33話 真の勇者一行の戦い
「ここはどこだ?」
見渡す限りただ真っ白な空間。
ここには俺一人が吸い込まれたのか?
いや、俺はマリテの傍にずっといた。サジェス達とも固まっていたし、一緒に引き込まれたはずだ。
俺は周りをよく見る。
人影が……。
あれは……。
「サジェス!!」
「アレス、無事だったか。他の二人も無事だ」
サジェスも俺を捜していたみたいで、ホッとした顔になっていた。
サジェスの傍にはロブストとマリテが立っていた。
「マリテ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。それよりもこの空間はなに?」
俺もこの空間の事は説明はできない。
そう思っていたのだが、サジェスには心当たりがあるらしい。
「これは空間魔法だ。俺達を個別に殺す為に引きずり込んだんだろ」
「ちょっと待て。空間魔法の中には入れないんじゃないのか?」
「普通は入れないさ。人の入れる空間魔法の事は、以前に読んだ魔導書に書いてあったのを覚えている。神の使う魔法で禁術の一つだそうだ。ジゼルが使ったのか、俺達をここに引き込んだ奴が使ったのかまでは分からんがな……」
「どっちにしても、神の力を持つ者って事か……」
俺達は敵を捜す。
すると、さっきまで誰もいなかったところにフードを被った男が立っていた。
「お前が俺達を引き込んだんだな?」
フードの男は面倒くさそうにフードを外す。
「いや、引き込んだのはジゼル様だ。本当はお前達の相手なんて面倒なのだが、ジゼル様に命令されたとあれば仕方が無い。俺は七つの大罪【怠惰】のノロスティア。勇者アレス一行、ここでお前等を殺せと言われている」
ノロスティアは指を鳴らす。すると、四方から魔獣が現れた。
「魔獣!?」
「俺の力は【怠惰】だ。俺がお前等の相手を直接するわけねぇだろう。面倒くせぇ……。お前等の相手はその魔獣共だ」
上級の魔獣のグレートビーストを数匹同時召喚か……。
確かに、今までの俺達なら殺されていただろう。でも、レティシアに鍛えられた今の俺達なら大丈夫だ。
「マリテ、お前は魔獣との戦いに向いていない。結界を張っているんだ。サジェス、ロブスト!! まずはグレートビーストを倒すぞ!!」
「あぁ!!」「おぅ」
俺達は一度に数匹ずつの魔獣を倒していく。
レティシアからは戦い方、効率のいい魔獣の倒し方を教わった。
この先も冒険者として生きていくなら必要な事だとレティシアが言っていた。
この知識を使うのは、この戦いが終わってからだと思っていたのだけど、教わってきた事がいきなり生きてくるとは思わなかったな。
あと少しで魔獣を全て倒しきれると思ったのだが、急にノロスティアが俺を襲ってきた。
何かを考えて動かなかったのか、それともただ面倒だったのかは分からないが、動き出したこいつは大罪だけあって本当に強い。これは【身体超強化】か?
いや、能力を使った形跡はない。じゃあ、これがこいつ自身の力か?
暫く交戦していると、ノロスティアは元の場所まで戻り再び魔獣を召喚した。
なんだ?
なぜ退いた?
それよりも今の違和感は何だ?
いや、それよりも今は魔獣だ。
俺達は再び現れた魔獣を倒し始める。その間はノロスティアは動かない。
なぜ動かない?
アイツの力と魔獣がいれば、俺達と効率よく戦えるはずだ。
こいつは戦いを楽しむタイプで、俺達を舐めているのか?
いや、それはない。最初の会話からしてもこいつは俺達と戦うのを面倒だと思っているはずだ。
それと気になる事がある。こいつには大罪の力もある。どんな能力かまでは知らないが、戦い方次第では俺達と同程度に戦えるはずだ。そうでなければ、四人同時に相手にするなんて愚行をジゼルがするとは思えない。
気になる事がもう一つ。なぜ、わざわざ簡単に殺される魔獣を呼び出す?
もしかして、魔獣を呼び出す必要があるのか?
ノロスティアの目的はなんだ?
もしかして!!
魔獣を倒し終わると、再びノロスティアが襲いかかってくる。
俺はノロスティアとの交戦をしながら考える。
そして、違和感の正体に気付いた。
なるほどね……。
ノロスティアの力は正しく【怠惰】だ。
魔獣を召喚する事で……自分が楽をする事でこいつの力は増すんだ。そして、力が溜まり終わったら俺達に攻撃してくる。ただし、一定時間が経つと力が失われていくから、再び魔獣を召喚する。
これを繰り返せば、俺達が人間である以上、いつかは疲弊する。それを狙っているのか?
