18話 グローリアの頼み事
危険な人がシュラークさんを倒した次の日、私はグローリアさんに報告を入れる為に、魔法玉を用意していました。
するとちょうどその時、グローリアさんから緊急で通信が入りました。
『今回はレティシアだな!?』
「はい、そうですよ」
前にジゼルに報告を変わってもらっていましたから、グローリアさんは私かどうかを確認したのでしょう。
『レティシア、お前に……、リーン・レイに頼みがあるのだ……』
はて?
頼み……、しかも、私一人ではなく、リーン・レイに頼んでいるのですかね?
それならば、指名依頼としてギルドを使えばいいと思うのですが……。
あ、もしかして、私達がグランドマスターと対立しているので、指名依頼を出しにくいのですかね?
しかし、それもおかしな話です。
今でもリーン・レイはギルドのお仕事を受ける事が出来ています。
それなのに、グローリアさんはなぜギルドを使わないのでしょう?
「もしかして、ギルドから私達への指名依頼を拒否されましたか?」
『いや、そうじゃないんだ。今回はギルドに頼む事が出来ない。むしろ、リーン・レイに頼むのも、本来は非常識なのかもしれない……』
非常識?
それはどういう意味でしょう?
『今から俺が言う事をギルガ達に話すかはお前に任す。もし、これからも冒険者でいたいのであれば、無視してくれても構わない』
「無視していいのならば、聞く必要もないという事ですか?」
『いや、お前にも関わりある人物が関係あるんだ……』
はて?
私にも関わりのある人物?
「それはいったい誰の事ですか?」
『あぁ……。その前に、事の経緯を話しておく。昨日の朝にマイザー王から突然通告があったんだ』
「通告? マイザーとエラールセってそこまで深い交流がありましたか?」
『あぁ……。お前が王と王太子であるプアーを改造してからはちょくちょくな……。しかし、今回の通告は交流などは関係なかった……』
「それで、どんな通告だったのですか?」
マイザー王からの通告は、私と関わりのある人物の処刑の話だったそうです。
私はその人物がリーン・レイのメンバーかどうかを聞いたのですが違うそうです。
「でもグローリアさん。おかしくないですか? なぜ、私やグローリアさんに関りがある人とは言え、いちいち他国の王に言ってくるのはおかしくないですか? 基本は勝手に処刑しろって感じですよね?」
『あぁ……。普段なら、いちいち俺……、いや、エラールセに許可を取る必要は勿論無いし、今までだって、一度も報告などは言った事は無い。現に、王太子のプアーを処刑したそうだが、事後報告だけだった』
はて?
さっきのグローリアさんが言うには、王太子のプアーは私の改造によってまともになったそうです。
それなのに、処刑ですか?
覚えている限りですが、マイザー王はプアーを溺愛していると聞きました。
「マイザー王がプアーを殺したのは間違いないのですか?」
『あぁ……。マイザーに送り込んでいる俺の部下からの報告だ。間違いない』
「もしかして、プアーの性格が戻ったんですか?」
『いや、プアーは最期まで、マイザー国民の事を想い死んだそうだ。元に戻ったのはマイザー王の方だと思う。通告があった時にマイザー王と話をしたが、お前に改造される前の傲慢なマイザー王と話をしていると感じた』
グローリアさんは勘がいい方だと思うので、おそらくマイザー王は元に戻ったのでしょう。
しかし、なぜ戻ったのでしょう?
私が改造したのであれば、一度、脳を破壊してから再生しているので、人為的に何かされていない限り、元に戻ると思えません。
もしかしたら、ベアトリーチェがマイザー王を元に戻したのでしょうか?
しかし、それはそれで不思議です。ベアトリーチェにマイザー王を戻すメリットなどあったのでしょうか?
「プアーが殺されたのは分かりました。元の話に戻しますが、処刑される私達に関りのある人物とは誰なのですか?」
『処刑されるのは……、スミスだ』
スミスさん?
