10話 武闘家アルジー
誤字報告、いつもありがとうございます。
今回はギルガ視点です。
アルジーは不敵な笑みを浮かべ、品定めするような目でオレ達を見ていた。
こいつの目的はエレンの命。
しかし、腑に落ちない。勇者タロウは聖女……いや、いい女を求めるはずだ……。
まさか、こいつも勇者の【誘惑】に当てられているのか?
それで、自分達の邪魔になりかねないエレンを殺そうと?
アルジーはオレ達の品定めが終わったのか、ため息と吐く。
「聖女と女はどうでも良いね。後で簡単に殺したらいいね。私と戦えそうなのは……その二人だけね。特に元Aランクのギルガは楽しめそうね」
オレを指名か……。
こいつと初めて出会ったのはもう十年前。
こいつがまだ駆け出しの冒険者だった頃だ。
最初っからCランクだったから、こいつは期待の新人だった。
ただ、人の忠告を全く聞かずに、一人で突っ走る事が多かった。
性格はガキ臭かったが……まさか、勇者に靡くとは思っていなかった。
「まさか、お前まで勇者に堕とされているとはな」
「何を勘違いしているね。あんな下衆どうでもいいね。私は強い奴と戦いたいだけね」
なに?
こいつは【誘惑】が効いていないのか?
ならば、なぜ勇者と一緒にいる?
オレの考えがまとまらないうちにアルジーは俺に襲いかかる。
俺はアルジーの打撃を剣で捌くが、一撃一撃が重い。
しかし、オレもそんなに簡単にはやられない。
俺も剣技でアルジーに斬りかかるが、アルジーの小手で防がれる。
アレはミスリルか!?
「チッ!! 鬱陶しい!!」
俺は剣を振り下ろすが、簡単に避けられる。
やはり武闘家だけあって、相手の攻撃を避ける事に長けている。
しかもこいつの場合は力もある。
アルジーは余裕の笑みを浮かべている。
「ロートルだと思っていたけど、なかなかやるね。息がいつ上がるか楽しみね」
チッ!!
いくら【剣聖】でAランクとはいえ歳には勝てん。
とはいえ、オレはまだ四十代だ。
まだまだ戦えると自分に言い聞かせている。
とはいえ、オレもまだ本気ではない。まぁ、アルジーも本気じゃないだろうがな。
オレはチラッとドゥラークを見た。
ドゥラークは斧を手にエレンを守っている。
リディアも一緒にエレンを守ろうとしているが、さっきのアルジーの言葉を聞く限り、リディアではアルジーの相手は難しいだろう。
ドゥラークと二人がかりなら、アルジーを倒せるかもしれんが、教会に来ているのがアルジーだけとは限らない。こいつ等の仲間には剣姫ソレーヌ、大魔導ジゼルもいる。
最悪、勇者タロウがこの場にいるかもしれん……。
ドゥラークの力は温存しておいた方が良いだろう……。
さて、どうしたものか……。
魔力で〈身体強化〉を使い一気に終わらせるか?
いや、アルジーも魔力を使っていると思えない。これは純粋なアルジーの力だ。
「攻撃が止まったね。何を考えているね?」
「てめぇを倒す方法を考えてんだよ」
「それは無理ね。私はまだ本気を出していないね」
……だろうな。
だが、それはオレも同じだ。
「冥途の土産に見せてやるね。これが武闘家の頂点に立つ者の力ね」
アルジーは腕を胸の前にクロスさせる。
そして一気に腕を開くと魔力が解放される。
アルジーの身体からはドス黒い魔力があふれている。
こ、これはなんだ!?
「これが神の加護【武神の決意】ね。今の私には武器による攻撃を防ぐ力があるね」
どういう事だ?
俺は足元の小石をアルジーに投げつけてみる。
するとアルジーの黒い魔力がそれを弾き返す。
「無駄ね。私の【武神の決意】は私が意識していなくても武器による攻撃を防ぐね。嘘だと思ったらかかってくるといいね」
こ、これは、かなり不味いんじゃないのか?
