70話 駄女神
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私が目を覚ますとそこは神殿のような広い部屋だった。まるで絵にかいたような神様の住まう場所って感じだ。
「ここは……?」
私は何があったのかを思い出す。そうだ、私とカチュアさんは、グラヴィに強制転移魔法を使われて……。って、カチュアさんは?
私はカチュアさんを探す。カチュアさんも神気を発しているのですぐに見つける事が出来た。
カチュアさんは部屋を見回していた。そして、私を見つけると無表情で駆け寄ってきた。
「エレン様。大丈夫ですか?」
「うん。カチュアさんは?」
「私も身体に異常は何もありません。ただ……」
カチュアさんは、周りを見回す。私も一緒になって周りを見るがやはり広いだけの広間だった。一つだけ、通路があり、「わーん。エレンー!! カチュアー!!」とヨルムンがその通路から飛んできた。
「よ、ヨルムン!?」
「ヨルムン、貴方も巻き込まれていたのですか?」
私とカチュアさんは泣き止むまでヨルムンを宥める。ヨルムンが泣き止み落ち着いた後、どうしてここに飛ばされたのかを聞いてみた。
「うん。あの時はエレンの足下にいて、あのへんな男が何かしたからエレンの足にしがみついたんだ。そしたら、ここに飛ばされたの。それで、二人よりも先に目を覚ましたから、出口を探そうと思って進んでみたんだ」
「それで、あの通路の先は何があったのですか?」
「何もなかった。少し進んだら、そこから先は進めなくなったんだ」
ヨルムンの話を聞く限り、この部屋がメインでそれ以外は作られていないのかな? そう言えば、レティも良く「拷問部屋に便利です」と言って、こういう空間を作っていた。
しかし、本当に誰もいないのかな? 何かがいる気配がするんだけど……。
「エレン様。気付いていますか?」
「うん。でも、私はそこまではっきりとは気付いていないよ。何かがいるかもしれないという程度……」
「神気に似た気配を感じます」
神気?
確かに、私達もレティの眷属になってから神気をはっきりと感じる事が出来るようになった。
でも、この空間にいるのは純粋な神気を持つ神族じゃないような……。そう思った直後、私達の目の前に玉座が現れる。そして、その玉座には一人の女性が座っていた。
彼女は、銀色のウエーブかかった肩までの髪の毛で、ツリ目で綺麗な女性だった。着ている服も、白い薄着のように見えるけど、特殊な紋章のようなものが書かれているのが確認できる。アレは結界なのだろう。
彼女が私達の味方でないのは確かだが、黙っていても仕方がない。私は声をけてみる事にした。
「貴女は? この空間は貴女が作ったモノですか?」
女性は私の質問に答えずに、私達を一瞥する。そして、「忌々しい気配を持った小娘共ね……」と睨んできた。
そして、ゆっくりと立ち上がったところでカチュアさんが動いた。
「エレン様の質問に答えられないなら死になさい」
カチュアさんが女性に剣を振り下ろす。しかし、そこにか女性はいなかった。
「野蛮な小娘の眷属はやはり野蛮なのね……」
どこから声が?
そう思っていると、彼女は空中に浮かんでいた。
「……派手な下着を履いているのですね」
カチュアさんは、彼女のスカートの中をジッと見て溜息を吐く。
「人に野蛮と言っておいて、貴女は清楚さの欠片もない。服装は男性に媚びるような服装ですし……淫魔か何かなのですか?」
カチュアさんは首を横に振り額を抑えてさらに溜息を吐く。かなりの挑発だね。
カチュアさんの挑発に少し乗ったのか、彼女の口角が少しだけひくついている。
「私は淫魔ではないわ。私の名はディザイヤ。ベアトリーチェ様に仕える女神の一人よ」
え?
女神?
