3話 カンダタの治療
カンダタさんが怪我をして、ジゼルの診療所に運び込まれたと聞いた私とエレンは、フィーノの村に転移します。
「エレン、来てくれたのか!? カンダタ殿は今も危険な状態だ。診てやってくれ」
カンダタさんは、診察室の奥のジゼルの部屋とは別の部屋のベッドで眠っていました。
しかし、怪我をして瀕死と聞きましたが、セラピアさんが治したのでしょうか? 見た目はただ、眠っているだけに見えます。
ジゼルに事情を聞くと、セラピアさんが、ゴスペルヒールで怪我の治療したそうです。
実は、聖女にしか使えない治療魔法の最適化を、危険な人に教えた時に、どこからか話を聞きつけたセラピアさんが教えて欲しいと懇願してきたので、教えました。
元々、エルフで莫大な魔力を持っているセラピアさんは簡単に聖女しか使えない魔法を使えるようになりました。
そのおかげで、部位欠損も治療できるようになりました。
よく考えたら、治療ギルドも、グランドマスターの傘下の様なモノですから、治療魔法の最適化を教えたのも失敗だったかもしれません。が、今は気にしなくていいでしょう。そのおかげでカンダタさんは生きていたかもしれませんし。
しかし、傷が治っているのに危険な状態とはなんなのでしょう?
エレンがカンダタさんを診ると、ジゼルはエレンをジッと見ていました。
「これは……呪いの類だね」
「やはりそうか……」
ジゼルも呪いと気付いていたらしく、頷いていました。
「エレンちゃん、治せるかい?」
「うん。特に神気を含んだ呪いじゃないから、簡単に治せるよ。ただ、今のカンダタさんは体力が消耗しすぎているから、すぐには目を覚まさないと思うよ」
「それは仕方がない。ここに来たときは生きているのが不思議なくらい傷だらけだったからね」
そうだったのですか……。
これはセラピアさんとジゼルに感謝しなくてはいけませんね。
エレンはカンダタさんの治療を始めたので、私達は別の用事を進めましょう。
「ジゼル、ここに居たら治療の邪魔になります。エレンが治療している間に、グローリアさんにアブゾールの事を話しておきましょう」
「アブゾールの事? 何かあったのかい?」
私達は部屋を出た後、アブゾールで何があったのかを説明するために、ジゼルと向かい合って座ります。
そもそも、ジゼルも昨日アブゾールから帰ってきたので、アブゾールで何があったのかを知りたいでしょう。
しかし、グランドマスターは用意周到にアブゾルを襲う時を狙っていたのでしょうね……。
だからこそ、私達が帰った後に私を結界に閉じ込めるよう誘導して、結界内に入ったのを確認してからアブゾルを殺しに行ったのでしょう。
「ジゼル、驚かずに聞いてください。アブゾールが世界から消滅しました」
「な、なんだって!?」
私はアブゾルから聞いた話をジゼルにも話します。
「なるほど、そういう事があったのか……。あのグランドマスターが人形だったとはね……。その魔道具、私も一つ研究用に欲しいな……。まぁ、その事は今はいい。忌み子ちゃん、正直な話、アブゾルの話していた、本来のベアトリーチェに勝てるかい?」
勝てるかどうかですか……。
戦う以上は負けるつもりはありませんが、まだ、本来のベアトリーチェをこの目で見ていませんから、どうなるかは分かりません。
「実際戦ってみないと分かりませんね。どちらにしてもアブゾルが使った断空結界とやらが消えない限り、私達にはどうする事もできません」
神が自分の肉体を贄に使ってまで使用した魔法です。そう簡単には破れないでしょう。
「そうだね……」
ジゼルは私の話を聞き、紙に何かを書き始めます。
ジゼルは絵だけでなく、字もあまり綺麗じゃないです。
「そうだ。グローリア陛下には私から話をしよう」
「なぜです?」
「忌み子ちゃんは要点を話さない癖があるからね。こうやって要点を書きだしてからじゃないと、相手に正確な話を伝えられないかもしれないからね。グローリア陛下には迅速に動いてもらいたいから、私が説明した方が早いと判断したんだよ」
「はて? なぜか、馬鹿にされた気がします」
「ははは。馬鹿になんてしていないよ。さぁ、魔法玉を貸してくれないかい」
ふむ。
納得いきませんが、早めに連絡した方が良さそうなので、ジゼルに連絡用の魔法玉を渡します。
ジゼルは魔法玉を受け取ると、すぐにグローリアさんとの通信を始めます。
「……と言うわけなんだ。忌み子ちゃんから聞いたが、暗部を調査に送ったのだろう? 私はエラールセの暗部には詳しくないが、きっと少数精鋭なんだろう? アブゾ-ルの神官全員となるとかなりの人数だ。調査に向かった暗部だけでは足りないだろう。だから……」
『そうだな……。分かった。実はな、エラールセの教会や、他の国の教会に、アブゾールにいた女子供が転移されてきたているらしい。となると、アブゾールの近くに転移させられた連中は、残っていた男共だろう。元々、アブゾール内に神官が残っているのなら、救出依頼を出す予定はしていたんだ』
「そうなのかい? それならちょうどよかった。できれば迅速にお願いできるかい?」
『あぁ、任せておけ。それよりも、カンダタは大丈夫なのか?』
「あぁ……。今はエレンちゃんが見てくれているが、もう呪いも解けるだろうから、後は目を覚ますのを待つだけだ」
『そうか……。レティシア……』
「はい?」
『カンダタが目覚めて、グランドマスターに操られているようだったら、殺さず拘束してやってくれ……』
「分かりました……」
グローリアさんには分かったと言いましたが、カンダタさんには精神操作が効かないように細工してあるので問題ありませんし、精神耐性を持つレティイロカネの腕輪も渡してあります。今も壊れずにつけていましたから、大丈夫です。
グローリアさんとの通信を終えた後、カンダタさんが眠っている部屋へと戻ります。
「レティシアか……」
「カンダタさん。目を覚ましましたか?」
「あぁ……。俺は助かったんだな……」
「何があったのですか?」
「そ、それは……」
はて?
言いにくそうですねぇ……。なぜでしょう?
……と思っていたら、部屋の扉が勢いよく開きます。
「わいや!!」
「誰や!? って、また口調が移ってしまいました。殺します……って、アセールじゃないですか」
「久しぶりやのぉ……。忌み子レティシア」
はて?
アセールの目が……。
これが操られている状態ですか……。