スミスさんといえば、鍛冶ギルドのSランクで、見た目はお爺ちゃんで鉱石をこよなく愛す変態ドワーフさんです。
「マイザー王からは、処刑の理由を聞いたのですか?」
『あぁ……。罪状は王家に対する詐欺行為。告発者は、鍛冶ギルドのもう一人のSランクのシデラという男と、鍛冶ギルドのシンマスターのネーツという男だそうだ。今回の処刑はギルドが主体になって行われるそうだ……』
なるほど。
しかし、疑問があります。
良くも悪くも、鉱石をこよなく愛す鉱石馬鹿のスミスさんが王家に対して、そんなたいそれた事をするでしょうか?
「因みに聞きますが、詐欺行為の詳しい詳細は分かっているのですか?」
『マイザー王が言うには、スミスには、ミスリルの加工を依頼したそうなのだが、スミスは鉄を加工してきたそうだ』
はて?
スミスさんが鉱石を偽った?
レティイロカネをヒヒイロカネじゃないとはっきり言った、あのスミスさんが、ミスリルを加工せずに鉄を加工して渡した?
「グローリアさん。一つお尋ねしてもいいですか?」
『なんだ?』
「ミスリルと鉄では、素人では見分けがつかないモノなのですか?」
『いや、ミスリルは鉱石というよりも宝石に近い色でな。薄い緑色をしているんだ。そこまで違うのであれば、馬鹿なマイザー王でも気づくはずだ。スミスが、そんな分かりやすい事をするとは思えないんだ……』
確かにその通りです。
スミスさんは、普段の生き方は適当に見えましたが、鉱石が関わっている時はいつだって真剣に見えました。
レティイロカネだって、ヒヒイロカネとして扱えば、巨万の富を手に入れられたはずですのに、そんな事よりも、新しい鉱石として名前を付ける方を取ったくらいです。
「そもそも、スミスさんは、何の為にマイザー王を騙したのですか? もしかして、お金の為ですか?」
『マイザー王はそう言っていたが、俺はそうとは思えない』
「私も同じです……」
スミスさんがお金の為に、そんな事をするとは思えません。
それに、鍛冶ギルドのSランクはギルドの宝のようなモノでしょう?
アセールもあんな訳の分からない性格ですけど、建築ギルドでは大事にされていました。
今回の告発者が鍛冶ギルドというのも、おかしくないですか?
「グローリアさん。エラールセの鍛冶ギルドに話は聞いてみましたか?」
『あぁ……。すでに他の町の鍛冶ギルドに使いを出しているし、この町の鍛冶ギルドからの聞き取りも終わっている。鍛冶ギルドの連中も、なぜスミスが処刑されるか意味が分からないそうだ……』
「という事は、そのシデラという男かネーツという男が、独断で行ったという事ですか?」
『分からんが、シデラはスミスの才能に嫉妬していると聞いた事がある。ネーツにしても、言う事を聞かないスミスに腹を立てていたと聞いた事もある』
ふむ。
つまりは、嫉妬によりスミスさんを処刑しようとしているのですかね?
どちらにしても、このまま黙ってスミスさんが処刑されるのを見ているつもりはありません。
「グローリアさんもスミスさんを助けたいのですね……」
『あぁ……。ただ、最初にも言ったが、今回は鍛冶ギルドが主体になっている。処刑を止め、スミスを助けた時点でお前達はギルドから追われる立場になる……』
「はて?」
『だからこそ、動くのであれば……』
言いにくそうですね。
確かに、鍛冶ギルドが処刑をしようとしているのであれば、邪魔すれば冒険者ではいられないでしょう……。
以前の私だったらエレンさえいれば、他はどうでもよかったのですけど、今はカチュアさんやとジゼルなど、大切な人がたくさん増えました。
「グローリアさん。スミスさんは、今日、明日に処刑されるわけではないのですよね?」
『あぁ、処刑は一週間後とも言っていた。俺に処刑を見に来いと言っていた当たり、俺とスミスが友人関係があるというのも知っているんだろうな』
なんとも趣味が悪いですね。
「そうですか。では、一度ギルガさんや、リーン・レイの皆さんと話をします。明日の朝には返事をするので待っていてください」
『あぁ……。レティシア……』
「はい?」
『いや……、何でもない……』
グローリアさんは、何かを言おうとして止めたらしく「明日、返事を待っている」とだけ言って通信を切りました……。




