2話 茶番
誤字報告、いつもありがとうございます。
誤字報告があったので一部分を書き直しました。
城の兵士と冒険者の衝突ですか。
まぁ、この国の兵士と冒険者がどうなろうと私には関係ありません。
しかし、私も冒険者である以上、どちらに肩入れをするかと聞かれれば冒険者を助けるべきですかね。
そうです。ギルドにも恩が売れて、タロウの情報を上手く得られるかもしれないので、冒険者の方を助けるとしましょう。
私は黙ってギルドを出ようとしましたが、ギルガさんに止められてしまいました。
「なんですか? ちょっと見物に行くだけです」
「嘘を吐くな。嬉々として外に行こうとしただろうが。お前、暴れるつもりだな?」
「何を根拠にそう言うのですか?」
「お前の顔に書いてある」
顔に書いてある?
何を言っているかは分かりませんが、ギルガさんにはもうバレているみたいですねぇ。
「……暴れますよ。何か問題でもありますか? 先程、「戦える人は来い」と冒険者の方も言っていたじゃないですか」
「馬鹿言うな。お前が関わった時点で死者がでるだろうが!!」
死者が出る?
まぁ、当然でしょうね。
戦いが始まれば、どちらかは死にます。
それとも、外で起こっている事は茶番でしかないのですか?
それならば死者は出ません。
「兵士を殺しておけば、後々、お城に入るのが楽になるじゃないですか」
「何が楽なんだよ!? 今から勇者の事を調べなきゃいけないのに、問題を起こして目を付けられたらどうする!? そもそも兵士を殺した時点で城に入れなくなるわ!! オレとドゥラークの二人で様子を見に行く。お前達……特にレティシアは大人しくしておけ」
ギルガさんは私にそう言った後、ドゥラークさんに「先に行っていてくれ!!」と指示を出します。
ドゥラークさんはその言葉を聞いて、道具袋から自分の斧を取り出し、外へと駆けていきました。
あの人は正義感が強いので、許可がでるのを今か今かと待っていたのでしょう。
心なしかニヤけているように見えました。ちょっと羨ましいですねぇ……。
「リディア、二人を頼むぞ。レティシアが外に出ようとしたら、お前が止めてくれ!!」
「えぇ!? ちょっ……レティシアちゃんを止めるって、無理に決まっているじゃないですかぁ!! ちょっと、リーダーぁ!?」
リディアさんの制止を振り切り、ギルガさんも外に飛び出しました。
さて、私も……。
「レティシアちゃん。お願いだから大人しくしていてっ!!」
リディアさんは泣きながら私の足元にしがみ付いてきます。
……はぁ。
泣かれては仕方ありません。
今回だけですよ。
ギルガさんやドゥラークさんが出て行った後、冒険者ギルドには私達とギルドの職員さん以外の誰も居なくなってしまいました。
そういえば、このギルドには女性冒険者がいないのですねぇ。
少なくとも、今のところは一人も見ていません。
私は暇だったので、ギルド内を歩いていました。エレンは心配そうにソファーに座っています。
「どうしました?」
「レティ、ギルガさん達は大丈夫かなぁ……」
「ファビエの兵士の力は知りませんが、あの二人が簡単にやられるとは思えません。きっと大丈夫ですよ」
私がエレンと話していると、テレーズさんが飲み物を持ってきてくれました。
「たいした被害は出ないから心配しなくてもいいさ」
テレーズさんは、疲れたような声でそう言いました。
被害が出ない?
どういう事でしょう。分からない事は聞いておきましょう。
「被害が出ないとはどういう事ですか? 兵士と冒険者が戦っているのでしょう? いわば殺し合いではないのですか?」
「殺し合い? こんな騒ぎがもう何十回と起こっているけど、一度も死者が出た事は無いよ。それどころか、怪我人すらいなかった時もあるんだよ」
怪我人すらいないというのは……。
本当に茶番だったのですか?
