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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
2章 レティシア、ファビエ王都で暴れる。

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28話 第三段階


 俺の目の前にいるのは、俺達が駆け出しだった頃に俺達を鍛えてくれた憧れのファビエ王国軍の騎士団長だ。

 惜しむらくは名前を知らない事か……。彼は名前を教えてくれなかった。

 名前を聞いても「老兵の名を覚えるくらいならば、他の事を覚えろ」と口を酸っぱくして言われた。

 

 その頃はこの国はまともだった。

 国民の事を第一に考える国王。犯罪も少ない王都。

 傍から見ても『良い国』だった。


 いつからこの国は腐ってしまった?

 タロウがこの世界に来てからか?

 いや、違う。

 じゃあ、ジゼルが宮廷魔術師になってからか?

 それも違う。

 ネリー姫の祖父である先代の国王が崩御されてからか?

 ……今の国王になってからか……。

 今の国王になってから、税は重くなり、貴族も台頭してきた。


 生前の騎士団長は槍の名手だった。

 ジゼルは騎士団長を強化したと言っていたが、名手になればなるほど、心技体が揃っていないと本来の実力を引き出せやしない。アイツはそれを分かっちゃいない。

 実際、今の騎士団長の槍さばきは生前と比べて見る影もない。こんなモノ目を閉じていても避けられるぞ。

 これでは、あの強かった騎士団長が、ただの身体能力が高いだけの人に成り下がっている。

 ……しかもだ。

 騎士団長はゾンビになっているので、大罪の力も使えないようだ。

 負ける要素など全くない。

 ジゼルは俺達を舐め切っているのか?


 俺は騎士団長の胴を真横に斬りでレティシアに復活してもらった【光魔法】の〈ホーリーランス〉で騎士団長を攻撃する。

 ゾンビや不死系の魔物は【光魔法】に弱い事は、元々【光魔法】を持っていた時に実証済みだ。

 ゾンビなのにこれを喰らって平気だというのなら脅威に感じるが、【ネクロマンシー】で作られるのは、あくまで死霊系の魔物でしかない。


 〈ホーリーランス〉が胸に突き刺さった騎士団長は、苦しむ素振りを見せる事なく塵になった。

 

 サジェスとロブストはどうだ?


 俺が二人を見た時には、サジェスは宰相を炎魔法で焼き尽くした後だった。

 

 まさか、こんなに簡単に終わると思っていなかったようで、二人共消化不良状態みたいだな。


「お、おい。まだ何かあるんだよな?」

「俺に聞くなよ」


 二人共、まだ何かあって欲しいみたいな言い方だぞ?

