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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
2章 レティシア、ファビエ王都で暴れる。

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27話 殺された国


 レティシアから二週間みっちり鍛えて貰った俺達は、今日は訓練を休みにして、ずっと来ようと思っていた教会へと足を運んだ。

 マリテの父親であり、教会の大司教であるラウレン殿に会う為だ。

 マリテとラウレン殿は、この世でたった二人の親子なのに、あの日以来、会う事は無かった。いや、会えなかった……。


 アレは何が悪く、誰の責任なのだろうか……。

 タロウがすべて悪いのは理解はできる。だが、アレも与えられた(・・・・・)だけとも言える。


 じゃあ、教会がマリテを連れて行ったのだから、教会が悪いのか? 教会の権力者であるラウレン殿が悪いのか?


 いや、それは違う。

 

 決してラウレン殿が悪いわけじゃない。大司教という立場もあるし、立場が上とはいえ下の者の意見を無視する事もできなかっただろう。

 それでも、マリテはたった一人の娘だ。

 誰よりも大きな声でタロウの所業を叫び、タロウの前に嫁入り前の女性を連れて行く事の危険性を示唆していた。だが、ラウレン殿の声は届かずマリテを守れなかった。


 しかし、守れなかったのは俺達三人も同じだ。

 マリテと俺達幼馴染の三人、俺とマリテは恋仲だったけど、他二人も昔からマリテの事を妹のようにかわいがっていた。

 マリテを守れなかった俺達が、たった一人で教会という巨大な組織に立ち向かったラウレン殿に偉そうな事は言えない。

 あの日……、マリテを助けられなかった事への後悔、それに怒り……。

 この感情を持っているのはきっと俺達だけじゃない。ラウレン殿も一緒のはずだ。

 いや、ラウレン殿の方が怒りは大きかっただろう。だから、エレンを守ろうとしたと聞いた。


 俺達は教会へと足を進める。

 一応、国王派の騎士に見つかるわけにはいかないので裏通りを進んでいるが、今日は何かがおかしい。

 裏通りとはいえ、少なからず人の姿があるはずだ。

 しかし、今日は全く人と会わない。

 俺達は裏口側の入り口から教会に入り、さらに絶句する。

 

 聖堂に人がいない……。

 こんな事があり得るのか?


「アレス……。いくら何でも聖堂に人がいないのはおかしい。何かあったのかもしれない」

「あぁ。確かに城から教会(ここ)に来るのに裏通りを通って来た。元々人が少ない裏通りだ。人がいない日もあるだろう……。だが、教会の聖堂に誰もいないのはおかし過ぎる」

「お父さんなら何か知っているのかな……」

「わからん、ラウレン殿は大司教だ。何かを知っているかもしれんな」


 ただ、ラウレン殿もいなくなっている可能性がある。確証も無いのにマリテにこれは言わない方が良いな。

 俺達は人のいない聖堂を進み、大司教がいる部屋の扉を開ける。

 

