75話 哀れな抵抗
誤字報告 いつもありがとうございます。
ベアトリーチェの言う本気とは、割と強かったです。でも、【鬼神化】する必要はないと判断します。
今も必死にヒヒイロカネの剣を振り回していますが、どう考えても剣技には見えませんし、かと言って、ベアトリーチェ自身の身体能力や魔力も、ずば抜けているとは到底思えません。
あ、もしかして、油断を誘って私の隙を狙っているのですかね? もし、そうだと言うのであれば、甘過ぎます。
「ベアトリーチェ。貴女が弱いふりをしてまで油断を誘おうとしても無駄ですよ。私にはそう簡単に隙などできませんし、貴女の誘いには乗りませんよ」
「な、何を言っている!?」
はて?
もしかして、油断を誘っていないと言うのですか? これが本気だと言うのですか?
いえいえ、そんなはずはありませんよね。今、私が反撃しても避けてくれますよね?
私は軽くベアトリーチェの顔を狙い殴ってみます。すると、ベアトリーチェは避けられずに鼻っ柱に私の拳が入ってしまいました。
「ぐぶっ……」
あ、鼻血が出てしまいました。
テリオスと違い、防御力は低いんですねぇ……。
ベアトリーチェは鼻を抑えています。そしてすぐに治療を始めました。
……。
これが本気なのですか?
私は、内心溜息を吐いてしまいました。
少しだけ優しさを見せてあげますか……。
「ベアトリーチェ、そろそろ降参しませんか? 貴女は本気を出したと言っていましたけど……、私はまだ【鬼神化】していませんよ」
「だ、黙れぇええええ!!」
ベアトリーチェはいくつもの魔力弾を作り出し撃ち込んできます。少しは強力でしたが、少し魔力を使って殴れば簡単に弾けます。
……ふむ。
殴ってみてわかったのですが、確かに威力は高いと思います。ダインさん辺りであれば、一撃で倒せるかもしれません。しかし、ギルガさん達であれば、避けるのは容易いでしょう。当たったとしてもたいして痛くはありません。こんなので私をどうこうできるとでも思っているのでしょうか。
そう思っていたのですが、ふと見るとベアトリーチェがいません。いえ、私の背後に立ち、ヒヒイロカネの剣を振り上げています。
まぁ、神気を読める私からすればバレバレなのですけど。
「うわぁ、びっくりした!? とでも言えばいいですか?」
私はベアトリーチェのヒヒイロカネの剣身を素手で掴みます。ギルガさんやアレスさんのような相手であれば、剣身を掴むと言う真似はしません。多分、剣技を使える人相手にこんな事をしてしまうと、怪我をしてしまいます。
「えい!」
ヒヒイロカネの剣でなくても、剣というのは無理に力をかけるとすぐに折る事が出来ます。
ベアトリーチェの剣は真っ二つに折れてしまいました。
「な、なにぃいいいい!?」
「剣が折れたくらいで、いちいち叫ばないでください」
そもそも、テリオスのヒヒイロカネの骨をファフニールで砕いていたのですから、それよりも薄い剣を折るなんて容易いに決まっているじゃないですか。
「ところでもう一度聞きますが、まだ続けますか?」
「こ、殺してやる。殺してやる!!」
どうやら、まだ続けるみたいですね。
仕方ありません。本当の恐怖とやらを見せてあげますか。
私は【鬼神化】を発動させます。ベアトリーチェは突然の事に驚愕の顔になっています。
しかし……。前とは、別の変身をしていますよ?
前の【鬼神化】は髪の毛が真っ赤になって、角ももっと長かったです。でも、今回は髪の毛は赤黒いですし、額の角も短く、かわいくなっています。
「もっと立派な角が欲しいです」
そんな、思ってもいない事を言いながら、ベアトリーチェを睨みます。
「あ……あ……」
ベアトリーチェの顔は間違いなく怯えた顔になっていますが、それでもまだ私と戦う意思はあるみたいです。
「あぁああああ!!」
ベアトリーチェは無数の光の剣を私に飛ばしてきます。ですが、私がファフニールを薙ぎ払うと簡単に砕けます。まぁ、ヒヒイロカネの骨に比べれば壊れやすいので、壊せて当たり前なのですが。
「な、なぜ、神気を使って攻撃しても通用しないんだ!?」
あぁ、今の光の剣は神気で作っているのですね。たいした事はありませんねぇ……。
ベアトリーチェの顔には、もう余裕という表情は残っていません。
まぁ、本気を出したと言っても、この程度だったのでもうそろそろいいでしょうか?
「最後通告ですよ。もう終わりにしませんか?」
「だ、黙れ!! 私はお前を倒してこの世界を手に入れるんだ!!」
ふむ……。
どうやらベアトリーチェは世界を手に入れる事に固執しているようです。そんな事を諦めてしまえば、楽になれると思うのですがね……。
まぁ、ベアトリーチェが今更改心しようが私がする事は何一つ変わりません。
と思っていたのですが、ベアトリーチェが突然口角を吊り上げます。痩せ我慢でしょうか……。
「さっきから、私との戦闘を止めようとしているが、私との和解を求めているのか? サクラからそう依頼されたのか?」
「はて?」
これは何を言っているのでしょうか……。
私とベアトリーチェが和解? そんな事ありえないじゃないですか。
私としてはサクラ様が言っていた、あの世界を再現してみたくて、ベアトリーチェに実験体になって欲しいだけです。
殺さないだけで拷問しないとは言っていませんよ?
「あぁ、生き残る事は出来ますが、ありとあらゆる苦痛は与えますよ? できれば早く無抵抗な貴女を拷問したいだけですよ」
私がそう答えると、ベアトリーチェは激昂してしまいました。
ベアトリーチェの目が真っ赤に染まり、神気が荒れ狂っています。そしてすべて黒い色の三対六枚の羽が現れます。
ふむ……。
今までで一番強そうですねぇ。
私はベアトリーチェに斬りかかります。しかし、ベアトリーチェに簡単に止められてしまいました。
「くはははは!! これが私の真の力だ!! 殺してやるぞ、レティシア!!」
そう言って、ベアトリーチェは私を壁に向かって投げつけました。
私は壁を蹴ってくるくると回転しながら地面に着地します。
「はい!!」
ふむ。
ついつい両手を上にあげたくなりますね。
しかし、生半可な攻撃は効きそうにありませんねぇ……。
そうです。
しかし、さっきからベアトリーチェは本気本気言っていましたね。
あ、そうです!
「私も本気とやらを出してみましょう」




