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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
最終章 神殺し編

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62話 金色の武神魔王


 ハヤイの姿が黒い霧に飲まれていても、シーラに対する肋骨による攻撃はまだ続いていた。

 もしかして、あの骨はハヤイとは独立しているのか? いや、独立しているのなら肋骨という表現はしないはずだ。俺としては、肋骨だった方がありがたい。

 この黒い霧でハヤイがさらに強化されるのは予想に難くない。しかし、肋骨にる攻撃の速度はほとんど変わっていないように見える。シーラも焦らず対処している事から威力も変わらないのだろう。


 しばらくすると、黒い霧が晴れてハヤイの姿が現れる。

 紫色だったハヤイの鎧が灰色に変わり、雰囲気も少し変わった様に思える。

 ……どういう事だ?


「お前……」

「くくく……。女の方は俺の肋骨の相手で精いっぱいだろう。ケン……、お前の相手は、魔神サタナス様だ……」

「サタナスだと? ハヤイはどうした?」


 見た目はハヤイでしかないのだが、明らかに中身は別人だ。という事は、もうハヤイはいないのだろう。


「くくく……。お友達が「あんな奴、友達じゃねぇよ」……」


 ハヤイが友達だって? 気持ちが悪いから止めていただきたいな。


「……どちらにしても、この場で一番厄介なお前を殺す必要がある。死んでもらうぞ……」


 俺は肋骨による攻撃を捌き続けるシーラに視線を移す。


「サタナス。一応聞いておくが、シーラを襲わせている肋骨は俺との戦いの邪魔はしないだろうな……」

「どういう意味だ?」

「肋骨の長さは変えられるのかって聞いてるんだよ」

「あぁ、そんなにあの女が心配か? それならば安心しろ。俺の骨は伸縮自在だ。どれだけ離れようとも、あの女を襲い続ける事が出来る」

「チッ……」


 サタナスには悔しそうな素振りを見せたが、肋骨による攻撃が収まらないのであれば、俺としては好都合だ。

 

 俺は【真理】で集めた怒りの力をキマリスに集める。普通の剣では【憤怒の真理】の力を集める事は出来ないが、レティイロカネで出来た武器ならば、俺の体の一部と認識しているらしい。

 俺は肋骨がない部分を薙ぎ払う。人体の仕組みは良く分からないが、俺が薙ぎ払った位置には心臓や肺があり、肋骨(・・)で守られているそうだ。人を多く殺してきたレティシアや、医者であるジゼルが同じ事を言っていたから、間違いないのだろう。


 肋骨がなかったので、サタナスの上半身をアッサリと斬り抜く事が出来た。いや、灰色の鎧もろとも斬ったので、もしかしたら肋骨があっても斬れていたかもしれないが……。

 上半身の無くなったサタナスは、その場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。


 しかし、大罪を使って死ぬ奴は塵になると聞いていたが、こいつの体は塵にならない。元々ハヤイだからか?

 そんな事を思ってハヤイの死体を見ていると、俺の体が痺れ始める。


「くぁ!?」


 大罪の【真理】を使った代償だ……。

 レティシアとの地獄(特訓)で使った時は、たいした人数の怒りを受けなかったから、少し動き辛い程度だったが、戦場では怒りの感情が溢れているので、動けなくなって当然だ……。いや、それだけの怒りを使わなかったら、ハヤイの鎧を斬れなかったかもしれない……。

 俺は痺れに耐えきれずにその場に倒れる。シーラも倒れた俺に気付いて駆け寄ってくれる。


 しかし……、シーラの足が止まる。そして……。


「全く……。ありえない力で斬られたと思ったが、まさか鎧ごと斬られるとは思いもしなかったぞ」


 そう聞こえてきた直後、俺の背中に衝撃が走る。蹴られたのか?


「ぐっ……」

「ケン!!」


 俺が痺れる体で蹴ってきた方向を見ると、鎧は無くなっていたが、上半身裸のハヤイが立っていた。

 クソっ。殺しきれてなかったのか!?


