44話 リッチキング
洞窟は奥深く続いています。道は暗いものの結構広く「どうぞ、多人数で来てください」と言っているように見えました。
「暗いですねぇ……。炎魔法で明るくしましょうか……」
「やめろ。光の魔石があるだけマシだろ?」
ギルガさんが持っているのは、光の魔法を閉じ込めた魔石です。魔力を込めれば何度でも使えるので、重宝するそうです。
そういえば、これも魔物から出る魔石だったんですねぇ……。
しかし、この洞窟には魔物は一匹もいません。これもエレンの浄化の魔法のおかげです。
「同じ浄化の魔法でも使用者によってここまで効果が違うんだな。治療魔法では、オリビアの方が一歩先に進んでいると言った感じだが、神聖魔法全般なら、やはりエレンの方が圧倒的に上と言ったところか」
はて?
オリビアさんの治療魔法はそんなに凄いんですかね。でも、エレンも傷を一瞬に治してしまいますよ?
「オリビアさんの治療魔法はそんなに凄いんですか? エレンだって凄いんですよ?」
「あぁ。そんな事は分かっているさ。だが、聖女が使える最上級の魔法は効果そのものは変わらんが、それ以外の治療魔法の細かい調整がうまい。それにエレンは体こそ治療できるが、心の方は治療できていないんだ……」
「はて? それはエレンに喧嘩を売っているんですか? エレンは優しいので私が買いますよ?」
私はギルガさんを笑顔で見つめます。いつでも殺れますよ。
「違う。まず、オレの話を聞け。オレ達のような前衛職は怪我をよくするが、魔法職や生産職は魔物からの怪我をあまりしないだろう? そんな奴等が魔物に襲われた場合、体の怪我よりも心的にダメージを負う事の方が多いんだ。オリビアはそれを癒せるんだ」
はっ!?
それは……、もしかして……えちぃ事ですか!?
「む、胸ですか?」
「なっ!?」
「男の人は大きな胸が大好きなんですよね? でもエレンもオリビアさんほどではありませんが、大きい方だと思いますが?」
私はぺったんこですけどね……。
オリビアさんの大きな胸の事を見ていると、少し興奮してしまうのは、私が胸を欲しているからですかね。
「はぁ……。偶にエロ親父みたいな事を言い出す時があるな……。お前が考えている事とは違うよ。というか、オリビアの性格でそんな事をするわけないだろう? 確かに、男だったら、エレンやオリビアの容姿に癒される奴もいるだろうが、それなら女はどうなる? ってなるだろう。オリビアの場合は、性別年齢関係なく心も癒せるんだ。おそらくアイツの治療魔法は独自で改良しているんだろうな。エレンもオリビアが暇な時は、治療魔法を学んでいるようだしな」
「そうなのですか。そういえば、オリビアさんも聖女と呼ばれているんでしたよね」
「あぁ……。ギルドカードのクラスが【癒しの聖女】に変わっていたのには驚いたがな」
「へぇ……」
ふむ。
エレンの場合は【鬼神巫女】ですから、グランドマスターがエレンを手に入れても意味がないとアブゾルは言っていましたが、オリビアさんなら意味があるかもしれません。
そう考えたら、あの魔法をオリビアさん達にもかけておく必要がありますね。
少し歩くと、遠くの方に明かりが見えます。
「最深部に辿り着いたみたいだぜ」
「本当に小さい洞窟ですね。入り口から炎魔法を撃ち込み続けたら面白かったかもしれませんね」
「それは出来ないだろう? 冒険者の生き残りがいたかもしれねぇんだし」
「でも、いませんでしたね」
「まぁな。いる可能性は低いと思っていたがな……」
昨日の夜中に美徳を使って封印したのなら、たとえ生き残っていたとしても、時間的にアンデットにされていると考えた方がいいでしょう。
「しかし、グランドマスターはなぜこんな洞窟を作ったんだろうな。グランドマスターだって、人が平和に暮らす為にギルドと言う組織を作ったはずだろうに……」
「あ、それ、気になっていたんですが、ギルドを作ったのはグランドマスターなのですか?」
ずっと気になっていたんですよね。
そもそも、なぜギルドなんて組織を作ったのでしょう?
