28話 ギルドの異変
私達がセルカの拠点に転移してくると、ギルガさんとグローリアさんが待っていました。
はて?
グローリアさんがどうしてここに?
「レティシア、スミスの救出、ご苦労だった」
「いえいえ……。スミスさんが無事でよかったです。マイザーの英雄ラロが協力してくれなかったら、もう少し苦労していたはずです」
実際に、ラロがあの通路を教えてくれて、転移魔法妨害の魔法の事も知らなかったら、とてもじゃないですが二日では時間が足りず、最悪、マイザーを舞台に、ベアトリーチェと戦っていた可能性が高かったでしょう
「そうか……。マイザーとの事が落ち着いたら、ラロを呼び出してみよう。一度会って、礼を言いたい」
マイザーとの事が落ち着いたらですか……。
あ、そう言えば。
「グローリアさん、ラロはマイザーを滅ぼしたがっていました」
「どういう事だ?」
私は、ラロから聞いたマイザーを恨む理由とやらをグローリアさんに説明します。
まぁ、マイザー王はもう手遅れですから、マイザー王国を滅ぼしても構わない気がします。
「なるほどな……。だが、滅ぼされても困るぞ。あの国にだって、普通に暮らしている国民がいるんだ。まぁ、今後のマイザーについては、俺にも考えがある。カンダタがやった事が成功したのであれば、グランドマスターのギルド内の信用は失墜しているはずだ。それならば、マイザー王の後ろ盾もなくなる。今後の為に、マイザーで何があったのかを報告をしてくれ……。ジゼル」
はて?
そこは私が報告するのではないのですか?
少し前から思っていたのですが……なぜ、重要な事は私ではなく、ジゼルに説明させるのでしょうか……。
グローリアさんはジゼルから説明を受けた後、私達に調書を渡してきます。
「これは?」
「今の各国のギルドの状況だ。各ギルドのシンマスターがカンダタを残しすべて消え、何人かのギルドマスター、そしてSランク達も消えた」
「消えた? 依頼でどこかに行ったとかではなく、ですか?」
「あぁ、文字通り消えてしまったらしい。それに、エラールセからも、ギルド学校の学長と教師が数人消えたそうだ……」
消えたと言われるシンマスターやSランクも気になりますが、ギルド学校の学長も……ですか。
確かシュラークさんは、危険な人が倒したはずです。
もしかしたら、それも分裂したベアトリーチェだったのでしょうか?
「ギルド学校の学長さんは、昨日までは学校にいたのですか?」
「あぁ、そう聞いている。消える直前まで、学長室で書類仕事をしていたそうだ。調べに入った、俺の部下も消える直前まで仕事をしていた形跡があったと言っていた」
生きていたという事は、うちにベルをさらいに来たシュラークさんは偽物だったのでしょうか……。
ふむ……。謎が深まりますねぇ……。
「カンダタさん以外のシンマスターも、ベアトリーチェの手下だったのですかねぇ……」
「おそらくな……。カンダタ、お前も他のシンマスターに会った事があるんだろう?」
「あぁ……いえ、会った事があります。しかし、変なところは無かったと思っていたのですが……。グローリア陛下、もう一度、世界中のギルドにグランドマスターの不正の証拠を送ります。ギルドマスターも数人消えているとなると、ギルドマスターが消えたギルドには、正確に情報が伝わっていない可能性があります」
「あぁ、頼んだぞ……」
カンダタさんは、慌ててギルドへと戻っていきました。
「レティシア、セルカの町とエラールセは大丈夫なんだよな……」
「はて? 何をもって、大丈夫と聞いているかは知りませんが、ベアトリーチェの干渉という点では大丈夫ですよ。セルカは特に大丈夫です」
「そうか……。それなら安心だ」
「ところでギルガさん、アブゾルが私に話があると言っていましたよね?」
「あぁ、今は教皇様達がいらっしゃって、ベックの部屋で話をしている」
はて?
どうして教皇が?
あっ!?
教皇はまだ若いですし、もしかしたら、ベックさんとそういう関係なのですかね?
