36話 ラロの夢
タロウが死にました。
この世界に召喚された当初は、糞のような生き物だったようですが、ここ数か月はまともな生物に生まれ変わっていたようです。
そんなタロウが最期に望んだ事……、それがラロの夢を叶える事です。
……ふむ。
別に私がどうこう思う必要はないのですが……、分かりました。私がタロウの夢とやらを引き継いであげましょう。
「ラロ。貴方の夢とは何なのですか?」
「え?」
私がそう尋ねると、ラロは涙を流しながら唖然とした顔をしていました。
ジゼルは「今はその事はいいじゃないのかい?」と言っていましたが、私はそれを聞くと決めたんです。
でも、ラロも「い、今は何も考えたくないの……」と言います。
それではだめですよ。
タロウが、悔いに残ると言ったのはラロの夢を手伝う事だったんです。
タロウが望んだのですから、ラロが動かなくてはいけません。
「もう一度聞きます。ラロの夢は何ですか?」
「忌み子ちゃん!!」
ジゼルが私を止めようとしますが、エレンがそんなジゼルを止めてくれます。
「ジゼルさん。レティが同じ言葉を繰り返している時は、絶対に折れないよ……。それに、レティも何も考えずに言っているわけじゃないと思うの……」
「そ、それは……」
ジゼルもようやく理解してくれたみたいです。
私はラロが話し始めるまで黙ります。
五分くらい沈黙した後、ラロは「マイザーを滅ぼす事よ……」と消え入りそうな声で呟きます。
マイザーを滅ぼす事ですか……。
そう言えば、ラロと出会った時も同じような事を言っていた記憶があります。
滅ぼすのであれば簡単です。
私はマイザー城に向おうとします。しかし、またジゼルに止められてしまいました。
「なんですか?」
「忌み子ちゃんはどこに行こうとしているんだい?」
「もちろん、マイザー王城ですよ。今からマイザー王を殺しに行きます」
そうすれば、簡単にマイザー王国は滅びます。
あ、ついでにマイザー城に住む人すべてを殺しておきましょう。国民に関しては、生かしておいてあげますよ。
「そ、それは駄目よ……。タロウを殺したのは、レギールだろうし、目撃者の話ではレギールを倒したそうだし……」
ふむ。
タロウはレギールを倒したのですね。
タロウの死に方を見る限り、強力な力を使ったのでしょう。
その反動で肉体が保たなかったのでしょう。
でも、今はそんな事は関係ありませんよね?
「レギールはグランドマスターの部下だったのよ。マイザー王とは繋がっていないわ。だから、タロウが殺されたと言って……マイザー王を殺す理由がないのよ」
「はて? マイザー王は愚王ですよ。殺したとしても問題ありませんよ?」
私が改造した状態ならばいいですが、今はクズなのでしょう?
「そもそも、スミスさんを殺そうとした時点で、生かしておく価値はないのですが?」
「忌み子ちゃん。一国を滅ぼすというのは、そんなに簡単な事じゃないんだよ」
確かに国を滅ぼすのは簡単ではないでしょう。
でも、ここの兵士は大した強さでもないですし、王なんて首をちょいっと捻ってやればすぐに死にます。
あ、もしかしたらまた別のグランドマスターもいるかもしれません。
皆まとめて殺せばいいと思うのですが?
ジゼルは私を呆れた目で見た後、ラロの方を見ます。そして「忌み子ちゃんは人の話を聞く気がないみたいだね。ラロ、もう諦めるんだ。それに、いつまでも泣いていても仕方ないだろう?」と冷めた声で言います。
ラロは少しだけ怒った顔でジゼルを睨みつけますが、ジゼルの顔を見て冷静さを取り戻したようです。
ジゼルも少しだけ、悲しそうな顔をしていました……。ジゼルにとってもかつての仲間であるタロウが死んで悲しいのでしょう。
「分かったわよ。それで、どうするの? このまま、レティシアちゃんにマイザー城を襲わせるの?」
そうですよね。
私がマイザー城で遊ぶのが一番早いです。しかも、今は夜中ですから寝首を掻く事も可能です。
でも、ジゼルは首を横に振ります。
「忌み子ちゃん。まだだよ……。一度グローリア陛下に相談した方がいい」
「でも、今は夜中ですよ? グローリアさんはきっと寝ていますよ?」
「いや、陛下は多忙な御方だ……。この時間はまだ起きているはずだよ……」
そう言ってジゼルは魔法玉を発動させます。
まったく……。こんな時間に失礼ではないですか?
『ん? こんな遅い時間にどうした?』
はて?
いつもよりも早くに出ましたよ?
あ! もしかして、グローリアさんは夜行性なのでしょうか……。
ジゼルは早速、ラロの夢の事をグローリアさんに話します。
まぁ、いきなりこんな話をされても困ると思うのですが……。
『そうか……。タイミングもいいし、とても魅力的な話だな。ジゼル、そこにラロはいるのか?』
「えぇ……、いるわよ」
『ラロ。お前の出生の事は調べがついている。お前は本当にマイザーを滅ぼしたいのか?』
「滅ぼしたいわ……。だけど……、同じくらいにグランドマスターも殺したいわ」
ふむ。
どうやらレギールがベアトリーチェの手下という事を知って、憎悪の感情がマイザーだけでなく、ベアトリーチェに向いたのでしょう。
『ほぅ……。だが、それは止めておけ』
「なぜよ……」
『グランドマスター……、いや、ベアトリーチェはレティシアの獲物だ。マイザーの英雄であるお前とて、レティシアと敵対しても勝ち目がないだろう?』
勝ち目も何も、ラロと争うつもりはないのですが?
そもそも、タロウの代わりにラロの夢とやらを叶えてあげようと思っているのに、戦うわけがないじゃないですか。
『ラロ、お前にはマイザーの王になってもらいたい』
「は? 私が王?」
ラロはマイザーの英雄です。
ドゥラークさんとマイザーで情報を集めていた時も、ラロは冒険者達に敬われていました。
それに……。
「グローリアさん、とてもいい事を言いましたね」
『は?』
「ラロがこの国の王様になるという事は、この国はオカマの国になります。そうすれば危険な人もきっと受け入れられて幸せに暮らせるはずです!!」
『お、お前は何を言っているんだ?』
危険な人は見た目が危険なので、オカマ仲間がいれば幸せになるはずです。
そう思っていたのですが、エレンから衝撃の言葉を言われてしまいます。
「レティ……、イラージュ先生は女の人だよ……」
はて?