「ふふ……。女神と言っても、大いなる女神であるベアトリーチェ様の足下にも及ばないけどね……。ところで、貴女が下賤な小娘の眷属である聖女エレン、もう一人は神騎士のカチュアね。あんな野蛮な小娘など切り捨てて、ベアトリーチェ様に仕えない?」
この人はさっきから、レティを貶す事ばかり……。私もとても腹が立っているけど、カチュアさんが今にもキレそうだ。
そしてカチュアさんは親指を下に向けて「はっ。ベアトリーチェのような小物に仕えているような駄女神が何を偉そうに!!」と怒鳴る。
だ、駄女神って!?
私はついつい吹き出してしまう。こうやって煽って戦うのはレティの影響かな。実際に、煽った方が隙を見つける事も油断を誘う事もできるし、戦闘は有利に進められるってレティも言っていたしね。
「ふふふ……。私を駄女神と呼ぶのも無礼だと思うけど、ベアトリーチェ様を小物と呼んだのが許せないわ。ベアトリーチェ様から勧誘するように言われていたけど、貴方達は必要なさそうね……」
ディザイヤは両手に魔力を溜め始める。
「さぁ、神の手で死になさい!!」
ディザイヤが両手を空にあげる。アレはおそらく神罰・白雷だ。けだまんがくれた知識の中にあの魔法も書いてあった。私はディザイヤの魔法を妨害しようとしたけど、ディザイヤの魔法が完成してしまう。
「神々の雷を受けなさい!! 神罰・白雷!!」
ディザイヤが勢い良く両手を振り下ろすと、光の様な雷が降り注ぐ。
予想通りだけど、思っていたよりも強力だとも思えない。私は急いでヨルムンに結界を張る。レティと一緒に特訓したけど、ヨルムンはきっと避けられない。
「あわわ……」
ヨルムンは白雷を見て足をすくませているみたいだけど、もう結界を張り終わっているので、問題はない。しかし、今の結界が全くの無傷で防げるという事は、神の魔法を防ぐ事は可能という事だ。
しかし、ディザイヤは薄っすらと笑っていた。何かをするつもりみたいだ。
「カチュアさん!!」
私はカチュアさんにディザイヤの邪魔をするよう目で訴える。カチュアさんはそれに気付き、ディザイヤに斬りかかる。
今のディザイヤの魔力の高まり方を見て予想した魔法は、ジゼルさんが教えてくれた爆縮魔法という魔法を強化する魔法だ。アレは、魔法の威力を限界突破させる事が出来るらしく、習得方法がかなり難しく、私も今は使えない。
私も急いで自分が使える最高の神聖魔法を使う準備をする。しかし、女神に神聖魔法が効くんだろうか? カチュアさんもディザイヤに斬りかかっているけど、薄い膜の様な結界で守られているのか、傷つける事が出来ない。アレの話も聞いている。
爆縮魔法はかなり特殊で、詠唱はなく魔力をパズルの様に組み合わせる事で使用可能になるらしい。そのパズルを組み上げている間、術者には薄い結界が張られるとジゼルさんは言っていた。
ついでに、ジゼルさんは爆縮魔法をほぼ一瞬で組み上げる。組み合わせる速度が速ければ速いほど、魔力の集束具合が大きくなるそうだ。ディザイヤは時間がかかっている分、それほどの集束度はないはずだ。
しかし、脅威である事には変わりはない。そう思った直後、ディザイヤの爆縮魔法が完成した。
「爆縮、白雷!!」
先ほどまでとは明らかに威力が高い雷が降り注ぐ。カチュアさんも必死に避けているけど、これは危険だ。
私は自分の中の神気を発動させる。すると、私の背に羽が生えた。
そんな私を見て、ディザイヤはあからさまに不機嫌そうな顔になる。
「貴女のような聖女でしかない小娘が神の力ですって? ふざけるんじゃないわよ!!」
そう言って、ディザイヤは白雷を使うのを止める。
「貴女のような似非女神の力ではなく、本物の女神の力を今、見せてあげるわ!!」
そう言ったディザイヤは服を破り捨てた。




