57話 鬼紅魔法
「そ、その姿は何だぁあああ!!」
ゲローンは突然叫びだし、私に襲い掛かってくる。
ん? 随分と余裕をもって襲い掛かってくるのだな……。いくら魔導士たる私でもこんなに遅ければ簡単に避けられるぞ?
攻撃を避けた私を見てゲローンは驚愕していた。いや、避けられるほどの速度で攻撃したんだろ?
私は首を傾げながら、激昂するゲローンを観察していると、肩に乗った人形が話しかけてくる。
『さて、今のお前なら私の声が聞こえているな』
「今の私と言うのがどういう意味かは分からないが、ちゃんと聞こえているよ……。アマツ……」
このかわいらしい人形は、忌み子ちゃんの力の源の鬼神アマツだった。
「いつから私の傍に居てくれたんだい?」
「エルジュの下から帰って来てからずっとだな……」
あんなに前から?
「ふふ。それならば、もっと早く助けてくれても良かったのにね……」
「それは無茶な話だ……」
アマツの話では、ギリギリまで姿を見せなかったのではなく、見せる事が出来なかったそうだ。そもそも、私が鬼神の眷属の力に目覚めていない状態では、アマツを視認できなかったのが理由らしい。
「うん? その話はおかしくないかい? 忌み子ちゃんと一緒にいた時は君の姿が見えていたじゃないか」
『アレはレティシアが近くに居たからだ。逆にレティシアが近くにいないと鬼の眷属であるお前達以外に私の姿を視認する事は出来ない』
なるほど。
つまりはゲローンからすれば、私が独り言を言っているように見えている訳か……。ふむ……。
「頭がおかしくなったと思われるのは不本意だ。しばらく無視していいかい?」
『別に目の前にいるのは敵なんだから別にいいだろう』
まぁ、そうなのだが……。
私とアマツが話をしていると、その様子を怒り狂った顔で見ていたゲローンが背中の骨に私を襲わせる。
しかし、こんなに遅く襲ってくる骨なら、掴む事が出来そうだな。
私はゲローンの骨を二本とも掴んだ。
……不思議な感覚だ。今ならばこの骨も砕けそうだ。
バキィ!!
ふむ。思っていたよりも簡単に砕けたな。
「げぇ!? な、なぜ、魔導士のお前が俺の骨を掴んだ挙句
砕く事が出来るんだ!?」
「さぁ?」
私はゲローンの骨を砕いた自分の掌を見る。先ほどから私を傷つけているように、ゲローンの骨は鋭い突起が無数についていて、そんなモノを握り潰したというのに私の掌には傷一つない。
「これはアマツの力かい?」
『いや、それが鬼神の眷属の恩恵だ。鬼の魔力でお前の体を包んでいる。だから、通常とは別格の身体能力を持つ事が出来る』
眷属の力ね……。思っていたよりも、強力な力を手に入れてしまったみたいだ……。
それに……。
「魔力が回復したと思っていたが……、私も到達する事が出来たみたいだね……」
『あぁ、お前は元々素質があったんだ。だが、ベアトリーチェに洗脳されていて、邪魔していたんだろうな』
「あはは。それは愉快な事だね……」
私とアマツが談笑していると、ゲローンの体から何本もの骨が飛び出してきて私に襲い掛かる。
数は……。
「十二本か。さっきまでの私なら殺せていただろうけど、今は無理だと思うね……」
私は、一瞬でレールガンを十二発撃ち、ゲローンの骨をすべて撃ち砕く。
「な、なんだと!?」
ゲローンは骨で攻撃しても無駄だと思ったのか、自分の腕を一回り以上大きくして私に殴りかかる。しかし、私は片手でゲローンの拳を止めた。
「鬼神の眷属の身体能力は便利だね。このような大きな拳を止める事が出来た」
『くくく……。どれだけ大きくても、この程度の物理攻撃など止められて当然だろう?』
「いや、それでも体重差などがあるから、普通は簡単に受け止められないだろう?」
そう言えば、忌み子ちゃんもあんなに小さな体なのに、大男の攻撃を普通に止めていたな。同じ原理か?
