38話 破壊の力
一応二章のラスボス戦です。
ジゼルは帰って来た私の仲間達を一瞥して、嫌みったらしく笑います。
「まったく……。苦労して古代魔族を集めてきたんだがな……。まさか、一人も殺せないなんてね……。虎の子の魔神タロウもアッサリ殺されるとはな……。期待外れにもほどがある……」
「はい? タロウもどきのサタナスは実験体でしょう? 本物の魔神は……貴女でしょう?」
「くくく……」
図星なのか、最初から隠す必要がないのか、ジゼルの口角が釣り上がります。
「何を言っているのか良く分からないが、それよりも君は良いのかい?」
「何がですか?」
「君の母……【呪い子】レイチェルの事を詳しく知っている私を殺せないんじゃないのかい?」
「はて。お母さんの話を聞きたいというのはありますけど……」
「そうだろう? 君が知りたい情報を私は持っているんだよ」
あぁ……。
それを取引に使おうとしているのですね。
……しかし。
「その情報にどれ程の価値があるのですか? 私が復讐に生きているのならその情報は価値がありますが、復讐などどうでも良いと思っている私には必要ありませんよ。ただ、少しだけ興味があったので知りたかっただけですし」
「な、なんだと?」
ふふふ。
余裕の顔が少し崩れましたね。
「だから、貴女が死んだとしても何の問題もないですよ」
私はそう言って笑います。
さっさと殺してしまいたいのだが、まだ喋りたいんですね。余裕を取り繕っていますね。
「そうか……。話が通じるうちに君に聞いておきたい」
「何か?」
「私の下に付くつもりは無いかい? 君が望むのなら、ここにいる全員を助けてあげるよ」
はい?
ここにきて勧誘ですか。しかも脅しというカードを使って……。
「ふふ。何を言い出すかと思えば、本気で私に勝てるとでも?」
「思っているさ。それ程までに強力なのだよ!!」
ジゼルから黒い力があふれ出します。
確かに強い魔力を感じますね。
「この力の正体がわかるかい? これは闇の力。七つの大罪を司る魔力だ!!」
黒い靄に包まれます……。
そして靄が晴れて……ジゼルが姿を現します。
顔はあまり変わっていませんが、肌は青くなり、翼が生え、角が生えます。
そして、目は金色に輝いています。
……あ、結構変わっていますね。
「素敵な姿ですね……」
「そうだろう? これが本物の魔神の力で本当の姿だ。まずは、無能な部下の後始末でもするとしよう……。君の仲間を殺させてもらうよ」
皮肉すら通用しないとは、面白みがないですね。
まぁ、どちらにしても……。
「させると思いますか?」
ジゼルが何かをする前に転移魔法が発動させます。
「それこそさせると思うかい?」
ジゼルは当然の様に妨害魔法をかけてきます。
まぁ、想定内なんですけどね。
「まぁ、邪魔してきますよね。でもそれは無駄です。最初から分かっていたんですよ。だからこそ対策は取っておきました」
まぁ、対策もなにも妨害魔法の魔法術式を【破壊】すればいいだけなのですから。
「な、なに!?」
ジゼルの妨害魔法は発動しません。当たり前です。
貴女の中にその魔法は存在しない。もう【破壊】しました。
妨害魔法は発動しないので、転移魔法は発動します。
行き先はセルカの町です。
≪エレン視点≫
「ここは、セルカの俺達の拠点か……」
ギルガさんが壁を殴る。
「くそっ。何を考えている。全員で戦えばジゼルを簡単に……」
「それはどうでしょうか?」
ジゼルの力は計り知れない。
もし、私達に被害が出ない楽な戦いになるのならば、わざわざ逃がさないはず……。
それをしないという事は強敵だって事……。
ギルガさんは悔しそうにしている。この人は私達の保護者のだからこそ、レティの心配しているのだろう。
正直な話、私も心配だ。
でも、レティなら……。
「皆さん、心配ありません。レティシア様があの程度のイカれた魔導士に負けるわけがありません」
カチュアさんは何の疑いもなく皆にそう言った。
うん。そうだよね……。
私も同じ気持ちだよ。
誰よりもレティを心配しているはずの私達二人がレティを信じると言ったのだから、皆さんも信じてくれるはず……。
レティ……。
私達は信じて待っているから……無事に帰ってきてね……。
≪レティシア視点≫
皆さんを転移で送った後、ジゼルを睨みつけます。
「さて、これで貴女と二人きりです。さぁ、殺し合いましょう」
「キサマ……、何をした?」
何を?
あぁ、妨害魔法の事ですかね。
「【破壊】しただけですよ。貴女の妨害魔法を粉々にね……」
私の中の【神殺し】の二つ目の力……。
すべてを【破壊】する力……。
「な!? そ、そんな馬鹿な!? 【神殺し】の力は一つだけのはずだ!! 別の力か!! 封印か!?」
【破壊】の力の話をしてからジゼルは取り乱しています。現実を受け入れられないのですかね? 驚く事は無いでしょう。
そもそも、つい先程、魔神を【破壊】の力で倒したのを見ていなかったのですか?
