20話 対抗勢力
ギルドが一枚岩ではないとベルは言いました。
という事は、グランドマスターと敵対している人がいるという事でしょうか?
「グランドマスターであるベアトリーチェは、ギルドで力を持ちすぎました。冒険者ギルドの前シンマスターがベアトリーチェによって処刑されたのを知っていますか?」
はて?
私はその話は知りませんが、ギルガさんは顔を青褪めさせていました。
「あぁ……知っている」
ギルガさんに詳しく聞くと、鉱山でベアトリーチェが持ってきた生首があったそうです。
それが冒険者ギルドの前シンマスターだったそうです。
「実はあの時も、処刑に対して一定数の反対意見は出ていたんです。そもそも、確実な証拠もなかった。マイザーの高官の証言だけでした」
「そ、それは……!?」
元々、マイザーは王家だけでなく貴族連中も腐っていたと聞きました。
高官というのは貴族が就くのでしょう?
そんな怪しい人物の証言を信じるというのは、少しおかしいです。
「そんな事が限りなく多かったので、抵抗勢力というのが出来たそうです。私もそこに加担しています」
ベルも対抗勢力に加担しているという事は……。
「先ほどの冒険者ギルドの前シンマスターを殺した事を聞く限り、自分に有益でないモノを簡単に殺すと思うのですが、なぜその抵抗勢力は生かされているのですか?」
「はい。確かにベアトリーチェは恐ろしい女です。だからこそ、秘密裏に活動しているのです」
なるほど。
秘密裏に動いているのであれば、ベアトリーチェが気付いていないか、あえて無視しているかのどちらかでしょう。
しかし、気になる事が増えてしまいました。
「ベル。貴女が対抗勢力に加担しているのであれば、ベアトリーチェも気付いているという事は無いのですか?」
ベルはベアトリーチェの搾りかすです。
元は同じ生物だったんです。心は繋がっていると考えても不思議ではありません。
しかし、ベルは首を横に振ります。
「それならば問題はないはずです。ベアトリーチェは私という存在を自ら捨てました。だからこそ、捨てた私の思考、行動を把握しているという事はありません」
確かに……。
必要ないからこそ捨てたのでしょうが、今になってベルを手に入れたがっていると……。
「ベル。一つ聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
「貴女は【神の眼】を持っているのですか? エルジュ様は持っていましたが、貴女はどうなのですか?」
「私は【神の眼】を持っていません。もし、そんな能力があればベアトリーチェは私を捨てなかったでしょう」
なるほど。
では、なぜベアトリーチェはベルを欲しがっているのでしょう?
何か秘密でもあるのでしょうか……。
「話の途中で申し訳ないが、その対抗勢力とやらと話がしたいのだが、可能かい?」
突然、ジゼルがそんな事を言ってきました。
ベルは少し考えてから、「大丈夫ですよ」と微笑みます。
「では、どなたか連絡用の魔法玉を貸していただけませんか?」
ベルがキョロキョロしながらそう言うと、ジゼルが懐から魔法玉を取り出します。
「私のを貸そう。これでいいのかい?」
「はい」
ベルはジゼルから魔法玉を渡されると、少し離れます。
「どうしたんだい?」
「貴女がたを信じていないわけではないのですが、この暗号はエルジュ様達からも秘密にするように言われていますので……、耳を塞いでいただけませんか?」
私達は頷き合って耳を塞ぎます。
するとベルはブツブツと何かを言っていました。アレが暗号なのでしょう。
しばらくすると、ベルは頭を下げて耳を塞ぐのを止めるような素振りをしたので、私達も耳を塞ぐのを止めます。
ベルが魔法玉を持ってくると、魔法玉から男の人の声がしました。
『……!? 報告をどうぞ……』
「私です。ベルです」
はて?
今、一瞬驚いたような声が入っていたような……。
「この声の主は?」
「はい。ギルド総本部の御方です。怪しい人ではありませんよ」
ギルド総本部ですか……。
尤もベアトリーチェの傍に居た人達ですよね。
信用できるでのしょうか?
『べ、ベル様!? いつ封印が解かれたのですか!?』
「あ、はい……。つい最近です。今はメディアを離れています」
ここで、一度ジゼルがベルを引き離し、「リーン・レイの事は伏せておいてくれ」と言いました。
まぁ、リーン・レイとグランドマスターは敵対しています。
だから、余計な心配をさせないためでしょうか?
しかし、彼もベルが封印されていた事を知っているのですね……と思っていましたが、ベルは小さな声で、「セラピアさんかソワンさんが話したのかなぁ……」と言っていました。
つまりは、彼には封印の事を話していなかったという事です。
ベルは、封印を解かれた時からの事を説明します。
『く、くそっ……。グランドマスターの奴、スミス殿を殺そうとするとは……。分かりました。私の方から、各ギルドに通達をします。ベル様は、そのままリーン・レイに保護されておいてください』
はて?
「……分かりました。処刑は一か月後だそうです。私達も二週間は身を潜めます。だから、通告は私達が動く直前にお願いできますか?」
はて?
処刑は一週間後です。
でも、一番近くにいるジゼルも何も言いません。つまりはわざとですか?