「貴様ぁああああ!! さっきから何を独り言を!! 俺を無視するな!!」
「うるさい」
私はゲローンの太ももをレールガンで撃ち抜く。しかし、ゲローンの傷はすぐに塞がる。
「ふむ。やはり新人類には通常の魔法は効かないのかな?」
そう考えたら、新人類と言うのは厄介と言えば厄介だね……。
しかし、私の考えをアマツは否定してくる。
『いや、こいつは炎熱系に強いと言うだけで、レールガンでダメージを与える事は出来るはずだ。ただ、【超速再生】という特殊能力を持っているから、殺しにくくなっているだけだろうな……』
「なるほどね……」
という事は、こいつを殺すには一撃で殺しきらなければいけないと言うわけか。
私に使える最強の魔法は爆縮・クリムゾンだ。アレは上級魔法とはいえ爆縮により威力が通常の百倍まで強化されている。しかし、ゲローンには効かなかった。
「くくく……。ようやく俺を倒す事が出来ない事に気付いたか? それに……」
ゲローンは再び村人を襲い始めようとする。
「くはははは!! 守れるものなら守ってみろ!!」
「言われなくても、そうさせてもらうよ」
私は村人全員に結界を張る。ついでに死んでいる老人達を生き返らせておく事にしよう……。
私は蘇生魔法を死んだ老人達に使う。彼等は死んだ直後だ。今なら生き返らせる事も可能だろう。
しばらくすると、死んでいた老人達が目を覚ます。しかし、致命傷を負っている老人達はすぐに死んでしまうな。
これは私も失念していた。私は急いで爆縮・ヒーリングを使う。
私は治療師ではないから、サルヴェイションは使えない。だが、爆縮を使えばサルヴェイションに近い回復量を引き出せる。
私が村人を守りながら、村人を蘇生し治療までしているのを見て、ゲローンは青褪めていた。
「な、なぜ、急激に強くなった!?」
ゲローンが必死になって聞いてくるが、答える必要はないだろう。
私はゲローンを無視して、アマツに鬼神の眷属の力の事を聞く。
「ところで、アマツ。忌み子ちゃんの眷属になったのは分かったんだが、何か眷属専用の魔法は無いのかい?」
『ん? あると言えばあるぞ。少し待っていろ』
アマツが私の頭に触れると、いくつかの魔法が頭の中に浮かぶ。これが、鬼紅魔法という奴か……。この魔法は鬼の眷属の力を使わなければ、使用できないという事だな……。
「じゃあ、早速使ってみるかな」
まずは、炎熱耐性があると言っていたからな……。この魔法だ。
「鬼紅魔法、鬼炎」
この魔法は、鬼の眷属の魔力を使い敵を焼き尽くす魔法だ。クリムゾンの様に、炎の球を発生させるわけじゃなく、敵の体の中で発火させる魔法だ。
一瞬でゲローンが炎に包まれる。これは……。
「ほぅ……。忌み子ちゃんが良く使う焼却魔法か」
しかし、忌み子ちゃんほどの火力が出ているようには見えない。これは炎熱耐性を持っているからか?
「だから、効かんと言っているだろうが!!」
ゲローンは、炎を振り払う。どうやら、忌み子ちゃんの焼却魔法に耐えられると言うのは嘘ではないようだな……。
「あぁ、そうみたいだね。でも……」
炎がダメなら、雷ならどうかな?
「鬼紅魔法。鬼雷」
この魔法は雷魔法の禁術、神雷に鬼神の魔力を上乗せさせている。その証拠に、通常の雷と違い赤い雷がゲローンに落ちた。
「き、効かぬ……、ぬ……、ああぁああああああ!!」
炎熱耐性があるから耐えられると思っていたのだろうが、鬼神の眷属の魔法がそんなに甘いモノの訳がないだろう?
ゲローンは、鬼雷に焼き尽くされた。流石に焼き尽くされたら復活は出来んだろう。
しばらく警戒していたが、完全に消滅させられたようだ……。
「ふぅ……、何とか勝てたみたいだね」
私はその場に倒れこむ。
どうやら、鬼神の眷属の力というのは体にかなりの負担をかけるようだね……。
はは。
これは数日はまともに動けないな……。