驚いているという事は見ていなかったのでしょう。別にみていないのなら見ていないでどうでも良いのですが……。
「本音で話しましょうか。私は勇者タロウも勇者一行である貴女達にも全く興味がない。元々はタロウが不老不死と聞いたから本当に死なないかを試そうと思っただけです。七つの大罪にも興味はありませんし、貴女の企みも知った事じゃありません」
「なんだと?」
「つまりは、どうでも良いんですよ。つまり、この戦いはどうでも良い戦いなのです。始めましょう。どうでも良い戦いを!!」
「どうでも良いだと!? 私の長年の計画をどうでも良いだと!? 魔神の力を舐めるなよ!!」
ジゼルは空に飛びあがり魔力を溜め始めます。
何をするつもりでしょうか?
「喰らえ、〈メテオ〉!!」
ジゼルが魔法を唱えると、空から炎の玉がいくつも天井を崩しながら落ちてきます。
へぇ……面白い魔法です。今度、私も使ってみましょう。
しかし……、室内で使う魔法ではないですよね。
天井が邪魔になって威力が落ちていますよ。
この程度の威力でしたら、私に当たったとしてもたいしたダメージは与えられませんよ。
私はジゼルの傍まで跳び上がり、足を掴み地面に投げつけます。
「ぐっ。き、キサマ!!」
「空に逃げないでくださいよ。私は飛べないのですから」
そういって、翼を引き千切ります。
空にいられると、殺しにくいじゃないですか。
「ぎゃああ!! く、くそ!!」
ジゼルが私に指先を向けます。
今度は何をするのでしょうか?
「〈レールガン〉!!」
はい? 指が光りました。
あ、……痛い!!
おでこに何かが当たりましたよ?
私はおでこをさすります。何だったのでしょう?
当たった瞬間、少しだけビリっとしましたよ。
「今のは一体何です? というよりも何の魔法です? 教えてください」
「お、お前の体はどうなっているんだ!? れ、〈レールガン〉は超級の雷魔法でオリハルコンすら貫通する魔法なんだぞ!? なぜ、額を貫通していないんだ!?」
「あぁ、雷魔法でしたか。私のコレと似ていますね」
私はジゼルの太ももを指差します。
「えいっ」
私の【光魔法】がジゼルの太ももを貫通します。
「ぐぁっ!!」
「貫通しましたから、私の方が威力は上ですね。覚える必要はありませんね」
ジゼルは私に掌を向けます。
今度は何を見せてくれるのでしょうか……。
「くそっ!! 私のつかえる最大の魔法だ!! 死ね!!」
掌から収束された魔力の玉が生み出されます。
うーん。
避けるのも面倒ですね。
そうです。
私はジゼルの掌を魔力ごと握り潰してあげます。
「えい」
「ひぎゃああああ!!」
「うるさいですねぇ……。燃え尽きなさい」
私がそう言うと、ジゼルの腕が燃え尽きてしまいます。
「な、なんでだ!! 私の魔法はどうなったんだ!? 私の腕は!?」
「魔法ごと壊したに決まっているじゃないですか」
「ひ、ひぃ!?」
この程度でいちいち悲鳴を上げないでくださいよ。痛みくらい根性で消してください。
私は貴女に何度も屈辱を味わされましたよ。この程度で済むわけがないじゃないですか……。
ジゼルは私から逃げます。そして、少し離れた場所で燃え尽きた腕を闇の力で再生させました。
便利な体ですねぇ……。
まぁ、再生能力くらい無いと面白くありません。
壊しがいがあります。
「くそっ!!」
「何を悔しがっているんですか? まさか、実力差というモノが理解できなかったんですか?」
私は最初に言いましたよね。
勝てると思っているのですか? と聞きましたよね。
私はジゼルの口を押さえます。
「んーんー!!」
ジゼルが何かを話そうとしていますが、口を塞いでいるので何も声が出せないようです。
「さて、まずは何を壊してあげましょうか?」
「んー!!」
ジゼルの表情が怒りに染まります。
そういえば、怒りの力で強くなるんですよね。【憤怒】というのは……。
だけど……私からすれば、あの程度の強化なんて気にもなりませんが、まずは強化手段を破壊しておきましょう。
「さて、【憤怒】を破壊します」
ジゼルの中で、何かが割れて砕けるような音が聞こえた気がしました。
はい……。【憤怒】を破壊しました。
私は手を離してあげます。
「レティシア……お前、な、何をした?」
はて。
初めて名前を呼ばれましたねぇ……。
ジゼルは私を見上げ、青褪めています。
だからこそ……私は笑顔で答えてあげます。
「七つの大罪【憤怒】を破壊しましたよ」
二章のラスボス。
もう少し苦戦させようと思ったんですが、まぁ、苦戦しないですよね。次の話でジゼル戦は終わります。
無理にでも引き延ばそうと努力した結果です(笑)




