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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
2章 レティシア、ファビエ王都で暴れる。

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31話 復讐

思ったよりも早く書けたので……。


 あの時、トキエは眠っていた。

 だから、アイツの中ではオレが妻を殺した事になっていた……。

 今では誤解も解けたが、今でもあの時のトキエの言葉が忘れられない。


「人殺シ―――!! お母さんを返して――――」


 トキエが悪いわけじゃない。オレの心の弱さが原因だ……。

 ……今でもあの日の夜の事を夢に見る……。

 

 妻が殺された夜……。

 妻の命と娘の命を天秤にかけたあの夜……。

 トキエを頼むと言い、エンキに斬りかかった妻を……彼女を守れなかった夜……。

 そして、オレが人斬り(・・・)をやめる決心をした夜……。


「お前の凶刃で妻が殺されたんだ……。忘れるわけがない」

「凶刃? お前がそれを言うか? 散々人を殺してきたお前が凶刃という言葉を使うのか?」


 エンキ……。

 こいつはオレのかつての相棒で、オレの親友だった(・・・)男だ……。

 そして……オレの最愛の妻を殺した男。



「どうしてお前がここにいる。……いや、どうしてお前が生きている?」

「くくく……自分が殺した男(・・・・)が目の前にいたら気分が悪いか?」


 俺が人斬りとして最後に殺そうと思った相手。命懸けで殺すと決めた男……。


 しかし、目の前にいるエンキは何者だ?

 ジゼルがオレの記憶……いや、オレとジゼルには接点はない。

 じゃあ、記録(・・)から作り上げたのか?

 ギルドの記録を調べれば、オレの過去を知る事はできるかもしれない。


 しかし……。こいつの口調……。人を見下したような目はエンキで間違いない。

 エンキを殺してからもう十数年。いくら何でも死体が残っているとは考えにくい。

 ……実は生きていて、今までジゼルに生かしてもらっていた?

 それも無い。こいつはオレが殺し尽くした。確認も取った……。

 それに気になる事もある。


「オレは年を食っているにもかかわらず、なぜおまえは歳を取っていない?」

「死者は歳を取らない。そんな事は常識だろう? それとも、平和ボケして忘れたか? お前は俺を殺したんだ……」


 そうだ……。

 人斬り(オレ)の最後の仕事はまだ終わっていなかった。


「あぁ……。オレはお前を殺した。だから、もう一度死ね」


 オレはアークを抜く。

 聖剣アークはオレの昔の剣に似た形をしている。

 異国の剣……刀。

 オレはこの刀で……。


「ははは。もう一度俺を殺すってか? ジゼルからは一番常識人と聞いていたが、お前は所詮人殺しの人斬りだ……。結局、お前はあの頃から変わってねぇ」

「そうか? オレは今の平和ボケをしたオレが好きなんだぜ? だが、今だけは人斬りに戻らせてもらう」


 そう……。

 今だけは……。


「確かに平和ボケしたお前を殺しても意味はない。だからこそ、人斬りに戻ってもらわなければ困る。そうじゃなけりゃ、俺の復讐は果たされない」


 復讐ね……。

 

「何が復讐だ。お前が殺されたのは自業自得。そして、オレの妻がお前に殺されたのはオレの責任……」

「自業自得? 馬鹿にするなよ。お前は俺を殺した。だから、お前は俺に殺されるべきだ」

「傲慢だな……」

「傲慢? いや、違うな。殺す前に良い事を教えてやるよ。俺はエンキで間違いない……だから、お前を殺す理由がある。だがな、そうでなくてもお前を殺さなきゃいけない理由があるんだよ」

