72話 前座
誤字報告いつもありがとうございます。
ようやくレティシアの登場です。
私の背後に漂う半透明の黒いトカゲ。目の錯覚にしては見た事のあるトカゲですが気にしないでおきましょう。
そう思っていたのですが、トカゲは必死に私に問いかけてきます。
『ちょ、ちょっと待て。折角最後の戦いっぽかったから、無理して姿を現したのに!?』
うるさいですねー。
と気付けば、ファフニールが光っています。これはもしかして……。
「貴女はファフニールなのですか?」
『そ、そうだ……。レティシア、今の私は君の持つ剣型の鈍器となっている。今の君なら私の力をすべて出し切る事が出来るだろう……』
「はい、その通りですよ。そしてあの二人を今から私達でボコボコにするんです」
『はは……。私達か……。嬉しい事を言ってくれる……』
ファフニールは嬉しかったのか、ファフニールを握る右手にほんわかと温かい気持ちが流れ込んできます。それに反して、私の言葉が気に入らなかったのか、怒りの表情のテリオスが吠えながら私に迫ってきます。
……遅すぎて眠くなりそうなので、テリオスには起きてもらいましょう。
私はファフニールを横に薙ぎ払います。すんでで避けると思っていたのですが、うまい具合にテリオスの頬を剣先が直撃したらしく、壁に向かって飛んで行ってしまいました。
これは面白い結果です。
テリオスは、壁でぐったりとしています。死んでませんよね? いえ、死人のようなモノですから、きっと無事でしょう。
しかし、今のはある意味面白かったですが、私的にはダメです。
「全く、私の油断を誘おうと寝たふりをしながら襲ってきましたけど、今のは遅すぎます。もっと真剣に襲ってきてください。やり直しです!!」
私はぐったりしているテリオスを蹴り飛ばし、ベアトリーチェの近くの位置に戻します。そして、元居た位置に戻りテリオスが立ち上がるのを待ちます。
「ほら、さっさと立ち上がってもう一度やり直しです」
私はもう一度さっきの状況を再現する為に、ファフニールを取り出すふりをします。この後にファフニールの幻影が見えるのですが、これはカットしても良いでしょう。
さぁ、襲ってくるのです。
しかし、私がいくら待ってもテリオスはこちらに向かって来ようとしません。もう起き上がっているのになぜ来ないのでしょう?
「はて? なぜ襲ってこないのですか? やり直しましょうよ」
私がそう聞いてみると、テリオスの顔が真っ赤になっています。怒っているのでしょうか? 怒っているのでしたら、死人みたいなモノでも、怒ると顔が赤くなるのが分かりました。
しかし、どういった原理なのでしょう?
「貴様!! この私をコケにするとは、今の一撃で殺せなかった事を悔やむがいい!!」
はぁ?
今の一撃で殺せなかった事を後悔? 何を言っているのでしょう。一撃で殺してしまっては、面白くないじゃないですか。
テリオスは、真っ赤な顔でヒヒイロカネの剣を振り上げ、襲い掛かってきます。
はぁ……。やはり遅すぎます。
怒っている状態でこの遅さなのですから、さっきのも真面目に襲ってきていたという事でしょう。それは申し訳ない事をしましたね。
今度は首でも飛ばしてみようと思ったのですが、今度はさっきまでとは違うみたいです。テリオスの背中が裂け、赤色の槍のようなモノが六本生えてきました。そして、私に襲いかかってきます。
「はて?」
私は襲い来る六本の突起物を軽く避けて、テリオスの頬を素手で思いっきり殴ります。そして、吹き飛んだところを赤色の突起物を掴んで止めます。
おや?
「この突起物はヒヒイロカネで出来ているのですかね?」
こうやって直に触っていると、スミスさんに見せてもらったヒヒイロカネと同じ感じがします。まぁ、これがヒヒイロカネだろうと何だろうと、あまり関係はありません。
ヒヒイロカネの突起物を一本掴んでいる事で、残りの五本が私に襲い掛かってきます。
まぁ、片手が塞がっていても、ファフニールがあるので簡単に砕けますよ。
「ば、馬鹿な!? ヒヒイロカネの私の骨が……、そ、そんな剣で……」
「そんな剣とは失敬ですねぇ。ファフニールは私が一番望む姿になった最高の剣なのですよ。いえ、ちょっと待ってください。貴方の骨? え? ヒヒイロカネが骨なのですか?」
私は砕いたヒヒイロカネの骨を拾います。
拾った骨は、見たところ赤い鉱石ですね。やはり、スミスさんに見せてもらったヒヒイロカネと同じ感じはしますが……。
「何か汚いですね。元々ヒヒイロカネというのは赤い鏡のような鉱石のはずです。でもこの骨はくすんで曇っています。それに、血がいっぱい付いていて汚いです。こんなのをヒヒイロカネと言ったら、スミスさんが発狂してしまいます」
私は出来損ないのヒヒイロカネの骨を捨てます。こんなモノに価値などありません。もし、珍しそうならば、スミスさんのお土産にでもしようと思ったのですが、必要ないです。
私は掴んでいた骨を上下に振ります。するとテリオスの体が天井と地面に交互に叩きつけられます。
「ぐはぁ!?」
「あはは。面白いです」
何度か地面と天井に叩きつけていると、骨の付け根が折れてしまい、テリオスは自由になってしまいました。
むぅ……。折角面白かったのに、もう終わりです。
テリオスは、震えながら立ち上がります。
「ぐ……ぎぎ……。貴様……許さないぞ!!」
「そんなに熱くなるんじゃないよ。テリオス、君には私の分身体を一つ授けよう」
そう言って、ベアトリーチェはテリオスと口づけしています。え、エッチです!?
テリオスの唇から唇を離したベアトリーチェは、口角を吊り上げ笑います。
「さぁ、行けテリオス。君こそ、完全な新人類だ!!」
はて?
ベアトリーチェに接吻されたテリオスは呆然としています。いえ、どういう事でしょうか……。そこに意思を感じず、テリオスの顔がベアトリーチェの様になります。
はて? この顔どこかで……。
あ、思い出しました。
「あの顔は、学校で出会った偽アブゾルです」
学校で私に何か言ってきた偽アブゾル。アレもベアトリーチェだったわけなのですが、今のテリオスを見る限り、もしかしたら、あの時見つからなかったセデルさんの遺体を使ったのかもしれませんね。まぁ、知りませんけど。
「くはは。本当の新人類の完成形は、私の分身を作り出す事だ!! 世界の人間が私になれば、全てが平等になる!!」
「はぁ?」
何を言っているか分かりませんが、ベアトリーチェは世界に自分だけがいればいいと思っているみたいです。そんな世界の何が面白いのでしょうね……。
とその時、ジゼルと新人類との戦いが頭に過りました。
そして……、学びました。
「覚えましたよ……。【鬼紅魔法】を……」




