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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
2章 レティシア、ファビエ王都で暴れる。

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26話 死霊系の城

誤字報告いつもありがとうございます。


 ネリー姫が国王の所に行ってから二時間が経った。

 ネリー姫一人なら心配もするが、オレ達が束になっても敵わなかったレティシアもいるし、結界魔法という守る力を新たに得たエレンもいる。それに、最悪カチュアも戦える。しかし、タロウが戻っている可能性がある以上、安心はできない。


 俺はタロウと面識が無いから、あまり脅威には感じないが、レティシアが最も厄介と言っていた研究者(・・・)としてのジゼルの()は聞いた事がある。

 自身の研究の為なら、平気で人の命を奪う。

 見た目は二十代だが、数百年生きている魔女……。他にも噂が絶えない謎の宮廷魔導士。

 すべて眉唾物だと思っていたが、レティシアから聞いたジゼルの性格というモノを考えれば、噂に真実味が出てくる。


 レティシアがここは安全だと言っていたが、警戒だけはしておいた方が良いだろう。どうもさっきから嫌な予感がして仕方が無い。


「ギルガさん。どうかしたか?」


 一人で考え込んでいたオレの様子を見たレッグが、気になったのか声をかけてきた。


「レティシア達が国王の部屋に行って二時間経つ。アイツに何かあるとは思えないが、心配になってきてな」


 オレがそう言うと、レッグは呆れた顔になる。


「この二週間、本気になった俺達全員を相手に、涼しい顔で圧勝したレティシアを国王程度がどうこうできると思うか? いや、俺は魔神が現れたとしてもレティシアが負けるとは思えないんだよ」


 それはオレも同じ気持ちなのだが、どうも嫌な予感がする。


「そういえば、ドゥラーク達はまだ帰ってきていないのか?」

「あぁ。ドゥラークとリディアちゃんはセルカの町に、アレス達はファビエ王都に買い物に出ている。リディアちゃんには俺達の中で一番強いドゥラークが、マリテには二番目に強いアレスがついているから大丈夫だろう」

「そうなのだがな……」


 オレ達が模擬戦を開始しようとした時、ケンが訓練部屋、通称【地獄部屋】に入って来た。


「どうした?」

「ネリー姫がいないのに、兵士がノックしてきている。ここでおかしいのが、俺達側の兵士ならば一定のリズムでノックをするはずだ。でも、今は乱雑に叩かれている」

「なに?」

「という事は、ノックをしているのは兵士じゃないのか?」

「分からん。レティシア達ならノックをせずに入ってくるはずだ。どうする?」


 オレ達はネリー姫の部屋へと移動してきた。

 扉は相変わらず乱雑にノックされていた。


「明らかにおかしいな」

「いっその事、出てみるか?」

「そうだな。ケン、警戒しろよ」

「あぁ」


 オレとレッグは剣を構える。

 ケンも普段は収納空間にいれている魔剣を腰に差した。


「今出る」とケンが返事をするとノックが止んだ。

 こちらの言葉に反応はできているようだ。


 ケンがそっと扉を開けると勢いよく扉が開けられ、扉を守っていた兵士が突然襲って来た。


「おい。何の真似だ?」

「ぐぅう、う、う、う」


 ケンは兵士を取り押さえるが、奥にはネリー姫派の兵士が集まってきて、扉を破壊しようとしていた。


 どういう事だ? 操られているのか?

 レティシアのペンダントが効果が無かった?

 いや、アレは七つの大罪【色欲】をも防いだんだぞ。

 あの時は、リディアの中に【色欲】を実験的に作り、【誘惑】の実験をしたんだ……まさかと思うが、リディアに魅力が無かったのか!?

 い、いや……今は冗談はやめておこう。

 

 オレは兵士をじっくりと観察する。

 そして目に気付く……。

 あの兵士の目はまさか!?


「ケン!! そいつをこっちに寄越せ!!」

「あ? あぁ!!」


 ケンは兵士の軌道をずらしオレの下へと駆けて来るように仕向ける。オレはその兵士を斬る。


「何をしてるんだ、ギルガ!!」


 ケンがオレの行動に驚くが、こればかりは確かめなければいけない。

 レティシアが作ったペンダントがあるのに操られているとは考えにくい。それに、あの目は操られているんじゃなく死んだ人間(・・・・・)の目だ!!