「なんだと?」


 エンキから黒い霧のようなモノがあふれ出す。


「そうか……。お前も大罪を埋め込まれているんだな」

「ははは。違ぇよ。俺は大罪を埋め込まれているんじゃねぇ」

「なに?」

「俺は大罪そのモノだ。そして、俺は【傲慢】じゃない。俺は【暴食】だ。エンキは昔の名で、七つの大罪【暴食】パラトロゴ。それが今の名だ」


 七つの大罪……。

 そうか……。

 ジゼルと共にいた七人は大罪そのモノだったのか……。


「さて、ジゼルに貰った力でお前に復讐させてもらうぜ」

「悪いがレティシア以外の連中が心配だ。最初から全力で殺させてもらう」


 オレはエンキを睨む。


「ははは。お前の目は少しだけ戻ったみたいだが、まだ足りねぇ。そうだ、あの頃の続きをしようぜ」

「なに?」

「お前の娘の命を賭けようぜ。お前を殺した後、娘もお前の下へと送ってやるよ!!」


 こ、こいつ……。

 あの頃と何も変わっちゃいない。


「それが……続きだと?」

「そうだ。お前が妻を見殺しにしたあの時だ!!」


 見殺し……。

 ふざけるなよ……。


「今度は二度と生き返れねぇように殺してやるよ!!」

「お前にできるのか? 年老いたお前になぁ!!」


 エンキがオレに迫る。

 速い……。

 あの頃の動き、あの頃の狂気そのままだ。


 だが、オレもあの頃のオレじゃない!!

【身体超強化・鬼刃】発動!!


 俺の魔力が一気に膨れ上がる。

 そして……。


 俺はエンキの刀を止める。


「この力は!?」


 オレの身体強化は力に特化している。

 レティシアと何度か模擬戦をしてアイツに言われた言葉。


(ギルガさんの剣は軽いですね。もう少し力がありそうなんですが、どうして自ら威力を殺しているんですか?)


 軽いね……。

 確かに、力任せに斬るアイツからしたら、オレの剣……いや、オレ達(・・・)の剣技は軽く見えるだろうな。

 俺達の剣技は流れるように斬る。

 それには刀のような鋭い剣が必要になる。

 だからこそ、力はそれほど必要ない。

 ははは……。

 レティシアに説明するのは骨が折れた……。

 そして、作ってもらった特殊能力【身体超強化・鬼刃】

 力特化だが、何よりオレの気持ち(・・・・・・)に反応して強化されると言っていた。

 アイツの言っている意味はよく分からなかったが、エンキを倒すには力特化だけで充分だ。


 エンキとオレは同じ師の下で剣を学んだ。

 師が後継者に選んだのはオレではなくエンキだった。

 別にオレはそれが悔しかったわけでもなんでもない。むしろ、エンキはオレより強かったから仕方ないと思っていた。


「【身体超強化】か……。ジゼルが言っていたなぁ……。お前達は【身体超強化】を使うと……。でもなぁ」


 エンキの魔力が静かになり一気に膨れ上がる。


「俺も使えるんだぜぇ……。こんな力は本来好きじゃないが、お前を殺すためには必要だと思って覚えたんだぁ……」


 オレはエンキに斬りかかるが、エンキはオレの刀を捌く。それどころか反撃までしてくる。

 どういう事だ?

 オレの刀を捌くだけじゃなく、反撃まで。


 力はこいつよりも上になっているはずなのに、こいつはオレの攻撃を受け流している。

 在り得ない……。

 まさか、速さ特化なのか!?

 い、いや……、こいつ等には……。


「そういやぁ、俺の特殊能力を教えてなかったなぁ……俺の能力は【暴食】。お前の身体能力を喰って俺の力に変えているんだよ。俺が速いんじゃない。お前が遅くなってるんだ」

