34話 屑勇者の意地
チッ……。
体が悲鳴を上げてやがる。
さっさと決着付けねぇと、持たねぇな……。
俺は一気にレギールに駆け寄り、レギールの頬を思いっきり殴る。
レギールは殴られた事に反応できずに、吹っ飛ばされる。
レギールは、派手に建物に突っ込んだので大きな音をたてる。
これは、騒ぎになるかもしれねぇ……。騒ぎになる前にレギールを倒しきらなければいけないからな……。一気に首を狙う!!
俺は倒れたレギールの首を斬り払うが、済んでのところでレギールに避けられてしまう。
「クソっ!! どうしてお前が【身体超強化】を使えるんだ!? その力はレティシアに破壊されたはずだろう!?」
こいつもレティシアとサタナスの戦いを知っているようだな。
まぁ、グランドマスターがジゼルを操っていたと考えれば、知らないはずがないか……。
レギールは腕を伸ばして俺に攻撃を仕掛けてくる
レギールの攻撃は、確かに速いが避けられないわけではない。だが、俺の後ろには民家がある。あの中には一般人もいるだろう。
仕方ない……。受け止めるか……?
身体超強化を使っている俺であれば、レギールの攻撃を受け止める事は簡単にできる。
受け止めて一気に反撃するか?
いや、それだと防戦一方になってしまう。
なら、どうする?
……。
そうだな……。一瞬だけ受け止めて、即座に腕を斬り落とすか……。
そう考えた俺は、レギールの拳を受け止めた後、体を逸らし、腕を斬り落とす為に振り下ろす。
しかし、レギールもバカではないらしいく、刃が到達する直前で腕を短くした。
チッ……。
避けられちまったか。
俺はレギールを睨む。
なんだ?
レギールは何かに気付いたのか、ニヤケついていた……。
「くくく……。わかったぞ。お前が【身体超強化】を使える理由が……」
「なんだと?」
「てめぇの口元に付いている血が教えてくれたよ……」
口元の血?
俺は口を拭う。
袖には血が付いていた。【身体超強化】の反動がもう体に出たのか?
いや、まだ体は動く。苦しいわけでもない。
ただ、口から血が出ているだけだ。
しかし、俺に時間がない事にレギールが気付いた。
つまりは、アイツは別に俺に勝つ必要はなくなった……。時間を稼げばいいだけだからな……。
しかし……。
「へぇ……。お前は、俺にボコボコにされた挙句、このままじゃ手も足も出せずに半べそをかきながら、逃げ切ればいいと思っているんだな。随分とヘタレたモノじゃねぇか」
あまりにも見え透いた挑発だったか?
いや、俺の予想では、こいつは挑発に乗る……。
「ふざけんじゃねぇ!!」
おいおい。
見事なほど、予想通りだったな……。
レギールは俺に殴りかかってくる。
しかし、単調な攻撃であれば避ける事も容易いし、周りに被害を出す事もない。
俺はさらに【身体超強化】を使いレギールを斬り付ける。
しかし、レギールには再生能力があるようで傷がすぐに塞がってしまう。
どれだけ傷つけても死なないレギール。
それに比べ、俺の体も悲鳴を上げている。これは……間に合うか?
その時、騒ぎを聞きつけた町の人間が家から出て来てしまった……。
あの顔には見覚えがある。あれは治療師だ。
レギールは治療師を見た瞬間、襲い掛かっていった。
「あははは!! 魔力を吸わせろ!!」
「な!? レギール止めろ!!」
レギールは魔力を吸うために、治療師の頭を掴もうとしたが、俺はすんでのところで治療師を蹴り飛ばす事が出来た。
「あぅ!?」
治療師は俺に蹴られた事で吹っ飛んだが、その代わりにレギールの手刀が俺の胸を貫く……。
「が……はっ!!」
この位置……。
は、肺か?
「ぎゃははは!! そのまま、お前の魔力を吸い尽くしてやるわ!!」
「あ、あぁ……、そ、そうかい?」
不味い……。こ、このままだと……、レギールに俺の残り僅かな魔力を吸われちまう。
それに……。俺自身も肺を貫かれているから、【身体超強化】に耐えられる時間も長くないだろう……。
俺がレギールを倒すチャンスは今しかない……。
俺は自分の体をレギールに密着させ、レギールの背中から自分ごと剣を突き刺す。
「ぎゃあああ!!」
まだだ……。
レギールは魔族化している。
こんなモノじゃ、抑えきれないし殺しきれない。
俺は隠し持っていたナイフで、レギールのこめかみを突き刺す。
「げふぅ!?」
普通の人間であればこれで殺せるはずだが、レギールは魔族化している。これでは死なないらしく、俺の体を引き剥がそうとしている。
逃げるつもりか?
だが、逃がさねぇよ。
俺は自分の中の全魔力を使い再び【身体超強化】を使う。
おそらく、これが最後だろう。
しかし、このままレギールを絞め殺せるか?
いや、無理だ。
俺の体力が先に尽きる……。
何か手はないか?
「は、離せ!!」
「離さ……ねぇよ……」
とはいえ、俺の力は徐々に抜けていく。
ちくしょう……。
このままでは、レギールに逃げられちまう。
どうにか……。
俺はナイフをレギールの首に突き刺す。
「ぎゃあ!!」
しかし、死なない……。
「チッ……。こ、これだけやっても、まだ死なねぇのかよ……」
不味い……。
力が抜ける……。
ここまでか?
いや、諦めてたまるか。
こいつを生かしておけば、ラロ姉様の障害になるかもしれねぇ……。
しかし……現実は甘くない……。
諦めかけたその時……、俺の中で懐かしい何かが蘇る。
いや、今なら分かる。
このスキルだけは、元々俺がこちらの世界に召喚された時に体現されたんだ……。
サタナスはこの力を使いこなせなかったみたいだが、今の俺ならきっと使える。
だが……、これを使えば、もう俺は助からんだろう。それもなんとなくわかる。
生に、未練があるのか?
……。
いや、ねぇな。
俺はスキルを発動させる。
その瞬間、俺の体力が一気に回復し、レギールを殴り飛ばす。そして、俺はレギールの胸を貫き赤い塊を取り出した。
「ひ、ひぎゃああああああ!!」
レギールも自分の何を取り出されたか理解したのか絶叫している。
レギールは青褪めた顔で「俺の心臓を返せ!!」と叫ぶが、それは勘違いだ……。
これは心臓じゃねぇよ。
「ざ、残念だったな……。これはお前の心臓じゃねぇえよ……。こ、これは……」
お前の魂を具現化させたモノだ。
魂は意志の強さで強度が変わるらしいぜ……。お前の魂は……。
「お前の魂はガラス玉よりも脆いかもな……」
俺はレギールの魂を握り潰す。
レギールの魂は、ガラス玉の様に粉々に砕け散る。
「ひぎっ!?」
魂を砕かれたレギールは、その場で塵となり消えた……。
勝った……。
だが、俺もここまでか……。
最後の最後で、俺のスキルが戻ってくれたおかげで、レギールに勝つ事が出来た……。
しかし、俺の肉体は真の【強欲】の力に耐えられないみたいだな……。
俺はその場に倒れる。
あぁ……。
もう目も霞むし、声も出せないか……。
ここまでか……。




