77話 断空結界の消し方
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私は永遠の地獄からアブゾールに戻ってきました。
ベアトリーチェもテリオスもいなくなったアブゾールはとても静かです。
ベアトリーチェを倒したら断空結界も消えると思ったのですが……消えていませんねぇ……。アブゾールを囲う外壁の向こうに、今も断空結界の黒い壁が見えています。
とりあえず壁に直接触れてみましょうか……。
私は断空結界に触れられる場所まで歩いて行きます。そして、断空結界の前に立ち、手を突っ込もうとしましたが、弾かれてしまいました。
ふむ……。普通の手段では抜ける事は不可能ですか……。では、ベアトリーチェを痛めつけた、本気を出してみましょう。
私は魔力を解放します。背中にはたくさんの黒い羽が現れました。
「さてと……」
素手で殴ってもいいのですが、ここはファフニールで斬ってみましょう。
私はファフニールを思いっきり振り下ろします。
「えい!」
しかし、ファフニールは断空結界に弾かれる事はなく、ただ、空を斬るだけでした。
……はて?
なぜ弾かれなかったのでしょうか? もしかしたら、生きとし生けるものだけを拒絶するのでしょうか?
でも、ファフニールにもファフニールの魂が入っているとかどうとか……。うーむ。分かりません。やはり、断空結界を打ち破るのは不可能なのでしょうか……。
しかし、サクラ様は私に言いました。
(レティシアちゃんなら、断空結界から出られるよ)
私なら出られるですか……。
つまりはベアトリーチェには出られずに、私だけが出れる。
そう言えば……、断空結界内だと言うのに、どうして永遠の地獄には行けたのでしょう?
「よくわかりませんが、もう一度永遠の地獄に行ってみますか」
私は、次元転移魔法を使い永遠の地獄へと戻ってきたのですが、やはりここには転移できるようです。
「ふむ……」
「ひぎゃああああああ!!」
赤い私二号がベアトリーチェをしっかり痛めつけているようで、悲鳴が聞こえます。小さな世界ですから、声が響くようです。
「しかし、うるさいですねぇ……。ここはうるさくて考えがまとまりません。戻りましょう」
私はアブゾールに転移して戻ります。ここには、私しかいないのでとても静かです。
「ふむ……、普通に戻ってこれましたね。もしかしたら、転移魔法なら……。いえ、ベアトリーチェも転移魔法なら使えたはずです……。次元転移魔法ですか?」
次元転移魔法でしたら、次元を越えるので転移できるという事ですか? 永遠の地獄も別世界ですから、次元転移を使っていたのですが、そういう事なのでしょう。
そうと分かれば魔法を使う準備です。
私が次元転移の準備を始めようとしたら、誰かが断空結界内に転移してきました。
アブゾルです。
「いまさら何の用ですか?」
「酷い言い草じゃな。お主がベアトリーチェを倒したとサクラ様から聞いたのでな。迎えに来たぞい」
迎えに来た?
次元転移があるので迎えなど必要ないのですが……。
しかし、今のアブゾルには何か違和感があるのですが……。
あ!
「アブゾル。元の姿に戻ったのですね」
「あぁ、サクラ様に戻してもらったんじゃ。じゃが、これから先はベックの傍に居る時は人形の姿に戻る事も可能じゃ」
そう言って気味の悪い人形の姿に戻ります。もしかして、その姿にも愛着でもできたのですかね……。
「しかし、今後の事も考えれば断空結界を消す必要もあるな」
「はい? 消せるのですか?」
「あぁ、サクラ様から消す方法を聞いてきた。ワシよりも格上な嬢ちゃんがいれば大丈夫じゃろう」
はて?
格上? 何の事でしょう?
「アブゾールを囲う断空結界は、ワシの肉体を生贄に作ったモノじゃ。ワシ以下の神格のモノでは消す事が出来んのじゃよ」
はて?
