40話 マイザー王の処刑
ラロ達のクーデターから三日経ちました。
今日は、楽しい楽しい、マイザー王の処刑の日です。
マイザー王城の城門前の広場には、マイザー王の処刑を一目見ようと、町の人達が集まっていました。
「急な処刑だというのに、随分と人が集まりましたねぇ……」
当初の予定では、マイザー王に恩情をかけ、苦しませずに殺した後、首だけを晒す手筈だったのですが、マイザー王自身が「ワシを助けようとする者がいるはずだ!! ワシの為と言い、公開処刑を避けようとしているのだろうが、ワシが助けられるのが怖いのだろう!!」と怒鳴ってきたので、望み通り公開処刑にしました。
私は、マイザー王を拷問して、苦しめるだけ苦しめてから殺せばいいと言ったのですが、「王として死なせてやろう」と、次王のラロがそう言うので、納得しました。
「全く、ラロは甘々さんですねぇ……。マイザー王のような屑は痛めつけた上で殺せばいいのです」
「ははは。しかし、俺がここに赴任させられるとはな……」
私の横にいるのは、ドゥラークさんです。
オリビアさん達にマイザーを拠点にしてもらおうと思ったのですが、依頼で遠征しているらしく、後二週間は帰ってこれないそうです。
という事で、ドゥラークさんにはオリビアさん達が帰ってくるまでの間、マイザーを守ってもらう事にしました。
ドゥラークさんはリーン・レイの中でも私の次に強いので、オリビアさん達よりも安心はできます。
ドゥラークさんがマイザーに赴任するという事で、リディアさんも付いて来たがったのですが、リディアさん自身はしばらくベックさんの護衛という依頼が入っているらしく、泣く泣くセルカの町に残る事になりました。
「お嫁さんとしばらく会えなくなりますが、オリビアさん達が遠征から帰ってくるまでです」
私はドゥラークさんの背中をバシバシ叩きます。
気合でも入れてあげましょう。
「い、いや、だからな……」
「聞いていますよ。セルカの拠点では、同じ部屋に住んでいて、仲良くしているそうじゃないですか。もう今更、誤魔化そうとしたり、隠しても無駄です」
「あ、あのなぁ……」
ドゥラークさんは観念したのか、困った顔をして頭を掻いていました。
「と、ところで、グローリア陛下は来ないのか?」
「はい。マイザーの支援金をどうするかを財務大臣? という人と話をするのに忙しいらしく、来ないそうです」
「表立っては資金提供は出来んからな。かといって、俺に依頼金を払うにしても限度がある」
「はて?」
「今回の報酬は、莫大な金額になる」
「はて? どうしてですか?」
「今回の俺に対する報酬は国に対する支援金だ。いつもの俺達の報酬とは、桁が三つか四つ違う。そんな金額を一人の冒険者に払ったなんて事実が明らかになった場合、真っ先にマイザーが疑われる」
「なぜです?」
疑わられるなら、マイザーではなくリーン・レイかエラールセではないのですか?
しかし、ドゥラークさんは「俺がマイザーにいる以上、マイザーに金が流れていると気づく奴は間違いなくいる。特に外交に関わっている奴等なら、確実に気付くだろうな……」とため息を吐きます。
……と無駄な話をしていると、広場が騒がしくなります。
「処刑が始まるみたいですよ」
「お前……、嬉しそうにするなよ」
嬉しそうにするなと言われても、今からマイザー王は絶望したうえで、処刑されるんですよ?
こんなに楽しい余興は無いじゃないですか。
マイザー王は処刑台に上がると、何かを叫んでいました……が、町の人間達はその言葉に怒り、石を投げつけていました。
その光景を見て、ドゥラークさんが首を傾げています。
「マイザーの広場には、あんな投げられるような大きさの石なんてなかったはずなのに、なぜ町の連中は石を投げつけているんだ? まさか、わざわざ持ってきたのか?」
ドゥラークさんの言う事は半分正しいですが、半分間違っています。
マイザーという国は、町の人達には苦しい生活をさせていた癖に、城の前の広場だけはとても綺麗だったのです。
私はマイザー王に絶望を与える為に、投げやすそうな大きさの石をそこらに置いておきました。
そのおかげで町の人達はマイザー王に石を投げつけられます。
「あはははは。とても面白い事になっているじゃないですか。石じゃなくて、ナイフを設置していれば良かったかもしれません。そっちの方が、面白かったかもしれませんね」
「お前が設置したのかよ!? しかも、ナイフなんて設置したら大惨事になるじゃねぇか!?」
「はて? どうせ死ぬんですから、どうでもいいじゃないですか」
その証拠に、ラロが剣を振り上げると大きな歓声が沸き上がります。
きっと、これがマイザー国民の答えなのでしょう。
はて?
そういえば、子供の姿が見えませんね。
「親達が子供には見せないようにしようとしているらしいな……。まぁ、それが正解だろう」
「はて? 私は六歳の時にお母さんの処刑を見せつけられましたよ?」
「……」
ドゥラークさんは優しい顔で私の頭に手を置きます。
なぜでしょう?
ラロがマイザー王の首に剣を振り下ろしたと同時に、私の魔法玉が光ります。
「ん? 誰からだ?」
「この魔力はジゼルです」
あぁ!?
マイザー王の首が飛ぶところを見れませんでした!?
「ジゼル? アイツはフィーノの村に戻っているんじゃなかったのか?」
「あ……はい。ジゼルはグローリアさんから資金援助のアドバイスが欲しいと頼まれまして、エラールセ城に行っているのですが……、何かあったのでしょうか?」
私は魔法玉を起動させます。
すると、ジゼルが暗い声で「忌み子ちゃん。今すぐエラールセに戻って来てくれないかい?」と言ってきます。
「何かあったのですか?」
「あぁ……、詳しい話はエラールセに戻ってからだ……。ドゥラーク殿……。マイザーに、ベアトリーチェの手の者が現れたら……」
「あぁ、無理はしねぇさ……」
私はドゥラークさんと別れ、エラールセに転移してきました。
いつもは、エラールセ城の外に転移するのですが、今回は執務室に直接転移してきました。
執務室にはグローリアさんとジゼル、そして財務大臣という人が青褪めた顔でテーブルの上に置かれた箱を置かれていました。
その箱の中には、若い男性の頭が入っていました……。




