6話 アセールの過去
アセールがSランクになったのは、今から二百年ほど前だそうです。
しかし、私達の様に自然に不老になり、Sランクになったわけではないようです。
「わいは元々建築ギルドのAランクとして、新たな教会を作っていたんや。その時に現場の奴等と喧嘩になってな……グランドマスターが仲裁に入ってくれたんや」
「グランドマスターは二百年前からグランドマスターだったんですか? 仮面はつけていましたか?」
「あぁ。あの当時から、グランドマスターやったで。それに、わいの知っている限りは、二百年前から、仮面をつけた今の姿やった……」
建築ギルドの人達との仲裁に入ったグランドマスターは、「君には才能も技術もある。だからこそ、君には永遠に生きてもらって、私と共に、この世界の為に尽くしてくれないかい?」と言ってきたそうです。
「そんなに怪しい誘いを受けたのですか?」
「せやな……。第三者が聞くと、怪しい以外何でもないな。でもな……、わいは永遠が欲しかったんや」
「それはなんでや? あ、また言葉が移ってしまいました」
本当にアセールといると、言葉が移ってしまい困ってしまいますね。
「わいにも夢があった。それを実現するのに、時間が必要やったんや」
「時間ですか……」
「あぁ……。わいはアブゾル教の信者でも何でもない……。せやけど、アブゾールの大聖堂は素晴らしい建物や……。わいはいつか一人であんな素晴らしい建物を建ててみたいんや。それを叶えるためには技術も時間も足りんと思っていた。だからこそ、わいはグランドマスターの誘いを受けたんや」
なるほど……。
「そうか……。やはり、君は作られたSランク……、すなわち不老だったんだね……。忌み子ちゃん、アブゾルはどうなったんだい?」
「あ、はい。今はセルカのリーン・レイの拠点にいます」
「忌み子ちゃん。聞いておいてなんだが、その話をアセールの前で話していいのかい? 今もグランドマスターがアセールとの会話を聞いているかもしれないんだよ?」
「え? そうなのですか?」
「いや、今のアセールを見る限り、大丈夫だとは思うのだが……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。アブゾルは私の魔法で復活させたので、すぐにここに連れてくる事も可能ですし、今のグランドマスターには、アブゾルの神気は探れないはずです。もし、アセールを通して、グランドマスターがこの話を聞いているのでしたら……、アブゾルを殺すには私を相手にしなければいけないという事を伝える事ができます」
アブゾルの神気はとても薄く……、本来であれば、話をする事も出来なかったでしょうし、ベックさんに気付かれる事もなかったでしょう。
しかし、アブゾルに神気があろうとなかろうと、彼の知識は私達の役に立ちます。
実際にベアトリーチェの本当の姿を暴いたわけですし、神格の事も教えてくれました。
これから神族と戦う事を考えれば、アブゾルからもっと話を聞く必要があります。
「ジゼル。アブゾルをここに呼びますか?」
「呼べるのであれば頼む。彼はあの能力を持っている」
あの能力?
はて? どんな能力なのでしょう?
私はアブゾルに声を掛けます。
『お? ワシの頭の中に、お嬢ちゃんの声が聞こえるぞ? だ、誰が爺じゃ!? ボケとらんわ!!』
はて?
もしかしてベックさんとお話でもしていましたかね?
「アブゾル。今から、貴方をこっちに転移しますが、良いですか?」
『何を言っておるのじゃ? まぁ、できるのならば構わんぞ。今はベックと話をしていただけじゃからな』
「ふむ。仲のいい所を邪魔して申し訳ないです」
『ほほほ。ベックが今のを聞けば、また怒鳴ってきそうじゃの。別に構わんぞ。ベック、今からちょいと出かけてくるが、大人しくしておるんじゃぞ? そ、そんなに怒るでない!?』
ふむ。
随分と仲が良いようです。
私はアブゾルの準備ができてから、こちらに転移させます。
「ほぅ。お主に作られた体じゃと、こんな便利な事もできるんじゃな」
「はい。貴方の中にある私の魔力を戻す要領で、簡単に転移させることができます」
「ほほほ。本当に常識外れじゃな。それで、ワシを呼んだ理由はなんじゃ?」
「貴方を呼んだのはジゼルです」
「な、なんや……。この爺の趣味の悪い人形は……」
「レティシア。これってトキエの人形じゃ……」
「はい。でも今は、これがアブゾルです」
「な、なんやて!?」
アセールもカンダタさんも驚いているようです。
まぁ、この世界の神がこんな趣味の悪い人形になっているのですから、驚くのも無理はありません。
「神アブゾル……。実は……」
「ふむふむ……。分かった。任せておくがよい」
ジゼルがアブゾルに何かを耳打ちした後、アブゾルはアセールを見ます。
……ふむ。
これは……、リディアさんも持っている【神の眼】ですね。アブゾルもそう言えば持っていると言っていましたねぇ……。
「大丈夫じゃ。ベアトリーチェの気配を感じん。もう精神操作は解かれておるよ」
「そうか……。それで、今のアセールはどんな状態なんだい?」
「それはどういう意味や?」
「あぁ……。この男も不老になっておる。確かに最初はベアトリーチェに改造されたみたいじゃが、長年、不老でおる事で建築の腕前が神の領域を超えたのじゃろう。もう立派な不老の仲間入りじゃよ」
ふむ。
つまりは不老になる資格がない人達でも、無理やり不老にする方法があれば、本物の不老を作る事は可能という事ですね……。
なるほど……。
私のおもちゃ達を不老にして遊びましょうか……、と思っていると、アブゾルが私を見ています。
「なんですか?」
「一応言っておくが、ベアトリーチェはこそこそ隠れて不老を作っておったようじゃから、見逃してしまっていたが、お嬢ちゃんが不老を作るのであれば、ワシの目が黒いうちは、サクラ様に報告するぞ?」
「サクラと言う人に告げ口されたらどうなるのですか? 私に何の影響があるんですか?」
「そうじゃの……。サクラ様はお嬢ちゃんよりも圧倒的に強く、もし殺されないにしても、お主を一生エレンのお嬢ちゃん達に会えなくする事も可能なんじゃ。 お嬢ちゃんはそんな事になったら、嫌じゃろ?」
「は……、はて……?」
そ、それは困りますよ!?
エレンやカチュアさんに会えないのは地獄です。生きている意味もありません。
不老を作るのは面白そうですが、二人に会えなくなるのは嫌なので大人しくいう事を聞く事にしときましょう……。