それならそれでおかしいと思うのですが……。
「格上というのであれば、ベアトリーチェはどうして断空結界を消して出てこなかったのでしょうね。アイツはどう見ても、アブゾルよりは格上でしたよ?」
「嬢ちゃん、結構酷い事を言うのぉ……。そもそも、今言った格上というのは、神格の事であり強さではない」
「え? そうなのですか?」
神格というのがどういったモノかは知りませんが、どう見てもベアトリーチェの方が強いですし、神々しくも見えましたよ。まぁ、汚く見えたと言うのもありますが……。それに比べ、アブゾルなんて少し殴ったら死にそうじゃないですか。
「それにな。嬢ちゃんは次元転移を簡単に覚えたじゃろ?」
「はい」
とはいえ、少しだけ解析に時間がかかりましたが、簡単と言えば簡単でしたね。
「ワシはサクラ様に指導してもらう事で覚えたが、普通であれば、簡単には覚えられないのじゃ。大体、簡単に覚えられるのなら、エルジュ殿も出てこれたはずじゃろ?」
「まぁ、そうですね。アブゾルはエルジュをまだエルジュ殿って呼んでいるんですね」
アレはよくにまみれた哀れな人でしたが……。
「まぁな。彼女がああなった原因にワシが大きく関わっておるからな……。彼女の罪はワシの罪でもあるのじゃ……」
ふむ。言っている事はかっこいいと思うのですが……。
「では、貴方も永遠の地獄に行きますか?」
「なに? 永遠の地獄? エルジュ殿が送られたのは、永遠の罰じゃぞ?」
永遠の罰?
そんな名前でしたっけ?
まぁ、些細な事なのですけどね……。
「名前が間違っていましたか。これはベアトリーチェには悪い事をしましたね」
「どういう事じゃ?」
私はアブゾルにベアトリーチェを永遠の地獄に閉じ込めた事を説明します。
「……、まさか永遠の罰に似た空間を作り出すとはな……。サクラ様が嬢ちゃんを欲しがる理由が良くわかったわい」
「そうなのですか?」
「あぁ……。まぁ、その事はともかく、断空結界を解く事にしよう。嬢ちゃん、付いてきておくれ」
そう言ってアブゾルは次元転移を発動させます。出てきた場所は断空結界の外でした。
「内側からは消せないのですか?」
「あぁ、サクラ様からはそう聞いておるよ」
アブゾルは、何かの魔法陣を書き始め、私に魔法陣の上に乗れと言ってきます。
「これで何をするのですか?」
「なに、簡単な事じゃ。嬢ちゃんの神格でワシの神格を塗りつぶすのじゃ。そうする事で下位の神格の者が作った魔法を消し去る事が出来る。ワシのような未熟な者では、断空結界はこの方法でしか消せないそうじゃ」
なるほど。
よく分かりませんが、消せるのであれば越した事はないでしょう……。
アブゾルが魔法を唱えると、私の背中の羽が光ります。この色は虹色でしょうか?
アブゾルは羽を確認した後、さらに魔法を唱えます。すると、私の魔力……いえ、これは神気でしょうか? それが一気に消耗したように感じました。
そして、目の前が光り輝き、断空結界が消え去っていました。
「おぉ、消えましたよ」
私は断空結界が消え去ったのを見て、素直に凄いと感じました。
私がアブゾールを見ていると、アブゾルが真剣な顔で話しかけてきました。
「嬢ちゃんの神気には驚かされたが……、嬢ちゃんに伝言がある」
「はい? 伝言ですか?」
「サクラ様が嬢ちゃんと二人で話をしたいそうじゃ」
何やら嫌な予感がしますねぇ……。
私は、こっそりと転移魔法を発動させます。
そして……。
「嫌です!」とだけ言って、転移魔法で逃げだしました。
サクラ様の話はきっと、神族になれとかそんな内容だと思います。
「あ!? ま、待つのじゃ!!」
「待ちません」
私はサクラ様から逃げる為に、エレンやカチュアさんと一緒に姿を消す事にしました。
そして、五年の月日が流れました。




