10話 グローリアへの報告
ジゼルは連絡用の魔法玉を発動させます。すると、魔法玉が緑色に光り、グローリアさんの魔力を少し感じました。
相手の魔力を感じるという事は、通信が繋がったという事です。
『おぅ、レティシアか? 連絡を待っていたぞ!!』
魔法玉を使っているのはジゼルですが、私の魔法玉からの連絡だったので、相手が私だと思ったのでしょう……。
「グローリア陛下。忌み子ちゃんじゃなくてジゼルだよ」
『ん? ジゼルか!? お前がレティシアの魔法玉を使っているという事は、レティシアに何かあったのか? それに、カンダタはどうなったんだ!?』
魔法玉を使っているのがジゼルと分かると、グローリアさんはさらに焦りだします。
私に何かあるわけないのに、おかしな話です。
「グローリア陛下。忌み子ちゃんは私の隣で座っているよ。それにカンダタ殿ももちろん無事だ。ついでに建築ギルドのSランクのアセールも一緒に保護したよ」
保護ですか……。
アセールがカンダタさんを殺そうとした事を黙っているつもりなのでしょうか?
しかし、グローリアさんはアセールの事を知っているのでしょうかね。建築ギルドのSランク……。あ、そう言えば、アセールはエラールセにあるギルド学校を一人で作ったと聞きましたから、グローリアさんも彼を知っていそうですねぇ……。
『アセールだと? なぜ彼がその場にいる?』
ジゼルは、カンダタさんに起こった事を、上手く纏めてグローリアさんに説明します。その中には、操られていたアセールの説明も入っていますが、過剰に擁護する事もなく、起こった事の事実とカンダタさんとの和解などを詳しく話していました。
確かに、私ではそこまで上手く伝えられなかったでしょう。きっと、私が説明していたら、グローリアさんはアセールを罪人として拘束したかもしれません。
グローリアさんはジゼルの話を聞きながら、たまに疑問に思った事を質問していました。
『なるほどな。ジゼルも操られていた事を考えると、グランドマスターがこれからどんな人物を操ってくるかを警戒する必要があるな』
確かにそうです。
もしかしたら、エラールセほどの国じゃなくても大きな国の王族を操ってくるかもしれませんし、教会の神官達を操るかもしれません。
そうなれば、おいそれと殺すわけにはいかなくなってしまいますから、下手に手を出せなくなってしまいます。
ふぅ……。
まずは、グランドマスターの精神攻撃を封じる事を第一に考えた方がいいですね。
「ところでそちらは何か進展はありましたか?」
グローリアさんは、暗部という人達にアブゾールの事を調べさせると言っていました。
あまり時間は経っていませんが、もしかしたら何か分かったのかもしれません。
『今のところは、重要な情報は入っていないな。だが、神アブゾルが逃がしたと言っていた神官達は、アブゾール近くの町に助けを求めて来ていたらしいぞ。とはいえ、一つの町では対処できなくてな……。エラールセから物資を運び、町の近くの平原で野営をしてもらう事になった。兵士も何人かつけているが、レティシアとジゼルの二人に時間があったら結界を張って欲しいと思っているんだ』
ふむ。
アブゾールの近くの村なのでかなり危険ですね。
時間があったらというよりも、今日の夜にでも結界を張りに行きましょう。ついでにアブゾールの様子も見に行くとしましょう。
……しかし。
「アブゾルの話では、アブゾール内にグランドマスターが閉じ込められています。さすがに危険ではないですか? 人数が多いので無理かもしれませんが、エラールセに保護する事はできないのですか?」
『神官だけとはいえ数万人だ。さすがにエラールセで保護は難しい……だが』
グローリアさんの話では、今各国に救援の要請をしているそうで、各国が救援に答えてくれれば少しは状況も変わるそうなのですが、流石に時間がかかるとの事です。
「アブゾル。断空結界というのは一月以上持ちますか?」