 ラウレン殿とヘラクさんの二人は俺達の戦いを見て絶句している様だった。

 俺達だって、二週間前まではあんた達と同じ気持ちだったさ……でも、今は呆けている場合じゃない。


「マリテ、城全体に浄化魔法〈ピュフィリ〉を使えるか?」

「ごめん。エレンちゃんなら可能かもしれないけど、私には無理。でも、ネリー様の部屋までなら可能だと思う」


 マリテのこの言葉に驚いていたのは、ラウレン殿だった。


「マリテ、【神聖魔法】はもう消えたんじゃ……」

「消えたんじゃなかった。でも、その力を捨てて、レティシアちゃんに新しく作ってもらった」

「新しく!?」


 驚くのは無理も無いが、今はレティシア達と合流するのが先だ。


「マリテ、急ごう」

「うん」


 マリテは【神聖魔法】の〈ピュフィリ〉を使う。

 この魔法は邪を祓い、魂を浄化させる魔法だ。この魔法のおかげでゾンビと会う事なく城を進む事ができた。




 同時刻、セルカの町。


 俺とリディアは、セルカの町の四方の片隅に魔石を埋めていた。


「おい。リディア、あまりゆっくりはしていられないぞ」

「うん。でも、レティシアちゃんが作り出した魔石は凄いね。邪まな気配が一気に消えたよ」


 確かに、この魔石を埋めた直後から、セルカの町に少しだけあった悪意が綺麗サッパリ消えていた。

 ……だが、町の外には気になる気配を感じていた。


「あぁ、そのおかげで気付きたくないモノにまで気付いちまったけどな」

「え?」


 この気配、間違いなくアイツだろうな。

 そういえば、アイツは「お前だけは殺す」と捨て台詞を吐いていたな。


「リディア、俺は用事がある。お前だけ城に帰ってろ」


 アイツの狙いは俺一人だ。


「それは駄目。ドゥラークさんは一人にすると無茶をするから……」


 しかし……。

 いや、リディアもこの二週間で強くなった。

 それに、こいつは元々高ランクの冒険者だ。

 最近は、レティシアに虐められ過ぎて少しだけ心が弱くなっているが、心配は無いだろう。


「じゃあ、付いて来てもいいが手は出すなよ。アイツ(・・・)の狙いは俺だ」

「……うん」


 さて、決着を付けようぜ……。


 おれたちがセルカの町の外に出ると、武闘家アルジーが立っていた。


「待っていたよ。ジゼル様に強くしてもらったから、戦うね」

「こんな所まで追ってくるとは、本当に暇な奴だな」

「黙るね。お前に受けた屈辱晴らしてやるね」

「そうか……」


 俺はティアマトを取り出す。


「ふざけるんじゃないね。そんな大きな武器を持って私と戦えると思っているね? 舐めていると痛い目を見るね。いや、ここで死ぬんだ……。お前を殺す」


 急に口調が変わった?

 そういえばレティシアが言っていたな。

 大罪に体の主導権を奪われたと。


 そう考えると、哀れだな。


 アルジーは地を蹴って俺に襲い掛かる。

 俺はアルジーの攻撃を避ける。

 避ける。

 避ける。

 

 俺を舐めているのか?


 俺は斧の腹でアルジーを殴り飛ばす。

 今までのアルジー(・・・・・・・・)なら避けると思っていたのだが、避ける事も無く、俺に殴り飛ばされて怒り狂っている。


「ぐがぁあああああ!! 許さんぞぉおおおおお!!」


 怒り?

 これは、【憤怒】か……。

 ケンはこの力を完全(・・)に使いこなしているが、アルジーは使いこなせていないようだ。

 そもそも、使いこなしていたら乗っ取られないだろうからな。


 アルジーは俺に手をかざしてくる。すると、黒い靄のようなモノが俺に襲い掛かる。

 これが大罪の力か?

 遅いし、簡単に避けられるから脅威ではないが大罪の力だからな。何があるか分からない。


 俺は横に避け、一気に詰め寄る。


「なんだと!?」


 驚く事か?

 俺はこの二週間、斧を持った状態で武闘家としての動きができるように特訓してたんだよ。

 それに、俺には他の連中と違う特別製(・・・)の【身体超強化】がある。


 そういや、俺の【身体超強化】について、レティシアと毛玉が面白い事を話していたな。


(アレ? ドゥラークさんの【身体超強化】を再現できませんね。どういう事でしょう?)

(お前、これは再現は無理だろう……。【神の領域】に踏み込んだモノを作り出しちまっている。こんなもんを再現できたら、それこそ神になっちまうぞ)


 くくく……。 

 最初はタロウが脅威だの、ジゼルが脅威だの言っていたが、よくよく考えたらレティシアの方がよっぽど脅威じゃねぇか。


 まぁ、いい。

 俺は目の前のバケモンでも片付けるとしようかね。


 アルジーは馬鹿正直に俺の攻撃を避けずに受けてやがる。ダメージを受けて【憤怒】の力でも溜めているのか?

 それならそれで、さっさと決めた方がよさそうだな。


「悪いが、これ以上遊んでいる暇はなさそうだな。いきなり第二段階で終わらせてもらうぜ」


 この二週間の特訓(地獄)で第二段階までは使いこなせるようになった。だから、すぐに終わらせてやるよ。


「第二段階!!」


 俺の魔力が一気に放出されて、体中に力がみなぎる。

 俺のこの状態に見覚えがあるだろう?

 お前に屈辱を与えた能力だ。


「うがぁああああああ!!」

 

 アルジーは目が赤く染まり、俺に襲いかかってくる。

 しかし、【憤怒】が体を支配しているせいか、以前より動きにキレがなく、弱くなっていた。


 全く、残念な話だ。

 俺はこれでも武闘家アルジー(お前)に憧れてたんだぜ?

 史上最年少で武闘家の頂点に立ったお前を……。

 今のお前は、ただの暴れるだけのガキと変わらねぇ。


 終わらせてやるよ。


 俺はアルジーの腹を狙い斬りかかった。

 アルジーはさっきまでと変わらず避けようともしない。

 これで……終わりだ。


 しかし、俺の斧が腹で止められる。


「なんだと?」


 アルジーを見ると、体中に黒い力が纏わりつき、皮膚を溶かしていた。


「あぁあああああああ!!」

「これはどういう事だ?」

「あぁあああああああ!!」


 アルジーの身体が徐々に崩れていく。

 これが【憤怒】の力か?

 いや、ケンにこんな変化はなかった。そもそも、こんな変化があったら俺達自身がパニックになっていただろうな。


 じゃあ、こいつの変化は一体なんだ?


「あぁあああああああ!!」

「リディア!?」


 リディアは特殊能力を見る事ができる。

 こいつにアルジーを見てもらって……って、そんなに震えてどうした?