「冒険者もそうだが、兵士達も本気じゃないって事さ。国王寄りの騎士達は国王や貴族を守っているから殆ど前には出てこない。冒険者と戦わされている兵士達はネリー様の考えに賛同している連中だから、本気で冒険者を殺そうとはしていないんだよ。もちろん冒険者も同じだ」
「そうなのですか? だったら、なぜこんな茶番を?」
「それが国王の命令だからさ……」
テレーズさんの話では、一般の兵士は勇者タロウの迷惑を一番受けていたらしく、殆どが王女様派だそうです。
しかし、兵士長や隊長等の上層部は国王派だそうで、一般兵士は命令を聞かなければいけないそうです。
私がもし出ていたら、むやみに王女様派の人達を殺していたという事ですね。
そう考えたらギルガさんの判断は正しかったみたいですね。
「ところで、さっきから気になっていたんだけど、テリトリオの領主様のご息女エレン様じゃないかい?」
「え?」「「っ!?」」
私とリディアさんはエレンを守るように前に立ち、武器を構えます。
私達の行動にテレーズさんは驚いていますが、これも演技かもしれません。
「えぇ!? 二人ともどうしたんだい? それに小さい子の方は……確かレティシアちゃんだったかい? 何度か冒険者ギルドで会っているだろう?」
テレーズさんはそう言いますけど、覚えていません。
エレンも覚えていないようですし……まさか、あの神官の手の者ですか!?
私は殺気を放ちます。
「お、落ち着くんだよ。私もギルガさんの所で働いていたんだよ」
「そうなのですか?」
私は殺気を押さえます。
話を聞いてもいいかもしれませんね。
「まぁ、会ったと言っても十回も会っていないけどね。私はレティシアちゃんがテリトリオの町に来て、一年経たないうちに町を出たからね」
どうやら、この人もテ……「エレン。なんでしたっけ?」
「え? な、何が!?」
「あの町の名前です。テまでは覚えたんですけど……」
「それは覚えた事にならないよぉ……あの町の名前はテリトリオ。テリトリオだよ。覚えた?」
「あぁ、それです。覚えました(自信はありませんけど)。テリトリオのギルドで働いていたんですね」
「あぁ。あの町はレティシアちゃんが来るまでは、金回りの良い町だったからねぇ。レティシアちゃんが来てから魔物がいなくなり、金回りも悪くなっちゃったんだよ。いや、レティシアちゃんが悪いわけじゃないよ。町から魔物がいなくなるのは良い事なんだよ。実際、毎年のように魔物の被害がでていたからねぇ……」
テレーズさんは、魔物がいなくなっても冒険者ギルドがそのまま続くと思っていたそうです。でも、あの町の住民達は冒険者やギルドの人達を邪険に扱うようになったそうです。
それでも、テ……(もう忘れたからいいです)の町が魔物に襲われているとの報告が挙がった時に、当時あの町にいた冒険者に住民の救助の依頼をしたらしいのですが、誰も依頼を受けてくれなかったそうです。
テレーズさんは何度も頭を下げたそうですけど、冒険者達は、「あの町の住民には愛想が尽きている。あんな町の住民の為に自分の命を危険に晒すつもりは無いね」と断られたそうです。
テレーズさんも住民の態度を覚えているので、それ以上は何も言えなかったらしいです。
テレーズさんから話を聞いていると、怪我をした冒険者達が帰ってきました。
茶番にしては随分と怪我をしてるみたいですね。
「今回は怪我人が多いねぇ。困ったねぇ。うちの僧侶だけで足りるかしら……」
この町にも治療院はあるのですが、治療ギルドのギルドマスターが国王派の人だそうで、冒険者達の治療を拒否しているそうです。
ギルドの職員が冒険者の怪我を包帯や薬草で治療しています。
冒険者ギルド所属の僧侶の人も治療魔法を使っていますが、怪我人の数が多いのと〈ヒール〉や〈ヒーリング〉ではすぐに傷は治りません。そのため、一人一人に時間がかかるので、とてもじゃありませんが人手が足りているようには見えませんね。
それを見かねたエレンが一人一人に〈エンジェルヒール〉をかけていきます。
