48話 至宝
鎧魔王シュラークは、アレスの攻撃を受けてもダメージを受けている様子もなく平然としていた。
アレスの聖剣エクスカリバーはレティシアの作ったレティイロカネ製の武器の中でも一、二を争うほどの斬れ味を誇る。それなのに、アレスが斬り払った腹部の装甲には傷もついていない。
思っているよりも、凄まじい防御力を持っているようだが、今の斬撃はアレスの本気じゃない。
アレスが本気を出せば、俺達では敵わない程の強さだし、あの程度の威力なわけがない。リーン・レイの中でもレティシアを除いて二番目の強さだ。
一番強いドゥラークでも……、いや、条件次第ではアレスの方が強いかもしれない。
くっ……。
毒で目が霞む……。
こんな事なら、オリビアから治療魔法を教わっておくんだったな……。
そんな風に考えていると、マリテが私の下へ駆けつけて来てくれた。
「サジェス、大丈夫!? エクスキュア!」
さすがはエレンに次ぐ聖女だ。
状態異常治療魔法のエクスキュアのおかげで、体が軽くなってきた。
しかし……。
「マリテ、ありがとう。楽になったよ。だが、お前はアレスの子を宿しているんだ……。こんな戦場に……」
「うん。無理をしないのを条件にここに連れて来てもらったのよ。治療魔法を使える者がいないと、もしもの時に対処できないでしょ? それよりあれって……」
「あぁ、レティシアの言っていた、エスペランサを襲った機械兵でゴブリン魔王と呼ばれていたグラーズだ。今は、シュラークがグラーズという鎧を着ているんだ」
「え!?」
マリテが驚くのも無理もない。拠点であるセルカや故郷をメインで仕事をしていたが、ちょくちょくエラールセでも依頼を受けていた。その中にはギルド学校からの依頼もよくあり、私達自身も何度かギルド学校の学長と会っている。
マリテは信じられないと言った顔をしている。まぁ、私達の出会ったシュラークは、人の好い女性だった。話し方も心根も善人だと思っていた。とてもじゃないが、目の前の黒いゴーレム……、いや、機械兵の核になっているとは思えないだろう。
さて、動けるようになったのであれば、ロブストたちの下に戻らねば……。私がゆっくりと立ち上がると、ロブストが私を呼ぶ。
「サジェス!! 再び強化魔法を使ってくれ!!」
もう強化魔法の効果が切れたのか?
私はマリテをイラージュと共に下がらせ、ロブストの元へと戻る。
今はアレスとシュラークが一対一で戦っている。私が見る限りアレスが押しているように見えるのだが、ロブストから見ればアレスに手を貸した方がいいと言う。
「どういう事だ?」
「シュラークの奴はアレスの攻撃を受けているがダメージがまるでない。だからこそ、避ける必要がないと判断しているんだ。それに、アレスの動きをジッと見ている。まるで、対策をたてているようだ。それに、シュラークの武器は両手の大斧だが、どう考えても力任せに攻撃しているだけで、斧で戦おうとしているように見えない」
どういう事だ?
私は元々直接攻撃できる武器を扱うわけじゃない。ロブストが言うには、斧には斧の戦い方があるそうなのだが、シュラークの戦い方は斧ではなく剣で戦っているような動きなのだそうだ。
「剣でだと? シュラークが使っているのは大斧だ。剣じゃない……」
「あぁ、そこから考えられるのは、シュラークの本当の武器は……」
ロブストが答えを言う前に、アレスがシュラークの大斧を砕いた。
今がチャンスだ!! と思ったのだが、アレスは大きく後ろに下がった。
なんだ?
「ロブスト!! サジェス!! ここからが本番だ!! 手を貸してくれ!!」
「あ、あぁ!!」
私とロブストは急いでアレスの下に駆け付ける。
シュラークは、赤い一つ目を怪しく光らせ、両腕を高く上げる。すると、鎧魔王の鎧を形作った黒い霧が再び現れ、盾と剣を形作る。
そして盾が完全に姿を現した時、私達はその輝きに目を奪われた。
「ちょ、ちょっと待て……、あ、あの盾は!?」
シュラークが出現させた盾は、赤色なのだが、七色に輝いていた。
アレは……ヒヒイロカネ……、ファビエの至宝か!?