「リディア?」

「な、七つ……」

「え?」

「七つ揃っている……」


 七つ揃っている!?

 ま、まさか!?


 俺はアルジーを見る。

 アルジーは化け物になり果てていた。

 黒く溶けた体。目は赤く、禍々しい瘴気を放っている。


「こ、これが魔神?」

「能力は七つだけ……七つの大罪」


「ぎゃがあああああああああ!!」


 魔神が叫ぶ。

 しかし、こいつはすでに死にそうなんだが……。


「ドゥラークさん!!」

「リディア、下がっとけ!!」


 ここで、こいつを倒しておかねぇとセルカの町にどういった影響が出るか分からねぇ。

 俺は一気に攻撃を仕掛ける。

 しかし、刃が通らねぇ。


「チッ、なんて硬さだ!!」


 こっちは第二段階を使っているんだぞ。

 これで、ダメージが通らねぇのかよ。


「がぁああ!!」


 そんな愚鈍な攻撃に当たるかよ。

 アルジーだったころに比べるとはるかに遅い。


 魔神は口を開く。

 なんだ、あの赤い光は……。


 俺は咄嗟に魔神から離れる。

 すると、赤い光は閃光となって大地を薙ぎ払う。

 しかし、セルカの町の外門に当たり霧散した。


 ま、マジかよ……。

 直感だが、あの光を喰らっていたら第二段階といえど死んでいた。

 それを霧散させるってどんな結界を張ってるんだよ……。

 本当に、うちの幼女はやる事が規格外だ……。

 

 しかし、攻撃が効かない事には倒す事はできない。

 ……もって十分か……。


「リディア!! 少し離れて結界を張っておけ!!」

「つ、使うの!?」

「使わんと勝てねぇだろう?」


 現時点の俺の奥の手である第三段階。

 まさか、見た目(・・・)にまで変化が出るとは思わなかったが、強力である事には変わりない。


 あの変化にはレティシアも驚いていたくらいだからな。


「おぉおおおおお!!」


 俺は斧を地面に突き刺し、魔力を限界まで放出させる。

 そして、魔力を一気に静め、一気に開放する。

 その瞬間、ティアマトが緑色の光を放ち始める。

 俺は光に飲まれ……。


「どうもこの姿になると、人間じゃないみたいで困る」


 俺の皮膚には緑色の鱗がつき、角が生え翼も生えている。

 手のひらが大きくなり足首から下もまるでドラゴンだ。


 ドラゴンになりたいとは思っていたが、まさか本当にドラゴンに近い姿になるとは思わなかった……。

 しかし、これが第三段階なんだから仕方が無い。


 魔神も俺の変化に驚いているみたいだ。

 

 へぇ……。

 意思を失っても驚く事はできるんだな。


「時間がないんで、さっさと終わらせてもらうぜ」


 俺は一気に近付き、魔神を殴る。

 この状態になると、ティアマトは俺の体の中にあるみたいで使えないのが難点だ。

 結局は武闘家として戦う必要はあるみたいだ。


「がぁあああああああ!!」

「うるせぇよ!!」


 三段階目の身体能力の強化倍率は八倍。

 単純に二段階目の二倍だ。当然体の負担は大きい。

 まさかと思うが、ティアマトが体を変化させて負担を軽減しているのか?


 ははは。

 三段階目でこれという事は。四段階目は俺自身がドラゴンになりそうだな。

 まぁ、それでも守れるなら……それでいい。


「おらぁあああ!!」

「ぎゃあああああ!!」


 魔神は俺の攻撃でどんどん塵になってきている。

 もうすぐだ。

 時間がない。


 魔力を拳に全て集めて……。


「あばよ。憧れの武闘家さんよ」


 一気に魔神に振り抜く。

 魔神は頭を潰されて一気に塵になった。


「た、倒した……」

「時間だ」


 俺の身体が元に戻り、全身に激痛が走る。

 しかし、レティシアの特訓のおかげで倒れはしない。

 それだけが救いだな。


 俺がその場に座ろうとした時、黒い力が俺を襲う。

 し、しまった。これは避けれん。


 その時リディアが俺の前に出る。


「リディア!?」

「今度は守って見せる。【博愛・慈愛・反属性の浄化】!!」


 七つの美徳か!?

 こいつ、そんなモノを得ていたのか?


 黒い力はリディアの能力で綺麗サッパリ消えちまった。


「なんだ。結局助けられちまったな」

「仲間なんだから当然よ」


 よろける俺に、リディアは肩を貸してくれる。

 俺達はアルジーの事を伝えるためにネリー姫の部屋へと戻った。

 

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