5話 教会の聖女
少し遅れてしまいました。
誤字報告、いつもありがとうございます。
「勇者の事が知りたいじゃと?」
「えぇ。このレティシアがどうしても勇者に会いたいそうなのです」
会いたい?
なんだか気持ちが悪いですが、会いたいというのは間違いありませんね。
目的は殺す為ですが。
「会ってどうするのじゃ?」
「殺します」
「なに?」
「殺します」
大事な事なので二回言いました。
元々は【不老不死】が本物かを試したかっただけなのですが、マリテさんの様な被害を出さないために殺した方が良いでしょう。
そもそもエレンが聖女である以上、いずれは接触しそうですし。
それにどうせこの国の王も理由を付けて殺すつもりですし、その障害になる勇者タロウも殺して問題ないでしょう。
しかし、へラクさんはあまり良い顔をしません。
「お嬢ちゃんがただ者ではないのは分かるが、勇者タロウに勝てると思っているのか?」
「さぁ? やってみないと分かりませんねぇ。タロウが加護を持っているのは知っていますけど、厄介なのは【不老不死】くらいでしょう?」
他の加護は真似できる程度ですし、【絶対回避】でしたっけ?
タロウという物質があれば、アレも何とかできそうです。
しかし、へラクさんは私を呆れた顔で見ています。
「甘いのぉ……」
「はい?」
「甘いと言っておるのじゃ。わしが本当に厄介だと思っておる加護は【誘惑】じゃ」
【誘惑】?
あんなもの効かないのですから興味ないです。
「奴が【誘惑】を使うと町の連中が身を盾にタロウを守るのじゃ。お主はそいつらごとタロウを斬れるのか?」
「はい。斬れますね」
「そうじゃろう……って……え?」
「だから斬りますよ。殺しますよ。タロウの盾になって守ろうとした時点でソレは敵でしょう? いえ、タロウの道具でしょう? そんなのにいちいち情けをかける必要がありますか? 敵は殺す。それ以外の解決方法があるんですか?」
「い、いや……町の奴等は言わば洗脳されておるんじゃぞ!?」
「先程も言いましたが、タロウの盾になった時点でタロウの道具です。貴方は戦う相手の武具を見て「作った人が悲しむ」という理由で攻撃するのを止めますか?」
「人間は道具とは違う!!」
「だから何ですか? 洗脳されたまま死ねば勇者タロウを守れて本望でしょう? あ、私がタロウを殺しますから、一緒に死ねるのならば洗脳された人達も本望じゃないんですか?」
「ふざけるでない!!」
「はぁ? 何をもってふざけていると?」
そもそも、戦いの邪魔になるところにいるからいけないのです。その状況を作るのも自分なんですよ?
タロウの味方をした時点で操られていようがなんだろうが敵です。
「そ、それはお主の仲間がそうなっても同じ事が言えるのか?」
「はい?」
「例えばじゃ。ギルガが洗脳されてお主の前に立ち塞がったらどうするのじゃ?」
ギルガさんが洗脳されたらですか……。
ふーむ。
別に殺しても構わないのですが、トキエさんが泣いてしまいますし、後味が悪くなりますねぇ……。
でも、理由があれば分かってくれますかねぇ?
「そうですねぇ、警告してそれでも邪魔をするのなら敵ですかね」
「お、お前は仲間をなんじゃと思っておるのじゃ?」
「おかしい事を言いますねぇ……目的を達成するためには一つや二つの犠牲くらい当たり前でしょう」
とはいっても理解してくれないのでしょうね。
「だいたい、そうならないように先手を打つのが当たり前であり、【誘惑】対策くらいは考えますが? それともファビエ王都のギルドは対策も取らずに戦いに出るのですか? それこそ、貴方の大好きなお仲間の命を危険に晒しますが?」
「な、なんじゃと?」
「勇者タロウと戦う時点で【誘惑】を警戒するのは当たり前です。そもそも周りが障害になると分かっていて町中で戦う理由は? わざわざ敵を増やす場所で戦うのが冒険者の仕事ですか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「仮にです。冒険者が大型魔物を討伐するときに、何の対策も考えずに冒険者に突撃させるのですか? もしそうだとするのなら随分と命を軽視しているギルドマスターですねぇ」
この人の考えは短慮すぎると思います。
本当にギルドマスターなのですか?
これ以上、この人に時間を使うのは無駄ですね。
「ギルガさん。ここにいても仕方ありません。お城へと向かいましょう」
「ん? どうして城なんだ?」
「レッグという人に会ってみたいので」
「あぁ……そうだな。ヘラクさん、オレ達は城へ行くよ」
「待て、勇者タロウについて知りたければ教会に行け」
教会ですか。
いわば敵陣地ですね。
教会を滅ぼせとでも言うのでしょうかね?
それとも罠ですか?