【怠惰】のわりには面倒な戦い方をするものだな。
しかし、アイツの戦い方が分かれば、そこを突く事ができれば……。アイツを倒せる。
俺は魔獣と戦うサジェスの下へと向かう。
俺が急に近付いた事にサジェスは驚いていた。
「アレス、何をやっている!?」
サジェスには〈テレパシー〉という魔法がある。
こいつにすべてを話しておけば全員に俺の考えた作戦を伝えてくれるはずだ。
「サジェス。戦いながら俺と〈テレパシー〉をつないでくれ……それと……」
俺はある事をサジェスに伝える。
「あぁ? わかった」
俺は一人ずつに近付きサジェスからの交信がある事……そして、サジェスと同じある事を伝える。
三人に伝え終わった後、再び魔獣を倒しに行く。
暫くすると、サジェスから〈テレパシー〉による交信があった。
『アレス。話とは何だ?』
『あぁ。ノロスティアの弱点に気付いた』
『なに!?』
俺はさっき気付いた事をサジェスに説明して、ノロスティアを倒す方法を説明した。
『確かに……それならアイツの行動も説明がつくな。よし、次のローテーションで確認を取る。そして、その次でノロスティアを倒すぞ!!』
『あぁ!!』
その後、サジェスが俺が考えた作戦を皆に伝えてくれる。
そして三度ノロスティアが襲いかかってきた。
【怠惰】という能力のせいか、こいつはパターンを変えない。もしかしたら考える事すら放棄をしているのか?
それならば、きっと俺の作戦は上手くいく。
そう、思っていた。
「そうか……俺の戦い方に気付いたか」
「なに!?」
気付かれていたのか!?
「違うねぇ……。この空間では〈テレパシー〉での交信は俺に駄々洩れって事だ。だから、お前達の作戦はお見通しだ。残念だったな。今回は様子見なんだろ?」
「く、くそっ!?」
ノロスティアは高笑いを上げている。
そうか……。
やっぱり〈テレパシー〉での相談は筒抜けだったか……。
ハァ……。
助かったよ。
引っかかってくれてよ!!
「マリテ!!」
「うん!!」
俺とノロスティアに結界が張られる。これでこいつを逃がす事は無い。
「な!?」
「サジェス!! ロブスト!!」
ロブストは【身体超強化】を使ってノロスティアに攻撃を仕掛ける。
俺も【身体超強化・勇者】を使い攻撃を続ける。
「ば、馬鹿な!! お前達の作戦ではこの次に実行する予定だったはずだ!!」
ロブストの聖槌がノロスティアを襲う。
「ぐはぁ!!」
ノロスティアがよろけた隙を突き俺もノロスティアを斬る。
「ぎゃあああああ!!」
こいつの防御力はたいした事が無い。
もしかしたら大罪の中でもかなり弱い部類なのか?
「な、何故だぁあああ!!」
「ここはお前等が作った空間だろう? 最初っから〈テレパシー〉では作戦が洩れる事を想定していたんだよ!!」
だから、俺はサジェスには「皆には一度様子見と言ってくれ」と言い、皆には「サジェスは一度様子見という。だけどそれは嘘で次で決める」とだけ言っておいた。
この言葉だけでは意味が分からないだろうが、俺の仲間だから、サジェスの〈テレパシー〉を聞いた後、理解してくれると思った。
「ふ、ふざけるなぁあああああ!!」
ノロスティアは魔獣を召喚する。
これで再び力を溜めるつもりか!!
それも想定済みだ。
「サジェス!!」
「あぁ!! 【身体超強化・魔導】!! 喰らえ、〈シャイニングレイン〉!!」
光の雨が魔獣達を襲う。
今までと違いノロスティアに余裕がないからか、魔獣は中級魔獣に変わっていた。
この程度の強さの魔獣なら、サジェスの魔法に耐えられるわけがない。
魔獣達は一撃で死に絶えていく。
「な!?」
ノロスティアは明らかに動揺している。
俺達がその隙を見逃すわけがない!!
ノロスティアに俺達の攻撃が次々と当たっていく。
「ぎゃあああああ!!」
ノロスティアは這いずって逃げようとしている。
こいつをここで逃すわけにはいかない。
俺は聖剣の力を使いノロスティアにとどめを刺そうとする。
「終わりだ……」
「い、いやだ……やっとこの世界に下りれたんだ……。助けてくれ……」
泣きながら命乞いか……。
今までの俺ならば……。
マリテが酷い目に遭う前の俺になら、簡単に信用していただろうし……通用していただろうな。
……でも。
「今の俺には命乞いは通用しない」
俺はそのままノロスティアを突き刺す。
ノロスティアは涙を流しながら塵へと変わっていった。
流石に少しだけ罪悪感があったが……。
「恨むんなら、中途半端に復活させたジゼルを……そして……お前を殺した俺を恨んでくれ……」
ノロスティアから背を向けた瞬間、【怠惰】の黒い力が俺を襲う。
……そうだと思ったよ。
俺は聖剣の力を使い【怠惰】の力を斬る。すると黒い力は霧散していった。
これで、俺達の戦いは終わりだ……。
ノロスティアが完全に消えた事により空間が元に戻る。
思っていたよりも大罪が弱くてよかった……。
いや……大罪の力を使いこなせなかったのだろう……。
俺はマリテの下へと歩いて行く。
さて、元の場所に戻るみたいだが、俺達がちんたら戦っている間にレティシアが全てを終わらせているかもな……。
本当はアレス一人で倒す予定でしたが、勇者一行の方が良いと思いこんな形にしました。
いいよね……数の暴力。あ、開いても魔獣を召喚していたからノーカン。