 兵士はオレに斬られたのに、血も出ずに倒れもしない。

 これにレッグが驚く。


「【身体強化】か!?」

「違う!! これは死霊系の魔物にされている!?」

「なんだと!?」


 おそらくだが、こいつ等には【ネクロマンシー】の魔法が掛けられている。

【ネクロマンシー】は国家間でも使用が禁止されている魔法だ。死霊系の魔物のリッチが使ってくる事もあるが、アイツ等は基本自分の縄張りから出る事は無いから、そこまでの被害はない。

 ただ、これが人為的に引き起こされた場合は話が別だ。その昔、狂った魔導士が【ネクロマンシー】を使ったらしい。そのせいで国が一つなくなったと聞いた事がある。


「まさか……、【ネクロマンシー】か。ジゼルのような狂った魔導士ならば使うだろうな……」


 レッグもオレと同意見のようだ。


「ケン、容赦はするな!! こいつ等はもう人間でなく魔物だ!!」

「チッ!! なんて事をしやがる!!」


 ケンも魔剣を抜き、兵士達を斬り始める。

 しかし、何度斬られても斬られても兵士は立ち上がる。


「足を斬れ!! こいつ等は死霊系の最下級のゾンビだ!! ゾンビは足が無くなれば動けなくなる!!」


 死霊系の魔物も色々いて、ゾンビの場合は思考回路が単純で、足を失い、歩けないと分かればその場に留まる。

 グールの場合は這ってでも襲おうとしてくるが、それでもそこまでは脅威ではない。


 オレ達は、ネリー姫の部屋から、ゾンビ化した兵士を放り出して扉を閉める。


「さて、城がこんな状態じゃ、ネリー姫の事が心配だな。俺は国王の間へと行く。ギルガさんとケンはこの場に残ってくれ」

「いや、オレも行こう。レティシアがいるから大丈夫だと思うが、エレンとカチュアが心配だ。ケン、お前はセルカから帰ってくるドゥラーク達を部屋で待っていてくれ。オレとレッグでネリー姫の所へ行く。後、ドゥラーク達はノックをせずに部屋に入ってくるから、扉がノックをされても無視しとけ」

「あぁ。でもドゥラーク達なら、ゾンビくらいは大丈夫じゃないのか?」

「ドゥラークは大丈夫だ。アイツは頼りになる男だからな。問題はリディアだ。あの子はレティシアにおもちゃにされ過ぎて、心が弱くなっちまってる。何も知らずにノックに反応して外に出た時に確実にパニックになる。……間違いない」

「……確かにな」


 ケンも納得してくれて、オレとレッグは扉を開け一気に駆け抜ける。


「ケン。後は頼むぞ!!」

「お前等こそ、気を付けろよ!!」

 

 ケンは俺達が出た後すぐに扉を閉める。

 俺達は廊下にあふれる兵士ゾンビを斬りつけながら先に進む。しかし、兵士ゾンビも俺達を追いかけてくる。

 廊下の先にも、兵士ゾンビがわらわらと現れる。


「どうする? 死霊系の魔物は僧侶や神官でないと倒せない。俺もギルガさんもどちらかといえば脳筋だ。このまま国王の部屋まで行くのは至難の業だぞ?」


 脳筋というのは少し反論したいが、レッグの言う事は尤もだ。

 俺達は身体強化の魔法は使えるが、魔導士が使うような魔法は使えない。

 しかし……。

 俺が手にしているのは、レティシアの作った聖剣(・・)だ。

 この聖剣には魔を祓う力はないのか?

 ドゥラークの様に信じた力がドラゴンならともかく、俺が望んだのは、守る力。伝説にある魔を封じる聖櫃のような力だ。魔を封じるのならば魔を祓う事も可能だろう?

 俺は聖剣に念じる。


 力を貸してくれ。魔を祓う力を。


「どちらにしても、ここでジッとしていても仕方が無い。オレ達が持つのは幸いにも聖剣だ。もしかしたら死霊系に有効かもしれん。無理やりにでも進むぞ!!」

「あ、あぁ」


 オレ達は、ゾンビ化した兵士の足を斬っていく。魔を祓うとまではいかないが、それでも斬れ味が上がっている気がする。それに、足を斬らなくても、どこを斬ってもゾンビ達が一時的に動かなくなる。


「好都合だ。レッグ走るぞ!!」

「あぁ!!」


 オレ達は一気に国王の部屋へと向かう。

 国王の部屋に近付くにつれ、ネリー姫派の兵士だけではなく国王派の騎士もゾンビとしてオレ達の前に立ちはだかる。


 どういう事だ?

【ネクロマンシー】を使ったのはジゼルだろう?

 奴は国王派のはずなのに、仲間である国王派の騎士まで殺してゾンビ化するとは……何を考えている?


 オレ達は騎士ゾンビを払いのけ、国王の部屋に入る。

 部屋の中には、多数の騎士の死体と酷い火傷を負ったカチュアを治すエレンが見えた。

 レティシアとネリー姫は?


「エレン!!」

「ギルガさん。来ちゃダメ。今、カチュアさんの服を脱がせて魔法をかけているから部屋を出て!!」


 ……え?

