8話 治療ギルドのSランク
アセールとの話が一段落して、ギルドから命を狙われているカンダタさんをどう匿うかを話し合う事にしました。
「カンダタさんの安全を考えたら、エラールセのお城に匿ってもらうのがいいと思います」
「あぁ、私もそう思うよ。ただ、グローリア陛下が強いとはいえ、カンダタ殿を守りながらベアトリーチェの部下を倒せるとは思えない。いっその事、リーン・レイの拠点に匿った方がいいんじゃないのかい?」
ふむ。
確かにリーン・レイの拠点の方が守りやすいですし、拠点……、いえ、セルカの町そのものに結界を張ってありますから、ベアトリーチェの部下が襲ってきたとしても、問題ありません。
「カンダタさんはどちらの方がいいですか?」
「そうだな……。俺自身も今後の為に強くなりたいから、リーン・レイの拠点に連れて行ってくれないか?」
「はて? カンダタさんはすでに御年なので、これ以上強くならなくてもいいのでは?」
「いや、油断していたとはいえ、アセールに一方的にやられたのが悔しくてな。これを機に、ギルガに鍛え直してもらおうと思ってな」
そういう事ならば、私としてもカンダタさんを歓迎します。
アセールはどうするのでしょう?
「忌み子ちゃん。アセールもリーン・レイの拠点に連れて行かないかい? アセールを野放しにしておくのは危険だよ」
「アセール自身は雑魚なので、リーン・レイの皆さんであれば、どうとでもできますが、アセールの命が危険になるでしょうね。分かりました」
私は、アセールやカンダタさんを連れてセルカの拠点に帰る事にしました。
転移魔法陣に乗ろうとすると、ジゼルも一緒についてこようとします。
「はて? ジゼルも来るのですか? あの薬品を村の人に試すんじゃないんですか?」
「いや、アレはまだ試作品だったからね。ちょうどいい所にアセールという実験体ができたからね。薬を打った後の経過を観察したいんだよ。それと、マイザーの事も気になるからね。診療所が休みになってしまうけど、元々この村の村人達はあまり病気にならないから、心配する事もないけどね」
ふむ。
あまり病気にならないからと言って、フィーノの村の人達を蔑ろにするのは何か違います。
……そうです!
この診療所の入り口と、リーン・レイの拠点の部屋の一つを転移魔法で繋げてしまえばいいのです。
早速、この話をジゼルにしてみましょう。
「ジゼル。この診療所の入り口と、リーン・レイの拠点を魔法で繋げませんか?」
「あぁ……。忌み子ちゃんなら、それも可能なのだろうけど、それは遠慮しておくよ。もし、村人が間違ってリーン・レイの拠点に入ってしまえば、ややこしい事になるかもしれないだろう?」
ふむ。
確かにそうかもしれません。
「そうです。ジゼルの自室だけを拠点に作りましょう。そして、診療所に誰か尋ねてきたら、ジゼルが気付くように魔法の設定をしましょう」
「いや……。そんな都合のいい魔法は聞いた事がないよ」
「はい。私も聞いた事はありません。だから、今から作ります」
私は、ジゼルの自室の扉に魔法をかけます。そして、その先の部屋をリーン・レイの拠点の空き部屋につなげます。さらに玄関と診療所に人が入れば、ジゼルが察知できるようにしました。ジゼルは転移魔法が使えますので、どこにいても急患に対応できます。
「完成です」
「忌み子ちゃんは、私達が長年持っている常識を一瞬で崩してくれるね。でも、感謝するよ。これで、どこにいても患者の対応ができる。後、ポインターナイフの魔法も後で教えてくれるかい?」
「はて?」
「薬草などの採取をしている最中に、診療所に誰か来て、治療をした後、元の場所に戻れるからね。便利なんだ」
「分かりました」
私達としても、ジゼルの知識はとても頼りになります。リーン・レイの拠点に彼女がいれば、何かあった時に相談できますから、とても助かるんです。
私はジゼルの部屋の扉を開けます。するとセルカの拠点の空き部屋に転移します。
「ん? 私の部屋にあった物はどこに行ったんだい?」
「あ、はい。あの隅にあります。元々、物が少なかったので隅っこにかたまって置いてありますね」
「はは。確かにあの部屋は狭かったからね。しかも最低限の家具が置いてあっただけだし……。しかし、この拠点はお屋敷なのか部屋も広いね。これなら部屋で実験などもできるよ」
「はい。ギルガさんが拠点を探している時に、当時のギルドマスターだったカンダタさんに相談したら、大きなお屋敷を紹介されたと言っていました。お金がいっぱいかかったと、トキエさんに言い訳していましたよ」
私はギルガさんにそう聞いたので、そう言いましたが、カンダタさんは違う認識だったみたいです。