「残念だったな……。俺はベアトリーチェ様に選ばれた新人類だ。お前がどれほどの攻撃をしてきても、俺を殺す事は不可能だ……」

「く、くそっ……」


 体が動かねぇ……。何とか……。

 サタナスはゆっくりと俺に近づいてくる。そして、剣を振り上げた。


「死ね」


 動け!! しかし、俺の体は動かない。

 クソっ……ここまでか? とそう思った時、シーラが俺の前に立つ。


「ほぅ……。今度はお前が相手か?」

「そうだ!! ケンはやらせない!!」

「そうか……、ならば、貴様から死ね!!」


 サタナスがそう言って剣を振り上げた時、サタナスは膝に力が入らなくなったのか、その場でバランスを崩す。


「な、何?」

「ケンの全身全霊の攻撃がまったく効いていないわけじゃなかったんだ!! 今が……はぁ!!」


 シーラが魔力を解放すると、シーラの赤い髪が金髪に変わる。レティシアの説明だと、この状態ならば、シーラの強さは通常の三倍以上に跳ね上がる。

 シーラは膝をつくサタナスの顔面を殴るが、サタナスは何もダメージを受けていないように、シーラの腕を掴む。


「姿が変わったようだが、この程度の攻撃力なら避けるまでもないな……」


 サタナスも再び立ち上がりシーラを俺に投げつける。


「くっ……!?」「がっ……!?」


 シーラが俺に「ご、ごめん」と謝る。いや、謝る必要はない。俺が無様にこんなところで倒れているから悪いんだ……。

 シーラは再びサタナスに殴りかかる。俺は力が入らない体を無理やり立たせようとするが痺れがキツく上手く立ち上がれない……。

 だが、もう一度……【真理】を……使わなければ……。

 そう思っていたのだが、再び腹部に衝撃を受ける。


「ぐふっ!?」

「貴様は後で殺してやる。大人しくしていろ!!」


 サタナスはシーラの攻撃をいなしながら、俺を蹴ってきた。だが、俺だって……。

 俺は、痺れる体でサタナスの足にしがみつく。


「む!?」


 サタナスは俺を振り払おうとしているが、そんな簡単に離れて堪るか……。


「ケン!!」


 俺に気を取られたサタナスにシーラが殴りかかるが、まるで効いていない。

 シーラが使っているのは、ドゥラークと同じ段階型の【身体超強化】だ。だが、ドゥラークほどの力は発揮できていない。これではサタナスには通用しないのか?

 俺はそう思っていたのだが、徐々に変化が現れていた。

 シーラの金髪が今まで以上に輝き始め、サタナスの頬に拳がめり込んだ。

 一撃だけか? とも思ったのだが、その後の攻撃にもサタナスはダメージを受けているのか、さっきまでは全くダメージを負っていなかったのが、徐々にダメージを受けているように見えた。


「がぁ……。な、い、威力が上がった!?」


 シーラの攻撃に危険を感じたのだろう……。サタナスは、剣を捨てた。そして腹部から再び肋骨が飛び出してくる。しかし、今のシーラには肋骨ではどうする事も出来ないようだ。一本、また一本と砕かれていく。


 俺はサタナスの足にしがみついているだけだったが、それじゃあだめだ……。

 俺はキマリスに「来い!!」と命じる。

 キマリスは俺の体の一部だ。呼べば必ず飛んでくる。そして、キマリスは俺の予想通り、サタナスの背中に突き刺さる。


「がぁああ!! この糞がぁあああ!!」


 サタナスは、キマリスを抜き砕く。


 う、嘘だろ? レティイロカネの剣を砕いたのか……。いや、俺自身の魔力が極端に少なかったから砕かれた……。

 いや、まだだ。俺もキマリスもまだ負けちゃいない。

 そう思った瞬間、キマリスの欠片がサタナスを襲う。


「ぎゃああああ!!」


 今までで一番のダメージ!?

 サタナスの心臓部分が完全にがら空きになった……。


「シーラ!!」

「あぁ!!」


 シーラの全魔力を乗せた渾身の拳がサタナスの腹部を貫く。


「がっ!? ば、馬鹿な……、だが、俺は新人類……、な、なぜ、体が……」


 サタナスはすぐに回復すると思っていたのだろうが、サタナスの体が崩れていく……。よく見ると、サタナスの全身に刺さったキマリスの欠片が怪しい光を放っている。もしかして、これがレティイロカネの力なのか?

 いや……これは大罪の力……だ。


「ひぎゃあああああああ!!」


 サタナスは絶叫を上げ、塵へと変わってしまった。


「勝ったな……」

「あぁ……」


 俺はシーラに抱きかかえられる。さっきまでは金髪だったが、今は赤い髪に戻っていた……。


「二人供、無事か!!」


 ちょうどタイミングよく、マジック様もゴッドゴブリンを倒して戻ってきたみたいだ……。

 俺達は眼下の戦場を見る。どうやらサタナスが死んだのと同時に人形達も塵に変わったみたいだ……。

 よく見れば、ブレイン様の部下も加わっていた……。


「二人とも無事か?」

「はい」

「あぁ……。しかし、シーラ……」

「なに?」


 サタナスを倒した時の姿……。


「絵本の中の金色の武神魔王みたいだったぞ……」


 シーラは少し驚いた顔をした後、照れているようだった。

 まぁ、小さい頃から読んでいる絵本の主人公だったからな……、嬉しいんだろうな……。

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