「ん? 違うのか?」
「いえ、今思い出しましたが、アブゾルが気になる事を言っていたんです。グランドマスターはまだ若い神であると。そして、グランドマスターが冒険者をやっていた事をアブゾルも知らなかったそうです。それともう一つ、グランドマスターの仮面の下は傷だらけでした。あの傷は冒険者だった時に仲間に傷つけられたと言っていました」
「なんだと?」
「アブゾルの言う事を信じるのであれば、グランドマスターがギルドを作ったと言っても問題ありませんが、グランドマスターを信じるのであれば、ギルドが元々存在していたかもしれませんね」
そもそも、グランドマスターがギルドを作る理由がないんですよね。
今もそうなのですが、直属の部下を作る事ができるのであれば、人工的に不老を作って理想の部下を作ればいいのです。
それなのに、わざわざ生産職のギルドみたいな意味のない組織を作る必要があったのでしょうか……。
あ、生産職が必要ないって意味じゃないですよ。グランドマスターにとってはと言う意味です。
もうすぐ明るい部屋につきます。
これが最深部の広間なのですね。
私達は、一応警戒をして広間の中を覗いてみます。
広間には、岩で雑に作られた大きな椅子に、魔導士のローブを着た王冠を被った骸骨が座っていました。
「アレがリッチキングですね。なにか、偉そうに座っていますよ」
寝ているのでしょうか?
それとも……。
「動かないな……。エレンの浄化でくたばったか?」
どうなんでしょう?
でも、あの偉そうな骸骨からは魔力を感じます。
そんな事を考えていると、骸骨が立ち上がります。
「くくく……。よくここに来たな……。ベアトリーチェ様に盾突く愚か者が……」
ふむ……。
骨の分際で声が大きいですねぇ……。
「うるさいですねぇ……」
「さて、そちらの男が、ギルガか……。貴様らをここで殺すのが私の役目だ」
役目という事は、やはりあの二人のどちらかの刺客ですか……。
「そうかよ!!」
ギルガさんは、一気にリッチキングに斬りかかります。そして、ギルガさんはリッチキングの胴を真っ二つにします。
物理攻撃が効かないって事ですかね?
そう思っていたのですが、リッチキングは苦しみだします。
「ぎゃああああ!!」
「は?」
さすがにこれで終わりって事はないですよね?
と思っていたのですが、リッチキングは灰になって消えます。
倒せちゃいましたねぇ……。
ギルガさんもあまりにも敵が弱すぎて、困惑しているようです。
「弱いですねぇ……。何だったのでしょう?」
「全くだ……。拍子抜けもいいところだな……」
確かに……。
グランドマスターにしても、ベアトリーチェにしても、今更私達にあんな雑魚をぶつけてくるなんて何を考えているのでしょうか?
ま、まさか……!?
「はっ!?」
「どうした?」
私は急いで洞窟の入り口に向かいます。
ギルガさんも、私に続きます。
チッ……。
間に合いませんでした。
洞窟の入り口にはエレン達がいました。
そして……。
洞窟の入り口には、透明の壁があります。
「レティ!!」
「やられましたね……。洞窟から出られません」
これは、何重にも結界が張られていますね。しかも、全て特別な結界ですか……。
ジゼルも結界に気付き、結界を消し去ろうとしています。
「まさかと思うが、忌み子ちゃんをここに閉じ込めておくのが目的か!?」
「チッ……。でも、すぐに破壊……。ムカつきますねぇ……」
試しに破壊してみても、結界を一つずつしか消せません。
間違いなくグランドマスターの妨害です。
「グランドマスターは何が目的で……」
グランドマスターの居場所……。
間違いないです!?
「しくじりましたね……。グランドマスターの狙いはアブゾルです」