それに、剣の方は氷よりも透明度の高い美しい水晶の剣だった。
「グラティアートルの至宝……」
ロブストがそう呟く。
グラティアートルといえば、勇者タロウの仲間だった剣姫ソレーヌの祖国だ。
そんな国の二本の至宝の一本に、この世で一番透明度の高い水晶を剣にした物があると、そして、その剣はこの世界で一番の斬れ味を持つ剣だと聞いた事がある。
シュラークは、なぜそんなモノを持っているんだ!?
「レティシアやジゼルが言っていたな。ファビエの至宝をどこを探しても見つからないと……。ベアトリーチェが盗んだかもしれないと言っていたな……」
アレスがボソッとそんな事を言う。私もその話を聞いていたな……。レティシアの予想は当たっていたみたいだ。
シュラークがゆっくりと落ちてきた剣と盾を装着する。すると鎧の色が黒色から赤色に変わっていった。これは……。
「ふはははは!! これが鎧魔王シュラーク様の本当の姿だ!!」
声が……。
今までは口調が悪くても、シュラークの声だった。だが、今のシュラークの声は低い男の声だ。
「さて、さっさとかかってこい、ウジ虫ども!!」
グラーズは、盾を前に出し剣を構える。魔導士の俺にはよくわからないが、アレスの顔を見てみると冷や汗をかいている。
「アレス。やばいのか?」
「あぁ、隙が全く無い。さっきまでのシュラークとは別人だ」
やはりか……。
アレはもうシュラークじゃないかもしれないな……。アレは、おそらくグラーズだ。
「アレス、ロブスト。今までは、あまり戦闘能力が高くなかったが、今からは別人と思った方がいい。アレはシュラークじゃなく、グラーズだ!」
私の言葉にアレスもロブストも顔つきが変わる。二人とも本気になったみたいだ。
「ロブスト、サジェス。グラーズの気を引けるか?」
ロブストと私は顔を合わせ頷く。
「アレス、時間稼ぎは一分が限界だ。私達も本気を出す。当然だが、アレも使う。だから……」
「分かっているよ。味方の攻撃を受けるなんて哀れな真似はしないさ……」
「あぁ、なら……」
ロブストは大槌を構え、グラーズに踏み込んでいく。私はロブストに魔法を撃ち込むために魔力を溜め始める。
さぁ、喰らえ!!
「神雷!!」
私が使ったのは、雷魔法の禁術で私が使える最強の威力を誇る魔法だ。これをロブストに撃つ。
ロブストは体に雷を溜め込む特殊体質だったらしく、レティシアの拷問により神雷でも溜め込む事が出来る様になっていた。そして、ロブストはその雷を力に変える事が出来る。
私は即座に別の魔法を放つ。
「ロブスト、馬鹿みたいに喰らうんじゃないぞ!! 超級風魔法テンペスト!!」
テンペストとは、荒れ狂う竜巻を超広範囲で発生させる魔法だ。今の私でも一分くらいしか発動させてられない。
私のテンペストと、ロブストに帯電した雷が合わさり、雷を纏った竜巻がグラーズを襲う。
これならばグラーズにもダメージを当てる事が出来ると思っていた。
だが、現実は厳しかった。
グラーズは、ヒヒイロカネの盾を使い私達の攻撃に耐える。いや、まったく効いていないのか!?
グラーズは、竜巻が収まるのを待ってから、近くにいたロブストの間合いに入った。
「チッ!! おぉおおおお!!」
ロブストは雷を纏った大槌を振り下ろす。しかし、ヒヒイロカネの盾で防がれてしまった。
「ロブスト!!」
グラーズは大槌が弾かれ態勢を崩してしまったロブストに、水晶の剣を薙ぎ払う。
ま、不味い!!
私は慌ててロブストの前に物理攻撃用の結界を張る。しかし、グラーズの剣は結界ごとロブストを斬り払った。
「がはっ!?」
ロブストは斬られる瞬間に自分から倒れこんだらしく致命傷は避けられた。
しかし、グラーズはロブストを再び斬ろうとする。
その時、アレスがグラーズに斬りかかった。




