50話 真の勇者
ロブストの決死の攻撃のおかげで、グラーズのヒヒイロカネの盾が砕けた。
「き、貴様らぁああああ!! ベアトリーチェ様に授けていただいたヒヒイロカネの盾を!!」
不味い。
サジェスとロブストがグラーズに斬られた。しかも、あの出血量……、かなり危険だ。
マリテにサルヴェイションを使ってもらうか? いや、ここからだと距離がありすぎる。マリテが聖女でサルヴェイションを使えると言っても、エレンやオリビアのような超広範囲じゃない。
俺にできる事は二人からグラーズを離れさせる事だ!!
俺は聖剣を強く握り、グラーズに斬りかかる。
「そこをどけぇええええ!!」
グラーズの腕を狙い斬りかかるが、グラーズは大袈裟なくらい大きく下がった。
これで、二人と引き離さす事が出来た。後は何とか二人をマリテのところに連れて行く事が出来れば……。
しかし、グラーズが斬りかかってくる。
「ヒヒイロカネの盾が無くなっても、ベアトリーチェ様から授かったこの水晶の剣があれば、お前程度なら簡単に殺せる!!」
そんな事知るかよ。
俺は血を流す二人の前に立ち、グラーズを待ち構える。その時、震える声で二人が俺に声をかけてきた。
「アレ……ス。俺……達に構わず……グラー……ズを倒せ」
「お前……は、私達の……ゆ、勇者だ。おま、えさ、生きていれば……いい」
何を言っている!?
俺にとって二人も大事な家族だ。見捨てられるわけがない。
二人はそのまま意識を失った。
とその時、二人の体が淡く光った。まさか、サルヴェイションの範囲に入ったのか?
俺はマリテに視線を移す。しかし、マリテは首を横に振る。
何がどうなっている?
俺はグラーズの攻撃を捌きながら考えるが、今はそれどころじゃないと思ったその時、グラーズの攻撃がまるで止まっているかのように遅くなった。
いや、俺の動きも遅くなっている!?
な、なんだ!?
(勇者アレスさん。お仲間の二人は私が治療しておいてあげますから、貴方はその機械兵を倒しておいてくださいね)
今のは誰だ?
女の声だったが、聞いた事がない声だ。
しかも、頭の中に直接語り掛けてきた……。
首を動かそうとしたが動きそうもないので、俺は目だけを二人に向ける。
淡く光る二人に水のようなものがかけられると、傷が光始め、塞がり始めようとしているように見えた。
声の主が自然治癒魔法でも使ったのか?
いや、サルヴェイションであればすぐに傷が塞がるはずだ。しかし、血までは戻らないから完全回復とまではいかないはず。
(私は女神ですが、治療魔法を使えないのですよ。今使ったのは、効果を百倍まで高めた自己再生ポーションです。この世界にはまだない物ですが効果は私が作ったので間違いありませんよ。それと、すごく高価なのですが、貴方達には請求しませんので安心してくださいね。あ、お金の事が気になるのであれば気にしなくていいですよ。後でサクラ様に請求するので)
高価? お金? 請求? サクラ? いったい何の事だ?
(さて、思考加速もここまでです。貴方はこの世界の本当の勇者ですからね。一度だけ助けてあげました。この後、勝つか負けるかは貴方次第ですよ。頑張ってくださいね)
と突然グラーズの動きが元の速さに戻った。俺は迫るグラーズにハッとする。
今のは一体何なんだ? 思考加速?
いや、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
しかし、今の声が本当の事を言っているのであれば、二人は大丈夫なはずだ。
俺は二人から離れる様に、グラーズに斬りかかる。
これにはグラーズも驚いたのか、動きが鈍る。
「な!?」
俺が二人を見捨てているように見えたんだろが、俺にできる事はお前を倒す事だけだ!!
俺はグラーズの水晶の剣を斬り払う。すると、水晶の剣は高く大きな音をたてて砕けた。
グラーズは砕けた水晶の剣を凝視していた。
そして……。
「ふ、ふざけるな!! 私の武器を破壊したからと言って、お前では我を倒せん。我の鎧を見てみろ!! この鎧はヒヒイロカネに進化した!!」
確かにグラーズの鎧は黒から赤に変わった。
だが、だからどうした?
俺の聖剣は、あのレティシアが作り出したレティイロカネで出来ているんだぞ? たかが、ヒヒイロカネ程度でどうにかできると思っているのか!?
俺がそう思った事と呼応したのか、エクスカリバーの剣身が七色に輝きだす。こ、これは!?
グラーズは、どこかから取り出した大斧を振り上げている。だが、その大斧を振り上げた両腕を一気に斬り払った。
「がっ!?」
「……!」
グラーズの腕は驚くほどアッサリと斬り飛ばせた。これにはグラーズも驚いているのか、無くなった腕を呆然と見ていた。
「これは……」
俺はグラーズの腕の切断面を見る。中にはびっしりと色々なモノが詰まっていた。
おかしい……。
今回のグラーズは、シュラークが鎧を着ただけだったはずなのだが、血が全く流れていない。サジェスの言っていたシュラークじゃなくグラーズになってしまったのか?
俺は甘ったれだ。
今だって、内心はグラーズの腕を斬り落として、血が出なかった事にホッとした。
これがすでに人間じゃないんであれば、遠慮はいらない。
俺は、茫然としているグラーズの目を聖剣で衝く。グラーズは突き刺さる直前に気付いたのか、慌てて俺の剣を避ける。
作り物の分際で慌てるとは人間っぽいな。だが、もう終わりだ。
グラーズは逃げ出そうと背を向け走り出すが、逃がすつもりはない。俺はグラーズにとびかかり、背中から人間であれば心臓のありそうな場所を突き刺す。
「がっ!?」
グラーズは一瞬立ち止まり、動きが鈍くなる。しかし、完全に動きは止まらない。
そう言えば、ジゼルが「機械兵を倒すには核を破壊する必要がある」と言っていたな。
しかし、どう核を探す?
……とその時。
「アレス!! 剣を刺したまま離れろ!!」
この声はサジェス!?
俺がサジェスを見ると、ロブストに支えられたサジェスが魔法を撃とうとしている。俺は大きく離れる。
「神雷!!」
サジェスの放った神雷は、俺の剣に落ちる。そのままグラーズに雷が落ちたのだが、「ガ……ゴ……ゴ……」とまだ逃げようとしている。
威力が足りないのか!?
サジェスは二発目を撃とうとしているが、顔色が悪い。魔力が尽きかけているのか!?
とその時、サジェスが使った神雷よりもはるかに強力な雷が俺の剣に落ちる。
爆音とともに土煙が上がった。
しばらくすると、土煙が晴れると……グラーズだったモノがその場で崩れかけていた。
「た、倒した?」
俺は自分の剣を取りにグラーズに近づいた。まだ、動くかもしれないから、警戒はしていたのだが、グラーズは全く動かなかった。
だが、俺の剣はグラーズに刺さっていなかった。まさか、二発目の神雷で焼き尽くされたか?
俺がグラーズだったモノを見ていると(仕留めきれそうになかったから少しだけ手助けをしてあげましたよ。報酬としてこの黒い剣は貰っておきますね)と聞こえた。
きっと、アレは神の類だったんだろう……。自分で女神と名乗っていたからな……。
しかし、金とか報酬とか……、俺達を助けてくれた女神は強欲なんだろうな……。




