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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
最終章 神殺し編

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67話 グラヴィ再び


『セルカの町に、ベアトリーチェの部下であるグラヴィという者が攻め込もうとしておる。備えよ……』


 見回りという名の散歩をしていた私の頭の中に、突如聞こえてきたのはアブゾル殿の言葉だった。


 なぜアブゾル殿の声が?

 今現在、アブゾル殿は聖女ベック、リディアの三人はレティシアと共に、エルジュ殿に会いに行っているはずだ。

 そう言えば、アブゾル殿を連れて行こうとしている時に、エルジュ殿が裏切ったと言っていたな……。そして、このタイミング。何か関係があるのか?

 どちらにしても、グラヴィが襲ってくるのであれば一大事だ……。

 私は小さな体を懸命に跳ねさせ、ギルガ殿の下へと向かう。恐らくだが、ギルガ殿にもアブゾル殿の神託が下りているだろう。


 私がリーン・レイの拠点である屋敷に入るとギルガ殿が駆け寄ってきた。


「けだまん!! お前にも今の声が聞こえたか!?」

『あぁ。グラヴィと言えば、レティシアが倒したファフニールもどきだろう?』


 ギルガ殿は黙って頷く。


「バハムート、グラヴィが襲ってくるという事は……」

『あぁ、セルカの町が戦場になるだろう。ファフニールを模して造られている以上、グラヴィは巨体だ。住民を避難させなくてはいかんだろうな。どちらにしても、今セルカにいるリーン・レイのメンバーはエレン達とギルガ殿達だけだ。ドラゴンが相手ならば、同じドラゴンである私達が戦った方がいいかもしれん』


 レティシアがギルド学校で戦ったグラヴィは、本当の私達と同じ大きさだ。

 レティシアのような理不尽な強さを持っていれば、体格差などたいして問題ではないだろうが、ギルガ殿達では安易にそう言えない。

 王種程度の魔物であればギルガ殿単騎でも倒せるだろうが、グラヴィはベアトリーチェに改造されている。おそらく王種の比ではないだろう。ギルガ殿達も、グラヴィと戦うには分が悪いと分かっているようだった。


「けだまん。私達ならグラヴィと戦えるかもしれない」

「私達もレティシア様の眷属です。戦えます」


 そう言ってくるのは、エレンとカチュアだ。

 確かにセルカに残っているメンバーで一番強いのはカチュアだろう。それにエレンのサポートと私達が足場になればグラヴィに勝つ事は可能だろう。


『わかった。私達がお前達の足場になろう。ギルガ殿達はセルカの住民を避難させておいてくれ』

「迎え撃つのか?」

『アブゾル殿から神託が来て、レティシアが帰ってこない。何か帰れない事情があるんだろう』


 そう言うと、エレンとカチュアが心配そうな顔になる。


『二人共、レティシアに何かあった時はお前達が一番最初に気付くだろう? 今は何も感じていないのであれば、だから、あいつ自身に何かあったとは考えにくい。おそらくは、単騎でベアトリーチェと戦いに行っていると言ったところだろう』


 セルカが危機だと言うのに、レティシアから何もないという事はアブゾールの断空結界内に入っている可能性が高い。

 そうなると、レティシアの安否に関してはエレン達が一番分かっているはずだ。


 ギルガ殿はネリー殿達にも事情を話し、セルカの住民の避難の為に屋敷を出ていく。

 私達はグラヴィを迎え撃つ準備を始める。


「毛玉。貴方も元の姿に戻る事が可能なのですか? ヨルムンガンドは飛べそうにありませんし……」


 カチュアがそんな事を言うが、ヨルムンガンドは羽こそ生えていないが魔力で飛ぶ事は可能だ。私がそう説明すると、カチュアは疑うような目でヨルムンガンドを見ていた。



 ギルガ殿達はセルカの住民を避難させる。セルカではリーン・レイの信頼が高いため、すぐに避難を始めてくれる。

 避難場所には、町外れを選んだ。エレンが結界を張ったのでちょっとやそっとでは住民に危険が及ぶ事は無いだろう。ただし、私達とグラヴィとの戦闘で町は廃墟と化すかもしれない。


 グラヴィを待つ事、十分。

 屋敷の前には私とヨルムンガンド。そして、エレンにカチュア……、カチュアの足下にシシオーまでいる。

 ……って、シシオー? それに、エレンの傍にヨルムンも飛んでいる。


『シシオーよ。お前は子猫だ。危険なのだぞ、お前も避難しているんだ。それにヨルムン、お前もだ』

「にゃー?」

「なんで?」


 ヨルムンとシシオーは、逃げようとしない。

 できれば避難して欲しいのだが、残ると言うのであれば無理強いは出来ない。


 しばらくすると、一人の人間の男が空から下りてきた。


「やぁやぁ、リーン・レイのイロモノ諸君。出迎えご苦労……」

「グラヴィ……」


 カチュアがそう呟く。

 アブゾル殿から神託が下り目の前に立っているとはいえ、こいつはレティシアに殺されたと聞いたが……。どうやら生き返らせられたみたいだな……。


「やぁ、エレン君にカチュア君じゃないか。君達には、久しぶりと言いたいところだが、君達二人(・・・・)の相手は別にいるんだよ」


 そう言ってグラヴィは転移魔法を発動させる。すると、エレンとカチュアがどこかに強制転移させられた。どうやら、ヨルムンも一緒に飛ばされたみたいだ……。シシオーは私の隣にいた。


 しかし、カチュアは前衛だから仕方ないとしても、エレンは神の力で魔法による敵対行動に抵抗(レジスト)があるはずだ。それを強制転移だと?


