39話 決着
「私の【憤怒】を破壊しただと? 特殊能力を……大罪を破壊する事などできるわけがないだろうが!!」
「別に貴女が信じようと信じまいとどうでも良いです。ただ、破壊する度に同じ事を言わせないでくださいね。鬱陶しいですし」
ジゼルは人の話を聞かずに、必死に【憤怒】を発動させようとしていますが発動しません。まぁ、当たり前です。破壊してしまったのですから、もうジゼルの中に【憤怒】は存在しません。
「まさか封印か!? くそ!? オーガ共よ!! ソイツを殺せぇええええ!!」
ジゼルが手をかざすと、私の周りに魔法陣がいくつも現れます。
しかし、まだ封印とか言っているのですか……アホじゃないんですか?
しかし、召喚ですか……。私の周りに角の生えた大型の魔物が数匹現れます。
見た目はオーガですが、少しだけ大きく見えますね。だからといって……私にとってはゴブリンと変わりありませんけどね。
「殺せ、殺せぇえええええ!!」
私の事を馬鹿にしているのでしょうか。この程度の魔物で私を足止めできるとでも?
そういえば紫頭に言われて、【怠惰】の力についても少し研究して作ってみましたが、私には無縁の能力でしたし、どちらかといえば嫌いな能力です。
私は一瞬で的確にオーガの首を撥ねます。
そして、ジゼルの懐に入り顔を掴みます。
「ぐっ。は、離せ!!」
「【怠惰】の力の事は知っていますよ。自分の代わりに魔物を戦わせて、怠ける事で強くなるでしたっけ? コレの弱点を教えてあげましょうか?」
「……な……」
「【怠惰】は怠ければ怠けるほど強くなるんです。魔物は時間稼ぎ、その魔物が一瞬で殺されたら全く意味がないんですよ。それに、私を殺す事に執着した今の貴女ではうまく発動させる事はできませんよ。まぁ、もう無くなる能力ですから、関係なくなりますけどね。【怠惰】を破壊します」
今度は破壊されたのがちゃんと理解できるように、分かりやすく破壊してあげます。
ジゼルには体の中で何かが砕けて消えていくのを感じたでしょう。それが【破壊】です。
「あ、あぁ……」
「ジゼル……。これで、七つの大罪のうち二つが消えましたけど、まだ魔神を名乗れるんですか? 少なくとも姿は元に戻っていますよ?」
「ひ、ひぃ!?」
ジゼルは自分の体を何度も確認しています。顔は若干青いままですけど……。あ、別の意味でしたか?
私はジゼルの腕を掴み、壁に向かって投げつけます。
「ぐはぁ!?」
「痛いですか? 受け身くらいとってくださいよ。私に喧嘩を売ったんですから、物理攻撃は予想できたはずです」
「う、あ、あ、あ」
恐怖で顔が歪んでいますよ。
でも……、まだです。
貴女には散々煮え湯を飲まされましたから、この程度で終わるわけがないじゃないですか。まだまだ苦しんでもらいますよ。
私はジゼルの両足の骨へし折ります。
「ぎゃあああああ!!」
「魔神になっても痛みは消えなかったんですか? そう自分を改造しなかったんですか?」
「ひ、ひぃいい」
うるさいですから口を塞いでおきましょうか。
「んーー!?」
「ついでに【嫉妬】も壊しておきましょうか」
「んぅぅうううううう!! や、やめろぉおおお!!」
ジゼルは這ってでも逃げようとしていますが、逃がしませんよ。
私は聖剣をジゼルの掌に突き刺します。
「いぎぃ!?」
「この程度で痛いのですか? 貴女はこの程度の痛みすら消せないんですか? まぁ、いいです。次はどうしますか?」
「うぐ……」
ジゼルは何かの魔法を使おうとしています。
ここで殺してしまうのは簡単ですが、まだ抵抗するというのなら、見せて貰いましょうか。
私はゆっくりとジゼルから離れます。
「くはははは。私の魔法を警戒して離れたのが失敗だったな。今回は貴様の勝ちでいい!! だが、次は確実に殺す。殺してやるぞぉおおお!!」
警戒? 何を馬鹿な事を。
何をするか楽しみだったんですが、逃げるつもりだったんですね。
本当にがっかりさせてくれます。
転移魔法でしょうか? もし転移魔法なら破壊してしまいましょうか……。
いえ、この感じは違いますね。
これは空間魔法ですね。そういえば、今まで居場所が分かりませんでしたね。そこに逃げ込むつもりみたいですね。
それならば……。
ジゼルは逃げ切れると思い、勝ち誇った顔をしている。
「絶対殺してやるぞ!! 首を洗って待っておけぇ!!」
まったく……。
空間に逃げ込む瞬間に強気な態度を取られても、かっこ悪いですよ。
それに……。
逃がすわけないでしょう?