「な!!?」


 オレは急いで後ろに下がる。

 しかし、エンキはオレを逃がさなかった。

 エンキの刀がオレの腹部を刺す。


「ぐふっ……」

「くくく……。どうした? 昔、俺を殺した時の方がまだ強かったぜぇ……」

「だ、黙れ……」


 オレはエンキを蹴り、離れる。

 チッ……。


「あの頃のお前は輝いていたなぁ……。なぁ、人斬りギルガさんよぉ……」

「黙れ……」

「いいや、黙るつもりは無いねぇ。お前は依頼で俺を殺しに来て、そして失敗。俺に子供を人質に取られ、妻を差し出した鬼畜だろう?」

「黙れ!!」

「良い事を教えておいてやるよ。師は俺を後継者に選んだんじゃない。お前を選んだんだぜ。だから、俺が殺し、俺が後継者だと嘘を吐いた!!」

「なんだと!?」

「気に食わなかったんだよ。当時から俺の方が強かったのにも関わらず、師はお前を選んだ。俺は当然抗議に行ったぜ? 俺よりも弱かったお前が選ばれたのを納得できるわけないからな。だが、師は俺にこう言いやがった。「お前は心が弱い」ってな。馬鹿か!! 俺は人を殺すのに躊躇はしない。お前の様に人を斬った後にメソメソもしなかった!! そんな俺が心が弱いだとぉおおおおお!!」


 心……。

 師がいつも言っていた。

 だが、オレ達は人斬りだった。

 当時のオレも師の言っている事が理解できなかった。


 心の意味を知ったのは妻と出会ってからだった。

 その頃からだろうか……オレが人を殺す事に恐怖を持ちだしたのは……。

 そして……トキエにあの言葉を言われて、オレは人を殺せなくなった……。

 だから……冒険者になったし、もう人を殺さないと誓った。


「おしゃべりはここまでだ。あっけないが俺の復讐を終わらせるぜ」


 エンキが剣を振り上げる。

 ここまでか……。

 まぁ、死んでもレティシアがこいつを止めるだろう……。

 実のところ、トキエの事は心配していない……。


 きっと、レティシアが守ってくれる……。

 アイツはエレン以外どうでも良いと思っていると口では良く言うが……、アイツの性根は心優しい……。だからこそ、アイツを信用できる……。


 死ぬのはあまり怖くない。

 今まで散々人を殺してきたんだ……。オレの番なだけだ……。

 例え死んだとしても……妻のいる所へ行くだけだ……。

 さて、昔でも思い出しながら死のうかね……。


(死んだら……殺しますよ)


 おいおい……。

 思い出す最期の言葉がレティシアの言葉かよ……。

 こういう時は、普通は娘であるトキエの言葉だと思うんだがな……。


(ギルガさんが死ねばトキエさんが泣きます。私としては、ギルガさんが死のうとどうでも良いんですが、トキエさんが泣くのは嫌です。だから、死んだら殺します)


 ははは。

 人殺しのオレが死んでトキエが泣く?

 そんな事……。


(お父さん。無事に帰ってきてね)


 トキエ……。

 あぁ、死にたくねぇなぁ……。

 だが、それを望んじゃいけない……、いや望む資格はない……。


(なぜ資格がないの? もし、資格が必要だというのなら戻ればいいじゃない)


 ……え?


(……人斬りをしていた貴方に戻ればいいじゃない。トキエを守ってくれるのなら、()が許すわよ……)


 ……だ、だが……。


(私は貴方に頼んだはずよ。トキエを見守ってと……貴方は生きて……と。それに、あの子(・・・)を見ていて思ったの……。だって、守る為でしょう? 人に守ってもらわずに自分で娘の命くらい守りなさい!!)


 ……!!


≪エンキ視点≫


「ギルガ、あばよ!!」


 これで俺の復讐の一つ目が終わる。

 だが、これで終わりじゃない。

 こいつの娘、こいつが大事にしていたモノ全てを壊さねぇと気が済まねぇ!!


 ん?

 一瞬、こいつの身体が揺らめいた気がする……。

 気のせいか?


 俺の振り下ろした剣が空を切る。


 なに?

 ギルガの奴はどこに消えた?


 俺は強烈な悪寒を背後から感じた。

 な、なんだ!?