『なるほど。混乱に乗じてスミス殿を助けるのですね!!』
「はい。だから、準備が必要なのです」
『分かりました。ところで、ベル様は今どこにいるのですか?』
「……えっと……」
ベルがジゼルを見ます。
ジゼルは首を横に振り、ベルも頷きます。
「今いるのは、マイザー王国にある貴族の家で匿ってもらっています」
『極秘裏に伝えたい事があります。正確な場所を教えていただきたいのですが……』
ジゼルがさらさらと何かを書きます。相変わらず汚い文字ですが、ベルは読めたみたいで、場所を言い通信を切りました。
しかし、そんなウソの情報を教えてどうするのでしょう?
ここは私が聞いておきましょう……。
「ジゼル、今教えた場所は一体?」
「マイザーの貴族の家だよ。あくどい事をしていると有名だったからね……、潰されても困らない家だよ」
「潰される?」
「忌み子ちゃんもおかしいと思っていただろう? 私は簡単に人を信用する気にはならないんだよ。ギルガ殿……。ギルドは完全に敵に回っていると考えた方がいいかもしれない。しばらくリーン・レイは依頼を受けない方がいいだろう……」
「はて? 今のベルと男性の会話でどうしてそう思ったのですか?」
「さっきも言ったが、今の会話でいくつか気になる事があった。まずはベルからの通信というのを簡単に信じ、処刑が一か月後というのを簡単に信じた。私達は一週間後というのを知っている。そもそも、総本部にいる人間がSランクの処刑の日時を知らない事がおかしい。それにベルの居場所を正確に聞こうとした。最悪この魔法玉も盗聴されているかもしれないという、危険性を全く考えずにだ……。本当にベルを大事に思っているのであれば、居場所は聞かない。それにベルには事前にリーン・レイに匿ってもらっている事は隠してもらっていた。それなのに、相手はリーン・レイに匿われている事を知っていた……」
確かに知っていましたね。
そこからベルの会話もおかしくなった……というよりも、わざとですかね?
「確かにジゼルが言う事は筋が通っているな……」
ここまで話して、ギルガさんがメンバー一人一人の目を見ます。
「お前達に聞きたい。これはリーン・レイの今後に関わる問題だ。お前達はどうしたい?」
ギルガさんがそう聞くと、ドゥラークさんは「うーん。冒険者を辞めた後も、俺達の世話をしてくれるのなら、別に冒険者に縋る必要はねぇさ」とあっけらかんと笑います。
レッグさんも「俺もネリーがいればそれでいいからな。冒険者を辞めるんなら、遠く離れた村で畑でも耕して生きるさ」と、アレスさんは「俺達も故郷の村で静かに暮らすから別に問題ないな……」と言ってくれました。
ジゼルは「私は冒険者でなくとも医者をできるからな。孫である忌み子ちゃん達を養う事は十分可能だね」と静かに答えます。
ダインさんは「俺達だって、あの時レティシアちゃんに会わなければ殺されていたさ。だから、どうなろうと文句はないよ。もしもの時ははぐれの鍛冶師として生きるさ」と笑っていました
皆の意見を聞いたギルガさんは私に向かい「って、事らしいぞ。レティシア」と私の頭に手を置きます。
「はい。……では、マイザーに行きスミスさんを助けます」
「そうか……。で、今回は誰を連れて行くんだ?」
誰を連れて行くか……ですか。
私一人でもいいのですが……と思っていたら、ドゥラークさんが「俺も付いて行くぜ」と言いました。
「元々、前の時も俺とレティシアだったんだ。だから一緒に付いて行くぜ」
「はい。ドゥラークさんなら安心です」
私が二人で行きますと言おうとした瞬間、玄関が勢いよく開きます。
「私も行きます!!」
声の主はカチュアさんでした。
ここまで走ってきたのでしょうか、汗だくです。
今の大声を聞いて、エレンも二階から下りてきます。
「カチュアさん、私も行くよ……「ダメです!! エレン様はメディアまで一緒に行ったじゃないですか!! 私は行っていません!!」……あぁ、うん」
なぜかエレンが引き下がります。
別にお二人とも一緒に行けばいいのですが……。
「私も行こう。いや、これは勘なのだが、私も行った方がいいかもしれん」
「はて?」
ジゼルもそう言いだしたので、五人で行く事にしようとしたのですが、エレンが「やっぱり私は待っているよ。もしもの時の為に、ここに誰か残っておいた方がいいからね」と言います。
はて?
エレンがそう言っているので、エレンの意思を尊重します。カチュアさんは少しオロオロとしていましたが、どうしたのでしょう?
「え、エレン様?」
「大丈夫だよ。カチュアさんに気を使ったとかじゃなくて、レティの眷属の誰かがここに残っておいた方がいいと判断しただけだよ」
「は、はい。エレン様の分まで、レティシア様を愛します!!」
「い、いや……、そうじゃなくて……ね?」
あれ?
仲が良いと思ったのですが、少し険悪になりましたよ?
翌朝、グローリアさんにマイザーに入ると連絡を入れ、マイザーに転移しました。
スミスさんを絶対に処刑させたりしません。




