53話 ベアトリーチェとの対峙
テリオスに案内されて、大聖堂の一番奥に連れて行かれます。
テリオスについて大聖堂の廊下を歩きます。前にアブゾルに会う為に来た時は、神官達が歩いていましたが、今は誰もいません。
しばらく歩くと、アブゾルと話をした部屋に連れてこられました。まぁ、魔力を感知する事でベアトリーチェがここに居る事は知っていたんですがね。
「扉をけ破った方がいいですか?」
「いや、私が開けるから、大人しくしておいてくれ」
まったく。
蹴り破った方がインパクトがあって楽しいのですがね。
部屋に入ると、アブゾル達と話をしていた部屋に玉座が置かれていました。当然、その玉座にベアトリーチェが座っています。
しかし、エルジュといい、ベアトリーチェといい、どうして玉座に座るのですかね。馬鹿の一つ覚えですかね。
ベアトリーチェは私を見てにこりと微笑みます。気持ち悪いですね。
「ベアトリーチェ、久しぶりですねぇ。今のその姿が本当の姿なのですか?」
以前学校で戦ったベアトリーチェは、長い黒髪でしたし、グランドマスターは銀色でした。しかし、目の前にいるベアトリーチェは黒と銀が混ざったのか、灰色の髪の毛でした。
「はて? グランドマスターだった時は顔が傷だらけでかっこよかったのですが、今は何の変哲もない面白みのない顔ですねぇ……。ちょっとジッとしておいてください。ナイフで元通りにしてあげますよ」
早速挑発してみましたが、ベアトリーチェは静かにしています。
もしかして死んでいるのでしょうか? しかし、魔力は感じますので、一応生きているみたいですね。
「お話もできないお人形さんなんですか?」
「くくく……。相変わらず口の悪い子だね。レティシア、君と交渉がしたいんだが、聞く気があるかい?」
「交渉? ぷぷっ……、いまさら命が惜しくなったんですか?」
私は口を押えて笑う真似をします。しかし、ベアトリーチェは勿論、テリオスも全く怒りません。少しは、反応してくれたらいいのですが……、まったく……面白くありません。
私は、笑う真似を止めて話を聞きます。
「それで、交渉とは? 貴女が死んでくれるのであれば、ある程度の事は聞いてあげますよ」
「そうだね。では、単刀直入に……、私と一緒に神界を滅ぼさないかい?」
「はい?」
神界を滅ぼすという事は、サクラ様をも敵に回すという事ですか?
ふむ……。
「貴女は馬鹿ですか? 私にも勝てない貴女が、神界をどうにかできるとでも? 分際をわきまえた方がいいんじゃないんですか?」
とはいえ、私も神界とやらには行った事もありませんし、サクラ様とも戦った事はありません。しかし、ベアトリーチェ如きがどうにかできると思えません。
「あはは。相変わらず生意気な小娘だね。君は今の立場を分かっているのかい?」
「はい?」
「今の私はほぼ完全体。邪魔なベルがいない分、完全体よりも強い。君は学校で戦った時、鬼神程度の力でさえ扱いきれず自爆しただろう? それなのに、どこにそんな自信があるんだい?」
はい?
私が鬼神の力を扱えない?
あぁ、もしかしたら、黒髪のベアトリーチェが本体に一番近く、学校で殺した事で最近の私の事を知らないのですかねぇ……。
「あのぉ……、貴女がなんの自信をもって勝ち誇っているのかは知りませんが、鬼神の力でしたらもう使いこなしていますよ」
「ふふふ……。君が私に勝てると思っているのなら……少し現実を見せてあげよう。テリオス」
「はい」
テリオスは赤い剣と盾を取り出します。少し七色に光っていますね。
「もしかして、ヒヒイロカネですか? ヒヒイロカネは伝説の鉱石だと聞いたのですが……」
「くくく……。私の力で作り出しました」
そう言ってテリオスは赤く七色に輝く鉱石を取り出しました。ふむ。【破壊】の力をグラヴィで再現していましたが、【創造】も再現できたのでしょうか? いえ、よく見たら鏡の様な輝きではありませんよ?
私はレティイロカネを取り出します。
ふむ。真っ黒ですが光により七色に光って、鏡の様に綺麗です。ヨルムンガンドは鏡のような輝きじゃないとヒヒイロカネとは言えないと言っていたような気がしますし、テリオスの持っているヒヒイロカネだったら、スミスさんも興味を示さないかもしれませんね。
「な、なんだ……? その禍々しい鉱石は……」
「はて? 禍々しいですか? 私からすれば、そんな偽物のような輝きしかないヒヒイロカネもどきよりも綺麗だと思うのですが?」
テリオスは私の言葉に腹を立てたのか、無言でヒヒイロカネをしまい込み剣を構えます。顔を見てみると、眉間にしわが寄り怒っているように見えます。ただ、元々死人のようなモノなので、顔色は悪いみたいですが……。
「テリオス。落ち着くんだ。レティシア、君は勘違いしている」
「はて?」
「テリオスは私の記憶にあった鉱石を再現したんだ。私は君とは違い本物のヒヒイロカネを見た事がある。だから、君がどれだけ偽物と言おうと、テリオスの持つ剣は本物のヒヒイロカネの剣だ」
「そうなのですか? まぁ、どうでもいいです」
私はファフニールを取り出します。すると、ファフニールから強力な魔力が発せられます。
そう言えば、ベアトリーチェはファフニールの事をヨルムンガンドと馬鹿みたいに間違えて呼んでいましたね。同じの名を付けられた武器として、恥ずかしい勘違いをしていたベアトリーチェを許せないのでしょうか。
大丈夫ですよ。私がちゃんと懲らしめてあげますから。
私はファフニールを優しくなでてあげます。
さて、戦いましょうか。
……はて? テリオスとベアトリーチェが少し驚いているみたいですね。
テリオスは震える声で、私の背後を指差します。
「そ、その背後にいる巨竜は……」
はて?
私が振り返ると、そこには怒り狂った顔をした大きな竜が飛んでいました。
半透明ですから、目の錯覚でしょう……。
『え?』




