回の事はジゼルの責任なので、別に姫様の責任でもないと思います。
「レティ、ネリー様達を助けられないかな?」
「私からもお願いしたいです」
ふむ。
エレンとカチュアさんのお二人から頼まれたら断れるわけがありません。お二人の生存を最大限に考えるとしましょう。
単純に姫様の命を助けるのであれば、エラールセ皇国を滅ぼすのが一番楽なのですが……。
「レティ、一応言っておくけどエラールセを滅ぼしちゃダメだからね」
「考えている事が分かってしまいましたか?」
「そりゃ分かるでしょう。レティの性格を考えれば、それが一番簡単だと思っているだろうし、今のレティなら簡単にできるでしょう?」
「はい。三日もあれば滅ぼせます」
「だから、ダメなんだって」
では、どうしましょうか……。
「姫様。私はどうすればいいですか?」
「え? だから、エラールセに送ってくれるだけでいいのよ」
「それは当然の事です。ついでに私も行きます。私が言っているのは行った後の事です」
「行った後って?」
「姫様は今回の事の責任を取って死ぬつもりですよね。王族の立場というモノを私は知りませんが、知ったこっちゃありませんから、私がそれを許しません」
私が許さないと言ったら許さないんですよ。
「レッグさんも同じです」
「え? 俺か?」
「貴方は姫様が責任を取って死ぬ事になったら一緒についていくつもりでしょう? 私がそんな事を許すとでも?」
「いや、そうは言うが……」
「そうですね。二人を脅しておきましょうか」
「「え?」」
二人の顔が青褪めます。
「もし、お二人が私の説得を無視してでも死を選ぶのであればそれをもう止めません。お二人の死を止められなかった腹いせに、私がエラールセを滅ぼします。ね? そんな事言われたら死ねないでしょう?」
「お、お前……」
とはいえ、エレンにエラールセを滅ぼしてはダメと言われているので、滅ぼすつもりはありませんが牽制にはなるでしょう。
私はレッグさんの頭を軽く触っておきます。
「なんだ?」
「いえ、お気になさらずに。ともかく、お二人と私の三人でエラールセ皇国に転移します。エレン、カチュアさん。後はお願いしますね」
「うん」「はい」
「さて、姫様、レッグさん、行きましょう……」
「え、えぇ……」
私と姫様とレッグさんの三人でエラールセ皇国へと移動します。
本当は狂皇さんの前に直接転移したかったのですが、流石に他国の王様の前にいきなり現れたら失礼になるどころか、暗殺を企んでいると思われても仕方が無いそうなので止めておきます。
「エラールセに着いたわね。レティ、エラールセには来た事があったの?」
「いいえ、初めてですよ」
「え? でも転移魔法って一度でも行った事のあるところじゃないと転移できないんじゃないの?」
「はい。普通は不可能です。だから、レッグさんの頭からエラールセの場所を読み取りました」
「さっき頭を触っていたのはそれが理由だったのか。しかし、触るだけで読み取るって、俺にはプライバシーがないのか?」
「は? エラールセの場所を読み取っただけですよ。わざわざ興味もないレッグさんの過去などは読み取りません。そんな些細な事はどうでも良いので、さっさと要件を済ませましょう」
レッグさんは渋々門番の所へと歩いて行きます。
こういう大国への入国は本来厳しい審査などがあるそうなのですが、レッグさんの場合はエラールセ皇国の信頼が高いとの事で、すんなりと入国できました。
「早速お城に行きましょう」
「いや、まずは冒険者ギルドだ」
はて?
「なぜギルドに行くんですか?」
「ギルドのギルマスを通してグローリア殿との謁見の時間を作ってもらう」
なぜ、そんなに面倒な事をするのか聞いてみると、普通に一国の王にいきなり会う事はできないそうです。本来は相手側の都合に合わせて謁見の時間を指定してもらい、始めて謁見できると。
その時間を作って貰う為にギルドへと向かうそうです。
……でも、わざわざギルドに行かなくてもよさそうですよ。
騎士のような人達が私達を取り囲みます。
強さは……ファビエの兵士と違って強そうです。でも、私の敵ではありません。
囲まれているし、殺して良いんですよね?
私が動こうとするとレッグさんに止められました。
駄目ですよ。隙を見せては殺されてしまいます。
そう思っていたのですが、騎士のうちの一人がレッグさんに頭を下げています。知り合いですか?
騎士はレッグさんにだけ聞こえるように何かを囁いています。周りに聞こえないように配慮しているのでしょうが、私には聞こえていますけどね。
「レッグ殿。陛下が緊急でお会いしたいとの事です。一緒に来て御同行願いたい」
「あぁ……」
緊急で会う……。ファビエ王都で起こった事をすでに知っているという事ですかね?
