4話 治療ギルドのSランク
部屋に入ってきたアセールの眼力は、力強いモノでしたが、なぜか虚ろにも見えました。
これは、知っていますよ。
絶対に殺すという、明確な殺意というモノです。
鉱山であったアセールは、もっと愉快な目をしていましたが、今のアセールの目は戦う者の目です。
「アセール。貴方がここにいる理由は何なのですか?」
「せやな。そこにいる裏切り者のおっさんを殺しに来たんや」
「裏切り者?」
「そうや。カンダタはシンマスターでありながら、グランドマスター様の命令を聞かんかった。それだけでも、死に値する。わいがカンダタを殺す命令を受けたんや」
グランドマスターの命令を聞かなかった?
それは一体いつの事なのでしょうか?
「その命令はいつ出たのですか?」
「昨日の昼や……」
はて?
昨日のお昼と言えば、私は結界の中に閉じ込められ、グランドマスターはアブゾルを襲っていたはずなのに……。
「貴方は直接命令を受けたのですか?」
「そうや。カンダタが命令を無視したのは昨日の朝や」
そういえば、グランドマスターは人形でしたよね……。
もう一体いた可能性があるという事ですか……。
「レティシア、お前は関係あらへん。せやから、邪魔せんとってくれるか?」
「いえ、邪魔しますよ。カンダタさんは私の知り合いです。だから、殺させるわけにはいきません」
「そうか……。お前が死ぬ理由はそれでいいんか?」
「はい?」
「せやから、お前が死ぬ理由はそれでいいんかって聞いてるんや」
へぇ……、それは、私を殺せるという自信でもあるのでしょうか?
あの鉱山では、アセールは、ギルガさんにボコボコにされていました。
カンダタさんがギルガさんよりは弱いとはいえ、それでも力のあるAランクだったはずです。
そんなカンダタさんを一方的に倒した事で自信でも付けたのでしょうか……。
あはは。
本当に甘い人ですねぇ……。
「アセール。何を遊んでいる? いつまでも遊んでいるから、聖女がカンダタを治してしまったではないか」
はて?
アセールの後ろにいる男性は何者でしょう?
「せやかてノゾス。グランドマスター様の為に忌み子を殺しておくんは悪いこっちゃないで」
「確かに、こいつは我等にとって邪魔以外の何者でもない。ここで殺すというのには賛成だ。だが、今の我等の仕事は冒険者ギルドのシンマスターであるカンダタを殺す事だ」
「それは分かっとる……」
この男性はノゾスと言うのですね。
アセールといるという事は、この人もSランクなのでしょうか?
……しかし。
「さっきから、ゴチャゴチャうるさいんですよ。貴方達はカンダタさんを殺そうとする。好きにしてください」
「ほぅ……。邪魔をしないのであれば、こちらとしてもありがたい。ならば、カンダタを「はて? 何を勘違いしているんですか?」……なに?」
私はついつい笑顔になってしまいます。
アセールは知り合いですが、私の前に敵として立つのであれば……。
「貴方達はカンダタさんを好きに狙ってください。ただし、私は全力で貴方達の邪魔をします」
私がそう言うと、二人は構えます。
「チッ。結局、こいつを相手にせなあかんのか……」
「アセール。怪我をしても安心しろ。聖女にしか使えなかったゴスペルヒールがある」
「せやな。死なん限り……「あははははははは!! 死なないつもりなんですか!? 私は最初から殺すつもりで行きますよ!!」」
私は一瞬でアセールの腕をへし折ります。そして、そのまま心臓を貫きます。
「が……は……」
「あはは。全然強くなっていないじゃないですかぁ……。この程度で、私を殺すつもりだったんですかぁ?」
私はがっくりとしているアセールを、ノゾスと言う男に放り投げます。
今はまだ生きているので治療する事は可能でしょう。
「チッ……。ゴスペルヒール!」
やはり聖女の魔法を使ってきますか。
という事はこのノゾスと言う男は治療ギルドのSランクでしょうか……。
そういえば危険な人が、治療ギルドには、もう一人Sランクがいると言っていましたねぇ……。
「クソっ。やっぱり強いで。どうするねん」
「そうだな……。アセール、カンダタをあきらめるぞ」
「なんでや!?」
アセールは怒った顔でノゾスに迫りますが、ノゾスはアセールの腕に何かを刺します。
「な、お前……」
「アセールすまんな。このままレティシアと戦っても二人とも殺されるだけだ。死ぬのはお前一人でいい」
「な、なんやて!? お前、何を打った!?」
「ベアトリーチェ様が作られた魔物変化薬だ」
「ま、魔物変化薬やと!?」
魔物変化薬?
聞いた事の無い言葉ですねぇ……「ば、馬鹿な……」、と思っていたのですが、ジゼルが何かを知っているようです。
「ジゼル。魔物変化薬とは何ですか?」
「あ、あぁ……。私がフィーノの村の住民に使った薬だ。私が作った時は、不完全なモノで亜人と化したが……、グランドマスターが薬を完成させていたとしたら……」
完成ですか。
そういえば、ベアトリーチェはグラヴィをファフニール(笑)に変化させましたね……。
と考えると、薬が完成していてもおかしくないという事ですか。
そう思ってアセールを見ていると、アセールは苦しみだします。
「の、ノゾス……。お、お前……う、裏切る……のか?」
「裏切る? 何を言っているんだ? 我等はベアトリーチェ様の為にいるんだ。お前も魔物となって、レティシアとカンダタを殺せ。それがお前の役目だ!!」
「あぁああああああ!!」
苦しんでいたアセールは、濃い灰色の体になり、目は真っ赤に染まって、私を睨みつけてきます。
「さぁ、奴等を殺せ!! 神獣種、暴食へルアー!!」
暴食?
もしかして、大罪ですか?
「がぁあああああ!!」
ふむ。
少しは速くなっていますね。
……ですが。
私はファフニールを取り出し、アセールを叩き潰します。
「がぁああ?」
「あはははは!! 硬いですねぇ!!」
私はアセールに何度も何度もファフニールを振り下ろします。
これだけやれば、死にましたかねぇ?
いえ……、一応生きていますか。
「まだ、生きていますか……。アセール、変な言葉遣いで面白かったですが……これで、さようならです」
私がとどめの一撃をいれようとすると、ジゼルが私を止めます。
「どうしました?」
「あぁ、少し試したい事がある」
そう言って、ジゼルはアセールに注射を打ちます。
するとアセールの変色していた肌が元に戻ります。
「何を打ったのですか?」
「あぁ、私が長年望んだ薬の試作品だ……」
ジゼルの望みと言えば……。
フィーノの村の人達を元に戻したい、でしたっけ?
「完成したのですか?」
「あぁ……。忌み子ちゃんが【破壊】の力を何度も見せてくれたおかげだ……。その力を私なりに分析して、ようやく完成にこぎつけた……」
はて?
元に戻ったアセールをジゼルが拘束魔法で拘束します。暴れられても鬱陶しいですからね。
「さて、後は貴方……あれ?」
あの治療ギルドのSランクがもういません。
逃げましたか……。
まぁ、良いでしょう。
しかし、アセール達に命令したグランドマスターは何者でしょうか……。
アブゾルの言っていた人形……。もしくはもうベアトリーチェが出てきた……という事でしょうか?
誤字報告いつもありがとうございます。
声をあげながら読み返しているのですが、やはり誤字は出ますね(汗)
アセールの喋り方は、自分が関西の人間だからかとても喋りやすいですww