「それはワシにもわからん。実際、中でベアトリーチェがどんな行動をとっておるかもわからんし、奴の力がどれだけ増しているかもわからん」
つまりは、いつ出てくるか本当に分からないという事ですね……。
最悪、明日にでも出てくるかもしれないという事ですか……。
これは警戒が必要ですね……。
『しかし、カンダタが無事なのは良かったが、マイザー王の暗殺か……。レティシアが改造してからのあの王は善政を敷いていたから、殺す必要を感じないんだが、グランドマスターはどういった目的があるんだろうな……』
「私も同意見だよ。今更、マイザーの王を殺したからといって、グランドマスターに何の得があるのかわからない。むしろ、善政を敷いているのなら、王を殺してしまえば国は混乱するだろう」
確かに、グランドマスターが名声を欲しがっているとしたら、善政を敷いているマイザー王とやらを殺すのは得策ではありませんね。
何の目的で……。
ふーむ。
よく分からないので、アブゾルの時と同じと考えてみましょうか……。
「マイザー王が良い人かどうかは分かりませんが、グランドマスターはマイザー王を殺したいんであって、マイザー王国を滅ぼしたくはないのではないですか?」
「何故そう思うんだい?」
「マイザー王を殺せば、ギルドが国の実権を持てるんじゃないのですか? わざわざ滅ぼさなくても頭だけを潰してしまえば良いんですよね? アブゾル相手にも同じ事をしようとしていましたから」
エラールセの様に大国であったり、医療大国メディアでしったっけ? あの国は、他国からの信頼も厚いと聞きますから、そんな国ならば王を殺してしまえば、逆にギルドが潰されかねないと思いますが、元々マイザーでは王よりも教会が力を持っていました。そう考えれば、王さえ殺してしまえば、ギルドがマイザー王国を牛耳る事も可能なのでは?
『そういえば俺の方にも気になる報告もあったな。レティシアに改造されたはずのマイザー王の様子が再び変わってしまったと、エラールセの国から送り込んでいた貴族がそんな事を言っていた。まぁ、変わったというよりも元に戻ったと言った方がいいのか……』
ふむ……。
マイザー王の性格が元に戻ったという事は……。
はい。
私の記憶では屑だったような気がします。
「マイザー王が元に戻ったら、真っ先にする事は……、忌み子ちゃんとエレンちゃんの所有権の主張か……。そして、それを聞いた忌み子ちゃんはマイザー王を殺しに行くかもしれない。グランドマスターの狙いはそこかもしれないね」
「私にマイザー王を殺させたい?」
「あぁ……」
確かに、マイザー王がエレンに何かをするんであれば殺します。今の私であれば誰にも気づかれずに殺す事も可能ですから、誰が何と言おうと殺しますね。
「一応言っておくが、忌み子ちゃんがマイザー王を殺してしまえば、リーン・レイが窮地に立つのを忘れてはいけないよ」
「何でですか?」
「忌み子ちゃん。君は良くも悪くもリーン・レイという組織の人間なんだ。君が王族を殺害すれば、間違いなく保護者であるギルガ殿が責任を負わされる。下手をすればリーン・レイがギルドの敵や神敵認定されてしまうかもしれない。それと、君は気付かれずに殺せばいいと思っているんだろうけど、マイザー王が死ねば間違いなく忌み子ちゃんが犯人にされるだろうね。見られていようが見られていまいが関係ないんだ」
「はて?」
見られていないのに、犯人扱いは酷すぎます。そんな事が許されるのでしょうかね?
「忌み子ちゃん。権力を持つという事はこう言った戦い方もできるんだ。それにしても……」
ジゼルはアセールを睨みつけます。どうしたのでしょう?
「アセール一つ聞きたいんだが、普段はグランドマスターはどこにいるんだい?」
「普段やて? 今はアブゾールの中ちゃうんか? まぁ、普段は医療大国メディアのギルドの総本部にいるはずや」
はて?
冒険者ギルドの総本部がメディアにあるのですか?
なぜでしょう?




