37話 マイザーでのクーデター
マイザーを滅ぼす。
過去に囚われた私がこの国に居続ける理由であり、私の最終目標。
だけど、心のどこかで諦めていた。
王族を殺すだけなら、私単騎で充分可能だったし、今からでも簡単に実行する事は出来る。
でも、私は実行しなかった。
タロウも私の復讐に手を貸すと言ってくれていたけど、私は冒険者としてのタロウとの生活が楽しくなって、復讐なんてどうでもいいとすら思っていた。
それなのに……。
『ラロ。お前がマイザー王になれ』
「は?」
な、何を言っているの?
私が王?
私はマイザーを滅ぼそうとしているのであって、王になりたいわけじゃないわ……。
……でも。
「オカマの王国を作ればいいんですよ。危険な人もそんな国でしたら平和に生きられます」
危険な人?
それって、イラージュの事よね?
でも、彼女は私達とは違い生物上は女性のはずなんだけど……。
でも、レティシアちゃんが言った、オカマの国というのは呼び名はともかく、私達、冒険者の国にするというのには魅力を感じるわね。
「グローリア陛下。私に王になれと言うけど、どうすればいいの?」
『そうだな……。今の時間は遅い。レティシアのような子供は早く寝た方が「私は子供ではありませんよ?」……、いや、「私は子供ではありませんよ?」……だから……「私は子供ではありませんよ?」……わ、分かった……。子ども扱いして悪かったな……』
「はい」
どうやら、レティシアちゃんの事を「子供」と呼ぶのは駄目みたいね。重要な話でも、中断されてしまうわ。
「グローリア陛下……」
『あぁ、すまんな。ラロ、お前はマイザーの英雄なんだろう? お前には、お前と同じ考えの冒険者を集めて欲しいんだ。そして、明後日にクーデターを起こす』
明後日。
随分と急な話ね。
でも、明日一日余裕があるだけマシかしら?
「クーデター、知っていますよ。昔、ファビエで同じ事をしましたよ。その後にファビエは滅びてしまいましたけど」
レティシアちゃんが言っているのは、ジゼルが引き起こしたと言われている大魔法の【ネクロマンシー】ね……。
あの惨劇の時、私の顔なじみの冒険者も巻き込まれたと聞いたわ。
だけど、疑問も残るのよね。
あんな大魔法を、たった一人の人間……。しかも、【無限の魔力】を持っていないジゼルに可能なのかしら。
私も長く生きているから分かるのだけど、【無限の魔力】を持っていない限り、不可能なはずなんだけど……。
「グローリア陛下。冒険者を集めておいたらいいのね……。集める時に真実を語ってもいいの?」
『あぁ……。お前と一緒にマイザーを変えたいという奴を集めろ。さて……レティシア……』
「はて?」
突然、グローリア陛下はレティシアちゃんにだけ話があると、魔法玉を持って私達に聞かれないであろう少し離れたところまで移動させた。
レティシアちゃん達が話をしている間、タロウを治療していた治療師から話を聞く事にした。
どうやら、私達冒険者を治療してはいけないと言ったのは、マイザー王であり、グランドマスターからの命令でもあったそうだ。
しかし、マイザー王がそう言うのは分かるけど、どうしてグランドマスターが冒険者を名指しして治療してはいけないと言ったのかしら?
「ラロ姐さん。この国のギルドはもう腐っている……」
騒ぎを聞きつけてこの場に現れた冒険者が言うには、ギルドの幹部連中はマイザー王国の要職に就く予定らしく、マイザー王とグランドマスターは、この国からギルドを無くす方向で話を進めていたそうだ……。
しばらくすると、レティシアちゃんが満面の笑顔でこちらに近づいてきた。
何を企んでいるんだろうか……。
「忌み子ちゃん。グローリア陛下はどういった話をしていたんだい?」
ジゼルも気になったのか、レティシアちゃんに話を聞こうとしたいるが、レティシアちゃんは唇の前に人差し指を置き、「内緒です。あ、ジゼル、私はこのまま別の依頼が入ったので、エレンを拠点に連れて帰ってあげてくれませんか?」と笑った。
「ん? それはいいのだが、グローリア陛下から何の依頼を受けたんだい?」
「秘密です」
レティシアちゃんが嬉しそうにしているところを見ると、碌でもなさそうな依頼を受けたのだろうが、私は私のできる事をするだけだ。
まさか、グローリア陛下の方から話を持ち掛けてきておいて、私の邪魔をする事はないだろう。
その日はレティシアちゃん達を見送ってから、私は冒険者ギルドへと足を運んだ。
この時間だから、冒険者がいるかは分からないけど、私と付き合いのある冒険者はいるはずよ……。
私がギルドに入ると、冒険者達が駆け寄ってきた。
思っていたよりも、冒険者はギルドにいたみたいね。
みんな、口々に「タロウは誰に殺されたんだ?」と言っていた。タロウもこの町でだいぶ受け入れられていたみたいだから、この、みんなの反応は嬉しいわね。
私は冒険者達を集めて事の経緯を説明する。
そして……。
「この国を冒険者の国にしたいのよ。私と一緒にこの国を変えない?」
普通はいきなりこんな事を言われても、誰も手を挙げる者はいないと思ったんだけど、ここに居る冒険者はみんな私に協力してくれるそうだ……。
クーデターは明後日……。
私達はクーデターに必要なモノを、一日で必死に準備した。
幸いな事に、城の兵士は誰一人としてクーデターに気付くそぶりを見せずに、邪魔をしに来る事もなかった……。
しかし、気になる事もあった。何人かの冒険者が準備の最中に消えた。
冒険者達に話を聞くと、消えた冒険者達は、この国で甘い汁を吸っていて、どちらかと言うと、マイザー王国側の冒険者だったらしい。
マイザー王にクーデターの事を……と警戒をしていたのだけど、結局何事もなくクーデターの日を迎えた。
どういう事?