 あ、はい。


 オレ達は素直に外に出てしまい、騎士ゾンビ達を相手する。

 できれば早めに切り上げて欲しいなぁ……。


 十分くらい経っても、オレ達はゾンビを相手に剣を振るっていた。

 まだか? ……そろそろ疲れてきたんだが。

 そう思った時、扉が少しだけ開く。


「入っていいですよ」


 レティシアがひょこっと顔を出す。そして、騎士達を見て「何をしているのですか?」と呆れた顔をしてくる。


 い、いや……。

 オレ達も結構頑張ったんだぞ?


 レティシアは襲ってくる騎士達を冷たい目で見ている。

 そして、突然、聖剣【ヒカリ】が燃え始める。


「鬱陶しいです。私に剣を向けた時点で貴方達には普通の死では生ぬるい。【堅固・勇気・煉獄】……燃え尽きなさい」


 レティシアが振るった剣で、国王の部屋の前にいた全ての騎士ゾンビが燃え尽きる。

 やはり、こいつに慈悲という言葉はないみたいだ。


不死系の魔物(・・・・・・)はこうやって殺せばいいんですよ。さぁ、入ってください」

「あ、あぁ……」


 こいつ、気付いていたのか……。

 そうだとしても……オレ達は七つの美徳は使えねぇよ。

 使えたとしても、お前みたいにノーリスクでは使えねぇよ。


 部屋に入ると、治療の終わったカチュアが寝かされていた。

 さっきの火傷を考えると、美徳を使ったのか?

 レティシアが使った【堅固・勇気・煉獄】とは違うが、カチュアも美徳の一つ【堅固・勇気・不死鳥】を使える。美徳は強力な能力だが、それ相応のリスクがある。完璧に使いこなしているレティシアとは違い、カチュアが使うと自分の身をも焼いてしまう。

 そんなモノを使わなければいけない相手と戦ったのか!?


「レティシア、これはどういう事だ?」

「カチュアさんがソレーヌを倒しました」

「なに!?」


 カチュアがソレーヌを!?

 レティシアの話ではソレーヌは七つの大罪の【嫉妬】を持っていたはずだ。

 カチュアはたった二週間で大罪を持つ剣姫を超えたというのか?

 レティシアの特訓(地獄)は確かに凄まじかった。オレ達もだいぶ強くなった。

 それでもだ……。

 ここまで急激に強くなれるモノなのか?


「それで、どうしてここに?」

「いや、この城のオレ達以外の人間がゾンビになっていてな。お前達が心配でここに来た」

「そうですか。こちらは大丈夫ですが、ドゥラークさん達は無事なのでしょうか?」

「ドゥラークはセルカの町だ。アイツは問題ない」

「そうですね。セルカの町は拠点のある町なのでジゼルの干渉が無いように小細工(・・・)していますし、問題ありません。アレスさん達は?」

「アレス達は城下町の教会に行っている。アレスなら心配ないと思うが……」

「そうですね。アレスさんは実力だけなら、ドゥラークさんよりも強くなっていますが、ドゥラークさんほどの覚悟があるかどうか……」

「覚悟?」

「はい。ドゥラークさんは守る為なら元人間であっても斬ります。あの人はその優先順位をちゃんと理解しています。しかし、アレスさんは……」

「アレスの傍にはマリテがいる。マリテは神聖魔法が使えるから大丈夫だろう」

「……そうですね」


 しかし、【ネクロマンシー】を使い死霊系の魔物にするには、一度殺す必要がある。どうやって城中の兵士と騎士を殺したんだ?

 というか、いつ殺したんだ?

 少なくとも、ネリー姫が国王に呼び出された時までは正常だったはずだ。

 ……謎が残るが、今はタロウ達だ。


「国王の方はどうなったんだ?」

「はい。国王がソレーヌに殺され、ジゼルに死体を持っていかれました」

「なに!? ネリーは!? ね、ネリー姫は無事なのか!?」


 レッグが焦って部屋に入る。

 部屋ではエレンとネリー姫がカチュアを介抱していた。

 部屋に入り、ネリー姫の無事を確認してレッグはホッとしている様だ。

 ……しかし……。


「カチュアは火傷を負っていたな。美徳を使ったのか?」

「はい」

「お前らしくもないな。彼女を戦わせるなんて」

「……そうですね。でも、カチュアさんは自主的に戦って、ものすごく頑張りました」


 レティシアは、少しだけ悔しそうに、でもとても嬉しそうな顔をしていた。

 おそらくだが、カチュアがレティシアのために戦いたいと言ったんだろうな。

 こいつは守る側だったから、守られる側に初めて立って、守ろうとしてくれたのが自分の大好きな人間だったのが嬉しかったんだろうな。

 俺はレティシアの頭を撫でる。


「なんですか?」

「いや……。良かったな」

「……はい」

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