 頼む……。

 マリテの悲しむ顔は見たくない……。

 その願いが通じたのか、ラウレン殿は机に向かい書類整理をしていた様で、突然入って来た俺達に驚いていた。


「ノックもせずに……って、アレス君か? それにサジェスにロブスト……。ま、マリテは!?」

「お久しぶりです。ラウレン殿」


 マリテは俺の後ろに隠れていた。


「マリテ……」

「……うん」


 マリテは少し複雑な顔だけど、どこか嬉しそうな悲しそうな、そんな顔をしていた。

 そして、少し出にくそうに俺の後ろから出てくる。


「ま、マリテ……」


 ラウレン殿の顔が困惑した顔になる。

 それはそうだろう。

 ラウレン殿は確かに娘を守ろうとした。でも、ラウレン殿は教会の大司教で、マリテを無理矢理タロウに引き合わせたのは教会……。

 あの悲劇は教会が引き起こしたと言ってもおかしくはない。


「マリテ、こんな愚かな父を許してくれとは言わない。だが、お前の元気な姿を見れただけでも私は嬉しい」

「お父さん!!」


 マリテはラウレン殿に駆け寄り抱きつく。

 今まで、会いたくても会いに来れなかった。

 マリテにとっても教会は恐ろしい所になってしまっていた。

 ラウレン殿からしても教会の大司教だ。教会を信じられなくても信徒に罪はない。だからこそ、職務を放棄できなかったのだろう。

「父は私をタロウに会わせまいと最後まで抵抗してくれていた」……とマリテは言っていた。

 だから、マリテはラウレン殿を許していないわけでも、恨んでいるわけでもないんだ。


「マリテ!!」

「お父さん!!」


 ラウレン殿は涙を流してマリテを抱きしめている。


 親子の感動の再会を邪魔したくはないが、俺も聞かなければいけない事がある。


「マリテ……」

「う、うん」


 俺がマリテを呼ぶと、ラウレン殿と離れ俺を見て頷く。


「邪魔をして済まない。ラウレン殿、聞きたいのだが、今日は特別な式典でもあるのか?」

「特別な式典? 特に聞いてもいないが、なぜそのような事を?」

「聖堂には誰もいなかったから、何か特別な式典があると思ったんだ」

「聖堂に誰もいない? そんな馬鹿な!?」


 ラウレン殿は急いで部屋を出て、驚愕している。


「どういう事だ? なぜ、誰もいない? 常駐の僧兵すらいないとは……どういう事だ?」

「ここに来るまでもおかしかった。町の住民と誰にも会わなかったんだ」

「教会の前でもか?」

「あぁ。誰もいなかった」


 よく考えれば、教会の前に誰もいないのはおかしい。普段は僧兵と呼ばれる教会専属の兵士が教会を守っているはずだ。それにファビエの教会はそれなりの大きさだ。信徒が一人もいないというのがおかしいんだ。

 その時、教会の扉が勢いよく開いた。


「ラウレン!! ラウレンは生きて(・・・)いるか!?」


 アレは確か……ファビエ王都の冒険者ギルド、ギルドマスターのヘラクさん……。なぜ教会に?

 しかも、生きているかってどういう意味だ?


「ヘラクさん、そんなに慌ててどうしましたか?」

「町が……町の住民が……」


 俺は落ち着かないヘラクさんに水を渡す。

 ヘラクさんは水を受け取り一気に飲む。そこで、俺に気付いたようだ。


「お、お前はアレス!? どうしてこの町に!?」

「そんな事よりも町がどうなったんだ?」

「そうだ! 町の住民の殆どがゾンビになってしまったんだ!!」

「な、なんだと?」


 町の人間が?

 なぜ、そんな事に?

 ヘラクさんの話を聞いてサジェスの顔が青褪める。


「ま、まさか、【ネクロマンシー】か!!?」


【ネクロマンシー】……あの禁止魔法か!?

 一歩間違えれば国が滅びる禁断の魔法……。


「お、おい。俺にもわかるように話してくれ」


 ロブストは魔法の事は詳しくないからな、知らなくても無理はない。魔法に詳しいラウレン殿とマリテも顔を青褪めさせている。


「あぁ。【ネクロマンシー】は死者を死霊系の魔物に変える魔法だ。一度この魔法が発動されるともう戻す事は不可能になる。一人の死者がいればネズミ算式に増えていき、そして国を滅ぼす。だから、国家間で使用を禁止されているんだ。そんな魔法を使うなんて……」

「ちょっと待て、死者を死霊系に変えるという事は、町の住民を短時間で殺したというのか? いつの間に……」


 ヘラクさんはこの事に少し心当たりがあるようだった。


「確か……。ゾンビになる前にギルドの職員がわし以外の全員倒れたんだ。近くにいた者を介抱しようとしたら、息が無かった。あの時点で死んでいたんだ」


 今の話を聞いて、ラウレン殿には思い当たる事があるらしく、顔を青褪めさせた。


「ラウレン殿?」

「アレス君達はエレン嬢を知っているか?」

「はい。今、城にいて、俺達はレティシアに連れてこられました」

「じゃあ、エレン嬢の力の源であるけだまんには会ったか?」


 けだまん?

 あぁ、あの毛玉か。

 もう、エレンですらけだまんって呼んでないんじゃないのか?


「知っています」

「そうか……なら話してもいいだろう。私はけだまんから七つの大罪の事を聞いた後、過去の文献を読み漁っていたんだ。そしたら、七つの大罪の事が書かれている文献を見つけた。その文献で七つの大罪の一つ【強欲】が使われ、国一つが滅びたという伝承が書かれていた」

「【強欲】!? タロウが持っているアレか!?」

「アレス君達も【強欲】の事を知っていたか。【強欲】の力は凄まじく、数千数万の命を一気に奪う事も可能と書かれていた……」

「な!?」


 それって、レティシアが言っていた魂を奪う力か!?

 それだけ大規模な事ができるのなら、町の住人が殺されたのも理解できる。


「どちらにしても、この国はもう終わりだ。どこかに避難するぞ」

「どこへだ!?」


 ラウレン殿とヘラクさんがどう逃げるかを話し合っていた。

 こんな所で問答している場合じゃない。


「お城へ行きましょう。お城ならばレティシアちゃんが作り出した空間があります。幸いにも教会からお城は近いです」

「そうだな。城に帰った方が安全だろう。最悪はセルカの町に逃げればいい」

「どうして、そこでセルカの町の事が出てくるんだ?」

「それは後で説明する」


 アイツ等が町の人間を殺した方法は判明した。

 しかし、俺達を含め、どうしてラウレン殿とヘラクさんは生きていたんだ?