「は? 俺は、ギルガのリクエスト通りに屋敷を見つけてきたぞ? アレだろう。ギルガの野郎は、こんなに大きな屋敷を買ったらトキエちゃんに怒られるから、俺のせいにしやがったんだろうな……」
「まぁ、今のリーン・レイのメンバーの数を考えれば、屋敷が大きくてよかったです」
「それもそうだな」
私達はジゼルの部屋を出て、皆が食事をする部屋へ行きます。すると、ちょうど危険な人が学校から帰ってきたみたいです。
「あ、レティシアちゃん、ただいまぁ~。って、あら? カンダタさん、無事だったのね。それに。貴方アセールじゃない?」
「い、イラージュ!? お前がどうしてリーン・レイにいるんや?」
「レティシアちゃんにスカウトされたからよ。だからセルカの学校の治療科の教師をやりながら、冒険者も復帰したの。そんな事よりもあんたよ。アセール、どうしてグランドマスターの犬のあんたがここにいるのよ。レティシアちゃん、アセールは危険な男よ?」
「いえ、危険な人は貴女です」
私は正論を言います。すると、危険な人は私の腕を掴みます。
「レティシアちゃ~ん?」
「は、はい!?」
だ、ダメです。
危険な人の笑顔は今でも怖いです。
「イラージュ。わいがここにいるのは、後で説明するとして、お前はノゾスと言う男を知っとるか?」
「ノゾス? あぁ、知っているわよ」
「はて? 危険な人が知っているという事は、治療ギルドのSランクはやはりノゾスだったのですか? アセールの脳みそが腐っていて、勘違いしていたのですね」
「誰の脳みそが腐ってるねん!!」
間違えていたのならば、素直に訂正、もしくは脳の改造をする必要があります。
しかし、アセールはグランドマスターに精神操作されていたので、ノゾスの事を知らなかったとしても不思議ではありません。
そんな私達を見て危険な人は「何を言っているの? 治療ギルドのSランクは私とソワンという男よ」と教えてくれました。
……という事はノゾスという男は、一体、何者なのでしょうか?
「アセール。ノゾスの事だったら、あんたも知っているでしょう?」
「いや……、記憶にないねん。ソワンと言う治療師の事は知っとる。何度か建築ギルド職員の怪我で世話になっとるからな」
「世話になっている人の名前を普通忘れますかねぇ……」
……と呆れながら私が溜息を吐くと、エレンが私を抱きしめて「レティもすぐに人の名前を忘れるでしょう」と言われてしまいました。
「ノゾスはグランドマスターの秘書をしていた男よ。彼は元治療ギルド出身でね……、功績を認められてシンマスターに推薦された事もあったはずよ」
「それで、ゴスペルヒールを使っていたのですね」
「なんですって?」
私は、アセールを半殺しにした時の事を説明します。
「え? わい、お前に腹貫かれてたん?」
「あ、はい。顔見知りだからといって、敵に回った人を殺さないなんて選択肢はありませんよ。ただ、ノゾスと言う男がどう動くか見たかったので、ノゾスの傍に放り投げました。そこで、貴方をゴスペルヒールで治療したのです」
アセールは自分が殺されかけた事に、顔を青褪めさせていました。
その時、二階からギルガさんが下りてきました。
「おいおい。下が随分と騒がしいと思ったら、レティシア、帰って来ていたのか……。って、カンダタさん!? 無事だったのか!?」
「あぁ……。心配かけたな」
「いや、無事だったら良かったんだ。それよりも、なぜアセールがここにいる?」
「ギルガはん。久しぶりやな……」
私が説明しようとすると、ジゼルが代わりに説明してくれました。
ふむ。
私が説明しても良かったのですが、どうして邪魔をしたのでしょう?
「はぁ……、なるほどなぁ……。アセールも操られていたわけだ。ただ、一つ疑問は残るな」
「なにがや? わいが操られてた事がか?」
「いや、そこは大した問題じゃない。ジゼルですら操られていたんだ。お前はもっと操りやすいだろう」
「な、なんやて!?」
「そんな事よりも、グランドマスターはどうしてSランクを作っていたんだろうな。今聞いたアブゾルの話では、勝手に不老という存在を作るという事は、神の怒りに触れかねない行為なんだろう? 単純に戦力を増強したいのであれば、ベアトリーチェの姿でやっていたように、独自で戦力を作り上げた方が効率がいいだろう? なぜ、そんな危険を冒してまでSランク……すなわち、不老を増やしたんだろうな」
「それについては推測だが説明はできるよ。グランドマスターが欲しがったのはSランクじゃない」
「はて?」
Sランクを作っていたのに、Sランクを欲しがっていない?
「本当に長い道のりだったと思うよ……。ベアトリーチェが本当に欲しがっていたのは、知識とこの世界さ……」