「何故、教会に行けというのですか?」
「勇者タロウの召喚の儀を行ったのは教会じゃ。更にタロウが加護を得るのも教会じゃ。教会にはタロウの加護の事が記録されておるからな、知りたいならば教皇に話を聞くがいい。それと、もしかしたら教会ならばタロウの所在を知っているかもしれん」
今のを聞けば、教会に行くメリットはありそうですが……。
しかし、エレンの事を考えればあまり近付きたくありません。
いえ、弱気になってはいけませんね。エレンを守ると決めているのですから。
そう言えばテ……の町の神官長はどうしたのでしょう?
教会に行けばソレの居場所も聞けるかもしれませんね。
「分かりました。教会に向かいましょう。エレン、私から離れないでくださいね」
「うん」
目の前に巨大な教会があります。
テ……の町の教会の何倍もある大きな教会ですねぇ。
「大きいね」
「はい。中も人が多いみたいで騒がしいですねぇ」
「レティシア、まずはオレとドゥラークが中を見てくる。お前達はここで待機しておいてくれ」
「なぜです?」
また、お留守番ですか?
「教会内に兵士がいるかもしれないからな」
「分かりました」
ギルガさん達が教会の中を見てすぐに私達を呼びにドゥラークさんが引き返してきました。
敵の巣窟ですか?
しかし、そうではないみたいです。
「エレン。お前の力が必要になりそうだ」
「え? 怪我人がいるの?」
「あぁ。しかもかなりの数だ」
「うん。レティ、行こう」
「はい」
教会の中に入ると、町の人達が教会の床に苦しそうに横たわっています。
それを必死に手当てする青い服の女性達。いえ、神官も同じように手当てをしているようです。
これは一体?
「これは先程の戦闘で兵士に襲われた人達でしょうか?」
「いや、俺達が関わった戦闘の時は、住民には怪我はなかった。冒険者が体を張って守っていたからな」
「今聞いてきたんだが、オレ達が戦っていた場所以外にも兵士が住民に襲いかかっていたらしい。そこでは死者もいたそうだ」
ギルガさんが神官の一人に話を聞いた後、エレンが傷ついた人達に魔法を使って治療し始めました。
しかし、一人ひとり治療していては時間がいくらあっても足りません。
「教会には僧侶はいないのですか?」
「それも聞いてきたのだが、治療魔法のつかえるシスターが数人いたそうなのだが、治療院に連れていかれてしまったらしい。目的は分からんがな」
ギルガさんはとても悔しそうにしています。
しかし、治療院が何故シスターを?
たしか治療院のギルドマスターが国王派だったとか……。
エレンは周りをキョロキョロしています。
どうしたんですかね。
私はエレンの下へと向かいます。
「エレン。どうしました?」
「このままじゃ、間に合わない」
エレンが何を言いたいのか分かりましたが、私としても教会ではあまり賛成できません。
しかし、こうなったエレンは結構頑固さんです。
これに気付いたギルガさんがエレンを止めます。
「ダメだ。ここは教会なんだぞ」
「で、でも!?」
エレンが辛そうですねぇ……。
私も覚悟を決めましょう。
「エレン」
「レティ、私を守ってくれる?」
流石エレンです。
私の決意を理解してくれています。
勿論私の答えは決まっています。
「当然です」
「ありがとう」
エレンは胸の前で祈るように手を組み魔力を練ります。
そして……。
「〈サルヴェイション〉!!」
教会全てが光り輝き、酷い怪我をしていた人達の傷も治っていき、住民が一人、また一人と起き上がっていく。
「き、奇跡だ……」
「せ、聖女様なの?」
シスター達もエレンを神様を見るような目で見つめていた。
これでほとんどの人達の傷は治ったようですが、それでもまだ苦しんでいる人達がいます。
〈サルヴェイション〉は部位欠損をしていなければ完全に治療する〈エンジェルヒール〉の範囲型の魔法でしたっけ?
今も苦しんでいる住民は腕が無かったり足が無かったりしている人達でした。
エレンは、今も苦しむ住民の下へといき部位欠損を治療できる〈ゴスペルヒール〉を使って回ります。
私の目にもはっきりとエレンの羽が見えました。
この姿を見ればエレンが女神と言われても納得してしまいます。
ギルガさんはこの状況に頭を押さえていましたが、エレンは心の優しい少女です。困っている人を見たら放っておけないのでしょう。
ギルガさんもそれを分かっている様で、呆れた顔で治療して回るエレンを見て苦笑いを浮かべていました。
しかし、問題は教会の関係者にエレンが聖女だとバレた事です。
さて、教会の人間でも脅すとしましょうか……。
私がゆっくり立ち上がると、リディアさん達が私を止めます。
何故でしょう?
そう思って教会の中を見ていると、とてもとても綺麗な服を着たおじさんがエレンを見て驚いていました。
アレを脅しましょうか……。
活動報告の方に、これを書く前に書こうと思っていた、もう一つのIF編の大筋を載せておきました。興味のある方は是非見て行ってください。
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