44話 攫われたベル
残りの機械兵は七体。
この程度の強さの機械兵ならば、すべて破壊するのに一時間も必要ないでしょう。
「さて、さっさと残りも片づけてしまいますかね」
私が残りの機械兵を破壊しようと動こうとした時、私の魔法玉が光り始めます。
こんな時に誰ですか?
私は魔法玉を取り出します。この反応はギルガさんですね。
私は魔法玉に魔力を通し、通話状態にします。
「ギルガさん。こちらは今取り込み中です」
『レティシア! ベルが何者かに強制転移させられた!! ちょうど帰ってきたジゼルが強制転移魔法の効果を消そうとしたが、ジゼルですら止められなかった!! そっちでも、何かあったのか!?』
ベルが?
ベアトリーチェの唯一の善の心であるベルを欲している者を考えれば……、ベアトリーチェが転移魔法を!?
しかし、ベアトリーチェの本体はアブゾールに捕らわれているはずです。本体ならともかく、分裂したベアトリーチェがベルを転移できると思えません。
ジゼルですら止められなかった事を考えると……、次元転移魔法ですか!?
「いえ、こちらは些細な事です。十分ほどで戻ります」
『あぁ、頼む!!』
私はシュラークさんを睨みつけます。
しかし、シュラークさんは機械兵が壊された事に今も驚いているようです。
「随分と舐めた真似をしてくれましたね……」
「何かあったの?」
「ベルが攫われました。強制的に転移されたそうです」
「っ!?」
危険な人もセルカを拠点にしていたので、ベルの事は知っています。当然、私がベルに対して使っていた魔法も知っているはずです。
しかし、ギルガさんが言うように強制転移させられたのであれば、私の魔法を掻い潜って転移魔法を発動させたという事です。
つまりは、転移魔法を使ったのは、かなりの術者という事になります。
「シュラークさん。ベルを攫う為に無意味にギルド学校を襲撃したのですね?」
「な、なに!?」
はて?
驚いているところを見る限り、ギルド学校を襲っている最中に、ベルを攫うという計画をシュラークさんは知らされていなかったのですかね?
どちらにしても、ベルをベアトリーチェに吸収させるわけにはいきません。
しかし、私の前には大型の機械兵が。一刻も早く機械兵を壊し尽くさないと……。
私は一気に破壊する為に、ファフニールを取り出そうとします。その時、機械兵の一体が、巨大な大槌により叩き潰されました。
あの大槌は。
「な!?」
シュラークさんは、背後で大きな音が聞こえて慌てて振り返ります。そして、潰された機械兵を見て、茫然とするシュラークさん。機械兵達も、突然仲間が叩き潰されたものですから、戸惑っているように見えます。
はて? 機械兵にも恐怖心を持つ事が出来るのですかね?
大槌の持ち主は、潰された機械兵の頭の上に立ちます。そして、仁王立ちをして格好つけようとしたみたいですが、隣に転移してきた魔導士さんに叩かれます。
「ロブスト!! ゴーレムが呆けているうちに全て叩き潰せ!!」
「わ、わかってるよ!!」
頭を叩かれ怒られた男の人は、呆けている機械兵に大槌で殴りかかっていきます。
あの大槌を持った人は、アレスさん一行の戦士、筋肉戦士さんことロブストさん。そして、筋肉戦士さんを怒った魔導士さんはサジェスさんです。
しかし、筋肉戦士さんが最近急激に強くなっていたのは聞いていましたが、流石にあの大型の機械兵を一撃で倒せるとは思えません。そう思って筋肉戦士さんをよく観察していると、薄っすらと筋肉戦士さんの体が光っています。
……アレは?
まさかと思いますが、強化魔法ですか?
しかし、肉体の強化魔法は、自分以外には効力がないと聞いていましたし、私でも、強化する事は出来ません。
これは、何かからくりが?
私はサジェスさんに話を聞くために、サジェスさんの隣に転移します。
「サジェスさん、お久しぶりです。お二人がなぜここに?」
「レティシアちゃん、久しぶりだな。ギルガの旦那からエラールセに行ってくれと頼まれたんだ」
「そうなのですか?」
ギルガさんは、ベルが強制転移させられた直後、アレスさん達に連絡してくれたみたいです。
アレスさんとマリテさんはエラールセ城に駆け付け、ギルド学校の方に筋肉戦士さんとサジェスさんが駆けつけたそうです。
グローリアさんはここに居るので、アレスさん達は無駄足になってしまったかもしれませんね。
しかし、ギルド学校は機械兵に襲われているので、四人の中で一番強いアレスさんが来た方が良かったと思うのですが、筋肉戦士さんの強い希望でここに来たそうです。
なぜでしょう?
「ロブストさん。わざわざ来てくれたのね」
「あぁ……」
はて?
筋肉戦士さんと危険な人が見つめ合っていますよ? ですが、すぐに機械兵に向かって行きました。
なんだったのですか? 今の光景は……!?
背筋がゾクゾクっとしますが、今はそんな事はどうでもいいです。
そんな事よりも……。
「サジェスさん。筋肉戦士さんの強化は?」
「あぁ、以前からレティシアちゃんも研究していただろう? アレをジゼルが完成させたんだ。でも、強化魔法の相性の問題でほとんど成功しなかったんだ。だが、ロブストだけには成功したってところだ」
「なるほど。これは筋肉戦士さんを一度詳しく調べる必要がありますね。それよりも、ここは任せていいですか?」
「あぁ、グローリア陛下がここに居るという事は、じきにアレス達もここに来るだろう。レティシアはギルガさんのところに戻ってくれ」
「分かりました」
ただ、このまま転移するのも面白くありません。置き土産でもしておきましょう。
私はナイフをシュラークさんの両太ももを狙って投げつけます。
「ぎゃ!?」
「さて、シュラークさん。これが今生のお別れになります。さようなら」
シュラークさんは痛みに耐えながら、憎々しい目で私を睨みますが、どうでもいいです。
ちゃっちゃと転移してベルを取り戻すとしましょう。