 俺が振り向くとそこにはギルガが立っていた。


「て、てめぇ……。今の動きは何だ!?」

「……」

「何とか答えやがれぇえええ!!」


 ギルガは目を閉じている。

 ふざけてんのか?


「じゃあ、すかしたまま死ねやぁああああ!!」


 俺はギルガを斬りに行くが避けられる。

 ふざけんな!

 また【身体超強化】か!!

 喰ってやる。

 俺の【暴食】で喰ってやるよぉおおおお!!


 ギルガは俺の掌から放出した黒い霧に飲まれる。


 喰った。

 お前がどんな力を持っていようと、これでお前の力は俺のモノだ!!


 ……。

 あれ?

 俺に力がみなぎらない?

 なんでだ?


 一瞬、ギルガが動いた気がしたぞ?


 ……え?

 お、俺の左腕はどこだ?


「返すぞ」


 ギルガが俺に何かを投げつける。

 なんだ?

 腕か……?

 まさか……俺の腕!?


 な、なんでだ!?


「せめてもの慈悲だ。苦しまずに殺してやる」

「なに?」


 ギルガがゆっくりと目を開ける。

 光の入っていない冷たい目。

 この目を俺は覚えている……。

 この凍り付くような目。

 あの頃の目……。


「腕を返したのは失敗だったなぁ!!」


 俺は腕を喰い、再生させる。

【暴食】の力はこんなもんじゃねぇぜ!!


 って、え?

 いや、いつの間にギルガの奴俺の懐に入ってたんだ?


「二度と復活できねぇように、殺し尽くしてやるよ」

「な、なに!?」


 ま、不味い。

 ギルガの奴、あの技を使うつもりか!?


「これでお前の復讐もオレの戦いも終わりだ」

「や、やめろぉおおおお!!」



≪ギルガ視点≫


 気持ちに反応する……。


 オレが使える一番速く一番残酷な剣技。

 一瞬で無数に斬りつける技。

 師がオレにできる事なら使うなと言っていた技。


「これで最後だ」


 俺が剣を振った瞬間、エンキはバラバラになる。

 本来であれば体を斬り刻む技だが【身体超強化・鬼刃】のおかげで斬撃の威力が増している。

 いや、力だけじゃない。速さ……鋭さ……。すべてが強化されている。


 まさか……。レティシアの奴、ここまで(・・・・)見越していたのか?

 本当に恐ろしい子供だな……。


「ぎゃは……俺はこんなモノでは死なないぞ!?」


 斬り刻まれて尚、まだ生きているのか?

 七つの大罪【暴食】の力というのは恐ろしくも残酷なものだな。

 それともジゼルに命を与えられているのか?

 どうでもいい。

 

「死んでいないのなら、奥の手を使わせてもらう」

「なに!?」


 オレは【聖剣アーク】の力を解放させる。

 アークの意味は聖櫃。

 魔を封印する力……これで【暴食】を封印する。


「な!? や、止めろぉおおおお」

「今度こそ、お前は終わりだ!!」


 俺がもう一度、さっきの技を使う。

 いや、さっきよりも速く、無数に斬り刻む。

 アークの力を解放させて……。


 今度は斬った瞬間に、エンキの体が塵へと変わっていった。

 どういう事だ……?


 そうか……。

 アークは【暴食】の力だけを封印したのか?

 だから、エンキは……。

 いや、今はいいか……。


「勝てた……」


 俺はその場に倒れ込む。

 すると空間が歪みだし元の世界へと戻っていった。


 レティシアは心配していないが、他の皆は無事か……?

 いや、オレは皆を信じている……。勝っていると……。

補足です。

一章でカンダタがギルガを育てたと言っていますが、人斬りをやめると決めた時点でギルガは弱体化しているので間違いではないです。カンダタはギルガの過去までは知りません。……これで辻褄は合うはず……。


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