 仮にエレンとカチュアに命の危険が迫るようなら、レティシアが気付くはずだ。アイツならば、どんな状況下にあってもエレン達を救いに行くだろう。だから、そこまで深刻に心配はしていない。

 どちらかと言うと、大きな問題なのは私達の方だ……。


 私達の動揺に気付いたのか、グラヴィは不敵な笑みを浮かべている。


「さて、エレンの聖女としての力も厄介だったけど、君達としては一番の戦力であるカチュアを転移させられた事が一番の不安要素かな? 僕としては、セルカに残るリーン・レイのメンバーを殺し尽くす事だから、仕事がやりやすくなったとみているんだけど? 特に、今目の前にいるのはペットだけだからね」

『ペットだと? 私達の愛らしい姿を見て勘違いしているようだな』


 私とヨルムンガンドは本来の姿に戻る。

 私達は今でこそ毛玉であり小さな蛇だ。だが、本当の姿はこの世界を作りし七竜のうちの二匹。簡単に倒せると思うなよ。


「あはは。知っているよ。ベアトリーチェ様からちゃんと聞いているさ。だが、君達二匹は七竜の中でも弱い部類だろう? まぁ、伝説の七竜と言っても僕からしたら、どれが相手であろうと雑魚と変わらないさ!!」


 なんだと?

 こいつは何て言った?

 私たち二人の事はいい……。だが、この世界の礎となったアマテラス様達の事まで雑魚だと?

 私とヨルムンガンドは静かに怒る。

 こいつだけは……。こいつだけは殺す。


「あはは。怒るのは勝手だけど、七竜が雑魚じゃないと言うところを、僕を倒して証明してみればいいさ!!」


 グラヴィがそう言った後、グラヴィの体が大きく膨れ始め弾ける。そして、グラヴィの皮の中から、漆黒の竜が現れた。


 その姿を見て私達は溜息を吐き、シシオーを避難させる。


「見れば見る程、ファフニールそっくりだな……」

『あぁ、見れば見る程、あの頃を思い出すよ……』


 しかし、グラヴィはファフニールじゃない。本物のファフニールはレティシアの愛剣として生まれ変わっている。

 それに、私達が命を懸けて戦ったファフニールにはもっと威風があった。

 こいつは所詮紛い物だ……。


「僕の姿を見て感慨深いだろう? 君達が命を懸けて倒そうとした滅竜の姿だ!!」


 グラヴィは、そう言うと、口を大きく開きブレス攻撃を放ってきた。さぁ、戦いの始まりだ。


 …………。

 ……。



「く、くそっ……」

『これは一体どういう事だ……』


 私達とグラヴィの戦いは一時間以上続いていた。私達二匹を相手にグラヴィは一歩も引かなかった。こいつの強さは私達の予想をはるかに上回っている。

 いや、その事よりも重要な事があった。

 グラヴィには私達の攻撃が効いていないように思えた。


「どうするバハムート……。こちらの攻撃がまるで効いていない……」

『特殊な結界だ。おそらく、ベアトリーチェは私達七竜を殺す為に特殊な結界をグラヴィに施しているんだ……』


 考えうるにそれしかありえん。

 現に、ヨルムンガンドが破れかぶれに大岩を投げつけた時のみダメージが通った。とはいえ、グラヴィは漆黒の龍鱗だ。大岩程度では、かすり傷くらいしかつけられなかったが……。


「何を余裕を出してお喋りしているんだ?」


 いつの間にかグラヴィが私の背後を取っていた。

 しまった!? そう思った時にはもう遅く、グラヴィの爪が私の背を抉り、羽が引き裂かれた事により、空に浮く事が出来なくなってしまい地上に落下する。


『ぐぁああ!!』


 ま、不味い、今の一撃で一気に魔力を失った!? 元の姿に戻ってしまう!?

 焦る私は毛玉に戻ってしまう。そんな私をヨルムンガンドが守るように前に立ってくれる。


「大丈夫か!? バハムート!!」

『あ、あぁ……。しかし、参ったな……』


 これは、絶体絶命だ……。

 二対一でも歯が立たなかったと言うのに、私が元に戻ってしまった以上、ヨルムンガンド一人では……。

 その時、グラヴィの尻尾に何かが噛みついていた。


「なんだ?」


 あ、アレは……シシオー!!

 シシオーは小さな牙で必死にグラヴィの尻尾に噛みついている。

 シシオーはドラゴンではないので、グラヴィにもダメージを与えられるらしく、小さな牙はグラヴィの尻尾に刺さっていた。

 だが、体の小ささのせいでまるで意味のない攻撃になっている……。


「鬱陶しいな……」


 グラヴィが尻尾を地面に叩きつけると小さなシシオーは吹き飛ばされる。


「死ね!!」

「シシオー!!」


 グラヴィがシシオーにブレス攻撃をしたのをヨルムンガンドが身を挺して守った……。


「がぁああ……」


 ヨルムンガンドが小さな蛇の姿に戻る。しかも、かなりまずい状況だ……。


「くくく……。こんな無力な生物を守るとはな……。こんな結末ではいまいち面白くはないが、ギルガ達も殺さねばならん。もう終わりにしてやろう」


 そう言ってグラヴィはヨルムンガンドとシシオーを踏みつけた。


 ……!!?

 よ、ヨルムンガンド……、シシオー……。


 くそ……。

 私に力があれば……。

 そう思った直後、二匹を踏み潰した足が光り輝き、徐々に足が浮かび上がっていた。


「なんだ?」


 グラヴィも何が起きているのか理解できないようだった。


「に、にゃー!!」

『し、シシオー!?』


 な、何が起きている?

 シシオーが前足でグラヴィの足を持ち上げている。


「しゃーーー!!」


 そして、威嚇したと思ったら、シシオーの体が光に飲まれてしまった……。

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