私は自身で作り出した空間に手を突っ込みます。そして、ソレを引きずり出します。
「ひぃいいいい!!」
ジゼルを引きずり出す事に成功しました。
簡単に私から逃げられるとでも?
「何を逃げているんですかぁ?」
「な、な、な……。なぜ、私の作った空間に干渉できるんだ!?」
「簡単な話ですよ。私は貴方を敵と認定しました。だから、貴女は私から逃げられません……」
私はジゼルの頭を押さえます。
「離せ!!」
「次は……【傲慢】【色欲】【暴食】の三つを一気に【破壊】です」
「あぁあああああ!!」
さて、残った大罪はジゼルが元々持っていた【強欲】だけです。
さて、どう戦いますか?
私は少しだけ離れてあげます。
ジゼルは死に物狂いで攻撃してきてくれると信じていますよ。何をしてくるのか楽しみですねぇ……。
「キサマ。許さんぞ!!」
また魔法ですか?
拍子抜けです……。
今更、貴女の魔法が私に効くとでも?
「禁術〈デス〉!!」
ふむ。禁術ですか……。
ジゼルの魔力が何かを形作っています。
はて、何やら黒い布っ切れを着た変なのが生まれましたよ。顔は骸骨です。
おや? アレは鎌ですか? 鎌を振り上げてますねぇ……。
あ、それで斬るんですか?
いや、動きが遅すぎて避けてくださいと言っているようなモノです。
あれ? 体が動きにくいですよ?
私は変なのが振り下ろした鎌を掴み止めます。
動き難いですけど、遅いですから止められて当然ですよね……。
しかい気味の悪い生物ですねぇ……。
頭を潰してしまいましょう。
「えい」
軽く叩いたら塵になってしまいました。
弱いですねぇ……。
「あのぉ……。なくなった【怠惰】の力の真似事ですか?」
「な!? 禁術を簡単に消し去るとは……。ふざけるな!! 〈デス〉〈デス〉!!」
黒い変なのが何匹も現れます。
ふむ。
これは弱いんですが、なにをして……。
はて。
ジゼル……老けましたか?
顔にしわが増えています。
「どうしたんですか?」
「ハァ……ハァ……。なぜ、息が上がる!?」
自分でも気づいていないんですか? ジゼルの魔力がしぼむように小さくなっていますよ?
……まぁ、良いんですけど。
「くそっ……。喰らえ!! メテオ!!」
また空から降ってくる炎の玉ですか。
アレ? 落ちて来ませんよ? 不発ですか?
ジゼルの顔が更におばさんになっていますねぇ……。髪の毛も白くなっています。
「もう体も限界ですか?」
「ハァ……ハァ……」
≪ジゼル視点≫
ど、どうなっている?
私の体が……。
掌を見ると、しわができている。まるで老婆の様に……。
「くそっ。【強欲】を……」
魔力も残り少ない。いや、なぜか魔力が回復しない。だが、大罪の力なら……。
え?
闇の力が私に襲い掛かる。
どういう事だ。
「ふざけるな!!」
私は這って大罪の力から逃げようとする。
くそっ……もう少し、速く動ければ……。
に、逃げられっ……!? がふぅ!?
