18話 姫様の依頼
誤字報告いつもありがとうございます。
タロウと戦いを終え、セルカの町に帰ってきたのですが、わずか三日で再びファビエ城に戻って来るとは思いもしませんでした。
今回このお城に来ているのは、私とエレンだけです。
ギルガさんも一緒に来ようとしていたのですが、ギルガさん、ドゥラークさん、リディアさんは別の依頼が被ってしまっていたので、そちらを片付けてから合流になっています。
「ギルガさんも一緒じゃなくて良かったのかなぁ。ギルガさんがパーティリーダーなんだし……」
「ギルガさんはあちらの仕事を先にこなしてもらった方が良いでしょう。私達はセルカの町を拠点にしているのですから」
「う、うん。そうだね」
「不安ですか?」
「レティが一緒なら大丈夫だよ」
「そう言ってもらえると安心です」
私とエレンはお城の中へと入っていきます。
見張りの兵士達が下衆な目でエレンを見ていますね。殺しましょうか?
「レティ、殺しちゃダメだよ」
「ダメですか?」
「うん。私達は今からネリー様の所に行くんだから、問題を起こすのは不味いよ」
「分かりました」
気に入らないですが、エレンの言う事は聞きましょう。
暫く歩いていると、前から貴族のような無駄に豪華な服を着たおっさんが歩いてきます。
嫌な予感がしますね。
おっさんは私達を見つけると、手招きをしています。
……無視で良いでしょう。
「おい、わしが来いと言ったら大人しく来んか!!」
「うるさいですねぇ……何か御用ですか?」
「お前のような子供に用は無い。おい、お前。なかなか美人だな。わしが可愛がってやるからわしについてこい」
「え? 嫌です」
「キサマに拒否権はない!!」
おっさんはエレンの腕を掴もうとしますが、私はその腕の骨を一瞬で砕きます。
「ひ……え?」
声をあげられると面倒ですね。
目撃者は……あの兵士一人ですか。
なら問題はありません。
私はおっさんの喉元にナイフを刺します。
「ぐ……げ……」
おっさんはその場に倒れかけましたが、私は炎魔法で焼き尽くします。
あとは兵士の口封じですね。
「レティ……殺しちゃダメだって言ったのに」
「ごめんなさい。エレンに手を出したのでムカつきました」
「助けてくれてありがとう。あの兵士さんは殺しちゃダメだよ」
エレンは兵士を指差します。
指差された兵士は、顔を真っ青にしてその場にへたり込みます。
「エレンは優しいですね。分かりました。殺さないでおきます」
私は兵士の下へと歩いて行きます。
分かりやすく殺気を放ちながらです。
「ひぃ!!」
「貴方もさっきのおっさんの様になりたくないでしょう?」
私はナイフを取り出し脅します。
「は、はい」
「じゃ、今見た事は忘れてくださいね。ついでに貴方に話を聞きます。お姫様の部屋はどちらですか? 仕事の依頼を受けたのですが」
「あ、あんた達はネリー様に用事があるのか?」
「そうですよ。もしかして、今殺したおっさんはお姫様の味方でしたか?」
あんなゴミ屑のような人を仲間にしているのならガッカリです。
そう思っていたのですが、どうやら違うみたいです。
「アレは国王派の貴族だ。しかし、殺してしまったのは不味い」
「何がですか?」
「国王派とはいえ貴族なんだ……許されるわ……け……」
私は兵士の首を掴みます。
「何を言っているんですか?」
「え?」
「貴方は何も見ていないし、知らないでしょう?」
私は片手に炎を出します。
「ひ、ひぃ!! お、俺は何も見ていない」
「はい。それでいいのです」
私はお姫様の部屋の場所を教えて貰い、そこへと歩き出します。
なぜ、依頼人の部屋に行くのにこんなに苦労しなきゃいけないんですかね。
「レティ、少し機嫌が悪いね」
「はい。実は直接転移できたのですが、ギルガさんに城内を歩いて行けと言われたので仕方なく歩いています。けれど、問題が起こり過ぎです。気に入りません」
「え? 直接転移できるの?」
「はい。この部屋でタロウと戦いましたから」
「そうなの!?」
タロウに襲われたというのに、この部屋に留まっていいんでしょうかね?