騎士に案内されたのはお城の中の一室でとても綺麗な部屋でした。
部屋には五人。全員が強く、特に真ん中に偉そうに座っている男性は別格です。
アレが狂皇ですかね? あれ? あの人見た事がある気がします。
真っ赤な髪の毛の野性味あふれた男性で右目に大きな傷が……はて?
何か思い出しそうです。
「久しぶりだな、レッグ。それにネリー姫と……、そこの黒髪の小さいのはお前達の娘か?」
「いや、流石にこんなに大きな娘はいないよ」
姫様を見ると真っ赤になっています。
まぁ、冗談を言える仲という事ですか……。
しかし、レッグさんは山賊みたいな顔にもかかわらず凄い人と顔見知りなんですね。
「ははは。冗談はさておき、久しぶりだな。小娘」
「はて? どこかでお会いしましたか?」
「ははは。忘れてやがるか……。まぁいい。レッグ、この小娘をなぜ連れてきた?」
レッグさんは周りを気にしだします。
それに気づいたグローリアという人が騎士達を退かせます。
しかし、普通はこんなに得体のしれないのが目の前にいたら護衛を残すと思うのですが、随分とアッサリと護衛を挽かせましたね。よほど自分の実力に自信があるのでしょう。
「さて、親友であるレッグとファビエ王国のネリー姫には紹介はいらんが、その小娘は俺を忘れていやがるからな。自己紹介をしておこう。俺がエラールセ皇国のグローリアだ。狂皇といった方が伝わりやすいか」
「はぁ……どこかで会った記憶はチラッとはあるのですが、どこで会いましたか?」
「あぁ、カススの町近くの森だ。そこでまだ幼いお前と戦った。だが、お前はあの時から見た目が成長していないようだな」
「森? あぁ、あの町を滅ぼした後であった騎士さんでしたか。私が敵対して唯一殺せなかった相手です」
「「な!?」」
謁見の間が緊張に包まれます。
「ははは。お前につけられた目の傷がうずくなぁ……。もう一度戦ってみたいものだな」
「私は別にいつでも相手になりますよ」
「とりあえず、小娘と呼ぶのも変な話だ。自己紹介をしてくれないか?」
「私はレティシア。何の特徴もない小娘です」
まぁ、貴族でもなんでもないですからね。
特徴が無いと私が言うと、レッグさんが呆れた顔をしています。どついていいでしょうか?
「ははは。何が特徴ない小娘だ。ここにいる誰よりも強く、残忍な性格をした【忌み子】が何を言う」
なんだ……私を知っていたのですか? 私は殺気を放出させます。
「ははは。強力な殺気だな。他の護衛がいなくて良かったぞ。こんなモノを浴びたら一生使い物にならなくなってしまう」
そう言っても、自分は平気なんですね。
「まぁ、レティシアとの事は置いておくとして、話というのはファビエ王都の事か?」
グローリアさんがそういうと姫様が前に出ます。
「グローリア陛下……ファビエ王都は滅びました。王都を失ったファビエ王国は直に滅びるでしょう。ですから……」
「それで俺を頼って来たんだな。まぁ、それは俺に任せておけ。ファビエ王国に属する町はエラールセの領土にしてやる。しかし、ネリー姫も分かっていると思うが避けては通れない問題もある」
「はい」
姫様の顔に緊張の色が見えます。恐らく責任問題の事でしょう。
まぁ、どうなっても姫様を殺させはしないですがね……。
「責任の問題だ。流石に滅びた国の王族が生きていると、色々と厄介になる」
グローリアさんがそういった瞬間に、私は殺気をぶつけます。しかし、グローリアさんは引きません。
「ははは。まぁ、待て。俺の話を聞け」
「話ですか?」
「あぁ。お前、ネリーを処刑させたら俺を殺すつもりだろう? そうなったとしても俺も黙っては死ぬ気はないが、お前と争っても良い事はなさそうだ」
私はこの言葉を聞いてついつい笑顔になってしまいます。
グローリアさんはしっかりとご自身の立場を理解している様で何よりです。
「レッグ。お前達は幸運だな。俺という知り合いがいて、レティシアという切り札まで手に入れている」
「ま、まぁな……」
切り札?
何を言っているのでしょうか。
私はやりたいようにやるだけです……。
「さて、俺からの提案だが……」
二章はこの次の話で終わりです。
元々グローリアとレティシアは知り合いではない設定に変えようと思いましたが、知り合いの方が面白そうなので復讐編と似たような設定に変えました。
ただ、強さに関しては前よりも強く設定してあります。レッグとかが強くなり過ぎましたからね。