な、なんだ?
れ、レティシア……。蹴られたのか!?
わ、私の頭を掴むな。
「だから逃げては駄目ですよ? タロウでも数回持ちましたけど、貴女は何回持ちますかねぇ」
私の頭は何度も地面に叩きつけられる。
「ぎゃあああ!!」
「悲鳴ですか? うるさいです」
【強欲】で奪うんだ……こいつの力を……。
私は震える手でレティシアの腕を掴む。しかし……。
「ダメですよぉ……。もう大罪の力は打ち止めです」
は、破壊……。
文献で読んだ【神殺し】の能力は一人一つだけのはずだ……。
レティシアは【創造】の力を持っていたはずだ。【破壊】を覚えられる筈がない!?
だからこそ、私の駒は負けたんだ。
なぜ、こいつには常識が通用しない!?
私の計画が……。
「はい。壊しました。これで、貴方はただのジゼルです」
「あ……あ……」
私の百年以上かけた計画が……。
く、くそぉおおおおお!!
≪レティシア視点≫
さて、そろそろ終わらせましょうか……。
私はジゼルの背中を踏みつけます。
必死に逃げようとしている様ですが、逃がしませんよ。
「さて、そろそろ終わりにしましょう。もう魔神では無くなった貴女を生かしておいてもつまらないです。さようならです」
私は剣をジゼルの首に突き刺します。
「ごぼぉ……」
「さて、貴方自身を……破壊してみましょう。出来ますかねぇ……」
ジゼルは私の【破壊】で塵になっていきます。生物には効かない気がしたんですけど、効きましたねぇ……。もう、ジゼルの体は特殊能力そのものにでもなっていたのですかねぇ……。それに、ジゼルの姿は老婆になっていました。ジゼルの体に何が起きたのでしょうね……。
「まぁ、終わったので、これでいいです……。さて、帰りましょうかね」
≪ジゼル視点≫
ハァ……ハァ……。
殺された。
力を失い、不老じゃなくなった……。
「こ、ここまで一方的に殺されるとは思わなかった……」
保険に命をもう一つ残しておいて良かった……。
……許さない。
【忌み子】レティシア……。
「ジゼルか……」
こ、この声は……。
私は声のした方を見る。
そこには傷だらけのタロウが立っていた。
生きていたのか?
「た、タロウ。手を貸してくれ」
私はタロウに助けを求めるが、冷たい目で私を睨みつけている。
「がっ」
蹴られた!?
「な、なにをする!?」
「何をする……だと?」
なぜタロウが私に剣を突き付けている?
「た、タロウ……」
タロウの冷たい目……。
なぜ、私をそんな目で見る。まさか、私を殺すつもりか?
「お前のせいで酷い目に遭っちまった。アルジーは自分勝手な奴だったから問題はない。だが、ソレーヌは純粋に俺を慕ってくれていた。そんなアイツをお前は利用した……」
「何を言う。ソレーヌを利用したのは認めるが、お前が酷い目に遭ったのは、すべてお前の自業自得だろうが!?」
「そうだな。でも、俺はお前を許さん。そして……アイツもだ」
「くくく……。話が通じない馬鹿か……。殺したければ殺すといい……だが、覚えておけ。すべてはお前の業が引き起こしたモノだ!!」
「ふん。好きに言っておけ!!」
タロウの剣が私の心臓を貫く。
意識が遠く成る寸前、聞こえてきたのは……。
「絶対に復讐してやるぞ……」
レティシア……。
くくく……。
お前如きにどうにかできる奴じゃないが、好きにやってみるといいさ……。
しかし、哀れな奴だな……。
くだらん復讐の人生を歩くくらいなら、静かに暮らせば……いいのに……な。
本当に……どこまでも……愚かな男……だ……。
これでジゼル編は終わりです。
勇者タロウの生存は最初から決めていました。タロウ君にはこれからも頑張ってもらわないと……。