これは事実確認をしに早く行かねばなりません。
私はベックさんの部屋に急ぎ、扉をノックします。
「ベックさん、お楽しみの最中申し訳ありませんが、今すぐ開けてください」
とはいえ、お楽しみ中だったらすぐには開けられません。私がこっそりと……と思ったら、扉が開き、呆れた顔をしているベックさんが出てきました。
「レティシアちゃん、何を言ってるの?」
ベックさんの部屋の中には、教皇とアブゾルだけではなく、枢機卿やラウレンさん、それに毛玉もいました。
「はて? どうして皆さんがここに?」
「レティシアちゃんがベアトリーチェを倒してくれた後、アブゾールをどうするかを話し合ってたのよ」
ベックさんが言うには、私がベアトリーチェを倒した後、閉鎖的だったアブゾールを開国しようと思って話し合っているそうです。
ただ、開国するにしても、いきなりどんな人でも入国を許可してしまうと、混乱しかねないから、どうするかを答えが出せないそうです。
しかし……。
「もしかしたら、私が負けるかもしれませんよ? その時はどうするのですか?」
もちろん、負けるつもりはこれっぽっちもありませんが、万が一という事もあるかもしれません。
しかし、ベックさんは「私達はレティシアちゃんが勝つと信じているから、そんな心配はしていないよ」と言ってくれました。
私が確実に勝つと信じてくれていると、とても嬉しいです。
「ところでレティシアちゃんはどうしてここに?」
「あ、はい。アブゾルが私に話があると聞きまして……」
私がそう言うと、アブゾルが「そうじゃ、それでギルガ殿にお主に連絡するよう頼んだのじゃ」と手を振ります。
「アブゾル、貴方の話をここじゃない場所で聞きたいのですが?」
「どういう事じゃ?」
「はい。実は、医療大国メディアの裏の女王エルジュ様が、貴方に会いたいそうですよ」
私がエルジュ様の名を出すと、この部屋にいる全員がとても驚いていました。
「エルジュ様の名を出しただけで、なぜそんなに驚いているのですか?」
私の疑問に答えてくれたのは、枢機卿であるアードフルさんでした。
「「裏の女王」というのは分かりませんが、メディアの女王エルジュ様と言えば、枢機卿や教皇である私達でも中々会う事が出来ない御方なのです。そんな人と会ってくる貴女は一体……」
「はて? あぁ、表のメディア女王様とは会った事は無いですよ。裏のエルジュ様はあの部屋に行けば簡単に会えます」
私がそう言うと、アブゾルが真剣な顔で……と言っても、間抜けな人形の顔なので笑ってしまいそうになりますが「レティシアの嬢ちゃん。そのエルジュと言う女王は信用に足る者なのか?」と聞いてきました。
確かに、ベアトリーチェの拠点であるギルド総本部あるメディアの女王で、ベルの事を考えれば、アブゾルが警戒するのも分かります。
スペアの事を言ってもいいのか迷いますが、これはエルジュ様に任せましょう。
となると……、あ!
「大丈夫だと思います。エルジュ様は、元々ベルを隠そうと封印までしていたみたいですから、敵では無いと思いますよ」
「そうか……。お主がそう言うのであれば、その言葉を信用しよう。それで、エルジュという者がここに来るのか?」
「いえ、エルジュ様は神族の王に、とある空間に閉じ込められています。そこに転移します」
「な、なんじゃと?」
神族の王……サクラさんに閉じ込められたと言うとアブゾルの顔が青褪めました。
「あ、アブゾルにも聞きたい事があります」
「な、なんじゃ?」
「サクラさんに会いたいです。どうすれば会えますか?」
私がそう聞くと、アブゾルの顔が真剣な顔になり、なけなしの神気を放出させました。
「会ってどうするつもりじゃ?」
「はい。アブゾールの結界を解いて貰おうと思いまして」
ベアトリーチェを殺すには、結界が邪魔です。
結界を解くのが難しくても、私が結界内に入ればベアトリーチェと戦う事が出来ます。
どうにか結界内に行くなり、消してもらうなりしないと、ベアトリーチェは殺せません。
アブゾルは、少し考えてから「いや、ダメじゃ。サクラ様はワシらと違い忙しい御方じゃ。今回のベアトリーチェの騒動は、ワシの失態。サクラ様の手を煩わさる事はできぬよ」と断ってきました。
しかし、煩わせる事は出来ないと言いますが、もうアブゾルやエルジュ様では、ベアトリーチェを止める事は出来ません。
できる事と言えば、今みたいにベアトリーチェを閉じ込める事だけです。
いえ、ベアトリーチェには分裂体があるので、ある程度は自由にできているみたいですし……。
しかし、アブゾルがそう言うのであれば、これ以上は、頼めませんね……。
「分かりました。アブゾールの事は、他の方法を探します。では、アブゾル、行きますよ」
私はアブゾル人形を握りしめます。
その時、『私も行くぞ』と毛玉が私の頭の上に乗りました。
……殺しますよ?
「レティシアの嬢ちゃん。ワシとバハムート殿は当然として、ベックとグローリア殿も連れて行こう」
「はて?」
「もう来るところまで来てしまった。今後の事を話し合う必要がある」
今後の事……ですか?
よくわかりませんが、私はベックさんを連れて、グローリアさんを呼びに行く事にしました。
そして、あの部屋へと転移します。