 まさか、レティシアがこの状況を推測していて、何かの小細工をしていたのか?

 だとしたら……。

 俺は教会から出て【生体感知】という魔法を使う。

 これは生きているモノに反応して居場所を教えてくれる。当然だが、死んでいるモノには反応しない。

 この魔法で町を探査する。

 ……う、嘘だろ?


「アレス?」

「生き残りが……一人も……いない」

「え!?」


 そ、そんな馬鹿な。この町で生き残っているのは俺達だけだと?

 やはり、レティシアが何かをしていたとみて間違いないだろう。


「あぁあああああ!!」


 教会前にもゾンビ達が迫っていた。

 外傷なく死んでいるから、綺麗な姿のままだ……。


「城まで走るぞ!!」


 俺はマリテの手を引き城へ走り出す。

 俺に続いてサジェス達も走り出す。


 く、クソっ。

 どうしてこんな事に!?


 俺達は、裏通りを使って城へと移動したので、幸いゾンビに会う事は無かった。

 城の大門が見えた時、俺は立ち止まる。

 急に止まった俺にサジェスがぶつかった。


「急に立ち止まって、どうした!?」

「あ、あそこに立っているのは……」


 俺は二人をジッと見る。


 ……ま、マジかよ……。


 アレは、ファビエ王国軍最強と名高い騎士団長と宰相だ。

 二人はネリー姫派として国王派の情報を流していた。俺達の仲間だった人達だ。

 まさか……あの二人まで……。

 その時、一人の女が現れた。

 忘れたくても忘れられない……。


「じ、ジゼル……」

「やぁ、久しぶりだね。勇者アレス」

「何が勇者アレスだ。俺から勇者の力を奪った奴が白々しい」

「ん? あぁ、気付いたんだね。いや、真実に辿り着いたのは【忌み子】ちゃんかな? まぁ、いいや。確かに君から【身体超強化】と【光魔法】を奪ったのは私だよ。【強欲】は本来私の能力だからね」

「な!!?」


 レティシアの読みが当たっていたのか。


「まぁ、その事もいいや。それよりも……」

「なんだ?」

「君達にはここで死んでもらう。そして、【忌み子】ちゃんが作り出した能力を奪わせてもらうよ」


 こいつの狙いは、レティシアが作り出した力……つまり、こいつは【神殺し】じゃない。

 俺達は聖剣を取り出し構える。


「あはは。その聖剣も欲しいねぇ」

「渡すかよ」


 今までの俺達と思うなよ。


「ははは。やる気になっているようだね。本当は私が君達の相手をしたいんだけど、私は忙しいからね。君達の相手は彼等にしてもらうよ」


 彼等?

 騎士団長と宰相か?

 騎士団長は確かに強かった。

 だが、それは俺達の特訓前の話だ。今なら、負ける事は無い。


「あ、言い忘れてたけど、彼は少しばかり【傲慢】を使って強化してある。今までのゾンビ……いや、今までの騎士団長と思わない方が良いよ。宰相も強化したんだ。彼には【憤怒】を埋め込んである。彼は私達(・・)に強い怨みと怒りを持っていたからね。是非楽しんでくれよ」

「ま、待て!!?」

「なんだい? 私は忙しいと言ったんだけど」

「お前の目的はなんだ。町の人を皆殺しにしてなにを企む?」

「皆殺し? 馬鹿言っちゃいけない。私は町の人達をこの町に住む資格のある新人類(・・・)に変えてあげたんだよ? ゾンビという新人類にね」

「な!!?」

「そうだね。死にゆくモノに教えておいてあげるよ。私の真の目的は、私による私の為の研究所代わりの国を作る事だよ。今までは、研究所に籠って実験をしていても、いつも誰かに邪魔をされていた。国というモノを持っておけば邪魔はされないだろう? でも、国民がいれば邪魔をするかもしれない。だから住民には、モノを言わないゾンビになってもらったんだよ?」


 ……な!?


「お、お前、狂っているのか!?」

「最高の誉め言葉だね。じゃあね。君達が死んだらちゃんと再利用してあげるからね」

「待て!?」


 ジゼルはそのまま消えていき、騎士団長が前に出てくる。


「サジェス、ロブスト、宰相を任せていいか?」

「あぁ。かなり強化されているみたいだから、気を付けろよ。俺達の勇者様」

「茶化すなよ」


 俺は聖剣エクスカリバーを握る。

 もう助からないのなら、騎士団長達を眠らせてやるんだ。

 

「行くぞ!!」

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