26話 グランドマスターの失墜
誤字報告、いつもありがとうございます。
私達に襲い掛かろうとする冒険者達と、迎え撃とうとしている私達の間にドゥラークさん達が立ちます。
カンダタさんは冒険者達を睨み、ドゥラークさんは私達のところに歩いてきました。
「レティシア……、ジゼル、今は抑えてくれよ」
ドゥラークさんにそう言われたので、素直にいう事を聞きます。
まぁ、相手が向かってこないのであれば、殺しはしませんが……。
冒険者達も、カンダタさんを見て「お、おい。アレってシンマスターじゃ……」「セルカのギルマスだ……」などと小声で話しながら、戸惑っているようでした。
「どうしてマイザー王国に、ドゥラークさん達が?」
「お前らが心配だったのと、カンダタのおっさんの準備ができたからな……」
「準備?」
ドゥラークさんは、私とジゼルに紙の束を渡してきました。何やらいろいろ書かれているみたいです。
「ドゥラークさん。これは?」
「カンダタのおっさんが、シンマスターになってから調べ上げたグランドマスターの行ってきた事だ……」
ジゼルはこの調書を読み、「ここまで調べるなんて……」と驚いていました。
「これを使って、カンダタさんは何をしようと?」
「まぁ、見ていればわかるさ」
ドゥラークさんがそう言うので、カンダタさんを見守る事にしました。
もし、ベアトリーチェがカンダタさんに攻撃をしてきたら、止めなくてはいけませんね……。
カンダタさんに睨まれて動けなくなった冒険者達をかきわけ、ベアトリーチェがカンダタさんの前に立ちます。
「やぁ、カンダタ君。久しぶりだね。最近は私の召集を無視しているみたいだけど、君はシンマスターだろう? その君が、どうしてグランドマスターである私に逆らうんだい? 君はいつからそんなに偉くなったんだい?」
ベアトリーチェは、威圧感を込めてカンダタさんに質問しています。
しかし、カンダタさんは気圧される事もなく堂々とベアトリーチェを睨みます。
しかし、すぐに目を閉じ笑みを浮かべます。
「そうだな。あんたは確かにギルドで一番偉い」
「そうだろう? それだったら……」
「だが、あんたに反発心を持っているギルド職員も多いんだぜ。あんたはそれを知りながらも、改善しようとするでもなく、力と脅迫で押さえつけているんだろう?」
カンダタさんは腕を組み、目を開きベアトリーチェを再び睨みつけます。
ふむ……。
ベアトリーチェは仮面をつけていますが、多少苛立っているみたいですね。
「何を根拠にそんな事を言っているのかな? 私としては、私に対する不満などに真摯に向き合っているつもりだがね」
「真摯に向き合っている? 現に今やっている事は何なんだ? ギルドの長が自分の妄想だけで、冒険者を犯人扱いしているだろう? 尚且つ、確実な証拠も出していないのに、他の冒険者にレティシアを襲わせる理由は何だ?」
「くくく。何を言っている? 私は、妄想で話をしているんじゃなく、確信を持って言っているんだよ?」
「なら、証拠はあるんだよな?」
カンダタさんの言葉に力がこもります。
しかし、ベアトリーチェは証拠を出そうとせずに「証拠など必要ないだろう?」と言い始めます。
「ギルドにとっては、神に等しい私がそう言っているんだ。それ以上の証拠など無い」
はて?
これは何を言っているのでしょうか……。
学の無い私でもそう思った様に、カンダタさんもそう思ったのか、とても呆れた顔をした後、大声で笑いだします。
そんなカンダタさんの姿を見て、ベアトリーチェは不機嫌そうな雰囲気を醸し出します。
「何がおかしい?」
「周りを見てみろよ。あんたは自分を神だとそう思っているんだろうが、周りはそう思っていないみたいだぜ」
カンダタさんの言うように、ベアトリーチェを見る冒険者達の目が少し冷たくなっているように感じます。
それをベアトリーチェも感じたらしく、怒りの波動を少し放ちます。
カンダタさんは、ベアトリーチェに調書を投げつけます。
「なんだ、コレは?」
「あんたにとって面白い情報が書いてあるぜ」
「なに? ……、こ、これは!?」
「あんたが行ってきた不正の数々だ。さすが、数百年分だ。謝罪程度じゃ挽回できないくらいのな……。それを見てどう思う?」
ベアトリーチェの肩が少し震えた後、平然と調書を魔法で焼きます。
「これがどうかしたのかい? ギルドは私の組織だ。私のする事はすべて正しい……」
ベアトリーチェの言い訳が苦しいモノになっていますね。
しかし、カンダタさんは呆れ返った顔をしていました。そして、もう一枚の紙を投げつけます。
「あんたがどう思っているかは知らんが、それが、あんたが今まで私利私欲の為に行ってきた事に対する、世界各国の反応だ。あんたは世界から必要とされていないんだよ」
その紙を見たベアトリーチェの肩がさらに震えだします。
自分を神だと思い込んでいたベアトリーチェからすれば、これは屈辱でしょう。
しかし、以前に出会ったベアトリーチェには、煽り耐性はもう少しあったと思うのですが、分裂した別個体によって変わりがあるのでしょうか……。
と思っていると、ベアトリーチェが自分の仮面を殴り付けます。
そして、仮面が砕け、傷だらけの顔が晒されます。
「くくく……、あはは……、あーはっはっは!! 全く愚かな連中だ!!」
ベアトリーチェは抑えていたであろう神気を解放させます。それと同時に顔の傷が消えていき、見慣れたベアトリーチェの顔が現れました。
そして、金色の羽を広げ、一気に空に浮かび上がります。
ベアトリーチェの周りには、何本もの光の剣。
それを一斉に、降り注がせました。
いけません!!
「穏便に済ませてやろうと思ったが、もういい。回りくどい事はもうやめだ!!」
降り注ぐ光の剣が冒険者に襲い掛かります。
上位のランクの冒険者達は何とか避けたり防いだりしていますが、低いランクの冒険者は光の剣により次々と殺されていきます。
「貴様らの様な雑魚でも少しくらいは足しになるだろう!!」
ベアトリーチェが手を空にあげると、死んだ冒険者達が浮かび上がり、ベアトリーチェの掌に吸い込まれていきました。
「な!?」
ドゥラークさんが死にかけの冒険者を助け出します。
カンダタさんも、冒険者達を避難させようとしていました。
私も……。
「忌み子ちゃん。冒険者達は私達が何とかする。だから……」
「レティシア、俺達だけで大丈夫だ!! グランドマスターを倒せ!!」
そうですね。
アレを倒すのが私の役目です。
「はい」
私はファフニールを取り出します。
そんな私を見て、ベアトリーチェが睨みつけてきます。
「全く忌々しい小娘だ!! お前はここで死ね!!」
「いいえ、貴女が死んでください」
私はベアトリーチェに斬りかかりました。




