21話 マイザー潜入
スミスさんの処刑を阻止する為に、マイザーまで転移してきたのですが、どうやらリーン・レイが助けに来ると予想していたらしく、私やドゥラークさんの手配書が町の至る所に貼られていました。
どうやら前回マイザー王のもとに現れた事を覚えているみたいです。
ジゼルが適当な空き家を見つけたので、そこで身を潜めています。
ドゥラークさんはあくまで冒険者として、マイザーを訪れたという体でギルドに依頼を受けに行ってみるらしく、少し前に空き家から出ていってしまいました。
ジゼルは窓の外をうかがいながら「流石はギルドに支配されているだけあるね。手配書が忌み子ちゃんの人相と瓜二つだね。英雄ラロとタロウが一緒にいたところを見ると、タロウが正確な人相を教えたんだろうね。まぁ、それはいいとして、酷い有様だね……」とため息交じりに呟きます。
「酷い有様とは?」
ジゼルは窓の先を指差します。
ジゼルが言いたかったのは、今のマイザーの町の現状のようです。
窓の外では、マイザー兵が町の人に横柄な態度を取っている姿が見えました。
あまりの兵士の横暴さに、カチュアさんが殴りに行こうとしますが、ジゼルが止めます。
「なぜ、止めるのですか?」
「今は問題を起こしたくはない。理不尽に怒りを覚えるだろうが今は我慢してくれないかい?」
ジゼルに真剣な顔をすると、カチュアさんの拳を下ろします。
「しかし、思っていたよりも兵士の態度は酷いモノだね。私はずっとフィーノの村にいたから詳しくは知らないが、プアー王太子が忌み子ちゃんの改造により真人間になった時に、腐敗しきっていた兵士達を再教育したと、村を訪れた冒険者に聞いていたけど……、プアー王太子が処刑されマイザー王が元に戻った事で、兵士を縛るモノが無くなり元に戻ってしまったみたいだね」
ジゼルの言葉通り、兵士は腐りきっているみたいです。
元々国そのものが腐っていましたから仕方ないかもしれませんが、王がベアトリーチェに元に戻されてから日が浅いと聞きますが、こんなに早く腐るなんて……。
「この国は滅んだ方がいいかもしれませんね……」
「……否定はできないかな……」
私とジゼルが頷き合っていると、カチュアさんが首を傾げています。
「でも、仮にもギルドの頂点であるグランドマスターがこの国にいるのに、兵士達のああいった行動を止めないのはおかしくないですか?」
「いや、別におかしくはないよ」
「どうしてですか?」
「カチュアちゃんも冒険者だから知っていると思うが、基本はギルドは国に干渉できない。当然、国がギルドに干渉する事も本来は許されない」
はて?
スミスさんを処刑しようとしている時点で、思いっきり干渉しようとしているように見えるのですが……。
私が窓の外を見ていると、ジゼルが急に立ち上がります。
「忌み子ちゃん。ドゥラーク殿が帰ってくるまで、ここでカチュアちゃんと待っていてくれるかい?」
「どこかに行くんですか?」
「あぁ……。気になる事があってね」
ジゼルは眼鏡をはずし、収納魔法からカツラを取り出します。
そして、それを被ります。
「どうだい? 別人に見えるかい?」
「はい。しかし、なぜ変装を?」
「タロウがここに居たという事は、私の事も知られているかもしれないからね。だから、変装したんだよ」
「それで、どこに行くのですか?」
「私がベルに言わせた潜伏場所を覚えているかい?」
「はい」
「そこの貴族の家を見に行こうと思ってね。私の予想では、もうそこの貴族は全員殺されていると思うけどね……」
「なぜです?」
「ベルを手に入れる為さ。このマイザーにグランドマスターがいるのであれば、間違いなくその家を襲撃するだろうね。その確認さ……」
ジゼルは「一時間ほどで帰るよ」と言い出ていってしまいました。
しばらくすると、ドゥラークさんが一足先に帰って来ました。
「おかえりなさい。ドゥラークさん」
「チッ……。邪魔が入った」
はて?
カチュアさんはなぜ舌打ちを?