まぁ、どうでも良いんですけど。
私はお姫様の部屋の扉を開けます。
中には四人立っていました。
「お久しぶりです。と言っても三日ですが」
「そうね。依頼を受けてくれて助かったわ。改めて自己紹介をするわね」
お姫様はその場に立ちそれぞれの紹介をしてくれました。
姫様とレッグさんは知っているからいいとして、初老のおじさんは宰相さんで、もう一人は姫様専属のメイドさんのカチュアさんというそうです。
私はカチュアさんを見ます。
この人……鍛えればギルガさんやドゥラークさん以上に強くなると思います。
なんとなくそう思うのです……。
私達は自己紹介を終え、依頼内容の事を話し合います。
「【王を倒し、国を立て直すのに協力して欲しい】とありますが、王を殺せばいいのですか?」
王を殺せばいいだけなら楽な仕事です。
まぁ、国王を殺すという事は国を殺すようなモノですから簡単ではないと思いますが……。
「それは駄目よ」
「やはり父親だから躊躇っているのですか?」
姫様は国王の娘でしょうから、殺すのを躊躇うのは当たり前かもしれません。
私は親を殺されていますので、自分で親を殺すという感覚はあまり理解できませんが……。
「そうじゃないわ。王を倒すのにも理由がいる、今はその準備を進めているの。そして、その準備もそろそろ終わる」
「そうなのですか? なら、どうして私達を?」
「そうね……」
姫様の話では、クーデターを起こすにしてもできるだけ命を散らしたくないとの事でした。
甘いとは思いますが、エレンと同じで優しい方なんでしょう。
という事は何をすればいいのですかね。
「貴女達には、城の兵士をサポートして欲しいの。私の私兵だけど……」
「なるほど……鍛えろという事ですね」
「え?」
「分かりました。一週間で仕上げてみましょう」
「えぇ!?」
「勿論レッグさんと……カチュアさんもです」
私の言葉に驚いているのはレッグさんだけじゃなくカチュアさんもです。
カチュアさんはまさか自分の名前が出てくるとは思わなかったのでしょう。
その日の夜はお城に一室を借りて休む事になりました。
「珍しいね。レティが自分から人に関わろうとするなんて」
「はて?」
エレンは少しだけ膨れています。
カチュアさんの事ですね。
「そうですね。なぜかは分かりませんけど、彼女の事を放っておけないのです。でも、私はエレン一筋ですよ」
「え? う、うん。ありがとう。私もレティが大好きだよ」
そう言ってエレンは頬を染めます。
その時、悲鳴が聞こえてきました。
この声はカチュアさんですか!?
「エレン!!」
「うん。行こう!!」
私達は部屋を飛び出します。
そして姫様の部屋の近くにカチュアさんが座り込んでいました。
「エレン、カチュアさんをお願いします」
「分かった。気を付けてね」
「はい」
私が廊下を曲がるとそこには血まみれの兵士の頭を掴んだ露出狂が立っていました。
「そうですか……あのジゼルという女が生き返らせたのですね」
血に濡れた剣、血に染まった体……。
露出狂は虚ろな目で私を見て口角を釣り上げて嗤います。
「やぁ……また会いましたわねぇ?」
「私は会いたくなかったのですが?」
「うふふふふふふふふ」
私を見るその目は狂気に染まっていました。
〈補足〉今回レティシアのネリーの呼び方に「お姫様」と「姫様」の二種類がありますがわざとです。
自己紹介を終えて、知った顔になったので変えたという事です。
レティシアはネリーやカチュアを見て優しい気持ちになっていますが、前作が前世という事ではありませんので直感と思ってください。