これは部位欠損以外が治る治療魔法で、〈ヒール〉や〈ヒーリング〉とは違い、傷の治りが圧倒的に速い。この魔法なら聖女ではなく高レベルの治療師として誤魔化せるそうです。
エレンが治療に加わった事で、冒険者達の怪我の治療も時間がかからずに終わった。
冒険者達はエレンに感謝していました。
それからしばらく待っているとギルガさん達が帰ってきました。
お二人は怪我こそしていませんが、疲れている様でした。
「お疲れ様です」
「あぁ。この国は予想以上に酷いな」
ドゥラークさんが言うには、兵士は冒険者を殺しに来たわけじゃなかったそうです。
「じゃあ、誰を?」と聞いたら、「住民を殺しに来てやがった」と疲れた声で話します。
おかしいですね。
先程のテレーズさんの話と何かが違います。
私は近くにいた冒険者に話しを聞きました。
すると冒険者も疲れ切った顔で「今回はいつもと違った……」と呟きます。
詳しく話を聞いてみると、いつもの戦闘は茶番のようなモノだったらしいのですが、今日の戦闘は全く違っていたそうです。
今回は冒険者を狙うわけでもなく、住民だけを殺そうとしていたそうで、冒険者達は全力でそれを止めようとしていたそうです。
知り合いの兵士に話しかけても全く反応を示さなかったそうです。
操られていたのでしょうか?
そう思って聞いてみましたが、ファビエの宮廷魔導士にはそこまでの力を持っている魔導士はいないそうです。
ただ、勇者タロウのパーティの一人、魔導王ジゼルならば人間くらいなら操る事もできるみたいです。でも、彼女はタロウと共にどこかへ行っているので、それも考えられないとの事でした。
私はギルガさんの下へと行き、話を聞きます。
「やはり殺した方が良かったのでは?」
「今回は何か事情がありそうだったからなぁ。そうとも言い切れん」
「そうなのですか? 疑わしきは殺せじゃないんですか?」
「お前にそんな殺意の高い事を教えたのは誰だ!?」
え?
自分で思いついたに決まっているじゃないですか。
「まぁいい。テレーズ、オレ達は目的があってここに来ている。しばらく滞在するから宿を手配して欲しい」
「それならギルドに泊まればいいよ。この町の宿は冒険者を泊めないよ」
「なんだと?」
「これも、国王派の手回しだよ」
テレーズさんの話によると、国王派の貴族の手回しでこの町にある宿屋は冒険者を受け入れない事を決めたそうです。
本来であれば宿屋は冒険者を相手にする事で生計を立てている人が多いので、貴族の話など聞く必要も無かったそうなのですが、ある宿屋が貴族にバレないように冒険者を泊めた事があったらしく、これが貴族にバレてその宿屋の主人は貴族により殺されたそうです。
それからは、別の宿屋も貴族に従うようになった……との事です。
本当に無茶苦茶ですね。
テレーズさんが部屋を手配してくれているのを待っていると、ギルドの入り口に立派な鎧を着た人物が立っていました。
何か偉そうな人ですね。
「ここに新しい冒険者が来たと聞いたが、どいつだ!!」
偉そうな人はギルドに入ってきて、入り口付近にいた冒険者を蹴ります。
「ぐぁ!?」
「てめぇ、なにをしやがる!!」
「うるせぇ!!」
文句を言った冒険者が斬られました。
あの男は一体何なのでしょうか?
私が動こうとすると、偉そうな人はエレンに駆け寄り腕を掴みます。
……はぁ?
「今回来た冒険者の中に上玉がいるじゃねぇか。こんな糞みたいなところにいるんじゃなくて、俺といい事をしよ……え?」
「エレン。こっちです」
「レティ!」
私はエレンをリディアさんの傍に連れて行きます。
途中、エレンの腕にくっついていた邪魔なモノをエレンの腕から外し、焼き尽くしました。
私は腕を無くした男の下へと戻ります。
するとギルガさんが私の肩を軽く叩きます。
「レティシア」
「なんですか?」
「こいつには聞きたい事がある。……殺すなよ」
「……善処します」
……ふふふ。
殺しませんよ。
ただ、生まれてきた事を後悔させてやりますけど……。
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