「カチュア、お前はもう少し自重という言葉を覚えろ。レティシアが人形のようにお前に抱きかかえられているじゃねぇか……。ん? ジゼルはどこに行った?」
「昨日、ベルの潜伏先として教えた貴族の家を見に行くと言っていましたよ。そんな事よりも、ギルドはどうでしたか?」
「やはり、リーン・レイのメンバーである俺が入ったら、全員が見ていたな。それでなくても手配書まである」
「手配書があるのであれば、捕まらなかったのですか?」
「まぁな。だが、俺達は冒険者だ。犯罪も犯していないのに、捕まらないさ。だが、依頼は受けられなかった」
「ちょっと待ってください。私達がリーン・レイという理由で依頼が受けられなかったのですか!?」
ドゥラークさんの言葉にカチュアさんが噛みつきます。
「いや、俺に言ってもしょうがねぇだろ? それに、今回はリーン・レイだけというわけじゃない」
「はて?」
「マイザー王は今回のスミスの処刑を自分の威厳の為に行うみたいでな、冒険者を全員参加させる為に依頼を受けさせなくさせているらしい」
「はて? 思いっきり、ギルドに国が干渉しているじゃないですか」
「あぁ……。俺もギルドの受付にそう言ったんだがな、聞く耳を持たん……。それと面白い情報もあったぜ。ジゼルが帰ってきたら詳しい話がわかると思うが、貴族の取締りが行われたらしい。しかも、昨日の深夜に突然にだ」
昨日の深夜?
つまりは……。
私はドゥラークさんの顔を見ます。
「あぁ、気付いたか……。というよりも、ここまで分かり易い行動をした事に驚いたがな」
「と言う事は、やはり昨日の魔法玉の相手が裏切ったという事ですかね?」
「そりゃ、俺には分からんさ。だが、裏切ると言うよりも最初からそのつもりだったんじゃないのか?」
「はて?」
ドゥラークさんは、グランドマスターはベルたちの動きをわざと見逃していたと言います。
いや、流石にそれは無いと思うのですが……。
しかし、ドゥラークさんはこう指摘します。
「ベルが、魔法玉の相手は本部の人間だと言っていただろう? 本部にはグランドマスターがいるんだぞ? 一番近くにいるのだから、その恐ろしさを知っているだろう? それなのに、そんな連中が、くだらない正義感で敵対すると思うか? 俺だったらしないな。命がいくつあっても足りやしねぇ……」
確かにドゥラークさんの言う事は一理あります。
という話をしていると、ジゼルが帰って来ました。
「帰ったよ」
「おぅ。どうだった?」
「ドゥラーク殿、帰っていたのか。まぁ、その顔は取締りがあったのを聞いたんだろう……。察しの通りもぬけの殻だったさ……。それで王城に行ってみたら、この家の貴族と使用人達の首が晒されていた。きっと処刑されたんだろうな」
「と言う事は確定か?」
「間違いないね。ベルの言っていた抵抗勢力はすでにベアトリーチェの手に落ちている」
という事は、もうギルドはベアトリーチェの手に落ちて、完全に敵に回っていると考えていいかもしれませんね。
さて、今後どうするかを考え……っ!?
私達は一気に家の入り口にを警戒します。
誰がいるかは分かりませんが、かなり強いです。
「お久しぶりね。レティシアちゃん」
「き、気持ちの悪い人ではないですか!?」
「酷い呼び方ね。もう少し、かわいく呼んでくれない?」
この人は、ギルド学校で出会った、マイザーの英雄、ラロです。
「天下のリーン・レイの皆さんがこんなところで何をしていらっしゃるのかしら?」
「それはこちらも同じです。どうしてここが?」
完全に魔力が漏れないように、魔法で結界を張っていたはずですが……。
「ふふ……。言ってなかったかしら? 私にも【神の眼】があるのよ。このくらいの目くらましならば、見破れるわよ。それに、私はマイザーの英雄よ。この国にいてもおかしくはないでしょう?」
確かにその通りです。
スミスさんを助ける前に、戦闘する事になるとは思いませんでした……。




