15話 絶対回避
誤字報告いつもありがとうございます。
勇者じゃないし、【不老不死】でもない。
私が言った言葉には何の確信もありませんが、タロウは動揺している様です。
いえ、そもそもタロウは自分の【不老不死】を知っているのでしょうか?
知っているのなら、先程【光魔法】を使った時にタロウが言った「当たれば死んでしまう」という言葉の意味が分からなくなります。
「お、俺が勇者じゃないだと?」
「はい。その力は本来アレスさんのモノのはずです」
タロウの本当の力は人から能力を奪うというモノなのでしょう。
しかも、奪えるのは能力だけじゃなく、他人の命も奪えるのでタロウにはいくつもの命があるんでは……。
それが【不老不死】の正体……。
神の加護に【不老不死】という言葉があったのも、あのジゼルという人が小細工をしたんでしょう。
と、私は考えたのですが、どうなのでしょう?
「貴方の命は誰の命ですか? 人ですか? それとも虫ですか?」
「な、何を訳の分からない事を!!」
あれ?
違いましたか?
それとも、タロウですら無自覚という事でしょうか?
タロウは私に迫ってきます。
顔を見る限り相当怒っている様です。
「俺は勇者だ!! 誰が何と言おうと勇者だ!!」
「勇者? 笑わせないでください。貴方のような下衆に勇者が務まるわけがないでしょう。私は勇者というモノには詳しくありませんが、物語に出てくる勇者は、アレスさんのような御方です。貴方はせいぜい犯罪者でしょう?」
「俺は、勇者だ!! もういい。お前を殺す!!」
タロウは魔力を溜め始めています。
どうやら、何かの魔法を使おうとしているみたいですね。
「喰らえ、【古魔法】〈束縛〉!!」
タロウが手を私に向けると、私の足元にツタのようなモノが現れます。
これは魔力で出来たツタですか?
ツタは私の足に絡みつくと同時に麻痺毒を注入してきます。
これはひとたまりもありませんねぇ……。
私に毒が効けばの話ですけど。
ツタはそれほどの強度も無く、歩くと簡単に引き千切れています。
何が〈束縛〉なのかは知りませんが、普通に動けます。
しかし、タロウが狙っていたのはこれではありませんでした。
「【光魔法】〈裁き〉!!」
タロウが手の平を上にあげると、無数の光が上に飛んでいき落ちてきます。
不思議です。
ここは室内なのに、ちゃんと発動するんですね。
まぁ……だから何? って話なのですが。
私は二人を見ます。
レッグという人がボロボロの身体を盾にして、お姫様を守ろうとしています。
これが愛というモノですかねぇ……。
放っておけばいいのですが、助けなきゃいけない気もします。
守っておきましょう。
私は二人の前に立ち、降り注ぐ光を弾きます。
しかし、量が多いのはムカつきますねぇ。
タロウが手を挙げている限り魔法は続くようなので、私の【光魔法】でタロウを撃ちます。
タロウは自動的に避けていますが、そのおかげでタロウの【光魔法】は収まりました。
しかし、タロウはすぐに【身体超強化】のスピードを生かし私を殴りかかってきます。
私が普通の少女であれば、その速さにも力にも負けていたでしょう。
ただ、私は負けません。
力比べであろうと速さであろうとこの程度ならいくらでも対応できますよ。
私は殴りかかってくるタロウの拳を止めて、そのまま握り潰します。
タロウの拳は思ったよりも脆く、グシャッと潰れてしまいました。
「ぎゃああああああ!!」
うるさいですねぇ……。
私は黙らせようと殴りかかりましたが、避けられます。
やはり単独での攻撃では当たりませんか。
それならば、武闘家さんの力を使ってあげましょう。
確か……。
【武神の決意】でしたっけ?
これならば攻撃が当たるようなのですが何故でしょうか?
私はタロウを殴りながら考えます。
あ、顔に傷がつくと悔しそうにしていたので、顔だけを重点的に殴っています。
タロウもよろよろと反撃してくるのですが、遅くても【絶対命中】で当たるので、カウンターで攻撃した部位を破壊していきます。
タロウは片足の骨が砕け、両腕の拳が潰れて満身創痍です。
私の魔力もだいぶ回復したので先程タロウを殴った時よりも攻撃力が増しています。
殴る度にタロウは右へ左へと飛んでいきます。
これは愉快です。
「く、クソ!! どうじでおでにごうげきがあだるんだ!!」
もう何をしゃべっているかは分かりませんが言いたい事は分かります。なぜ攻撃が当たるかは私も気になります。
物理攻撃も魔法攻撃も避けられました。
もしかして加護には相性があるとか?
いえ、私の加護は真似て作っただけの偽物です。
ではなぜ当たるのでしょう。
そうです。
一つ可能性があるのなら物理攻撃と魔力攻撃は同時には避けられない?
試してみましょう。
私はタロウを殴りに行きます。
【偽・武神の決意】を使っていないので恐らく避けられるでしょう。
はい。しっかり避けられました。
その瞬間、私は【光魔法】でタロウの腹部を撃ち抜きます。
光魔法はタロウの腹部をしっかり撃ち抜き、血が流れだします。
「は……え?」
タロウは自分に何が起こっているのかが分からないみたいです。
しかし、当たりましたねぇ……。
これは単純に連撃が有効という事でしょうか?
それならばもう一度試してみましょう。
私は再びタロウを殴りに行きます。
しっかりと【絶対回避】が発動してから、もう一度殴ります。
「ぐぼぉ!!」
当たりました。
なるほど……。
タロウの【絶対回避】は連撃が有効なのですね。
ふふっ……。
「理解しました。貴方を殺す事は可能という事が」
私はナイフを二本取り出します。
「さて、今度は【不老不死】を否定しましょうか……」
私がタロウの首を斬り落とそうと近付くと、タロウの真横が光り始めます。
何ですか?
「ばぁ……ばぁ……。じ、ジゼル……」
「はぁ……。また貴女ですか」
光からは、大魔導ジゼルが現れました。
「やぁ、また会ったね。【忌み子】ちゃん」
「何か御用ですか?」
「そうだね。私の目的の為にコレを死なせるわけにはいかないんだ」
「そうですか……それで、逃がすと思っていますか?」
「ははは。君の目の前に現れるのに、私が何の対策も取っていないと? 今の私には攻撃は効かないよ」
「はい?」
「嘘だと思っているのなら試してみればいい」
「じゃあ、遠慮なく」
私は光魔法を連続で撃ち込みますが、ジゼルには当たりません。
「これが【絶対回避】だよ。タロウには通用したかもしれないが私には通用しない」
「へぇ……それが本物の【絶対回避】という事ですか」
「ふふふ……これ以上は君に話す事は無いね。じゃあね。私の【忌み子】ちゃん」
そう言って、ジゼルとタロウは光に消えていきました。
本当に何者なのでしょうね。
まぁ、いつかは殺しますが……。
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