ドゥラークが俺の隣にやってくる。
「ギルガの旦那。アレは不味いのか?」
「分からん。ただ、アイツが言っている事が本当であればかなり危険だ」
「そうか……」
ドゥラークはエレンに視線を移す。
「こういう言い方は良くないのは分かっているが、俺達に何かがあってもレティシアがいる。もし俺達が重傷を負ってもエレンがいる」
「そうだな……」
エレンの力をむやみに使うのはあまり気が進まないが、エレンを守る為ならば……仕方が無い。
「ギルガの旦那。アイツが放っているのは殺気と魔力が合わさったモノだ。触れるとどんな効果があるかわからねぇ」
「殺気だと?」
「あぁ。盗賊退治の時にレティシアが見せていたモノと似ている」
「どういう事だ?」
話に聞くと、レティシアは盗賊退治の時に盗賊の一人を殺気だけで倒したそうだ。
その時に一瞬レティシアの体から黒い魔力が見えたらしい。
確かに殺気を感じると足が縮こまる事はある。
だが、身体に影響が出るとは考えにくい。
しかし、アルジーの黒い魔力は攻撃を弾いた。
「二対一ね? まぁ、雑魚が一人増えてもたいして影響がないね」
「雑魚ね……言ってくれる」
ドゥラークはアルジーの挑発を笑っている。
二対一なら確実に勝てると思っていたが、勝てるか?
アルジーのあの黒い魔力をどうにかしないと、攻撃すら通りそうにない。
「まず、オレが行く。お前は隙を見て攻撃してくれ」
「分かった」
俺はアルジーに斬りかかった。
アルジーは構えはするが俺の攻撃にさほど警戒していないようだ。
余裕ぶるのも今のうちだ。
俺は魔力を解放させて〈身体強化〉を使い一気に剣を振り抜く……が、黒い魔力が剣に纏わりつき止めた。
クソっ、魔力を込めても止められるのか!?
オレが一歩引くと、ドゥラークが隙を見て攻撃するがやはり防がれる。
オレは何度もアルジーに斬りかかるがアルジー自身は気にした様子もなくすべて黒い魔力に防がれてしまっている。
どうする?
「もう終わりね? じゃあ、死ぬね」
アルジーは俺の攻撃を防いだ後、オレを殴ろうとしてきた。
ま、不味い!?
しかし、アルジーが俺の腹を殴ろうとした瞬間にアルジーが吹き飛んだ。
な、何が起こった?
「その旦那は怖い怖いレティシアの家族でねぇ。死なれたら困るんだよ」
「ドゥラーク!?」
「ギルガの旦那。ここからは俺がやる。素手ならば攻撃が通るらしいからな」
ドゥラークは斧を持っていなかった。
素手で武闘家のアルジーと戦うのか!?
無謀だ!?
アルジーは笑顔で俺達に近付いてくる。
「面白いね。素手での戦闘で武闘家の私に挑むなんて……」
アルジーはドゥラークに向かい構える。アルジーの体からはさらに黒い魔力があふれ出している。
「武闘家を舐めた事を自分の命を持って償うね」
「まぁ、そう言うなよ……俺も昔は武闘家だったんだからよ」
そう言ってドゥラークも構えた。
ドゥラークが武闘家だった!?
じゃあ、なんで今は斧を?
「足の怪我ね。わずかだけど足を庇っているね。そんなのでどう戦うかが見ものね」
「そうだな……」
ドゥラークの魔力があふれだし弾けた……。
「!? まさか、【身体超強化】!? 貴様もあの下衆と同じ勇者なのね!?」
「違うな。俺は勇者なんて崇高な存在じゃない。俺はただの荒くれ者の冒険者だ」
「ふざけるんじゃないね!! 荒くれ者にその加護はあり得ないね!! その力は勇者の加護ね!!」
「ふざけていないさ。これは【疑似・身体超強化】だ。さて始めようか」
元々ちょい役だったドゥラークがどんどんと良く分からないキャラになっていく((´∀`))ケラケラ
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